※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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正月イベント21(光源氏2?)side

 半年以上前に俺が隠した飴を、最近になって見つけ出したらしいナミ。そのまま大喜びで机に飾ったのを見れば、それ以上手を出す気にはなれなかった。

 普通なら俺に見つからない所に隠すだろうに、堂々と飾る時点で警戒心が無さすぎる。寧ろ普段は良過ぎるその頭を空っぽにしてる様子に、悲哀さえ感じる程だ。

 つまり、飴をくれた兄貴に対する警戒心が皆無と言う事だけは明らかである。と言うか、半年以上前の飴って食っても大丈夫なのか?

 

 「ナミ、その飴大丈夫なんだろうな」

 「へ?美味しいわよ?」

 「味に変化が無いなら、大丈夫なのか……?」

 「ああ!飴はね、熱で溶けるとかすると劣化するけど、基本的に腐らないのよ。だから何年前の物でも基本的には食べられるの。ただし化学調味料とか化学香味料とかが使われてたり、果物や珈琲なんかが使われてたら長期保存出来ない事もあるから注意してね」

 

 その後永遠的に続く飴の講義を受けて、金平糖なんかはそれこそ数十年単位でそのままの状態を維持するなんて教えられたが、そこまでの知識は求めてねェと心底思わされた。そんなすっとぼけたナミが眠りについたのは、除夜の鐘が鳴り響いた直後だった筈。

 そんな事を思い出したのは、ナミがまだ陽も昇らない内に俺の腕の隙間から抜け出したからだ。何処へ行こうと言うのだろうか。

 蜜柑の世話にはまだ早い時間であり、宴の準備はだいたい終わっているからこんなに早く起きる必要は無い。それにも関わらず、1人で表へと出て行くナミの様子を見て仕方なく俺も起きると、ほぼ裸だった身体に適当にバスローブ等を纏い追い掛ける。

 ベランダ部分を超えてバルコニーの方へ移動したナミは、蜜柑畑を抜けて柵に手を掛けるその姿。乗り越えようとか、そんな愚かしい動きでは無いので暫し様子を見る事に決めれば、朝日が顔を覗かせ始めた。

 肌を突き刺すような寒さの中、その光に溶けそうな色合いのナミが熱心にそれを見つめる様は、さながら舞台の1幕のようだ。……使えそうなら、今度の舞台で取り入れてもいいな。

 そんな事を思いながら見詰めていれば聞こえて来たのは、ナミらしい言葉。甘い思考をそのまま音にしたと分かるもの。

 

 「あけましておめでとう。今年も1年、平和でありますように」

 「ナミ」

 

 俺の呼び掛けに反応して振り向いたナミは、俺の顔を見て泣きそうにその顔を歪める。怒ってねェから、帰って来いと腕を広げれば素直に飛び込んで来た。

 けれどもその身体は、恐ろしく冷たい。どうしたらこの短時間で、これ程冷える事ができるのだろうか。

 

 「寒かった……」

 「せめてもう少し羽織って来い。寝込むぞ」

 「うん、ありがとう」

 

 言葉と共に抱きしめてやったからか、笑うナミがそこにはいた。それでも、震える身体に触れていれば、俺の心は穏やかでは居られない。

 俺はもう二度と、大切だと、必要だと思う存在の誰も喪うつもり等無い。その為に得た力だ。

 金は力だ。金が無ければ全てを喪う。

 権力もまた力だ。だがこれは、金があれば手に入れられる力の1つの形でしかない。

 だから俺は金も、権力も、戦闘力も、全て手に入れた。金で変えられる所は全て、俺の都合に合わせて変えてきたんだ。

 もう二度と、後悔しない為に俺はこの地位についた。今更……喪ってたまるかよ。

 今ナミが震える理由が寒さだけならば、暖かい空間も、衣服も、何でも揃えてやる。ナミを助けるのに必要だと言うなら、それこそ金に糸目なんぞつけやしねェ。

 だから、俺の心の傷に触れてそっと癒すように、俺にもその心の傷を隠さないでくれ。ナミが望む事はなんでも叶えてやるから、俺の傍で笑っていろ。

 そんな願いが通じたのか、ナミは身体の震えが落ち着いて来ると静かに顔を上げた。その顔は明らかに笑ってはいたが……それは、作られた笑み。

 俺にそんな偽りに満ちた顔を向けんなとの言葉の代わりに、ナミを抱き上げ部屋に戻れば、抵抗する素振りさえ見せない。このまま部屋に閉じ込めて、意識のある間常に抱いててやろうかとも思っちまう。

 そんな俺の思考に気付かずに、部屋に入ってすぐに小さく笑うナミ。その姿に首を傾げれば、生意気にも楽しげな顔で〝ナイショ〟と唇を動かした。

 それにより俺は、これはお仕置されたいらしいと判断し、逃げられないように抱きしめてやる事にした。お仕置であるそれを受けて、ナミは嬉しそうに、幸せそうに笑うのでどうやらお仕置にはならなかった様子だがな。

 

 「もう、寒くないか」

 「うん、ありがとう」

 

 もう寒くは無い事が、俺と言う存在により寒くないのだと言う事が、言葉にされなくとも伝わる。そんなナミだからこそ、俺は……壊しそうで、怖くなるんだ。

 壊したくなんかないのに、壊す事しか知らない俺は、力加減も忘れてナミを強く抱きしめる。愛しい女に、震えながら縋り付く様は恐ろしく滑稽だとわかっていながら。

 入れ替わるように俺が震え出せば、ナミが慰めるように俺の腕にそっと手を添えてくれる。朝日が完全に登ってしまえばこうしても居られないのはわかっているが、今だけは甘やかな時間を堪能したい。

 

 「テゾーロ、大好き」

 「やり殺すぞ」

 「なんでそうなるの!?そもそも、元日はそういう事しちゃ駄目なのよ」

 「海賊にルール守れってのか?」

 

 俺の言葉にナミは笑う。本当に楽しそうに、心底可笑しいと言うように。

 その様子に俺も笑いそうになる。笑顔は、喜びは伝染するものなのだと、こうして俺はナミに教えられた。

 

 「テゾーロは、今は海賊じゃないんだから、ルール守ってね」

 「酷い女だ」

 「……嫌い?」

 

 突然不安そうに問われて、俺はそれに答える代わりに唇を塞いだ。嫌えるものなら、嫌っている。

 手のかかる、面倒な女だと心から思う。元々は利用しつくしてやるつもりだったと言うのに、使い捨てる筈だったというのに、今では俺の傍らで笑っていれば他には何も望めなくしておいて……不安になんぞなるんじゃねェ。

 俺を1人で受け止めるには小さく、弱く、儚い存在だ。だと言うのに恐ろしく強く、靭やかに俺を包み込む。

 

 「今年も俺の傍で、歌ってろ」

 「テゾーロ?」

 

 口付けの合間にそれだけ告げて、再び唇を塞いでやれば可愛らしい声が漏れ始める。その声を堪能しつつ、そっとベッドへ連れ込めば容赦無く股間を蹴り上げてくるので、仕方なく解放してやった。

 

 「今日はお風呂に入っちゃ行けない日だから、ヤダ!テゾーロの馬鹿っ」

 「……いつもと変わらずに、蜜柑の香りがしてるから安心していい」

 「やだっ!ベタベタになって、シャワーも使えないなんてどんな拷問よ。無理にしたら……」

 

 嫌いになぞなれないとわかっている上に、ナミは嘘でもそういう事は言わない。ならば何を言うのかと黙って様子を見ていれば、少し言葉を切ってプイッと顔を背けた状態で言い放つ。

 

 「本気で隠れて、そのうちコッソリと家出してやるんだからっ!!」

 「……悪かった。今日は何もしないから、大人しく俺の手が届く範囲にいろ」

 

 本気でナミが隠れれば、探し出すのは意外と難しい。その上、狙ってる大物は多いのだから妙な事はさせないのが安全策だろう。

 そう思い今日は我慢してやると告げれば、ホッとした様子を見せるが……明日は身動き取れなくなると何故理解できないのかと本気で思う。それでも、唇は拒む事を許さない。

 そうして再び唇を重ねようとした所で、ノックの必要が無いタナカが姿を見せればそちらも中断する事となる。タナカか金糸で作らせた和服を手に現れたのを見れば、そんな時間かと溜息を1つ。

 

 「あけましておめでとう。今年もよろしく頼むぞ、タナカさん」

 「テゾーロ様、あけましておめでとうございます。本年もしっかりとお仕えさせて頂きます。……奥様もお召しかえをなさってください」

 「タナカさん、あけましておめでとう。でも、私は部屋に残るんじゃないの?」

 

 部屋に残す訳があるかと俺とタナカが声を揃えれば、ナミは小首を傾げつつも着替えに向かう。そんな中で、ボソリと告げておいたのは他愛ない事だ。

 

 「客の居ない所では、名前で呼んでやってくれ。……寂しがる」

 「するるるるるる!かしこまりました、テゾーロ様」

 

 誰が悲しむのか。そんな事を告げる必要はなく、ただ俺も俺の大切な人達も、ナミの笑顔を守りたいと願っているだけだ。

 そうして幹部全員が金の和装となった状態で映像電伝虫を利用して挨拶を終えれば、そのまま各々好きにパーティを開始する。俺は挨拶も済んだからとナミを抱き寄せ、何か食わせてやろうと思ったのだ。

 だが……そこで呼んでも居ないナミの兄弟達が押し寄せるから、庇うように抱きしめる腕に力を込めた。何せナミ自身はこいつらに対し、無防備すぎるからな。

 隙をついてナミを奪おうとする奴等に対抗していた為に、映像電伝虫がそれをまだ放送している事などすっかり忘れていた俺が後に頭を抱えるのは、まだ誰も知らない未来の話。そんな俺とナミを庇おうとタナカとダイスが俺の傍を固めるから、妙にもさ苦しいがそんな文句を言う余裕は無い。

 そうして俺は、大切な人達に囲まれながら、Happy new year!!と言葉を紡ぐ。愛しい女を他の誰にも触れさせない為に強く抱き締めている。

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