先日テゾーロが黄金の砂漠に落とした、ほぼ2頭身、3頭身あったかな?位の人の情報を見て、嫌な汗が流れる。
この人、革命軍……。て事は……。
「テゾーロ!」
「どうした?」
珈琲を口元から離して優しく振り向いてくれるけど、そうじゃないのよ!ねぇテゾーロ!
半泣きで資料を手に近付くと、慌てて説明する私にテゾーロは呆れたような視線を向けて来る。恐らくは本気で呆れてるのだろうけど……。
革命軍だろうが海軍だろうが、負けるのが悪いと言われてしまえばそれ迄。確かに全員が全員、陥れられた人じゃない事を私も知っている。
ただカジノに来て、ただ負けた人もいる。そこで素直に担保に何かを差し出したりする事で終わった人も多いのだから、ここで騒ぐのは確かにおかしいかもしれないけど……。
「だって……サボのお友達かも知れないし……」
「……待てナミ、今、なんて言った?」
「お友達かも「その前の名前だ」」
名前って、サボの事?
「サボが、どうかしたの?」
「……ナミの弟ってのは、それか?」
「うん」
頷いた瞬間テゾーロが頭を抱えた。大きな体で頭を抱えているのはなんか、舞台役者みたいだなぁと思って眺めていたら、ギロリと睨まれてしまった。
「そいつの役職とか色々、分かってるのか?」
「え?サボの事?うん。参謀長って役職でしょ。頑張ってるのねぇ」
「頑張ってるとか頑張ってねェとか、ンな話してねェんだよ!!そいつは革命軍のNo.2じゃねェのか!?」
「そうだけど、何かあった?」
何をそんなに騒いでいるのか。サボは弟の中でも唯一賢い子なのよ。
穏やかで、兄弟想いで、優しい子なの。役職もそこまであるならきっと人気者なのね。
そんな事をサボを思い出しながら言葉にしていたら、テゾーロは低く呻くように言葉を口にする。その手元で何かを弄びながら。
「……姉馬鹿が。それでか、この手紙は」
「へ?」
「近々来るらしいぞ、お前の最後の弟」
「何か、ヤダわ、その言い方」
「俺はナミの兄弟の方が断然嫌だと思うがな。もう他にいねェだろうな。海軍に所属してる赤犬のお兄ちゃんとかいたらいい加減怒るぞ」
「私の記憶では、そんな怖いもの居ないわね」
何故に赤犬なのか。元三大将の中でも、1番怖い人じゃないのよ。
でも、ローちゃんとロシーはどうなっただろう。海軍と聞いて思い出したのは、夢の中で会った彼らの事。
恐らくは、単なる夢なのだろうけれど、彼らもまた私には可愛くて仕方が無い。そんな事を言ったら、テゾーロが怒りそうだから黙ってるけどね。
現時点で何故かサボに怒ってるテゾーロを横目に、私は何か怒りを鎮められそうな物は無かったかなと考える。ジャスミンティーと何か摘める物でも用意しようかしらね。
そんな事を考えてキッチンに立てば、テゾーロが困ったような顔で私を見た。その眼差しが優しいから……私は幸せだなと思う。
「テゾーロ」
「ん?」
「呼んでみただけ」
「……可愛い事を。喰われたいなら言えばいつでも喰ってやるぞ」
「まだ、スコーン焼けてないから待ってね。小麦粉は火が通ってないとお腹壊すから」
「……あァ、ナミだな。その鈍さもお前らしい」
よく分からなくて首を傾げた私は、スコーンは嫌だったのかなと思って少し考える。でも、桃があるから桃のスコーン作りたいな。
「スコーンの気分じゃなかった?」
「……スコーンから、少し離れろ。っとに……」
テゾーロはカルシウム不足なのか少し怒りっぽい。これから数日は、小魚とか牛乳を使った何かを多目に作ろうとこっそり決意していたら、何故か呆れたような視線を向けられてしまった。
それから三日後、1般客に混ざってサボが姿を見せたとの報告が入り、私はテゾーロの腕から抜け出すと着替えて出迎えに行く。手紙を見て喜んだのがいけなかったのか、その日の夜から昨日の昼くらいまで、ずっと続いていた行為の為に私の体は限界を訴えている。
産まれたての小鹿の方が、まだまともに動けてる気がするわ。そんな事を思いながらふらつく足取りで部屋を出た瞬間、ふわりと抱き上げられた。
そんな事をする犯人は1人しか居ないので、思わず睨み上げる。それを受けて犯人は楽しそうに笑った。
「動けたか。この様子なら、今度からもう少し激しくしても良さそうだな」
「テゾーロの馬鹿!サボが来てくれたのに、どうしてそういう事するの!?テゾーロなんか、テゾーロなんかっ!」
大嫌いと言おうとして、顔を見たら言えなくなる。だって、なんか寂しそうな顔してるんだもん。
「……っ!~~!大好きよ、馬鹿ー!」
「……大好きだと罵られたのは人生初だな。気分が良くなった。特別に、会わせてやるから、機嫌直せ。それと服は変えろ」
「え?」
「俺の付けた跡だらけだからな」
悪人の顔でテゾーロは笑い、私はそれを見て溜息を落とした。なんとも言い難い感情が渦巻くけど、シャンクスは巫山戯たし、エースは甘えて来たし、ルフィは連れて行こうとしたからサボの事警戒してるのかなと思い至り、文句はもう言えそうにない。
「なら、選んで。ソレを着るわ」
「俺が、着替えさせてやろうか」
「そんな事したら、着替えだけじゃ済まないから嫌よ」
「……火照った顔で会えば、諦めるだろ」
諦める?
「何を?」
「……俺はナミの兄弟は全員敵だと認識してる」
「どうして!?」
驚く私にテゾーロは溜息を吐き出して、後はもう何も答えてはくれなかった。着替えてサボの元へ行くとサボは抱き上げられている私を見て、懐かしそうにその瞳を細めてから小さく笑った。
「久しぶりだな。ナミ」
「うん、久しぶり。こんな格好でごめんね。……大きくなったわね」
「構わねェよ。……そりゃな、これだけ久々に会って変わってなかったら問題だろ。……ナミは、幸せか?」
優しい声で問い掛けられて、私は自然と笑ってしまう。心配してくれていたらしい。
大変なのは革命軍なんて所で世界を相手にしているサボの方だと思うのに、サボはどうしてこんなにも優しいのだろう。そっとサボの頭を撫でれば、サボは1瞬驚いたような顔をしたけど、直後に照れたように笑い、視線をテゾーロに移した。
「姉がお世話になっています。俺はサボ、革命軍に所属しています。義兄さん」
そう言って右手を差し出したサボに、テゾーロはホッとした様子で手を差し出して握った。それによりテゾーロも言葉を返す。
「こちらこそ宜しく頼む。ナミの兄弟で初めてまともなのに会えた」
「ルフィとエースですか。すみません、奴らは野生児なもので」
「よく、結婚している事が分かったな」
「揃いの指輪と、ナミの態度を見れば分かります。ファミリーネームを、ありがとうございます。ナミはずっと気にしていたから」
「……ゆっくりして行くといい。部屋は用意させる」
「お気遣い、ありがとうございます」
2人は何故かその後で私を見て、納得したように頷いた。それの意味は、私には分からなかったけど、その直後に夜は共に食事をとの約束をして別れたけど……食事か。
「ナミ、食事が気掛かりか?」
「ん、まぁ……少しは……」
「目の前で調理してくれるタイプのそれをホテルに呼ぶ。それなら、食えるだろ?」
「ごめんね、気を使わせて」
「ナミのそれは、不可抗力だ。気にするな。……ナミの事は、俺が護ってやる」
テゾーロの言葉が嬉しくて、私はテゾーロの首に腕を回すと、そっとキスをする。それだけでテゾーロも満足そうに笑ってくれるから、それが外なんだって事を私達は忘れ果てていた。
見ていた常連客が私とテゾーロを見て微笑ましそうにしていたり、クスクスと笑っているのに気付き、思わずテゾーロの胸に顔を埋めて隠れれば余計に笑われてしまう。それにテゾーロがどんな顔をしているのかは、見る余裕が無かった。
夜になり共に食事をしつつ会話を楽しんでいると、サボが唐突に言った。仲間を返しては貰えないかと。
「テゾーロ……」
「ただ負けただけならば、帰している。盗みを働こうとしたり、俺やコンシェルジュに手を出せばその時点で捕らえる事となるし、他は返せる宛が無い場合はここでスタッフとしてその分働かせている。スタッフならば金を払うなら帰そう」
「金か……」
「サボは、誰を返して欲しいの?働いてる所を確認してみるわ」
そっと立ち上がれば2人は私を見て、困ったような顔をする。テゾーロのそれは、多分私やタナカさんにしかわからない程度の表情の変化だったけど。
それからサボが次々に名を上げていくのを聞きながら、3人程を除いて全員働いている場所の確認が出来た。3人のうち1人は金の牢獄に、他はこの船では確認出来ていない事をテゾーロに伝えると、テゾーロは言った。
「この3人は、ここにはもう居ない。他のメンバーはそれぞれの借金を返すなら、ここを出て貰って構わない」
「支払おう。……ナミ、合計いくらだ?」
私はそれぞれの金額を足したものをサボに見せる。決して小さくはない金額に、サボが少し困った顔をした。
「サボ?」
「……思ったより、金額がな」
「あー、そうね。でも、彼等も働いてこれでも頑張って減らしたのよ。だから、その……」
困ってテゾーロを見れば、テゾーロが私の腰を抱いて耳元で囁いて来た。その声は、いつもながら色気が無駄に満ち溢れている。
「……ナミが、支払うか?その体で」
「お金には困ってない癖に」
「だが、いつでもナミには飢えている」
「……私の全ては、テゾーロのものよ。だから、取引にならないわ」
それを受けてテゾーロは私に噛み付くようにキスをして、サボがいるからと抵抗する私に言う。それにより、テゾーロの葛藤が垣間見えるようで、私は抵抗する力を失う。
「ナミは、甘過ぎる。そして、それを許せば、ここは立ち行かなくなる」
「……テゾーロ」
「ナミにだけは、幸せで居てもらいてェが、それとこれとは話が別だ。ここからは2人で話をするから、下がってろ」
私は頷くしか出来なくて、サボに力になれなくてごめんねと1言謝ると部屋を出た。……よし、砂漠の牢獄から問題の1人を出しておきますか。
そう思って歩きだしたら、タナカさんに手招かれて壁を抜ける。そこには例の落とされた人がいて……。
「テゾーロ様には、内緒ですよ。シュルルルルルル」
「タナカさん……」
「ナミの事は、ダイス共々可愛いと思っていますからね。さァ、安心したらナミは部屋に」
「うん、ありがとう」
笑顔で去った私の背後で、タナカさんがその人物を連れて何処へ移動したのかを、私は知らなかった。ただ、私の行動は長年共に過ごした人達には簡単にバレてしまうのだと言う事は、恐らくは変わらない現実なのだろう。
そうして部屋に帰り30分程したら何故かテゾーロとサボが表で戦っているのが見えた。テゾーロはそれをショーにしてしまうから、私は慌てて窓から飛び出してテゾーロを庇うように間に立っていた。
それにより、2人の戦いは止まり……そして、サボが盛大に笑った。その笑いの中でサボはテゾーロに言う。
「テゾーロ、俺の負けだ。エースとルフィにはナミにちょっかい出さねェように言っとく」
「なんの話?」
「ナミがどっちを庇うかで賭けをしてたんだよ。有意義な時間だった。ナミ、幸せでいろよ。たまに、遊びに来る」
「サボ……帰るの?」
「あァ、金の工面しながらまた近々仲間を迎えに来るから、それ迄頼むな」
私はそれに頷いて去っていくサボの背中を見送る。それに対してテゾーロが言う。
「ナミ、お前の兄はベン・ベックマンだけにして、弟はアレだけにしとけ。それが1番平和だ」
「無理な事言わないで!もう」
困った人ねと笑えば、困った奴なのはお前だよと言われて抱き締められた。成長したサボにも会えて、私は甘やかされている。
いつかバチが当たるんじゃないかと不安になるくらい、私は大切に愛されている。どうしても借金抱えて働く人が多いのは悲しいけど、それも本当に少なくしてくれているのを知っているのよ。
私がいる事で、テゾーロは甘くなったと言うけど、きっと優しくなったのね。だから、もしその事でテゾーロが苦しむ事になるのならば、その時は私がテゾーロを守ろうと誓って、私からテゾーロに抱き着く。
私はテゾーロを、1人にはしないと決めているの。これからもずっと傍に居させてね、愛しい旦那様。
心でそう呟いて私はテゾーロの頬にそっとキスをした。