予めご了承ください。
偶然の遭遇(光源氏14)side
それは、本当に奇跡のような日だったと俺は今でも思っている。コラさんの用事に付き合って
何となく目の前を通り過ぎる小船を見送った後で、その背後に違和感を感じて
俺が斬った事が原因だとするのならば、割れるのは2つの筈だ。1体何が起きている……?
流石に内心では動揺しているが、これから船長として生きて行くと決めている以上あまり無様な姿は晒せねェ。そんな事を思い、表向きだけ冷静さを保っていれば、直後に隠れていた間に船は既に沈み掛けていたらしいと判断できた。
その判断基準は船員の様子だが、それに1人納得する俺の横で、どうにかその船員達を助けられないかと模索するお人好しの気配を感じた。それに対して俺は、無意識でその背中に蹴りを放つ。
「……アレは明らかに悪人だ。放置しないと被害者を増やすぞ」
俺が顎で小船を示せば、コラさんは少ししょんぼりとした様子でそうだなと頷いた。それでもどうしてか、見捨てるのを嫌がる気配を感じてしまうが、このお人好しはある意味病的な所があるから仕方ねェかと諦める。
その船の残骸が浮き上がってくる場所を見ていれば、残骸に紛れて見覚えのある髪型が現れた。それには俺と同時にコラさんも視線をそこに集中させた程だから、俺の願望で見ている幻では無さそうだ。
まさかと思う。何しろアレから7年だ。
なのにあの頃よりも幼い姿をしている等、普通ならば考えられない。それでもどうしてか、ソレをナミでは無いと判断する事が出来ない。
即座にroomと言って能力を発動すると、樽に絡まっている少女を船に移動させる。樽ごと甲板に落ちた少女はその衝撃で転がり、そして血を吐いた。
それを見て駆け寄り抱き起こすと、幼い姿ではあるが明らかにナミもしくはその関係者だと分かるその姿。苦しそうな呼吸の中でその少女は俺を視界に捕らえ、その後コラさんに視線を向けると動きを止めた。
その視線の動きで、まさか本当にナミなのかと期待が膨れ上がる。そして暫し待てば、少女はゆっくりと唇を動かした。
「トラファルガー・ローと、ドンキホーテ・ロシナンテ……?何が、起きてる、の?」
驚愕に満ちたその声は、やはりあの頃よりも少し幼いもののナミと同じだ。その時蜜柑の香りがして、あの日の記憶が本人に無かったとしても、コレは間違いなくナミだと心が判断してしまった。
コラさんの恐らくは本名を呼んだであろう事と、手配書も無い俺の名を簡単に言い当てた事から見て間違いないと俺の感情が理性に呼び掛ける。だがそうなるとナミは何故俺達の名を知っているのかと、理性が待ったをかけてはいるが恐らく時間の問題だろう。
「……大人しくしていろ。今、治療する」
考えるのは後だとナミの状態を確認すれば、恐ろしい程の拷問を受けた跡が確認出来て、コラさんはその表情を怒りに染める。そして俺はそれに気付いていながら、黙って治療を開始した。
余計な事を考えれば、俺の方こそ怒りで暴走しちまいそうだ。女子供に手を上げる奴は、録なもんじゃねェ。
初めて俺の能力と関わった奴は必ず取り乱す。それなのに何故かナミは、全てを任せると言うかのように俺を警戒もせずにその身を任せている。
いくら気を楽にしろと言っても誰も聞き入れた事等無かったというのに、どうして……。そんな思考の中でも体はこういった処置には慣れている為なのか、勝手に治療を進める。
「……ナミだな」
「そうだけど、どうして私の名前を……?」
思わず問いかけた俺に、不思議そうな視線を向けるナミは本当に幼い。体つきから判断して、歳はまだ10代の半ばくらいだろうか。
「……俺も混乱している。7年前にお前に会った時は、お前は20歳前後に見えた。だが今のお前は……10代半ばか?」
問い掛ければ、ナミの意識が思考の波に飲み込まれたのが分かった。その表情は、真剣に俺を助けようと悪魔の実を手に入れる方法を考えていた時と酷似している。
それから治療を終えた俺にナミは真っ直ぐに視線を向けて、小さく頷く。そして動かすにはまだ苦痛がある筈なのに、それを感じさせないような自然な動作で体を起こすと静かに頭を下げた。
「助けて下さりありがとうございます。……今お話にあった、過去に〝未来の私〟に会ったと言う件ですが、当然乍現在の私には身に覚えはありません。そして恐らくはその未来は私には訪れません」
頭を下げたままそう言い切ったナミは、頭を上げて真剣な表情で俺を見てから、少し苦しそうにその瞳を揺らした。そして小さく、無理よ……頼めないと呟くと、その表情を絶望に染めた。
それからスクリと立ち上がると海を見て、小さく息を吐き出した。その直後俺に視線を向けて、船を3時の方角へと指示して来るから、咄嗟にそれに従う。
本来それに従う義理等ないのに、何故か従わなくてはならないと感じた。船を反らせて少しすると、今までいた辺りにサイクロンか発生したので驚きナミに視線を向ける。
すると、ナミは何故か切なそうにそのサイクロンを見つめていた。何がナミをこれ程までに、苦しめていると言うのか。
サイクロンと言う船乗りには予測出来ない恐怖を、1瞬で消し去ったと言うのに。……それは子供がするべき表情じゃねェよ、馬鹿野郎。
「ローさん……小船を頂けませんか?私、帰らないといけないんです。お礼はいつか必ずしますから」
突然のその言葉に、俺は巫山戯るなと思わず怒鳴る。漸く見つけたと言うのに、逃がしてたまるか!
いつかっていつだよ。また、残して消えるつもりなのか、あの日のように、今回はサイクロンから俺達を庇って、それだけの為に現れたかのように。
お前は妖精か何かなのかと叫びそうになり、無意識でナミの体を強く抱き締める。逃がすものかという想いを込めて。
それに対して痛みを感じたのかナミはつらそうに息を詰まらせるが、結局ナミは呻き声すらも出さない。弱味を見せればそこを攻撃されるとでも言わんばかりのその反応に、俺は嫌な予感がした。
咄嗟に包帯の巻かれていたナミの左肩を確認する為に服を剥ぎ取れば、そこには見覚えの無いマークが刻まれており、ここが大きな分岐点なのだと理解した。恐らくこのナミは、あの時のナミの過去の姿なのだろう。
そして今のナミは、誰かに囚われている。それから解放された後のナミが、何かの弾みで過去へ飛ばされその後どうなったのかは定かではない。
そして恐らくは、あの時のナミは今のナミとは少しズレた軸を生きたのだろう。俺達と再会しなかった軸か何かを……俺は、それでも俺は構わないと思えた。
互いに名前の他は何も知らない同士、1から始めればいい。どちらにしてもナミであるならば、俺に手放すなんて選択肢だけは無いのだから。
それからコラさんに視線を向けると、コラさんは自らの着ているコートをナミにかけた。それに何故か抵抗しないナミに対して、俺は多少不快な気持ちになりながら見据える。
「……帰りたい所を教えろ。全て解決してやる」
「今のローさんでは適わないわ。だから、言えない」
ナミの言葉を受けてコラさんが前に出ると、膝を折って視線を合わせた。その自然な動きは、明らかに海兵だった頃の名残だろう。
「……その戦略に俺も入れているか?必ず助けてみせるから、話してくれないか。俺達が過去に、未来のナミにより救われたお礼をさせて欲しい」
その言葉にナミは、私が助ける未来なんて無いかもしれないのにと呟いてから、向かって欲しい島の名前を答えた。船をそこに向けて動かしている間に、ナミはまるで他人事のように村に起きた事を語る。
それから俺達の名を知っていたのは、予知夢によるものが理由で、本来ならばナミが18歳の時に偶然シャボンディ諸島で会う予定だったのだと語る。それ以前に俺達に会う予定はない筈であったと。
ただし、その夢の通りならばコラさんは俺達の生きてきた過去で、未来のナミが現れたその時、ドフラミンゴに殺されている筈だったのだと言う。確かにあの時、ナミが居なければ俺もコラさんも生きて等居られる筈はねェなと、当時を思い出しちまった。
それから視線を俺の顔に向けると、ナミが俺にそっと手を伸ばして頬に触れてくる。何かを確かめるように触れた状態でゆっくりと、言葉が放たれた。
「珀鉛病は、治せたのね。良かった……もう、何の跡も残って無い」
その言葉に俺は泣きそうになり、幼い姿のナミを全力で抱き締めた。それをナミは受け入れて、大人しく抱き締めさせてくれる。
あの時のナミも
「……lemonって歌を、知ってるか?」
俺の突然の問い掛けにナミは少し考えるように瞳を閉ざして、小さく頷いてからあの時と変わらない歌声を俺の腕の中で響かせる。歌い終えたナミは、これかしら?なんて言って儚く笑った。
ここでナミの抱える問題に手を出せば恐らく、あの時俺を助けたナミにはならない。それでも構わないと俺は思えた。
本質は同じなら、あの時とは違う方がむしろ好都合。今度は俺の方が歳上だ。
身長も力も、戦闘能力も含めて全て俺の方が上なのだから片時も離れず常にナミを傍に居させて、全てから守ってみせる。後悔するような事は2度としたくない。
守られて腕の中で無意味に震えていた俺とは、もう違う。強大すぎる敵に何の関わりも無い子供を守る為だけに立ち向かい、見返りも求めなかった高潔なナミは、今幼い姿でも変わりなくここにいる。
村人からの感謝なんて求めて居ない。村人を騙して、嫌われて、それでも守ると決めているナミは、幼いのに美しい。
家族と大切な村人の為ならば、奴隷に身を落としても恥と思わないその気高さは、真似しようと思って出来るものではないだろう。俺は声を低くしてナミに声を掛ける。
「……過去に俺を助けてくれたナミとは違う事を理解した上で、助けてやる。ただし、その魚を倒し終えたら、俺の船に乗れ。俺は海賊になるが、そのクルーとしてナミが欲しい」
そんな俺を迷いのない瞳で見つめたナミは、小さく笑って頷いた。疑う事の無いその瞳が、俺の心を縛る。
「ええ、村を解放してくれたら何処までもついて行くわ。キャプテン」
それから紙を広げてナミは村の地図を描いて行く。その素早さと美しさに息を飲んだのは俺だけでは無いらしく、コラさんも声を失っている。
これでは狙われて当然だと思った俺は、おかしくない筈だ。それから何処に、何という村があるのかなどを追記して行く。
それを見せられれば、コラさんはドジなだけで頭は悪くないので即座に作戦を立て始めた。それからナミに得意な戦い方を確認するが、俺も分かっている。
この戦いにコラさんも俺も、ナミを参加させるつもりは無い。この怪我だ、動いている今がそもそもおかしい。
話し合いと能力の情報を確認し終えたところで、緊張の糸が切れたのかナミは倒れてそのまま意識を失っていた。船が島に近付くと、話にあった通りに魚人が確認に姿を見せる。
その時意識の無いナミを抱き抱える俺を見て、魚人は送ってくれたのかと問い掛けてくるから、こちらも世話になったから、その礼に連れて来ただけだと答えておく。それにより魚人は納得したのか姿を消して、コラさんの存在は隠し切れた。
元海軍の伝手でコラさんが〝昔馴染み〟に連絡してから始まったこの作戦は、恐ろしい程簡単に進み、無事にナミを解放する事が出来た。それからナミの肩から忌々しい刺青を消すと、代わりに入れて欲しいと言われたのは見覚えのあるマークだった。
家族を意味するその印を刻み、荷物を纏めたナミを貰い受ける。行ってくると言って笑うナミを見送る村人と、ナミの間に涙は無い。
開放されたとわかった時と、刺青を変え終えた時の2度幼い子供のように泣いたナミは、それ以降1切涙を見せる事は無かった。それから俺達に従うように
そこで俺の友人達に会うと迷う事無くベポに飛び付き、大喜びしたナミは幸せそうにベポを撫で回す。その姿は明らかに年相応なそれで、18歳か20歳になる頃には本当にあの時の女になるのかと少し疑わしくなった程だ。
だが、間違いないと言いきれる要素の方が多いので、俺は気長にナミに手を出しても大丈夫そうな程度まで育つのを待つ事を決める。それまでは邪魔者は全て排除して、俺だけを見るようにしておくだけで良いのだから。
あの時のナミは俺をローちゃんと呼んだが、今のナミはローさんと呼ぶ。それが違和感で、俺はちゃん付けでは呼ばれたくないというのもあり、呼び捨てをするように言ったがナミはそれを受けて何故か照れた様子を見せる。
「あの……ロー?って、呼んだら良いのかな?」
呼ばれてみてその衝撃に息を飲んだ。俺はロリコンだったのかと思う程、襲いたくなった自分に絶望しそうになる。
これは船を用意したら、俺の部屋で生活させなくてはと心に誓う。蛇の生殺しのような生活がこの日から数年間続く事になるとは、俺も想像していなかったのだが。
今回からこのシリーズを掲載して参ります。宜しくお願いします。