書類の山が入口を塞いでいる。道すら存在しないそれは、確かにドラゴンさんとナミがいる筈の執務室だ。
ここまで紙に埋もれているのは中々に珍しいと思いながら見ていたら、邪魔だと言われて避けると入口を塞いでいた書類が消えた。
……成程な。この入口に積んであるのは終わってる仕事か。
ならばと終わってるそれを廊下に出して道を作ると、中で埋もれてるだろう2人を助けに入る。正直、ドラゴンさんは平気だろうと思うんだけどな。
問題は息抜きをしない馬鹿な姉だ。そう思って部屋に入ろうとした時、突然掴まれた肩に驚き振り向けばコアラが青ざめた顔で中を見ていた。
微かに震えるその指先が、妙に冷たい。緊張しているのが、それだけで伝わって来る。
だからこそ、可能な限り優しく声を出す。今萎縮させたらまずい。
「どうした?」
「もう、3日……私、ナミちゃんを見てないのよ」
その手の震えが、その期間飲食は勿論睡眠もとっていないだろう現実を危惧しているのが分かる。重ねて言うが、ドラゴンさんは大丈夫だ。
10日位なら飲食も睡眠も無くて問題無いし、何より上手く手を抜いて勝手に寝てるだろうから。だが……ナミは!!
そう思って耐えられなくなった俺が中に入れば、書類と向き合うナミが居る。しかしよく見れば、ナミの焦点が既に定まっていない。
隣にいるドラゴンさんは平常運転だ。寧ろ絶好調に見えるのはこの際置いておこう。
「ナミ!!」
「ナミちゃん!!」
「……2人共、俺の事も心配してみる気はないか?」
「「ありませんよ!!」」
俺とコアラの声が揃えば、苦笑するドラゴンさんだが直後にナミが椅子から転がり落ちれば慌てた顔に変わる。何故そうなったのか分からないって顔してるので、3日こうしていた筈だと伝えれば分かりやすく顔を歪めた。
「悪い事をしたな。……このまま今日は1日休ませてやってくれ。俺はこれを終えてしまうから」
そんな言葉を受けて俺とコアラはナミを書類の中から救出して、部屋へと運び込んだ。かく言う今は、戦争屋と呼ばれる奴のアジトを殲滅して来た帰りであり、その為の書類仕事なのだが……。
「なんで、ナミとドラゴンさんはいつも2人だけで革命軍全体の書類を半分以上終えちまうんだよ……」
「ドラゴンさんはいいの。もうどうにもならないから。でも、ナミちゃんはいつもならもう少し余裕ある感じなのに……」
コアラの言葉に、そういや俺が色々やらかしてその関係で書類が増えたのだと思い出す。俺はそれの為に始末書的な物を書かされていて、ナミの体調管理が出来なかった上に、1切手伝えず、それどころか仕事を増やした事になる。
これがコアラにバレたら不味いなと思い、俺は次の戦いに備えた武器の確認に行くと言ってその場を離れた。そうしてその日の夜、意識を取り戻したナミがコアラに全てを打ち明けてくれたおかげで、俺はコアラから問答無用で首を締め上げられている。
「く……る……ぃ……!!」
「絞めてるもの」
「ぎぶ、ぎぶ……!!」
苦しむ俺に慌てるのはナミだけだ。ドラゴンさんも穏やかに微笑んでいる。
って、アンタも大元の原因の1人だろ!?
助けてくれないドラゴンさんに、少し恨みに近いそれを思う。まぁ、今のコアラにそれを判断しろっても無理かも知れないが。
「コアラちゃん、サボの顔色悪くなってるから辞めてあげて」
「……たまには良い薬よ。ナミちゃんはサボ君に甘過ぎるわ!!それに、ドラゴンさんも!!どうして自分だけ寝たり食事したりして、ナミちゃんにはさせなかったんですか!?」
「……声はかけたが?」
ドラゴンさんが答えると、漸く俺は開放されるが呼吸がまだ落ち着かない。畜生、コアラの奴、覚えてろよ……。
「その程度じゃ無駄なのわかり切ってるでしょ!?ドラゴンさんもサボ君も、メッ!!」
「「……はい」」
叱り方に物申したいが、とりあえず大人しく頷いておくと、ナミからお詫びとしてなら買物に行かせてと言われて、その願いに仕方ないなと進路を変更したドラゴンさん。恐らくドラゴンさんも気にはしていたのだろう。
そうして買物へ向かったナミを見送り、俺はコアラに1緒に行かなくて良かったのかと問い掛けると、1人の時間が欲しいと言われたのだと言う。少し寂しそうにしてる様子に、だが多分ナミは俺とコアラの時間を作ってくれたのだろうと気付く。
「なら、俺達も2人で島に向かうか?」
「いいの?」
「あァ、たまには2人で島の中をデー「よし!変装してナミちゃんを追い掛けるわよ!!」ト……」
何故そうなる。俺よりお前はナミなのか!?
そんな事を思いながらも付き合う俺の弱さ。そんな俺の腕を掴んで、コアラは楽しそうにナミを追いかけ回し、ナミが休まずに買い物を続ける姿に途中でバテ始めたので、飯にしようと誘って何とか妙な探偵ごっこを終える事ができた。
その後帰り着いたタイミングはほぼ同じで、ナミが船に届けていた食材を元に季節の行事があるのだと説明すれば、近くにある島での豆の採取も行いたいとの話になった。そうして船を動かして、獣を狩り肉へと変えてから揃って太巻きを楽しんでいたその時、攻めてきた敵に突如臨戦態勢となる。
そんな時、仲間の1人が季節イベントだからといって配ったのは、太巻きや豆の形をした爆弾で、どうやら今日の為に考えて作っていたらしいそれに笑いながら、敵にそれらを投げ付ける事になる。なにせ、良いタイミングでの〝鬼〟役だ。
大いに役立って貰わないとな。そう思って俺は、豆の形をしたそれを振りかぶる。
「鬼はー外!!福はー内!!」
そうして投げられた太巻き……このイベントの時だけ恵方巻きと言うそれと、豆の形をした爆弾が敵の船へと向かい爆発を繰り返す。それにより周りも同じように掛け声をしながら豆と恵方巻きを投げていたら、なんか違う!!と叫ぶナミとコアラに空気が弛緩する。
「豆まきだから、恵方巻き投げちゃダメよ!!」
「コアラちゃん、そうじゃない!!無病息災を祈る為のイベントなのに、どうして怪我人出してるのよ!?それにね、魔を滅するから豆である必要があるのよ?」
「……敵だし、攻撃してきたのあっちよ?それに、ちょうどいい感じで鬼みたいな顔してるわ!」
何とも無礼な発言をするコアラに、だが皆笑い出す。そんな2人に敵が仕掛ける攻撃は、さりげなくドラゴンさんが対応して怪我をさせないようにしているのだからさすがだと思う。
それにしても、いつもは守らないのにと考えて、今はコアラの真横にナミがいると気付く。それにより、本当にドラゴンさんとナミはどんな関係性なのかと頭を抱えちまったのも無理の無い話だろう。
どうやら今年も俺達は、無病息災でいられそうだ。そう言って笑い合う仲間に俺もまた、自然と笑っていた。