五月蝿ェ……。何だこの騒ぎは、俺はここ数日寝てねェんだよと痛む頭を押さえつつ部屋を出れば、揃いの三角帽子を被った見慣れたメンバーが居て……思い出す。
あァ、そうだった。ナミが書いた作品の中にあった、イベントのクリスマスだ。
諸悪の根源ならぬ、情報の発信源は何処かと視線を巡らせれば、何処にも姿は見えない。通りがかりに何人かに声を掛けてみると、声を揃えてナミは部屋にいるけど会えるかは分からないと言う。
意味が分からずに部屋に向かえば、ナミの部屋から長い行列が出来ているのが分かった。そして、部屋の方へ近付くと何やらこのクリスマスについての話や仕事の話をしたい人が、列を成しているのだと気付く。
色々な意味でロスが多いなと思い、ナミがドラゴンさんの所に来る訪問者にと編み出した番号札制度を使えば良いだろうと、部屋に入って勝手に番号札を作って行く。それも偽造できないようにと、割符制度を合わせればいいなんて言い出したナミの案をそのまま採用する。
これは長方形の紙の両端に同じ数字を書いて、真ん中に何かの絵を描く事で成立する手法だ。そしてその絵が左右に多少でも良いから入るように、ビリッと切り裂くだけと言う手軽さ。
その半券を会う予定の人間が保持して、残りの半券を会いたい奴が持つ。絵がある紙を切る時に斜めになったり色々するので、紙の形が本物かを区別するのに役立つ。
それに加えて絵を描く事で、2重の合致が必要となるので偽造出来なくなるのだ。後は館内放送を使う。
「6~10の番号札をお持ちの方は、順番が近付いて参りましたので、準備をお願いします。尚次は6番の人ですので、部屋の前でお待ちください」
とでも流してやれば、並ばないで良い分ロスが減るのと、通行の妨げにならないのが利点だとナミは言っていた。この館内放送は緊急時に連絡をする為の道具をそのまま活用する事で、いざと言う時に故障してたなんて自体を防ぐのにも役立つ。
他の緊急対応が必要な人をそれなら優先できるのもあり、ドラゴンさんは便利だと言っていた。それも毎回紙を作らなくても、会った時に回収しておけば何度でも利用出来ると言う利点がある。
1日に会える人数を考えて札を作り、列を作られたら配布するようにすれば良いので手間も少ない。本当にこういう事ばかり長けてるよなとナミの提案に驚かされたが、ドラゴンさんは秘書として側に欲しいなと嘯いていた。
口ではそう言っていても、ドラゴンさんが実際どう思っているかは知らないがな。だが、あの人は口先だけの言葉を使う事は無いので、恐らくは本音だろう。
「ナミ、少し休めよ。今番号札作ったから、配って来てやるよ」
「さぼ……ありがとう」
名を呼ばれた瞬間、弱ってるなと思って、わかりやすく溜息を落とすと番号札を配るのを止めて部屋から顔を出す。そして列を作ってる奴らに声を掛けた。
「ナミ寝かせるから解散!弱り過ぎてる」
順番の近かったのから順に1瞬否定的な声が上がったが、このままではナミが持たないからとひと睨みで黙らせると、明日対応で問題無ければ番号札を配ると言う。それにより番号札を受け取り帰って行ったが、それさえも渡されなかった奴等は少し恨みがましい視線を送って寄こした。
だが……ナミが倒れて寝込んだら最低でも、10日は仕事させねェぞ?
内心でそんな事を思いつつ、またなと手を振ってやると何も意見が紡がれる事は無かった。だいたい今日はイベント当日だろうに、なんだってそんな日までこんなに人の世話ばっかりしてんだよと本気で思う。
俺が部屋に入った時対応していた相手が帰ると、ナミは珍しく自分からベッドに倒れ込み浅い呼吸を繰返す。その様子に今日はパーティになんか参加させずにここで休ませようと思うが、何もイベントらしい事をしなかったらもしかして悲しむだろうかと少し考える。
「ナミ、今日は大丈夫だから休んどけ。対応するのは明日にして貰った」
「さぼは、優しいね。ありがとう、しょーじき、たすかっ……た、わ」
そう言ってスゥっと眠りに落ちたナミを見て、ここ……革命軍に連れて来たのは間違いだっただろうかと少し思う。こんなにも疲弊させるつもりはなかった。
寧ろ穏やかに俺の恩人とかって枠でただ、保護してもらう予定だったのだ。……実際、表に出すのは危険すぎるが故に保護しているが、それを補って余りある内勤の激務をこなしている。
その時ノックの音が聞こえて、今日は対応させないと決めてドアを開けるとそこにはドラゴンさんがいた。驚き固まる俺に、ドラゴンさんは今ナミは居るかと聞いてくるので、中に入れるとナミの様子を見て眉間に皺を寄せた。
「……ナミ。倒れるまで働くなと、いつも言っているだろう」
「ごめんなさい。つい……」
「……眠れ。傍にはサボもいる。ナミを害するモノはない」
ドラゴンさんの言葉に小さく頷いたナミは、そのまま声をかけられた瞬間に目覚めたのだとは思えない程に素直に眠りに落ちて、静かな寝息を立て始めた。それに驚いてドラゴンさんに視線を向けると、ドラゴンさんが困ったような顔で俺を見た。
「ナミは、1人で眠ると悪夢を見て飛び起きる。だが、弱さを見せられないようでな。たまにこうして寝かせに来るが、いつも1人になると目覚めているようだな」
「……知りませんでした」
「さもありなん。弟とその恋人に頼れるような姉では無いだろう。だが今は、このまま部屋に残っていてやると良い。サボも疲れた顔をしている」
なんでもお見通しのドラゴンさんに少し気恥ずかしくなるが、それよりも……ナミを寝かせに来てるって、まさかコアラの言う通り2人はデキて……?
この2人の関係性が全くわからねェと思いながらも、出て行くドラゴンさんを見送る。それから、その流れで鍵を閉めると俺も部屋のソファで寝かせてもらう。
暫くの後ドアをノックする音で目覚めると、そっとドアを開けた。するとそこに居たのがコアラとドラゴンさんだと気付いて、2人を招き入れる。
「本当に2人共年頃で血の繋がりないのに、普通に姉と弟なんだね」
「何だ急に」
「2人ともただ、寝てただけだってすっごい普通に分かるから、驚いてるだけ」
そんな事を言いながら、少しホッとした顔をしているコアラに可愛いなと思う。そして、2人が持っているのがクリスマスの料理と酒だと分かれば成程と思って、準備を共に始める。
準備が出来てから起こしてやれば、ナミは4人だけのクリスマスパーティに驚き、そして、ありがとうと微笑んだ。本会場にはドラゴンさんも顔を1度出して、楽しむようにと声をかけるだけはかけたらしいが、誰も引き止めはしなかったらしい。
「後でこっそり全員の枕元に置いとこうと思ったのに、私が先にプレゼント貰った気分だわ」
「ナミちゃんは頑張りすぎなの!って全員の枕元?どういう事?」
「革命軍の本拠地で寝泊まりしてる人達、全員分のプレゼント用意したのよ。はい、これ、コアラちゃんに」
そう言って箱を手渡すナミに、待てコラと思ったのは俺だけではなかったらしくドラゴンさんも頭を抱えている。こうやって考えるとナミって凄ェよな。
その流れでドラゴンさんと俺にも箱を手渡してきて、開けると俺とコアラにはお揃いのゴーグルだった。サイズは違うが、デザインも何もかもが同じで、俺とコアラは顔を見合わせて少し赤くなる。
「帽子にでも装着しておいて。これからも仲良くね」
笑うナミは優しい顔をしていて、コアラはゴーグルを抱き締めて何故か何度も頷いている。そして、ドラゴンさんに視線を向ければフード付きのマントだったようで……満足そうに頷いていた。
「便利そうだな」
「そろそろ必要かなと思いまして。……行かれるのでしょう?」
「慧眼だな。……そのつもりだ」
「お気を付けて」
「1緒に来るか?ナミ1人くらいなら、どうにでもなる」
そんな会話が目の前で成されているが、待て待て、会話が見えねェよ。何の話だよ!
それなのにナミは宜しくお願いしますなんて微笑むから、聞き逃す。まさかそれがルフィの旅立ちを影から見守る為に、ローグタウンに向かう話をしていたなんて事は、随分先になるまで分からなかった。
だが今はとりあえず、働き過ぎな姉を労りつつ、不安を抱える恋人を慰めようと口を開く。
「Merry Christmas!これからも宜しくな」
3人が俺の言葉に笑いながら頷いて、Merry Christmasと返してくれる。今夜がクリスマスで聖なる夜だと言うのならば、どうか今夜だけは何事も起きないでくれと切に願う。
俺はいつもと変わらずに、愛しい恋人と、尊敬出来る上司と、優しい姉が少しでも、心穏やかに居られる事を願うだけだ。
Merry Christmas……全員分のクリスマスプレゼントを本当に用意していたお馬鹿な姉。俺達は自ら手伝いを申し出て4人のサンタが全てのプレゼントを配る事になった。
だが、ならば最後に、そのプレゼントを貰った全員から、何かを返される覚悟はしておけよ。……と、貰いっぱなしでは終われない俺達は少し遅くなるがと、計画を立て始める。
それぞれのクリスマスが、楽しく平和な日であった事を祈りつつ、今年のクリスマスは終わりなのだと舞い散る雪を眺めて小さく笑った。