蜜柑の世話をする為にプライベートスペースにある蜜柑畑に向かったナミ。その頭には、俺がホワイトデーにやった帽子を被っている。
俺がバレンタインの時に貰ったネクタイピンを、年中使うように年中無休でとはいかねェ。だが、蜜柑の世話をする時には必ず、その帽子を被ってくれている。
風で帽子が飛ばされそうになった時、帽子を庇い梯子から足を滑らせたナミを見て、俺は考えるより早く咄嗟に金を流してナミを受け止めていた。するとナミが金の中で俺を見た。
そして照れたように、少女のように笑ってありがとうと微笑むのだ。その表情だけは、14歳の時から成長が無いように思える。
「気にするな。それより、怪我は?」
「うん、傷付いてないわ。ほら、綺麗でしょ」
そう言って蜜柑を見せてくるナミに、誰が蜜柑の心配をしてるのかと頭を抑えれば、不思議そうに小首を傾げるナミ。それを金に乗せたまま移動させて腕に抱くが、様子を見るに本当に怪我は無さそうだ。
落ちた所で、覇気などを用いたり自力で上手く着地するだろうと分かっていて……それでも……助けちまう。無事で良かったと、内心で呟いておきながらそれを口に出して言える性格でもねェから、震えそうになる自分に苦笑する。
「テゾーロ、どうしたの?」
「何でもねェよ。俺は寝る。……もう落ちるなよ」
「ふふ、気を付けるわ」
そう言って蜜柑の木へと戻って行くナミを、その近くに用意してあるソファに転がり眺めながら眠る。俺のサイズに合わせて用意してあるソファに身を預け、その目の前にあるやはり同じサイズのそれを見るとも無しに眺める。
この目の前のソファにはナミが座り、何かを書いたり演奏する事が多い。蜜柑畑を目の前にしているこちら側に俺がいて、ナミは蜜柑畑を背にする事が多いのは、ナミが蜜柑畑にいる事が多い為だ。
どうしても俺がナミを眺めやすいように、こちらに先に座る為、ナミは空いている向かい側に座る事になる。ここの上にはひさしも付けてあるので、雨に濡れる事も無い。
だからこそこのソファは、ナミを眺めるのに最適だ。蜜柑畑に居ようとも、何かを書いていようとも、俺の目の前に……守れる距離にナミがいるならばそれでいい。
そんな事を考えていたら眠くなってしまい、気が付けば深く眠っていた。そんな俺の頭を撫でる感触からは、甘い香りがする。
「愛しているわ」
ンな事は知ってる。俺に言われれば何でも耐えようとするナミのそれが、愛以外のなんだと言うのか。
そっと掠めるように額に触れるナミの唇。そのまま少しの戸惑いを持って俺に触れたナミは、ふわりと抱き着き甘えたように擦り寄ってきた。
……寒いのは、体か心かは知らねェが、可愛いもんだな。そのままお休みと言って眠ってしまうナミが落ちねェように支えながら体を起こすと、テーブルには1口パイが置かれている。
残った餃子やワンタンの皮にジャムを包んで焼いただけだというそれは、意外と美味い。今日は蜜柑のパイと蜜柑の紅茶が置かれていて、傍にはメモが1つある。
『疲れてるようなら、蜂蜜も使ってね』
俺の妻は、本当に可愛い。パイを1つ口に放り込んでから紅茶を飲み、俺はナミの頭を飽きる事無く、撫で続けた。
その数日後、性懲りも無く姿を見せた赤髪に苛つく俺と、それに気付かずに嬉しそうに笑うナミがいた。普段は俺にしかしない甘えたような仕草を、赤髪とその副船長にはするのだから苛立ちは自然と高まろうというものだ。
「……今日は私用で来た。悪いな〝旦那〟さん」
「ウチの妻をそろそろ返して頂けませんかね?ソレももう良い大人ですから……。ナミ」
「はい!」
名を呼べば慌てて返事をして赤髪から離れようとするナミだが、赤髪がその腕を掴み1つの瓶を差出した事でその動きが止まる。差し出されたそれを受け取ったナミは、嬉しそうに笑って礼を言っている。
なんだと思って渡された物に視線を向けてみれば、オレンジ色の飴が入っているのが見える。それにより何故か不快感が増した気がした。
「今日はオレンジデーって言うらしいからな。オレンジの飴ちゃんだ。喜べ」
「うん、シャンクスありがとう!」
素直に喜ぶ妻に、そんなイベントがあるなら教えておけと思いながら、赤髪の腕に金で攻撃を仕掛ける。すると分かった分かったと言わんばかりに、赤髪は降参のポーズを取る。
その余裕な態度が苛立ちに拍車をかけているが、赤髪は分かっていてそうしているのだろう。あァ……忌々しい。
「テゾーロ、どうしたの?」
「……無防備な子猫が1匹居てな、少しばかり苛立っていただけだ」
「だって、警戒する必要無いじゃない。兄達と愛しい旦那様しかいなんだもの」
その兄が兄じゃねェから問題なんだろうが!
そう思って噛み付くようにキスをすれば、珍しく抵抗する。顔を赤くして、見られてて恥ずかしいなんてほざくから、よりキスを深めてしまう。
その様子に赤髪は僅かに殺気立ち、それに対してほら兄貴じゃねェだろうと思わされる。だがそれよりも厄介なのが、楽しげに、微笑ましそうに眺めている副船長の方だ。
ナミだけをずっと見ていて、その瞳が愛情を称えている為に想いの深さがわかり易いというのに、ナミが笑えばそれだけで良さそうに見せかけているのが何より恐ろしい。何かあった時、1番厄介なのはこの男だろう。
「んっぁ……てぞ……ろ……」
「ナミ、無防備な姿を晒してると、俺の理性が切れてもっと激しい事になるぞ。わかったな?」
俺の言葉にナミは頷くので、蜜柑の飾りがついた帽子止めをナミに渡してやる。蜜柑の世話をしている時、風が吹くと帽子を優先するから梯子から落ちるんだと気付いたからだ。
なら、飛ばされないようにしたらいい。蜜柑の飾りなら、喜ぶだろうと考えたが、オレンジデーとやらだったのならば、丁度いいだろう。
「テゾーロ、これ……」
「帽子の為に梯子から落ちるなんて事は、もう許さねェからな」
「……ありがとう」
はにかんだように笑ってナミは言うと、今日はちゃんとした蜜柑のパイを焼いてあるのよなんて笑うから……2人で食べるかと言ってその体を抱き上げる。客の事等、俺はその瞬間に記憶から故意に抹消していた。
Happy orange day……パイの後はお前を食べさせろと言う男に、女はお残しは許しませんなんて笑い、2人だけの時間を満喫する。女が他の男から貰った飴をさり気なく男が何処かに隠して、女が半泣きで探し回るのはまた、別な話。
ここ迄でテゾーロの光源氏作品で書けているのは終わりです。
また、リクエスト等で書きましたら、追加される形になります。