俺はナミを拾ってからずっと、傍に居させてきた。頭も良く、利用価値も高く、見た目も傍に置いていて問題のない少女である事を理由付けにして来たのは間違いない。
それが成長するに従い、変化していくのを自分でも本当は理解していた。認めたくなかっただけでな。
何処かステラと似た雰囲気を持つからと気にかけてはいた。だが……いつの間にか俺の中に根付き、俺を優しく包むそれに絆されていたんだ。
初めは興味と同情だったと言うのに、使い捨てる予定だったと言うのに……。使う事さえ出来なくなっていると気付いた時には、既に女として愛していた。
大切に、壊さねェようにと体も慣らしてからと思って、年単位で耐えて来たが……元が良過ぎるナミは存在するだけで他の男を誘い込む。それも、無自覚に、何も特にしてねェ所が問題だ。
これで誘惑して遊んでいるのならば、辞めさせる事も出来る。男好きで自らそれを望んでいるのならば、大切にせずに食い荒らしていただろうが、それですらない。
ビジネスにおいて切れない間柄のドフラミンゴに、四皇の1角赤髪海賊団、そして同じく四皇の1角である白髭海賊団から狙われるナミ。白髭はまだ良い、問題はドフラミンゴと赤髪だ。
内心舌打ちしながら白髭海賊団の目の前でプロポーズして、それから2年近い時をかけてこの式をセッティングした。こうすれば2度と、他の男に手を出される事も無いだろうと思えたからだ。
だが、相手は皆海賊。その程度で諦めるのか?と問われれば甚だ疑問だ。
「テゾーロ、眉間に皺が。頭でも痛い?」
心配そうに覗き込んでくるこの女も、今は18歳となっている。豊満な肉体を持つ美女だ。
これまでは少し幼さが目立っていたが、今は既に美女と呼んで差し障りはない。この先更に美しくなるだろう。
「気が付くと他の男を誑し込んでるのを辞めろ」
「テゾーロは心配性よね。皆本気じゃないわよ」
分かってねェ……。本気だよ、全員本気でお前を喰おうとしてるんだよ!
どれだけ守るのに神経使ってると思ってやがる。雑魚なら自力でどうにかするだろうが、強いのはドフラミンゴの他は身内枠だからこそ、ナミは信頼し切っていて無防備だ。
「俺だけ見てろ。他の男は見るな」
「また、無理な事言って……」
「出来ねェなら、この部屋に閉じ込めるぞ」
過去に比喩でも冗談でもなく、何度かやられた事のあるナミは1瞬困ったような顔をした。だが、ふと何かに気を取られたらしく思考の海へと出掛けてしまって、全てをシャットダウンしている。
何かを考え始めると、他が何も見えなくなる所が本当に問題だ。それでいて、俺が傍に居ないと眠る事も出来ないと言うのだから、本当に俺をどうしたいのかと思わされる。
「……そうね、これならまだ出てないから、うん」
「ナミ、その内容をメモしたら出かけるぞ」
「え?うん。分かった。少し待ってて」
即座にメモをしていくナミだが、書いてある事の大半は意味が分からない。それでもそのメモを元に何かを書き始めれば、本当に何者かと言いたくなるような物を生み出してくれるのだ。
メモを置いて俺の元に駆けてくる姿は、時折妙に幼い。毎晩のようにその体を弄ぶ俺を、何故こうも信頼できるのか。
そう言った行為が好きな訳では無い事は分かっている。寧ろ苦手で避けている事も。
……本当に、俺になら殺されても笑っていそうなナミに、溜息しか出ない。外行きの顔で対応する俺を大人よねと微笑ましそうに見つめるナミは、俺に対して俺の1度も得る事が無かった母親からの愛情とやらを、向けてきてるのではないかと思わされる。
タナカにナミを預けて、式の為に着替えさせるよう指示を出せば式だと伝えてなかったと今更気付く。それなのに、気の利いた言葉の1つさえ浮かびはしない。
「……ナミ。これからお前は俺の妻になる。戸籍の他何が変わる訳でもねェ」
言葉の途中で、ナミが飛び付いてきた。何だと思いながらも抱き留めれば、その瞳が涙に濡れている事に気付き動揺する。
結婚を嫌がるとは考えられねェが、プロポーズはしたのだからここまで喜ぶとも思っては居ない。何がと思った時、その細い肩を震わせてナミが小さく言った。
「……ファミリー、ネーム、初めてなのよ。本当に、戸籍で家族って言える人が出来るの、初めてなの……だから「ナミ、待たせて悪かった。これからは、俺と共にずっといろ。全てから護ってやる」」
戦災孤児からの奴隷、そして俺に拾われた形となったナミに、言われてみればそんなものがある筈も無かったんだよな……。俺には価値なんて無いとしか思えないファミリーネームは、ナミには重要な物だった。
戸籍が変わるだけ。それは、ナミにとって見れば、初めてのファミリーネームを手にする瞬間でもあるのだと……。
家族とナミが呼んでる奴等を、嫌だと思いながらも全員呼んどいて良かったと心から思う。血の繋がりはなくても、ナミには大切な存在なのだろうから。
泣き止まないナミの唇を奪い、呼吸さえも出来ない程に奪い尽くし、崩れ落ちる迄堪能してから、続きは今夜と言い捨ててタナカに今度こそ預ける。床にペタリと座り込んでいる可愛い姿から、必死で視線を外して着替えに行く。
近くにタナカが居なければ、式など忘れて部屋に持ち帰っていただろう。理性等という明らかに不要な雰囲気の物を、大昔に捨て去った自分を少し呪いたくなった。
理性があれば、ここまで傍を離れ難くは無かっただろう。支度を済ませて会場に向えば、ナミを伴って男が歩み寄って来るのが見えた。
「ナミを、幸せにしてやってください」
真面目そうな男はそう言って、切なそうにナミを見つめる。その様子から、成程これがゲンゾウかと認識する。
全身に傷を負っており、生々しいその傷跡がナミを守ろうとした父親である証。そんな父親に、ナミは微笑んだようだった。
「お父さん、ありがとう。私、テゾーロを幸せにするから!大丈夫よ」
俺とゲンゾウは言葉を失い、ナミを凝視する。それから恐らく同時にナミだなと納得したのだろう、俺は自然と笑みが浮かび、ゲンゾウは優しくナミの背を押して、俺の元へ歩ませた。
近付いてきた愛しい温もりを腕に抱いて、ゲンゾウへと言葉を向ける。無論、外行きの顔と声でだが。
「……泣かせるだろうが、不幸にはしない。義父さんが命懸けで守った命は、今後は私が護りましょう」
「宜しく、頼む」
その場に立ち尽くし男泣きするゲンゾウを視線から外して、ナミと共に会場を進む。ナミの家族だという男達も、俺が知る限り全員招待してある。
本当は弟が後2人居るけど、連絡取るの大変だと思うのよなんてナミは言っていたのは呼べなかったがな。だから、いずれ会った時は義弟を牽制しつつ食事でも共にしてやれば良いかと考える。
式が滞り無く済んで、ナミを狙う男達が少しでもこれで鎮まれば良いと、微かな希望に縋るような心持ちになる。だが、それが叶わないとしても、ナミは幸せそうに微笑んでいるからとりあえずは、それでいいかと甘い事を考える。
その後……グランテゾーロの主が、愛妻家であると言うのが世間に広まるのにそれ程時間はかからなかった。溺愛される幼妻が、余りにも甘い顔をして微笑むから世間の評判も上々である。