先日大喧嘩したからと俺なりに気にしていて、とりあえず会話の為にとコックに頼んで蜜柑ゼリーを作ってもらって、ナミに差し入れようとドアをノックした。反応がないのはいつもの事なので、そっとドアを開けたら中には机に向かって座っているナミが居る。
応接セットの方にゼリーを置いて声をかけるが、ナミは集中しているのか反応が無い。無視するような性格じゃねェから、何か物思いに耽ってるのだろう。
ペンが動いてないから、脳内だけで何か考えているのだろうが……。それにしても、ここは落ち着く。
本とベッドと机しかないこの空間はいつも蜜柑の香りがして……そういやいつの頃からか、この応接セットも置かれてたな。用意されてからはこのソファで寝かせてもらう事も多かったからか、座ると少し眠くなる。
少しだけと思いながらソファに横になってみたら、ナミとは違う匂いを感じてん?と思う。そして、気付く。
これ、ドラゴンさんの匂いだ。よく、ここに座っているのだろうか。
そうでなくてどうしてナミの部屋のソファにドラゴンさんの匂いが……そう思った時、ドアを開けてドラゴンさんが入って来た。ソファに転がっている俺を見て、困ったような顔をしてみせる。
なんだろう?俺がいると、話しにくい事でもあるんだろうか。
「サボ、ナミの居場所に心当たりはあるか?」
「へ?」
「……成程。なら、迎えに行くか」
「ドラゴンさん、ナミならそこに……」
そう言いかけてまさかと気付く。見えているナミに手を伸ばせば、その姿が消えてその場にはナミ愛用の武器だけが残された。
あんの、馬鹿がァー!
「サボが騙されていたのか。やはりコレはいい技だな」
「感心してる場合ですか!?あの島がどれだけ危険か!!」
「ナミならば問題無いだろう。それに……何かあれば助けに行けばいい」
思い当たるのは、先日大喧嘩になった原因の島。それなのにドラゴンさんは分かってるとでも言いたげな様子で笑い、俺を宥めようとしてくる。
「ナミはアレでも1応は女です。見た目だけなら相当上玉です!何かあってからじゃ「ナミに手を出せば、生きているのが嫌になるような事になるだろう。それに、それを覚悟して居なければナミは動かん。たまには好きにさせるのも良いが、今はナミに用事がある。これから迎えに行くが、サボも共に来るか?」」
遮られて続いた言葉に、俺はどうしたらいいのか分からなくなる。なんか、凄ェ物騒な言葉が聞こえた気がしたんだけど、俺の聞き間違いか?
それに、今の短い言葉の中でナミって単語が何回出ただろう。本当にドラゴンさんとナミは、どんな関係なのか。
そうして向かった島で、暫く立ち尽くしていたドラゴンさんが突然迷いなく歩き始め、そしてラッピング店の前で足を止めた。するとその瞬間、優しい眼差しでその中で買い物している少女に視線を向けている。
儚げなお嬢さんが、楽しそうに買い物をしているのを見て、知り合いなのかと首を傾げる。動こうとしないドラゴンさんに視線を向ければ、ドラゴンさんが平然と言い放った。
「……アレがナミだ。変装の技術が少し上がったな」
待て待て待て!アレの何処がナミ何だよ!
歩き方、笑い方、そもそもの顔が別人じゃねェか!
そう思うが相手がドラゴンさんでは、言葉を口には出せない。それにしても、何で分かるんだドラゴンには。
店から出てきた儚げなお嬢さんが俺とドラゴンさんを見て顔色を変えた。そうかと思った直後に、素通りしようとしたのをドラゴンさんが捕らえればナミの声で、どうして分かるのよー!と叫ばれる。
それ迄は半信半疑だったが……凄ェ、本当にナミだった。ドラゴンさんは、何処で見分けたんだ?
帰りの船の中で、それがナミだとわかった俺がいくら叱ってもナミは聞いてすらいなくて、買った物を嬉しそうに抱き締めている。コイツは……!
部屋に戻ってからも叱り続けたが、本当に何も聞いていない様子でナミは平然としている。いい加減にしろよ……。
「ナミ!暫く部屋から出るな!」
「サボにそんな事命じられる謂れは無いわ。そもそも女の子には、男がいたら買いにくい物もあるのよ」
「ならせめて、戦えるコアラと行けよ!」
「嫌よ!コアラちゃんをあんな危険な島に、連れて行ける筈無いじゃない!」
「ナミ1人の方が危険だろうが!それに危険だと分かってて、武器置いてく馬鹿が何処に居るんだよ!?」
「ここにいるじゃない!見えないの!?それに、私1人ならどうにでもなるわよ!」
「ああ言えばこう言うジョーユーかお前は!」
「なんでサボがそのネタ知ってんの!?だいたい何かあっても私だけなら誰も困らな「ナミ、その先は流石に聞き流せない。だから、辞めなさい」」
ドラゴンさんがナミの言葉を遮り、それによりナミは口を閉ざす。そしてドラゴンさんは俺とナミを交互に見て、ナミに何かを耳打ちしてから書類を渡した。
「そんな訳だ。自室謹慎を言い渡す。その間暇だろうから仕事しておいてくれ」
「はぁい」
「サボもそれでいいな?」
「はい。すみません、お騒がせしました」
そうして俺達は解散した。その時にジョーユーはナミが書いた小説の中に出て来ただろうがと言えば、そういやあの事件を本にしたんだったと呟いたのでナミへの謎は深まるばかりだ。
あの事件って何だよと思いながらも、その日は引き下がった。だが結局翌日にはナミは自由に部屋を出ていて、ドラゴンさんに聞けば充分反省していたと言う。
……俺は今回の件で思い知った。ドラゴンさんは、ナミにだけ恐ろしく甘いんだって事を。
そんなナミはコアラと行動を共にしていて、コアラはナミに照れたような顔で笑う姿がよくあって、何してんだかなと思う。……ココ最近、コアラは俺に近付かねェしよ。
お前の恋人はナミじゃなくて、俺だろうが。そう思って、少しばかりいじけたような気持ちで過ごす日々が続いている。
そのせいか少し書類にミスが多くなり、ドラゴンさんに手直しした書類を提出したタイミングで呆れたような視線を向けられていると言う訳だ。それから視線をそらしたら、ドラゴンさんが笑った。
「サボもコアラ相手だと弱いな」
「……ドラゴンさんがナミに甘いのと、同じようなものですよ」
思わず言い返した俺にドラゴンさんはふっと優しく笑うと、そうかもしれないなと言って書類に視線を戻す。……待て待て、え、肯定した!?
本当に、どうなってんだ、この2人!
頭を抱えた俺の気持ちを知ってか知らずか、ドラゴンさんはその後何も反応をしてくれずただ仕事をしている。そんな頭の痛い日々を過ごして、数日が過ぎたある日の朝食時にナミが袋を食堂で回し始めた。
「1人1個ねー!バレンタインのチョコよ。全員義理なので、安心してね」
「「「「「この配り方で期待できるか!」」」」」
多くの声が重なり、それにナミはふふっと笑うと俺とドラゴンさんとコアラに視線を向けて、優しく笑う。それから、ゆっくりと唇を動かした。
「3人には後で個別に渡すから、あの回してるチョコは貰わないでね」
「私にもあるの!?」
「当然でしょ。コアラちゃんの分に1番時間かけたんだから!」
「ナミちゃん!」
「コアラちゃん!」
ヒシッと抱きしめ合う2人に、生暖かい視線が向けられるのは、この2人はいつもこんな感じたからだろう。ナミの言葉に従うように、後程コアラと共にナミの部屋に行くと、その直後にドラゴンさんも顔を見せた。
「あら、来てくれたの?持って行くつもりだったのに」
そう言って笑いながら、ナミは机に置いてある箱を手にした。箱は明らかに2つが似たような感じで、1つだけ様相が異なっている。
「はい、これがサボね。んで、こっちがコアラちゃんの分。それで、あの、ドラゴンさんのはこれです。……味は、悪くないと思うのですけど……」
「ありがとう、ナミ」
「いいえ、喜んで頂けたら、それだけで……」
少し照れたような顔でナミはドラゴンさんに微笑みかける。ドラゴンはそんなナミをそっと抱き寄せて、大切に食べると言う。
見ていていいのかと微妙な空気の中で視線をコアラに向けると、目の前のやり取りを気にする事無く箱を開けて中身を食べ始めている。……自由だな、お前。
そう思った直後、コアラがチョコの下に何かがあるのに気付き手に取ると、それは懐中時計のようでコアラは瞳を輝かせて蓋を開けて……固まった。そして、即座にそれを片付けると真っ赤な顔で、部屋を飛び出して行った。
ドラゴンさんとナミは気になるが、とりあえずコアラを追い掛けて行く。コアラは自室に飛び込むところで追い付くと、慌ててその肩を掴む。
すると振り向いたコアラが部屋に俺を誘う。それに従うと俺にもチョコの箱を開けるように言われて、開ければ中にはやはり懐中時計が入っていた。
それを見たコアラに促されて、それの蓋を開けると蓋の内側にコアラの笑ってる写真が入っているのが確認できる。楽しそうに笑うそれは、恐らく俺と話してる時のものだろう。
それを見て、恐らくコアラにも同じように俺の写真があるんだろうと思えば、確かに照れるかもなと思う。俺か?……勿論、使わせてもらう。
思い返してみれば、ナミは最近カメラ持って彷徨いてる日がちょくちょくあった。……まさか、1番時間掛けたって、俺の写真撮るのに時間掛けたって意味かよ!?
「サボ、くん」
「ん?」
「私、ナミちゃんに教えて貰いながら、チョコ作ったの。ナミちゃんが作ったのとは違う種類のチョコなんだけど、その、あの」
コアラを見れば手の甲まで真っ赤にしていて、その姿に喉が鳴る。本気でチョコよりもコアラが欲しい。
確信を持って言える。チョコよりもコアラの方が甘くて美味い。
「チョコとか、作った事無かったんじゃねェのか?」
「うん、はじめて、作ったから……その、あのね」
「ゆっくりでいい。話してくれ。コアラの話は、ちゃんと聞く」
「……それ、任務の報告でもそうしてくれると嬉しいな」
「コアラ、そのチョコ1つ、食べさせてくれ」
「本当に聞いてる!?」
怒りながらもコアラは俺の言葉に従うようにチョコを摘み、戸惑っている。だから口を開けて待っていればオズオズとチョコを口に入れてきた。
なので、その手首を掴み逃げられなくしてから指ごと食べてやる。その勢いのまま、指を舐めてやれば甘い声が聞こえた。
「ゃ……サボく!」
「ん?美味いな。もっと、喰わせてくれよ」
「もう、自分で食べてよ!」
「なら、自分で食べるとするか」
そう言って俺はコアラに手を伸ばす。自分で、好きなものを食べるとするか。
意味に気付いたらしいコアラが真っ赤になって空いている手をバタつかせるけど、辞めてやる事は出来そうにねェんだ。悪いなコアラ。
「可愛すぎるコアラが悪い。大人しく喰われろよ」
「サボくん……」
「優しく、出来そうに無いけど許してくれよ」
言いながらコアラにそっと口付ければ、コアラもその先は抵抗しない。大切に、慈しむから……俺だけを見ていてくれよ。
姉にさえ嫉妬するような俺だけど、それだけコアラには本気なんだ。だから今は甘いチョコよりも、愛しいコアラを堪能させてくれ。
Happy Valentine……愛しい人が腕の中にいて、幸せそうに笑っている。その他に何を望めと言うのかと、男は満足そうに笑うとベッドに最愛の人をそっと沈めた。