ドラゴンさんとの関係性がどのようなものであるのかは、不明です。
偶然の遭遇(光源氏14)side
甲板が騒がしいのはいつもの事だが、その時は質が明らかに違った。コアラも何かを適当に摘みながら気にしている様子だったので、俺は仕方無く重い腰を上げる事となる。
何だかんだと喧嘩も多いが、それはその分……コアラが俺と近い存在だからだ。だからこそ、仕方ないかと立ち上がり甲板に出てみれば、異様な雰囲気に包まれている事に気付く。
「ドラゴンさん、何があったんですか?」
「あれを見ろ」
示されるままに海を見れば、明らかに何かから逃げている少女と、追っている見えない何かがある。助けるべきか判断に困っているのだと分かれば、ドラゴンさんと1緒になって様子を見る他ない。
その時追っていた側の姿が突然ハッキリと見えて、見えると同時にその巨大な船は沈み始めた。逃げていた少女は船を漕ぐのを辞めて、船の中で崩れ落ちるように座り込んでそれに視線を奪われている。
それを保護するようにドラゴンさんが指示を出したその瞬間、瓦礫の浮かび上がる中に少女が浮かんで来たのが見えて、そっちも保護するべきかと逡巡する。その時、小舟の少女が叫んだ。
「ナミ!?」
その声に反応するように顔を上げた少女は、樽の上で器用にバランスを取ると近くの木片を手に樽を漕ぎ始める。そして、少し漕ぐと動きを止めて、小舟にいる少女に声を掛けた。
「サイクロンが来てるから、ついてきて!その小舟だと沈むわよ!」
「いや……樽で移動しようとしてるアンタには、とやかく言われたくないわ」
小舟の少女の意見に甲板にいた大半が頷いたが、樽の少女は此方の存在に気付いていない様子で移動して行く。この船から見て3時の方角に進んでいるのが分かれば、どうしますかと数人がドラゴンさんに問い掛ける。
そんな中で俺は、その名前に妙な引っ掛かりを覚えていた。はじめて聞く筈の名前なのに、どうしてか気になる。
それには誰も気付かず、ドラゴンさんは少女について行ってみようと言うので、後を追う事になった。樽の少女の後を追い始めて数分後、本当にサイクロンが来て先程の船が沈んだ辺りを直撃したのを確認してしまう。
アレじゃ、誰も助からないかもな。そんな事を思いながらも、サイクロンの発生を予見していた樽の少女について先程とは少し違う形で気になり始める。
そもそもあの長い髪が妙に気になる。夢の中でよく出てくる、暖かい存在と似ていて……。
いや、あれは、俺の甘えから来る妄想の筈だろう。そういくら思っても、目の前を進む樽の少女の髪が俺から冷静さを奪う。
樽の少女は樽でこの偉大なる航路を移動して、地図にも載っていない無人島に到着して見せた。それから小舟の少女に、何かを話している。
「カリーナは、これからどうするの?私は少し休んだら帰るけど……あんまり無茶したらダメよ」
「それよりナミ、この怪我!」
慌てる少女に、樽の少女は優しく微笑む。怪我なんて無いとでも言うように、穏やかに。
「大丈夫よ。これくらい、慣れてるもの。それに見た目程大した事無いのよ?カリーナが無事で、本当に良かったわ。私は少し休むから、アンタは好きにしなさい。……縁があったら、また、会いましょ」
そう言って小舟の少女からは見えないだろう岩陰まで行くと、樽の少女は倒れて動かなくなった。小舟の少女は自らの使っていた小舟と、樽の少女が去った方を何度も繰り返して見て、明らかに戸惑っている。
ドラゴンさんが両方保護しろと指示を出した事で、迷う事無く何人かが船を降りたが、小舟の少女は濃いメンバーに悲鳴を上げた。その悲鳴に反応して、意識を取り戻した樽の少女が、棒を杖替わりにして立ち上がろうとしているのをやはり濃いメンバーが抱えて連れて来た。
「……カリーナに、手を、出さないで」
「ナミ!喋らないで、その怪我!やっぱり私のせいで!」
「馬鹿ね、カリーナは悪くないわ。気にしないでいいから、交渉は私がやるからアンタは大人し、く……」
「先に治療をさせて貰いたい。危害を加えるつもりは無いから、大人しく治療を受けてくれ。話はそれからだ」
思わず割って入れば樽の少女、ナミと呼ばれていた方が俺に視線を向けて来た。そして、囁くような声でサボ?と問い掛けてくる。
「サボ君を知ってるの?」
コアラが問い掛けると、ナミと呼ばれる少女は成程と呟いて、頭を下げた。お世話になりますと。
警戒心剥き出しだったそれまでとは1転して、大人しく治療を受けつつカリーナと呼ばれている少女を気にかけ続けるその姿に、姉妹なのかと俺達は勘違いしていた程だ。それが赤の他人だと知るのには、少しばかりの時間を要した。
保護してから数日後、身動きは取れない様子だが会話はできるようになったと思われる少女達と、俺とコアラは話をする事になった。歳が近いだろうという事で、俺とコアラの意見は無視して、ドラゴンさんに連れられて同席する事となったからだ。
ドアを開けると、そこで静かに頭を下げている髪の長い少女がいた。それに対してドラゴンさんは、大人しく寝ていてほしい所なんだがなと苦笑する。
「……お助け頂き、ありがとうございました。私はナミ。東の海にて、友人が攫われそうになった所を助けようとして共に捕まりました。つきましては、友人の事は友人の意志に任せたいと思いますが、私の事は適当な所で下ろして頂きたく存じます」
「その怪我で、船を降りるって?死にたいのか」
思わず問い掛けると、困ったような顔でナミは俺を見た。何処か愛しげに見て来るその眼差しに、覚えがあるような気がして、分からない事が妙な不快感を呼ぶ。
「……早く帰らなければ、ならないのです。ですが、私以外が船で近付くと警戒心剥き出しの人達によって船を沈められてしまいますので、どうか……」
「……その肩の刺青と、何か関係があるのか?」
「革命軍の皆様方とは、関わりの無い話です。気になさらず、どうか私の事はお忘れください。ただ、1つだけ」
「なんだ?」
ドラゴンさんが不思議そうにナミに問掛けると、穏やかに微笑みを浮かべたナミが、もう1度〝命を助けて下さり、ありがとうございました〟と口にした。それは自分の命に対してでは無いと何故か分かり、何を言っているのかと思った時、コアラが口を開いた。
「……やっぱり、サボくんの事知ってるんだね。ナミちゃん、だったよね、教えて!それを聞かなかったら、私は貴女を下ろせない!」
コアラの言葉にナミは困ったように顔を歪めて、細く息を吐き出した。それからドラゴンさんを真っ直ぐに見て、口を動かす。
「……サボは、ルフィを含めた3人であの国に居ました。義兄弟として。サボの〝事故〟があった時は、既に私はあの国を離れておりましたが」
「……それだと関係性が見えないな」
「私は、3人を弟のように思っておりましたが、兄弟盃を交わした訳で無し。単なる幼馴染に過ぎません」
「……助けは、本当に不要か?」
ドラゴンさん相手に、淀みなく受け答えをする姿は圧巻の1言に尽きる。だが、ドラゴンさんからの問いに、その時ナミは僅かな戸惑いを見せた。
「……巻き込みたく、無いのです。どうか、ご理解くださ「私達革命軍は、慟哭を上げて苦しんでる人を見殺しには出来ないよ。ねェ、教えて。私達そんなに弱くないよ。世界と戦う為に私達は居るんだもん。守る為に、変える為には力が必要なの。だから、独りになっちゃ駄目」」
コアラが言葉を遮って声を音にすると、ナミは静かに肩を震わせた。その瞳は渇いているのに、何故か泣いているように見えて……。
「ナミ……なんの為に金集めてんの?助けてくれるって言ってんだから、助けて貰いなよ。どうして助けてくれるのに、助けさせてくれないのよ……」
「カリーナ……」
「私、ナミのそういう所嫌い!今回の事だって、全部私のせいなのに……どうして……」
「カリーナ……大丈夫よ。私は「慣れてるって事は、助けてもらわなきゃならない状態だって事よね!大切な人が、傷付いてるのを見てるだけって、何も出来ないってつらいんだよ!」」
カリーナの言葉にナミは息を飲み、ごめんねと謝った。その時、俺は頭が割れるような痛みでその場に膝を付く。
痛みのあまりに吐き気までしてくるのに、その原因も何もわからない。その時、慣れてない筈なのに、よく知ってるような温もりが俺を包んだ。
「ゆっくり、息を吐いて。無理に吸おうとしないで、ゆっくり、息を吐き出す事に意識を集中して、大丈夫だからね」
穏やかな声が、聞こえる。安定的な心音が、聞こえてくる。
心音とその声に耳を傾けながら息を吐く事に意識を集中していたら、いつの間にか頭痛も楽になっていて……同時に思い出した。今自分を甘やかしてるコレが何なのか。
「ナミ……」
「どうしたの?」
「全部吐け」
「は?」
「何を抱えてんだかって、ずっと思ってたんだ。昔は無かったよな、そんな
俺の剣幕に押されてか、別な理由かは知らないがナミは困ったように笑いながら、巻き込みたくないのに、大きくなったら少し横暴になったわねなんて言いながら話してくれた。その会話の途中、カリーナは忽然とその姿を消した。
次に会ったら明るい笑顔見せてよねと書かれた手紙を残して。それを見たナミは、生きていてくれるなら、それだけで十分だわと優しく微笑んだ。
話を聞き終えた俺達は、迷う事無くコノミ諸島解放の為に動き出した。私も戦えるのにとほざく馬鹿は、コアラに言ってベッドに寝かせておくように計画して動きを封じておく。
昔から女子供に甘いナミだから、コアラにはきっと抵抗しないだろうと思ったのが大きな理由だ。まさか、その間にコアラと仲良くなって、コアラを甘やかしてるとは誰も想像して無かったが。
その時は誰もナミの年齢を聞かなかったし、俺の姉のような立場の人だと言われた事で俺より歳上だと認識されたのが多分、この結果を産んだ要因だろう。この時……甘くて強がりな〝姉〟はまだ14歳だったと言うのに。
アーロンパークと呼ばれる場所が崩壊して、ナミが自由になった時、俺は共に来てくれないかと声をかけた。戸惑い迷惑は掛けられないからと言うのを宥め透かして、嫌がるなら誘拐して行くと宣言して見れば、幼い子供を甘やかすように俺の頭を撫でた。
それからすぐに、ナミはドラゴンさんと話し合いをしたようで、数日後に革命軍にナミは保護される事となった。何故ナミが仲間ではなく〝保護〟される事になったのか、聞いておけば良かったと思うのはそれから半年程たってからの事だったが。
刺青を別な物へと変えて、けれどもやはり1度として涙を見せる事のないナミに、俺はもどかしいような気持ちを抱えている。弟に弱さなんて見せられないわよなんて笑うから、年齢的には妹だろうがと何度も言葉を飲み込む事になった。
保護される事となったナミの部屋は、本人がベッドと机と本棚、他は衣装ケースが1つで充分と言った為にそれしか無い部屋になった。時々楽器を貸してくれと言われるけれど、他は基本的に本当にその部屋の中にある物だけで生きている様子に、随分と困惑させられる。
それからすぐに、ナミが囚われていた理由を俺達は嫌という程に思い知る。天候を予測し、海図や地図を描かせれば天才の1言に尽きる上に、譜面も書いて居るのだ。
そして、いつ寝てるのかと言いたくなる程に、いつも何かを書き続けているナミ。時折ドラゴンさんが恐ろしく深く眠る睡眠薬を、無理矢理ナミに飲ませるのが心配だ。
だが、必要な事だと言うのもわかる為に、俺は何も言えないでいる。部屋から基本的に出ないナミの、もう1つの名を知ったのは、保護してから調度半年後の事だった。
今俺には仲間がいて、尊敬出来る人がいて、そして……優しい姉が傍に居る。弟と、片割れの事も思い出せた。
後残る問題は……暴力的な、仲間と呼ぶには少し何かが違う気がする時もある、コアラの件だけだろう。