革命軍の活躍により、村を……いいえ、諸島や近海を救ってもらった。それの関係で私は、現在ルフィの父親であるドラゴンさんの元で航海士として働いている。
それはすぐ近くにルフィでは無いけど、やはり愛しい弟が居るからと言うのが大きな理由。もしサボが居なければ、助けられたとは言えどもこの場に私は居なかったと思う。
私も今年で16歳になった。戦いには向かないけど、航海士としては右に出るものは無いと言われている。
そういう意味でも、容姿的な意味でも、ナミちゃんには感謝している。同時に言い尽くせない程の罪悪感もあるけど……。
ベルメールさんをあの時死なせなかった事で、許して欲しいな。そんな事を心の片隅で思う。
何処へ行くにも、船での移動ならば必ず連れて行ってくれるドラゴンさんとサボに私は結局甘やかされてるのだと思う。それにより、私の夢はゆっくりと確実に実現に向かって進み始めている。
そんな私にはある日課と、困った事がある。日課なのは、可愛い弟と将来的に義妹になる筈の2人を眺めて、それを日記のように記している事だ。
変わり映えのない2人の会話は、もどかしくてもどかしくて……コアラちゃん鈍いなと、そして、サボ頑張れと心から思わされる。でも私がこの手の話をすると、皆からコアラよりお前のがヤバいよなんて言われるのだから不思議なものよね。
困った事は夜になると、コアラちゃんが突入してくる事にある。夜は誰にも邪魔されず執筆できる筈の時間で……まぁ、サボにバレると寝ろと怒られるのだけどそこは置いといて。
「ナミちゃん聞いてよー!サボ君がねー!」
……そう、この2人世にいう両片想いなのである。2人の相談をそれぞれ受ける私の身になって欲しい。
どちらも可愛いが、それならさっさとくっつけと心から思うのだ。そうは思うけど、ついその頭を撫でながら話を聞いてしまう所は、私のダメな所だろう。
「うんうん、サボの事を好きでいてくれてありがとう。あの子も言葉が足りないわよね」
「ちがァう!サボ君なんか、大っ嫌いなんだからー!何にも話聞いてくれないしー!」
そう言って泣くコアラちゃんが本当に可愛い。可愛いんだけど……サボもコアラちゃんが好きだから、そんなに嘆かないで欲しい。
「コアラちゃん、そんなに嫌いなら……私にしといたら?優しくするわよ?」
「……本気にしたくなるから、辞めて。サボ君ってば、酷いのよ。話聞かないし、勝手に動くし、問題起こしてばっかりで、なのに私が怒られるのよ!?」
「それは、三兄弟の共通項ね。困った事だわ」
「ナミちゃんはいいわよね、恋人は優しいんでしょ?」
……私に、恋人!?なんの話!?
「へ?恋人?」
「サボ君が言ってた。ナミちゃんには恋人がいるから、俺との事を疑う必要無いって……」
なぁる。サボめ、コアラちゃんに誤解されたくなくてそんな事を言ってたのか。
「恋人じゃなくて、私の片想いなのよ。絶対無理だって分かってる相手だから、見ていられるだけで良いって思ってるけどね」
……誰よ、それ。そんな相手居ないわ!
なんて思うけど、誰かに片想いしてる人の方が片想いしてる子は素直に話すからと思って口にする。まさかこれが、面倒な事態を引き起こすなんて事は少しも考えても見なかったけど。
「コアラちゃん、サボの事を本当に嫌い?」
問いかければコアラちゃんは首を静かに横に振るから、私は自然と笑顔になる。なら、ゆっくりでいいからちゃんと会話してみましょうって言って。
翌朝、ノックもなしにドアが開かれて寝てなかった私はサボに叱られる事になったけど、そこは割愛する。だって……いつもの事だし。
「ダブルデートって何だよ!?」
「ごめんね、サボ。お姉ちゃんサボの使ってる言語が理解できないよ」
「……ナミが言い出した訳じゃないのか?何が、どうなってんだよ……」
その場で崩れ落ちたサボの頭を撫でながら、のんびりとした気持ちで話を聞いてみれば、コアラちゃんとサボ、私と何故かドラゴンさんでお出かけしようって話になってるらしい。それも名目はダブルデートだと言うのだから困ってしまう。
何が困るって、ドラゴンさんクソ忙しいのよね。あれは既に、多忙なんて言葉で表現していいレベルを超えてるわ。
「ドラゴンさんにスケジュール確認してみるわ」
「ドラゴンさんは、楽しそうだから構わないって……」
「なら、諦めなさいよ。相手はルフィのお父さんよ。決めたのなら絶対やり通すわ」
互いに互いを見つめて、そうだねと頷き合う。相手はルフィの元祖なのだからと。
それから2人でドラゴンさんの元へ行くと、特に急ぎの案件も無いから明日はゆっくり4人で食事というのも悪くは無いと笑われてしまった。その結果、翌日4人で出掛けたのだけど、サボとコアラちゃんが少し離れた所からこちらを伺っていて、コアラちゃんがサボの腕にしがみついているのが確認出来る。
コアラちゃんは無意識でサボの腕に胸を押し付けてるけど、サボ大丈夫かなと少し心配になる。近くに居るからとドラゴンさんに視線を向ければ、刺青のせいで分かりにくいけど、確かに何処と無くルフィと似た雰囲気はあるのよねと笑えて来た。
そんな感じでドラゴンさんとコアラちゃん達を交互に見ていたら、成程なとドラゴンさんが1人納得する。それが不思議で首を傾げてしまう。
「何かありましたか?」
「コアラの勘違い暴走について納得していた。今、俺を見て誰かを思い出したな?」
「えぇ、ルフィの事を」
「さもありなん。それが理由で今回の騒動だ」
「へ?」
ドラゴンさんが言うには、コアラちゃんは私がドラゴンさんに片想いしているのだと思っているのだろうと言う。ルフィの母親が誰なのか、生きてるのか、そんな事さえ私は知らないと言うのに。
ドラゴンさんも昔からの仲間にさえ、プライベートについては1切口を割らないのだ。だから奥方がどうなってるのか分からない。
そんな相手と、どうこうなんて有り得ないじゃない。それにそんな事になったら、ルフィが私の息子になってしまうわ。
確かに可愛いし、愛しいけど、ルフィの母親になる自信はない。だからと思って苦笑すれば、ドラゴンさんが気軽な調子で手招いた。
「ドラゴンさん?」
「それで、ナミとしてはサボとコアラのあれをどうにかしたいという事でいいんだな?」
「……お暇なのですね」
「わかるか。まァ、実際双方の愚痴を聞かされるのも飽きてきたからな」
ドラゴンさん相手に、私にしてたのと同じ事してたのか。凄いな2人とも。
そんな事を思って笑えば、ドラゴンさんが優しい瞳をしている事に気付く。それから隣に立つよう言われて、その場に立つと少しじっとしてるように言われてしまう。
なんだろうと思っていたら、ドラゴンさんの顔が目の前に現れて、その直後後方から悲鳴が聞こえた。それによりこの悪戯っ子めとドラゴンさんを睨む。
位置と角度を考えれば、ドラゴンさんに私が突然キスされたように見えた事だろう。呆れて俯いた私は、恐らく羞恥により俯いてるとかって感じに見えてるだろう。
……ダメだわ、私ドラゴンさんを怒れない。どうしようも無く、楽しい……。
顔を上げてニヤリと笑えば、ドラゴンさんも同じような顔をしていた。それから思い出したように呟く。
「ナミがサボを、愛おしそうに見ていたのが諸悪の根源だ。諦めて付き合え」
「可愛い弟ですから、どうにもなりませんよ」
言いながら視線だけ2人に向けると、興奮してサボの首を絞めてるコアラちゃんがいて、サボに死ぬな!と内心でエールを送る。そんな私に向けて、同じようにサボ達に視線だけ向けてるドラゴンさんが言う。
「その愛おしそうな弟に向ける眼差しで俺を見ていれば、勘違いされても仕方ないだろう。普通は、俺を見てルフィを想ってるとは、考えない」
「あら、それはドラゴンさんが家族について1切語らないからでしょ?」
クスクスと笑えばコアラちゃんが動きを1瞬止めて、顔を赤くしてからサボの事を揺さぶる。そのうち揺さぶられっ子症候群にでもならないかなとサボの事が少し、心配になる勢いだ。
「サボ、大丈夫かしら?」
「慣れてるから、平気だろう」
「早くくっついてくれないかしら」
「本当にな……」
こんな事で無駄に見聞色の覇気を使う気にもなれず、ただ横目で様子を見守る。2人の声までは聞こえないけど、コアラちゃんは大興奮でサボは死にかけてる事は間違いない。
それに私はあらあらと思って笑うけど、顔はドラゴンさんの方を向いてる。だから、まるでドラゴンさんに笑いかけたように見えてるのだろう。
その直後、興奮してコアラちゃんがサボを押し倒したのが見えたけど、その後動きが止まった。何事かとそちらを見れば、少女漫画でお決まりの事故チューが発生していて……。
なんだろう、この甘酸っぱい感じ。どちらも動けなくなってるから、長いキスシーンとなってるのが見える。
「ドラゴンさん、この後どうなると思いますか?」
「コアラ次第だろう」
「そうですね」
泣いて逃げるか、攻撃するか、固まって放心するか。……どうなってもここはサボの行動次第でどうにかなりそうだと思えば、漸くくっ付くかと安心して笑う。
コアラちゃんは可愛いし、サボは愛しい。どちらにも幸せになって欲しいと思えばこそ、私もまた幸せな気持ちになる。
「そう言えば、最近小説は書いてないんだな」
「海図とか、医学書とかを優先して書いてますからね。絵を描くのって意外と時間かかるので、ついすぐ書ける小説は後回しになっちゃってます。……何か読みたいものでも?」
「ワノ国と似た雰囲気の小説があるだろう。老人が主人公の……」
「剣客ですね、あれの続きですか?」
「あァ、書けるなら書いて欲しい。楽しみにしている」
「ありがとうございます、作家冥利につきますわ」
そんな事を話しながら、混乱して泣き出したコアラちゃんを優しく抱き締めながら何かを言ったらしいサボを眺める。そのまま再び2人の顔が接近するのを確認して、視線を逸らす。
幸せになりなさいと心から願い、祈る。大切な人には、いつも笑っていて欲しい。
「ナミ」
「はい」
「帰るか」
「そうですね」
私とドラゴンさんは互いに笑い合う。可愛い弟と未来の妹が幸せそうで、それだけで穏やかな気持ちになれる。
ドラゴンさんも息子のように思ってるだろうサボの、嬉しそうな笑顔に満足そうだ。サボもコアラちゃんも、ずっとそうして幸せで居てねと心から思って、笑う。
そんな私の事もドラゴンさんは、優しい眼差しで見てくれるから、面倒見のいい人だなと小さく笑う。皆が笑うならそれが私の幸せなのだと、いくら言っても分かってくれない優しい弟と、本来賢いのに少し慌てんぼうの可愛い妹に幸多からん事を……。