ニュースクーが飛んで来るのが見えて表に出たのに、何故か俺を素通りする。なんだろうかと考えて、直後に気付く。
あァ、ナミの所か。そう思って新聞欲しさにナミの部屋に向かうと僅かに開いた隙間から見えたのは、ドラゴンさんに飛び付くナミの姿。
泣きそうな顔で、甘えるように擦り寄るその姿に俺は驚きから動きを止め、呼吸さえ忘れそうになる。それは、普通に動けたとしても声をかけられる雰囲気では無い。
ドラゴンさんが常になく優しい声を出す。それにより俺は、口から心臓が飛び出しそうな程の衝撃を受ける。
「どうした?歌声も、切なそうだったが」
「なんでも、ないんです。ごめんなさい」
「……話してみなさい。ナミにとって他愛無い事でも、他からは重要な事もある」
「海賊一番くじが当たったの。重箱に卵焼きとか詰めて、お花見とかどうかしら?……でも、難しいわよね」
その言葉の返事を聞くより早く俺の腕を掴む温もりに、意識が持って行かれる。どうやらコアラも、現状把握が出来なくなっているらしい。
真っ赤な顔で俺と室内を見比べて、オロオロしてる姿が愛しい。このまま部屋に連れ帰って貪っちまいたい。
「何してるんだ、そんな所で。人の邪魔になるから入りなさい」
俺がコアラに飛び付く寸前で耳に届いた声に、内心で泣きながら俺はそれに従った。室内に入るとナミがコアラを手招きして何かの相談を始めるから、俺はドラゴンさんに視線を向ける。
……二人の関係性を教えてください。そう言ったら、叶えてくれるだろうか。
気になり過ぎて、他に意識が向かわない。その位には気になるそれにより口を開こうとしたら、ドラゴンさんが言う。
「サボ、南の海からの報告だが……聞いたか」
「はい、その件につきましては……」
だが、真剣な話をされてしまえばそんな浮ついた言葉を口に出す余裕は無く、ドラゴンさんの作戦を受けてそれならと別な案をいくつか出しては2人で頭を悩ませる。その間ナミとコアラも同じ部屋で別な事を話し合っている様子で、そちらも真剣な顔をしている。
双方の話が纏まったのはどうやらほぼ同時だったようで、揃って食堂へと向かい、ナミとコアラは厨房の人間と楽しそうに会話を始めた。この場所であの二人の組み合わせを嫌がる奴なんて1人もいやしないのたから、当然だろうとも思うが。
「……サボ、この件は明日片付けるぞ。その代わり、その後2日間は休日にして良い」
「え!?本当、ですか?」
思わず声を上げた俺を見てドラゴンさんは頷いた。確かに、ナミも休ませないと不味いよな。
ただなァ……と思ったのは俺だけではないらしい。同じ事を考えたらしいドラゴンさんが、苦笑混じりに言う。
「俺も少し休もうと思っている。ついでだからナミも休ませようと思うが、それだとコアラも休みにした方が良いだろうな」
「……4人で出かけたいとか、言いそうですね」
「付き合ってやれ。コアラがそんな事を言う相手は、限られているのだからな」
ドラゴンさんの言葉に頷くと、当然のように頭を撫でられた。本当にこの人の中で、俺はまだまだ子供なんだとこんな時に痛感させられる。
そうして超特急でやるべき事を終えた俺は、その日部屋に帰り深く深く眠った。その翌朝、当然のように俺を揺り動かし強制的に眠りから呼び起こすコアラに、もう少し寝かせてくれと願う。
「あと……いちじかん……」
「普通そこはあと5分でしょ!?」
「なら……あと、さんじかん……」
「伸ばすなー!」
そんな訳で叩き起された俺は、コアラに風呂へと押し込まれる事となった。風呂を終えて部屋に戻ろうとした俺は、そのままコアラとナミに片腕ずつ絡め取られて強制連行される。
こうなった2人から逃れる術を俺は持たない。そんな俺にナミとコアラは可笑しそうに笑い、船に押し込むとそうそうにそれを出向させた。
何がしたいんだかなと思いながら2人を眺めていたら、どうやら同じように巻き込まれたらしい被害者を見付けて声を掛けた。それには流石にドラゴンさんも困り顔だ。
「ドラゴンさんも居たんですね」
「先に押し込まれたのは俺だからな。逃げられないように縛られている徹底ぶりだ」
「敵に回したくないですね」
「まったくだ」
互いに笑い合うと、何かを楽しそうに企む二人の姿に自然と視線が向く。そして俺は、どちらも違う形で愛しくて、だからこそ永遠に勝てないだろう事を自覚させられた。
ただ、ドラゴンさんを縛ってた謎の紐については2人が黙秘権を施行したので、提供者や制作方法が不明なままだ。海楼石が使われてるのは、間違いない様子なんだがなァ。
船が泊められたのは島の外れだったが、歩き始めて少しすると見えて来た満開の桜に思わず動きを止めてしまう。そんな俺にコアラが笑う。
「サボ君!驚くのはまだ早い!こっちだよ!」
導かれるままに歩けば、少し小高くなっているその場所に案内され……その眼下に広がる景色に息を飲む。桜を見下ろし、そして上からも桜が舞い散るその場所は、確かに驚きの場所だろう。
その上、近くには何やら簡易的なキャンプセットがあり、鍋が火にかけられている。これは随分手が込んでるなと思いながら、そう言えば花見をしたいとナミがドラゴンさんと話していた事を思い出す。
「サボ君、座って座って!」
言われるままに用意されていたレジャーシートに座り、目の前に置かれた重箱を開くと中からはチャーシューやメンマが出て来る。……可笑しいだろ!?
そう思った直後に差し出されたのは、丼だ。なんだこれはと思いながら、中を見ればラーメンが入っていて……。
「サボ君がラーメン好きだから、ここで作って自分でトッピングして貰おうって事になったのよ!さァ沢山用意してきたから、食べて食べて!」
「ふふ、ドラゴンさんとコアラちゃんも食べてね」
その時俺達3人の声がナミも食えと重なれば、自然とその場は笑いに包まれる。そして花見しながらラーメンの食い放題に近い状態になった俺は、満足するまでそれを食べて行く。
そろそろ満足かなと思った時、ナミが何かを投げ寄こした。それを見ればスカーフで、確かに最近よれっとしてるなと思う事も増えてはいたが、今渡された理由が分からない。
「おめでとう!!!サボ君!!はいこれ、プレゼント!」
「え?」
「まさか、サボ本気で気付いていなかったのか。今日の日付を思い出せ」
「今日……3月……20日?あ!」
自分の誕生日だと気付いた俺が狼狽すれば、コアラが渡してくれた封筒が気になる。そっと開けてみると、中からはチケットと俺とコアラの帽子がモチーフだろうと思われるペンダントトップが出て来た。
「……私も、お揃いで用意したけど、無くしそうで怖いから栞にしようかなと思てるの」
そんな言葉を口にしたコアラが愛しくて、その細い身体を抱き寄せれば、甘い香りが漂って来た。それにより我慢なんて出来ない花より団子な俺は、ラーメンだけじゃ足りないとばかりにコアラをそっと抱きあげる。
「ドラゴンさん、ナミ、後片付けは任せた!」
「休みは2日間だ。無理はさせるな」
「勿論です!」
微笑みながら見送ってくれる2人に笑いながら返事をして、俺はコアラから受け取ったチケットの宿へと足を進める。花よりも簡単に俺を魅了する、愛しい女を胸に抱きしめたままで。