舞台でテゾーロと共に歌い、踊る。いつも通りの幸せな日常。
ド派手な演出に、ここ半年程テゾーロが気に入ってる〝怒りをくれよ〟と言う曲は恐ろしく合っている。そのショーの途中、入って来た船と、暴れる海賊船が戦闘を開始したのが見えた。
その入って来た方の船に、私の視線は釘付けとなる。何せもう随分と薄れた記憶の中でも忘れられない、ライオンちゃん……ならぬサニー号の姿だったから。
テゾーロは私の反応を見て、心配してるとでも判断したようなのに何故かすぐにスポットライトをサニーに当ててしまう。全てをショーとしてしまうテゾーロのそれに、感心するべきか怯えるべきか。
いつも判断に困るのよね。でも、私はテゾーロ無しではきっと存在する事さえ出来はしないのだと言う事も分かり切っているから、私はテゾーロにどんな反応をするのが正しいのかといつも戸惑ってしまうのだ。
暴れているその姿は明らかにルフィで、その声を聞けばやはり懐かしくて……。大きくなったのねと、頬を緩ませるけど実際は既に5億の男。
既にドフラミンゴを監獄に送った後なのだと、その様子を見ながら思う。でも、物語では主人公となるルフィが来たという事は、戦えばテゾーロが監獄に入れられるだろう事は分かる。
何せルフィは物語の主人公だし、テゾーロは明らかに悪人に該当する事を平然と行っている。なので、戦いにならないようにしないといけないなと強く思う。
「テゾーロ、あれ、私の弟なの」
「……またか。何の嫌がらせだ?」
「テゾーロって、私の兄弟嫌いよね?どうして?」
皆優しいのに。どうして嫌うのかしら?
皆海賊だけど、テゾーロも似たようなものなのにと思えば不思議でならない。何か仕事上で、迷惑かけられたとかなのかしら?
「ナミは幾つになっても、ナミだな。もう年齢的にも立派な大人だ、そろそろ理解しろ」
言われて考えてみる。色々考えてみるけど、さっきと同じ内容が脳内でクルクルするだけで、答えなんて当然導き出される事は無い。
「…………ダメ、わかんない」
私も今年20歳になったし、ルフィはそうすると……19歳か。見えないなぁ。
「俺はいつまで、ナミに振り回されるんだかな?」
「私、迷惑かけてる?」
不安になって問いかければ、舞台の上なのにテゾーロは私にキスをしてから困ったように笑った。そのキスが優しくて、観客も何故か盛り上がるから悪い事では無いのだろうけど。
「ナミ以外の女の為なら、こんな苦労しねェよ。お前だけだ」
テゾーロは、優しい。……少なくとも、私には。
麦藁の1味が港に到着するタイミングで私も港に到着するようにすれば、盛り上がっているルフィの姿が見える。それを見ているだけで、心がホンワカするのだから、ルフィは凄い。
……さて、まずはご挨拶よね。可愛い弟の仲間であり、本来ならば私も……って可能性があった人達。
その事に対する後悔は無いけど……ずっと〝読んで〟来たからか何となく懐かしいような気持ちになる。それに恐らくは憧れも、多分にあるとは思ってる。
「はじめまして、麦藁の1味御1行様。そして……久しぶりね、ルフィ」
その瞬間サンジ君が信じられない速度で、目の前に躍り出て挨拶してくれる。その挨拶の中で自然と口説くような言葉があるけど、それも含めて挨拶なのは分かってるので適当に流しておく。
「まぁ、お上手だ事。お会いできて光栄ですわ」
言ってから視線をルフィに戻す。呆然とした顔で見てるけど、私だって分からないのかな?
「私VIP専属コンシェルジュ、ギルド・ナミと申します」
「……ナミ、なのか?本当に?」
ルフィが言うから、私は頷く。麦藁の1味の人達が口々に知ってるのかと問い掛けると、ルフィは頷いた。
「俺の、大切な女だ。航海士にするなら、ナミってずっと思って来た」
「……待ってルフィ!まさか、航海士無しでここまで来たの!?」
「当たり前だろ、ナミが居なかったんだから」
「馬鹿っ!今からでも遅……いけど早く見つけなさい!私はもうここから離れないから!」
どうやって生き抜いたのか。お姉ちゃん泣けてきたわ。
そんな私の思考とは無関係な様子で、ルフィは首を傾げる。まるで、おかしいのは私であるかのように。
「なんで、会えたのに1緒に来ないんだよ」
「それは「ナミさん、だったわよね?貴方の姓だけど、もしかして……?」」
私が答えるより先にロビンに問い掛けられて、自然と顔が赤くなる。それを長い事ここにいるお客様達がクスクスと笑いながら見るから、余計に居た堪れなくなる。
「奥様は恥ずかしがり屋なので、笑っては可哀想よ」
「でも、お可愛らしい」
そんな会話まで聞こえてくる。もう、私はいったいどうしたら……。
そんな時にルフィが奥様?と言って私の手を見て、スっとその瞳を細めた。なんだろうと思った時、ルフィに腰を抱かれてそのまま強く体を抱き締められる。
「ナミ、お前ケッコンしたのか?」
「……そうよ。家族が、できたの」
「分かった。なら仕方ねェよな」
ルフィはそう言ってニカッと笑い、平然と言葉を続けた。それはまさかの言葉で、1瞬頭が真っ白になる。
「ナミの旦那も1緒に行けば良いだけだ!」
「行けるかぁー!」
思わず本気で殴った私は、悪くない筈である。そんな私とルフィのやり取りを見て、ゾロが口を開いた。
「ルフィがずっと探してた幼馴染か。会ってみてェと思っていた。宜しくな、航海士」
「だから、ならないっての!聞け!」
「ルフィが言い出したら、最後だもんな……」
「そうだよな。俺、うるせェ、行こうだぞ」
「俺はパンツ盗られたからな……」
ウソップから始まり、チョッパー、フランキーと続くその言葉に、やっぱりその流れなんだと脱力する。どうして、この子は……。
「ルフィ、どうして中身成長してないのよ」
「したと思うぞ?俺は今、必死で我慢してる。本当なら、このまま連れ去りたいところをな」
「ルフィ……駄目よ。テゾーロを怒らせないで、私が被害者になるから」
「俺じゃなくて?」
私の言葉にキョトンとした顔をするけど、大概何かあった時は女が怒られるように人間は出来てるのよ。……なんて、言えないけどさ。
実際男は女に浮気された時自分の女を責め、女は男に浮気された時相手の女を怨む。例えそれが強姦でも、女を責める男は1定数以上存在するのだから、何かあった時に責められるのは私であるのも当然だろう。
それに、私の場合は本来戦えるのをテゾーロは知ってるから。戦って、それでも負けたなんて事ならテゾーロは責めないけど、ルフィに私が手をあげられる筈無いもの。
「エースに抱き着かれた後も、シャンクスが巫山戯た後も酷い目に合ったのよ。シャンクスの時なんて、半年部屋から出してくれなかったんだから!」
「……その気持ちは、分かるな」
「分かるの!?なんで!?」
「ナミ、相変わらず鈍いな」
なんで今私呆れたような視線向けられたの?
それもルフィに!納得いかないわ。
それから色々と説明しつつ、カジノ迄案内する。カジノに向かう途中、適当な服では悪目立ちしそうだと判断して、ルフィとその仲間達だからと服を揃えさせる事にした。
「宜しいのですか、お会計……」
ブルックの問いかけに、私は笑う。当たり前じゃないと。
「ルフィに恥かかせたくないし、ルフィの仲間なら当然よ。可愛い弟だもの」
「……ルフィさんが、少し憐れに思えてきました。ヨホホホホホホ!」
何故か楽しそうなブルックを見送り、全員が着替えたのを見てからカジノへ連れて行く。その途中、子供達が駆け寄ってきて、花を買ってくれと言い出した。
それに思わず足を向けると、子供達はあっと言って動きを止めた。テゾーロに〝堕とされた〟人達の家族よね。
ごめんね、私には、何も出来ない。ごめんね、止める事も、変える事も私には出来ない。
そっと手袋をしたままその頭を撫でると、子供達は困ったような顔をする。これでは意味なんて無いと分かってるし、これやるとテゾーロに叱られるんだけど……。
「いい子だから、テゾーロには見つからないようにね?ゴメンね」
そう言って少しばかりのお金を持たせる。内緒よとジェスチャー付きで。
それに子供達は頷き、去って行く。助けられなくて、ごめんね。
子供を苦しめるような事はしないでと何度も頼んだけど、テゾーロはそれに対して首を縦には振ってくれない。いくらナミの頼みでも、ケジメだと言われればそれ以上食い下がれなかった。
「ナミ?」
「なんでもないのよ。行きましょ」
「なら、なんでそんな顔してんだよ。ナミは、どうしていつも」
ルフィはそう言って私を見て言葉を詰まらせる。可愛くて、優しい、大切な弟。
「……相変わらず、ルフィは真っ直ぐで優しいわね。私は大丈夫よ」
それから中に入って案内をしながら、少しばかりのお金を差し出す。幼い子供に大金を持たせるような、そんな心持ちではあるけど。
「いいこと、ルフィ。これは貸すだけだから、ちゃんと稼いだら返しなさいよ!」
イザとなればこれは私の原稿料だからあげても良いんだけど、他に示しがつかないのよ。だから少し強く言うと、ルフィは分かってると言って遊びに行った。
その背を見送ってから、残っている仲間の皆さんに視線を向ける。姉として、家族として、どうしても伝えておきたい。
「皆様、ルフィの事、ありがとうございます。これからも、宜しくお願いします」
「姉ってより、お袋だな」
そんなフランキーの言葉に、首を傾げる。普通でしょと。
それを見たロビンが楽しそうに笑っていて、本当に良かったと思う。笑えているなら、良かったと。
それぞれの興味を持った所を案内しながら、楽しんで貰う。テゾーロが挨拶したいと言ってたから、後でちゃんと案内しないとだけど……何でかな、会わせるのが怖いのは。
儲けが出て喜ぶルフィ達に、3億貸すからVIPルームへ行ってみないかと提案する。それに頷くからタナカさんに連絡を入れると、即座に迎えに来てくれた。
「ナミ、テゾーロ様が少し苛立ってたから、気を付けるように。スルルルル」
「……何も、私してないわよ?」
「……テゾーロ様はナミが兄弟と会うのを嫌がるから」
そう言ってタナカさんは困ったように私を見てくる。その優しい視線に、それ以上は何も言えなくなってしまう。
そんな私の頭を撫でて、行こうと言ってくれるからそれに従う。そうしてダイスを紹介して、盛り上がる皆を眺めていたらテゾーロが姿を見せた。
「これはこれは、グランテゾーロへようこそ!楽しんで貰えてますか?」
「テゾーロ……」
思わず声を掛ければテゾーロが私に視線を向けた。どうやら、本当に何故かお怒りらしい。
……どれ!?どれが理由!?
ルフィに抱き締められた事?それとも子供にお金あげた事?
いや待て、他に何かあったかな?
「ナミ、其方の方が弟か?」
「えぇ、そうよ」
「……無邪気に笑ってたな、随分と」
「怒ってる理由それ!?」
笑うなって!?そんな無茶な!
そんな私をテゾーロが手招くから、すごすごと近付くと怒ってた筈なのにテゾーロは妙に優しく抱き締めてくる。そして、低く囁く。
「能力を使え」
私はそんなテゾーロを静かに見据えて、首を横に振る。そんな事は出来ない。
「嫌よ」
「本当にナミは……妙なところで頑固だ」
「そこも、気に入ってくれてるんでしょ?」
問いかければテゾーロは笑う。楽しそうに。
それから小さく首を横に振ると、気に入って等居ないと言うから、そんなに怒ってるのかと不安になる。思わずその腕を掴むと、テゾーロがそっとキスしてきて誤魔化されそうになるけど……。
「気に入って等いない。……愛してるだけだ」
真っ赤になった私を見てテゾーロは満足そうにルフィの元へ向かうと、ルフィと何やら会話を始めてそのまま2人で賭けを開始する。その様子を眺めながら、勝手にしたらいいのよと舌を出せばテゾーロとルフィが同時に振り向いた。
なんて勘の良い奴らなのか。そう内心で呟いたのは仕方ないと思う。
その後貸したお金を返して貰い、ルフィ達は数億儲けた状態で帰って行った。居る間中私とテゾーロを連れ出そうとして、最終的にテゾーロが我慢の限界超えて素になり2人で殴り合う事態になった事の他は、平和に終わったと思う。
「……他に、兄弟は居ないだろうな、ナミ?」
「居るわよ。あと1人」
「……巫山戯るなよ」
そんな事言われても。そう思うけど、落ち込んでる感じのテゾーロが可愛くて、ふふっと笑えばテゾーロに今夜は覚悟しろと凄まれる。
珍しいお客が来たし、懐かしくて楽しかった。けど……やはり私はあまり変わり映えのしない日常の中で、今日も幸せなぬるま湯に浸かっている。