ホワイトデーと言う、バレンタインの逆バージョンの日があるらしい。バレンタインでは、まァ……色々な意味でいい思いをさせて貰って、同時に深まり過ぎた謎に微かな頭痛を感じている。
それにしてもコアラは、何なら喜ぶだろうか。貰ってばかりも居られねェよな。
ふと通りがかったナミの部屋の前で、俺は思わず足を止めた。だって、よ?
僅かに開いている隙間から見えるのは、ナミとドラゴンさんだ。窓に向かって立っているナミの後ろ姿と、それを微笑みながら見ているドラゴンさん。
その後ナミが箱の中から何かを摘みドラゴンさんに近付くとそれをドラゴンさんの口に押し当て、押し込んだのが見えた。……え、何してるのあいつ。
特別よなんて少し照れたように、同時にドラゴンさんを気遣うようにナミが瞳を揺らしながら微笑む。それに対してドラゴンさんも穏やかに微笑み返すから、なんかもう……見ちゃいけないものを見たような気分になった直後、ナミが妙な言葉を口にした。
「特別よ。私がノジコに貰ったマシュマロなんだから」
「有り難すぎて涙が出そうだ」
溜息混じりにドラゴンさんが言葉を返したが、それに少し共感する。そうか、それあの姉から貰ったのか。
嫌味を言うドラゴンさんとか珍しいなと思ったが、ナミはドヤ顔でそうでしょーなんて返している。なのにドラゴンさんはそれに優しく笑うから、親子みたいな関係性なのだろうかと思った。
けれどその直後、ナミが差し出した飲み物を手にしたドラゴンさんが、小さく笑い何かを囁いた。それにナミは嬉しそうに微笑むと、親子ではない何かを感じ取ってしまう。
コアラの好みとか聞こうと思ったが今は難しそうだし、これ以上はと思って背を向けた俺の後に続くようにしてドラゴンさんが部屋から出て来た。ドラゴンさんに微かに蜜柑の香りが着いてきていて、それなりに長い時間二人でいたのだとわかる。
「サボ、こんな所でどうした?」
「俺はこれから買い物に行こうかと思ってまして……ドラゴンさんこそ、どうしたんですか」
「ん?ナミに書類を届けに行ったんだが、そこで少し菓子と茶を貰ってな。……余りにも無防備な様子だったので、仕事を任せて出てきた所だ」
余りにも、無防備な様子だった……?
あれ?恋人とかじゃ、ねェのかな?
まさか、ドラゴンさんの片想い!?
「ドラゴンさ「俺も買い物に行こうと思っていた。船を出すが、同じ所で良ければ送って行こう」」
「あ、ありがとうございます!」
船に乗せてもらって共に移動している間も、他の会話は普通に出来るのにいざナミとの事を聞こうとすると、それを自然に躱される。だから俺は結局、ドラゴンさんとナミの関係性を聞く事が出来ないままに島へと到着した。
……にしても、本当になんならコアラは喜ぶんだ?
メリケンサックとかか?
いや、それは危険だろう。主に俺が。
「そう言えば聞いていなかったが、サボは何を買いに来たんだ?」
「俺は、コアラと……1応ナミにも、ホワイトデーに渡す物をと考えてるんですけど……ナミはどうでもいいとして、コアラがなァ」
「ふむ……良さそうな物はナミから贈られているからな。……装飾品でも贈ればいいんじゃないのか。恋人だろう」
「そうなんですけど、指輪は重いと思うんですよ。まだ。でも、そうなるとピアス開けてねェからイヤリングですよね」
「嗚呼……あれだけ動くと落とすか。ネックレスは首を絞めそうで怖いな」
「はい」
コアラはおっちょこちょいだ。どうしたもんかな。
服とか下着はそれを贈る意味の問題で少し、困る。うーんと唸った俺の横で、ドラゴンさんはガラスの瓶を手にしていた。
それは古めかしいガラス製の香水入れで、びんの蓋を開けておけば芳香剤としても使える系の物であるからか、インテリアとしても美しい物が多くある。でも、コアラは香水とか使わねェからな。
「これの色違いはあるか?」
「いくつかご用意はございます。サイズはこちらと同じで宜しいですか?」
「違うサイズも見せて欲しい」
どうやらドラゴンさんはそれを買うらしい。誰にあげるんだろう。
ナミにか?
でも、ナミも香水使わねェよな。そう思いながら見ていると、帽子の紐につける飾りが売られていて、これなら身に付けられるかと手を伸ばす。
魚をモチーフにした飾りを見て、他にも動物などの飾りがある事に気付く。……俺の攻撃技に因んで、竜は入れたいよな。
それと……コアラの恩人がタイの魚人だったから、鯛を入れて……コアラの飾りをその間に挟むか。そうして帽子が風で飛ばされたりしないようにする為の紐とその飾りを厳選した俺はそれを買ったが、俺のそれをラッピングして貰っている間にドラゴンさんも購入した物を包んでもらって居る様子だ。
そこそこのサイズの箱にそれらが詰め込まれているのを見て、何人かの分なのだろうかと少し考える。今なら、聞けるか?
「ドラゴンは、それ皆に?」
「いや、ナミの分とコアラの分だ」
「……香水瓶ですよね?」
俺の問い掛けにドラゴンさんは近くのカフェにでも行くかと言ってくれたので、どうやら答えてくれるらしいと分かり素直に頷いた。ラッピングされた箱を受取り、見えていたカフェのテラス席に座ると、なんと声を掛けていいか分からなくなる。
そんな俺の前でドラゴンさんはメニューを見ているが、突然ピクリと眉を動かした。かと思ったら店員を呼びジャスミンティー2つと珈琲、そしてオレンジのタルトケーキを2つ注文する。
勝手に俺の分まで頼むとかは無いだろう。それに、飲み物が余る。
何事かと思って顔を見たら、そっと視線が動きその先にはコアラに引き摺られて来た様子のナミと、好奇心旺盛な様子を隠せないコアラが見える。それにより、ドラゴンさんからの話は聞けないと悟る。
「だって、ナミちゃんは気にならないの!?」
「うん、気にならない。寧ろ仕事の話とかなら邪魔したら不味いと思うわ」
「でも、さっきのお店硝子とかの可愛い物扱ってる所だったし!」
「潜入捜査とか、最近の情報を仕入れるのに入る事もあると思うけど?」
「でも、もしかしたら浮気かも!?」
「……浮気?無いわよ。サボはコアラちゃんしか見えてないもの」
その瞬間コアラが湯だり、ドラゴンさんがとか……なんて核心をつくが相手はナミだった。そうだ、ナミなんだよな。
「ドラゴンさんが浮気?まぁ、息抜きは必要でしょ。……それに、ドラゴンさんならきっと誰も泣かせないで上手く纏めるから大丈夫よ。それより仕事が溜まってて大変なのよ、早く帰りましょ」
そんな会話が微かに聞こえて来て、コアラ可愛いと心から思う。と言うか、ナミお前は少し疑え、そして妬くくらいしろ。
仕事脳過ぎる姉に溜息を落とした時、ドラゴンさんが2人の方を向いて声を出した。その言葉に俺は、呼吸が止まるかと思う程の衝撃を受ける。
「コアラ、ケーキを頼んであるから出て来なさい。……ナミ」
そう、コアラにしか言葉を向けなかったのだ。ナミには、ただ、その名を呼んだだけ。
それなのにナミはほらなんてコアラを促してこちらに向かって来るから、この2人本気でどうなってんだよと思う。ナミはコアラを俺の隣に誘導して、自分は少し躊躇ってからドラゴンさんの隣に座った。
「ナミ」
「ふふ、ごめんなさい。コアラちゃんを1人で外に出すのが心配で」
「姿を隠してやるくらいは、しても良かっただろう」
「嫌よ。私、協力しないって言って着いてきたんだから」
そんな会話をしているのを眺めていたら、コアラが小さくなっていた。なので髪に着いている木の葉を取りながら、コソッと耳打ちする。
「コアラのせいで、ナミとドラゴンさんの関係聞きそびれたじゃねェか」
「え?まさかその為に!?ごめんなさァい!」
……コアラも興味があったらしく、本気で謝る様子を見せるから俺はそれに笑ってやる。それから飲み物とケーキはドラゴンさんが頼んでくれてるから、お礼はドラゴンさんになと告げておく。
にしても、葉がつきすぎだろ。何処にいたんだ。
髪を傷付けないように細かい枝もあるからと丁寧に取り除いていたら、コアラに不思議そうな顔で見られる。
「サボ君が優しく感じるのは、気の所為?」
「俺はコアラにはいつも優しい。ついでに言うなら、俺以外の生物がコアラの髪に触れてるのが気に入らねェ」
俺の言葉にコアラは赤くなると、そのまま俯く。そのお陰で、先程まで見えなかった木の葉に気付きそれも取ってやる。
その時視線を感じて顔をあげると、いつの間にか運ばれて来ていたケーキや飲み物を前にしてドラゴンさんとナミが似たような顔で俺達を見ている。それからコアラにナミが話し掛けた。
「このジャスミンティー、花が咲くタイプみたいだからゆっくり楽しみましょ」
それにコアラは何度も頷いて、無言を貫いた。そんな事があった数日後、ホワイトデー当日。
コアラとナミに近寄れない俺は途方に暮れていた。そして、思い知らされる。
近過ぎてよく分からなくなる事も多いし、コアラが世界1可愛いのは分かっている。だが、その為なのかコアラとナミはモテる。
彼氏がいても良いからと言わんばかりに、贈り物を頑張る男達。それに対して、簡単なチョコしかあげてないのにと困った様子で笑う2人に、鈍くて良かったと初めて思わされた。
だが、流石にナミのアレは相手が可哀想にも思えるがな。それに1応、フリーって事になってるもんな。
「あの、この花を貴女に!」
「スミレ?あら、ヒメスミレね。これ美味しいのよ」
「へ?」
「おひたし、和え物、汁物の飾りに入れても良いのよ。この近くで育てられたら新たな食材になるわね。増やせるか試してみるわ」
……違う。絶対意味が違う!
誰も革命軍の食糧事情改善に役立てて欲しいと願って、花を贈ったりはしねェと思うぞ!?
落ち込みながらも、喜んで貰えたならなんて言っているのを聞けば、涙が零れそうになるがその横ではコアラがその花食べられるの?なんて無邪気に聞いている。……悪魔かお前ら。
そうして人が減らないでいる所に、ドラゴンさんが顔を出せば簡単に解決した。何も躊躇わずに、声を掛けるドラゴンさんって凄ェよな。
「ナミ、コアラ、来なさい」
「「はい」」
「だが……先に部屋にそれを置いて来なさい。落としても悪いだろう」
ドラゴンさんの言葉に素直に頷く2人を見て、俺は先にドラゴンさんの元へ向かう。そんな俺にまだ渡してなかったのかと不思議そうに言うドラゴンさんに、あの中を分け入って渡せるかよと本気で思っちまう。
だが、こういう所はルフィの父親だよなと思えば納得出来る。にしても、ナミが言うから知ったけど、ルフィの父親だってナミはなんで知ってたんだろうか。
それに悪気はないんだよな、この人。自分なら余裕で渡せるからとか、そんな理由なんだ。
その時2人が部屋に入って来て、ドラゴンさんは2人に箱を渡す。明らかにナミの方が大きいが、2人はそれをその場で開けて中身を見て驚きつつも礼を言う。
「綺麗。可愛い!何入れようかな!」
コアラはそれが何だか分かってないらしく、可愛い瓶として扱う。確かにそれなら使い道あるよな。
「ありがとうございます。蜜柑で精油作ろうと思っていたので助かります」
「その資料を見たから、渡してみた。3色を2本ずつだから用途に合わせて使い分けるといい」
「こんなに可愛い物で保管できるなんて嬉しい」
「……蜜柑に関しては、それくらいしても良いだろう」
そう言ってドラゴンさんはナミに優しく笑いかけて、ナミはもう1度ありがとうございますなんて言っているのを見ながら、俺も2人に物を渡す。コアラには丁寧にラッピングしてあるが、ナミのは簡易的な紙袋に入れてあるので、ナミがわかり易いわねと笑った。
「ありがとう。チャームね」
「あァ……〝ドラゴンさんとナミ〟のイメージで竜と蜜柑にしておいた」
「可愛いわ。部屋の鍵に付けとくわね」
動揺のひとつも見られないナミに、謎が深まる。対してコアラは中身を見てプスプスと言いそうな程に赤くなっていて……よし、部屋に連れ帰ろうと決意を固めた。
だって、これ、食べ頃だろ。据え膳ってやつだろ。
この後コアラがこの帽子止めを使っている姿を見かけず落ち込む事になるとは知らず、俺はドラゴンさん達に挨拶しつつ部屋へと戻る。珍しく大人しくしているコアラに、今回は優しくしてやると言ってはみたが、さて……優しくできるだろうかと自分でも疑問に思っていた。
ホワイトデーに相手が喜ぶお返しを、それでも普段が近すぎるからか何処が日常と異なるのか男には既に分からない。それでも愛しい温もりが腕に居てくれるなら、それ以上は何も望んで等居ないのだ。
これで光源氏シリーズは一旦移動完了ですが、この後載せてる間に増えた作品を差し込んだりというのを始めさせて頂きます。
これからもよろしくお願いします。