この作品には、ヒロインの年齢設定がございません。
こんな所に島があるなんて……と、驚いた様子でナミが言ったのをきっかけに潜水艦は浮上して、その島に皆が視線を向ける。甲板に出る時は俺がプレゼントした帽子を被っていてくれて、それが妙に嬉しい。
甲板に出て暫くの間は特に何もおかしい事は無かったと認識している。いつもの様にナミは俺達に指示を飛ばして、俺達もまたそれに従っていた。
船を岸につけて少しした時それは起きた。突然焦点の定まらない様子を見せたナミが、フラリと船を降りて行ったのだ。
慌てて追いかけようとした俺をローが鋭い声で呼び止めるから、何事かと動きを止めれば他のクルーも含め全員に待機を命じるローに、俺は何かあると気付いて視線で問い掛ける。その視線に気付いたのか、ローは能力で取り出した1冊の本を俺に投げて来て、それを開けば成程なと思わず頷く他無かった。
確かに俺も昔聞いた事……と言うか読んだ覚えのある島だ。通常ならば見えない幻の島には、愛情深い女を待つ植物が生息していると……そう言われている島が。
愛情深い女を呼び寄せ、自らが育つ糧とする。ただしそれはその女を害する物ではなく、3日その愛情を与えて貰いたいだけなので、束縛される他に何か不利益が起きる事は無い。
愛情を貰う為、植物はその女が最も愛する者に擬態する。その間、女と植物を引き離したり傷付けたりしなければ問題の無い島である。
……そんな内容だった気がするな。そんな風に思いながら待てば、姿を消していたナミが何かをその胸に抱いて帰って来た。
だが珍しくも少しでは無く戸惑った様子で、少し離れた所から俺とローに視線を向けるナミはその抱いているモノに視線を戻すと、困ったような顔でけれども愛しそうにその瞳を柔らかな色に変える。その姿を見て、ナミの不安の理由に気付く。
呼ばれた女の〝最愛の者〟に擬態するそれは、植物であるが故に幼い姿にしかなれないって事は、浮気とか育児放棄を疑われるのも致し方ないだろう。誰の姿なんだろうか、俺だと嬉しいんだけどな。
「ロー」
「分かった。〝room〟」
1瞬で移動して来たナミにそっと近付き、抱いているそれを見れば明らかに俺で……顔が1気に赤くなり、それを隠したいのと嬉しいのとで思わずナミを強く抱き締めていた。腕の中で子供を庇いながら身を縮こませている姿が更に愛しく見えて、俺は何も考えずにその場でナミの唇を貪っていた。
その時ナミの腕の中にいた植物が俺に殴りかかって来た。流石にそれを攻撃する気にはなれねェし、なった所でそれをやればナミを傷付けると分かっていて何かするつもりはねェ。
だから、仕方無く唇を離した。だがナミは真っ赤な顔で俺を見るとその身軽さでもって、身長差を無視して俺の顔面に拳を入れてからベポの方へと半泣きで駆けて行ってしまう。
「ロシーの馬鹿!何すんのよー!」
「コラさん、ナミをいじめたら駄目だよ。子供までつくっ……子供!?」
「……似てるな、コラさんに」
俺と植物を交互に見て混乱しているベポを押しのける形で、ローがナミの抱いているそれを見た。そして薄く笑うとナミの頭を当然のように撫でながら視線を俺に向けて来る。
それから皮肉に歪められた唇から、3日間頑張れよパパなんて揶揄うように言われちまう。そんなローの発言に驚きを見せたナミは、直後に悲しそうな顔で俺を見詰めてくる。
「ロシーの子で、間違いないの?」
「いや、俺に擬態してるだけだ」
「……どういう事?」
不安に瞳を揺らして、それでも誰の子かも分からない幼い子をその胸に抱き守ろうとする姿が異様に温かく感じられる。だから俺は膝を甲板について、そっとナミと視線を合わせると同時にこの島に伝わるソレを語りだす。
それにより、ナミは理解した様子を見せたものの何故か申し訳無さそうな顔をするのでどうしたのだろうかと首を傾げる。すると、ローがその様子を見てクツクツと笑いだした。
その理由が分からず、俺とナミが視線を向けるとローはナミの耳元に唇を寄せて何かを囁き、ナミはそれにより頬を赤らめた。……なに、言ったんだよ?
「ローちゃん!」
「事実だろ。〝最愛〟の相手に擬態してんだ。寧ろそう判断しない方がおかしい」
「でも……」
「コラさんを頼むな。この人ドジでお人好しだから」
妙に優しい顔でそう言ったローは、そのまま当然のようにナミが甲板で過ごせるように準備を調えさせてしまう。自分は動かずに、クルーに指示を正確に飛ばすそれは最早立派な才能だろう。
サマーベッドに子供を抱いたナミが寝かされ、3日間だけの母親として接する事が決まった。だと言うのに、寂しそうにその瞳を揺らすから俺はナミに近付きその頭を撫でようと手を伸ばした所で、子供から強く睨み付けられている事に気付いてしまう。
なんだろうと子供に視線を向けると、子供は俺からナミを守ろうとでも言うようにうー!うー!と威嚇していると気付く。その様子に遅れて気付いたナミが吹き出した事で、空気が1気に弛緩した。
「やだもう、本当にロシーなのね!可愛い!」
「おいコラ、どこで俺だと判断したんだ」
「私を必死で守ろうとしてくれる所よ」
そう言って漸く笑顔を見せてくれたナミは、そっと子供を胸に抱いてその背を優しく撫でながら呟くようにごめんなさいと言う。それにより、漸く何が起きていたのか理解した俺はそれが嬉しいなんて不謹慎にも思っちまった。
「……寧ろ、嬉しいから謝らなくていい」
「嬉しい?」
キョトンとした顔でナミは俺を見上げて来るが、当然だろ。目では見えない筈の想いが、こうして形になっているんだぞ。
ナミから向けられるその愛情を疑った事は無いが、やはり目に見えて愛情が分かれば嬉しいし何より……。怒り狂ったりはして無いが、この反応は間違いないだろう。
寧ろそれ以外に考えられねェ。ナミとは無縁だと思っていたそれに、自然と顔がニヤけて原型なんて既に留めてないだろうと思う。
「俺の事を〝最愛〟の相手だと想い、更には嫉妬までしてくれたんだ。恋人にそこ迄想われて喜ばない男がいてたまるか」
「嫉妬……?」
「ん?」
不思議そうに首を傾げるナミに、おい待てよと思う。だが続いたナミの言葉に、そのまま部屋に連れ込みたくなる衝動を必死で抑えた。
「嫉妬って、こう、もっとドロドロして、殺意抱く感じなんじゃないの?」
「……ナミは基礎的な所で怒りとかの感情が足りてねェから、多分その分が悲しみとか不安になったんだと思ってるぞ」
俺の言葉にナミがその頬を染めるから、嫉妬していた自覚も無かったらしいと気付き言葉にならない愛しさで抱きしめようとして、またもや小さな植物に殴られた。……なんなんだよ、俺はこんなに凶暴じゃねェぞ。
「……本当に俺に擬態してるのか?見た目だけか?」
「え?似てると思うけど?」
「俺はこんなに凶暴じゃねェ」
「……どの口が言ってんだコラさん」
俺とナミの会話を聞いていたらしいローが呆れを隠さずに姿を見せて、水にしては少し違うように思える液体が入った哺乳瓶をナミに手渡した。それの匂いを確認して、ありがとうと笑いながら植物に飲ませ始めたナミの姿は完全に母親だ。
「何だよ。俺は穏やかな性格だろ」
「……大切な相手が絡まなきゃな」
「へ?」
「俺の為にって、病院巡ってる時何したか思い出せ」
そう言って少し頬を染めたローが目深に帽子を被ったのを見て、確かにと思う。それからナミの方に視線を向けるともしかしてこのチビは俺からナミを守ろうとしてるのかと気付く。
そんな状態に気付けば、何とも幸せだなと思えてローを捕まえて抱き締めれば、ローから本当に嫌そうに抵抗される。それでも俺は強欲だからローもナミも、ハートのクルーも何も失いたくは無いと願っちまうんだ。
そんな俺とローのやり取りを、微笑ましいものでも見るようにナミは瞳を和らげる。その視線に耐えきれないとでも言うようにローは能力を使用して部屋へと逃げちまって、俺とナミはそれを受けて視線を交わすと同時に笑い出した。
その日から子供には嫌がられるが、俺は大切な愛しい存在と共に穏やかに過ごせる事を喜び、中々無かった平和な時間を満喫していた。ローも少し気の抜けた様子でナミ達を離れた所から見守って居て、こんな日が続けば良いと心から願っちまう。
それに対して同意するクルーが多い為に、何とも海賊らしくないななんて皆で笑う。ローは復讐の為に、それ以外のクルーはローが居るから……そんな理由で海賊になったのだから仕方ねェのかもな。
2つ名は恐ろしく、元々の顔立ちの為か勘違いされやすいがローは比較的お人好しの部類だ。突っ込み体質なのも、勘違いに拍車をかけるのかもな。
「ロシー?」
「あァ、なんて言うか、幸せだなと思ってさ。……ナミは、ソイツが可愛いのか?」
「そりゃ、可愛いわよ。ロシーそっくりなんだもの」
少し複雑だが、それならナミの薬奪って本当に俺の子抱いてくれてもなんて思ってからローに視線を向けると思考を読んだのか、困ったような笑みを向けられた。それから唇の動きだけで本人に許可取れなんて言われるから、許可取れば産ませても良いらしいと理解して笑み崩れるとローが俺に背を向けた。
あまりにも幸せで、あまりにも平和で、俺は忘れていたんだ。いや、気付かなかったんだ。
今の幸福がそれ程長く続く筈の無いものだって事を、すっかり忘れていたんだ。だから、<
大きくなったな。成長したんだなと。
その言葉と愛情に包まれて、その時微かにナミの表情が曇っていた事にさえ、誰1人気付く事が出来なかった。そうして森へとリトル・ロシーを連れて行く足取りは軽くついでにと木の実を収穫したりする様子は、寧ろ楽しげでさえあったのだから救えねェ。
そして、別れの時を迎えて俺達は漸く浮かれていたそれに漸く思い至り、血の気が引く想いをする事となった。何せナミが俺のミニチュア……リトルを抱いて、動かないのだ。
「まー?」
「そう、だよね、分かってる……のに、ね」
震えるナミに、俺達は誰1人声をかける事が出来ない。震える姿は子供と無理矢理引き離されようとしているようにしか見えず、リトルもまた状況をよく分からずに……だが、悲しそうな母親を気遣う様子を見せる子供にしか見えなかった。
それなのに、直後にナミは穏やかで優しい微笑みを浮かべ、その頬を優しく撫でた。恐らくは俺とロー以外には、いつもの優しい微笑みにしか見えないだろうが、少なくとも俺にはナミがその笑顔を〝作っている〟事位は分かる。
「私の息子なんだから、強く立派に育ってよね!」
「あい!」
「宜しい!……愛してるわ、またいつか会いましょう」
「まー……ぅ?」
小さく首を傾げたリトルはそっと視線を合わせる為に大地に膝をついていたナミに抱き着くと、そのままその頬に軽くキスをして手を振りながら離れて行く。そして木漏れ日の中で人の子の姿から植物へとその姿を変じた。
その姿を大地に座り込んだまま微動だにせず見詰めるナミと、号泣するベポとシャチ、そんな号泣する2人?……いや、1人と1匹を引き摺るように連れて行くペンギンを見送れば、ローが俺の肩を軽く叩いて瞳を微かに揺らしてから去って行った。揺れた瞳がローの気持ちを代弁していたと分かるが、今の俺にはそれに構う余裕さえ無い。
「ナミ」
呼び掛けるとビクリと肩を震わせて、ゆっくりと振り向いた。その瞳は虚ろで、その姿を見てどうしてすぐにこうなると気付かなかったのかと己を呪いたくなる程だ。
そっとナミを抱き締めると、抱き締め返す事も無く、ただ俺の体にその顔を埋めて体を震わせる。泣く事も出来ない不器用なナミを精一杯の優しさで撫でながら、俺は言葉を紡ぐ。
「ナミ、ローがな、ナミが良いって言ったら……リトルをナミが産む事を許してくれるそうだぞ」
「ロー……ちゃん、が?」
「あァ、確認しておいた」
俺の言葉にナミは小さく頷くと、掠れて震えたその声で、囁くように言う。また、会いたいと。
だから俺は早く部屋に帰ろうかと声をかけて、そっとその小さな体を抱き上げた。ナミが落ち着くまで、数日俺とナミが部屋に引きこもったが、誰1人責めるような言葉を口にはしなかったのは、それだけナミがクルーに愛されている証拠だろう。
後にこの島は、宝玉の書いた手記によりカップル達で溢れかえる有名な観光地になるのだが、それはまだ、誰も知らない小さなこぼれ話。
この先このキャラクターは不定期更新となりますので、予めご了承ください。
このキャラクターにこの先追加される作品は、全てこの作品より手前に挿入されます。