本来なら拠点から動くべきではない立場にあるドラゴンさんは、けれども突然ナミを連れて飛び出す事がある。確かに戦いはドラゴンさんがやり、航海術はナミに任せればこんなにも素晴らしいタッグはそう居ないだろう。
だが、それを認めるのは些かではなく嫌だ。そうして抗議をしたからなのか、現在俺は4人で仲良く船旅をしている。
ドラゴンさんを大人しくさせる手段は、何も無いのだろうか。……ないよな、ルフィの父親だもんな。
わかってはいても、どうにかならないかと考えて深い溜息を落としたらコアラがケラケラと笑うから、何がおかしいんだよとつい膨れちまう。そんな時、突然船が霧に包まれた。
不安そうにするコアラを抱き寄せた時、表に飛び出して来たナミが倒れそうになるのを見る。だが俺は今動けね……。
我が目を疑った。何処かから当然のように姿を見せたドラゴンさんがナミを支え、そのまま横抱きにして船内に連れ帰ったのだから。
……意識があるなら大丈夫だなと言って平然とその場に寝かせておくのが普通の人が、ナミにはこりゃまた随分と……。そう思っていたら、コアラが変な顔で俺を見詰めてきた。
「どうした?」
「なんか、ムズムズする。変な感じ……」
その言葉に、ドラゴンさんとナミの関係性についてかと問い掛けようとした瞬間に、コアラの頭上からピョコンと生えてきたうさ耳。それに俺が悲鳴を上げるのと、ナミの悲鳴が谺響したのは同時だった。
そうして俺はコアラを抱いて船内に戻り、同じようにうさ耳の生えたナミを見て混乱する。半泣きのナミがコアラを見て、コアラもまたナミを見て、そしてひしと抱き合う。
何かが通じ合ったらしい。変な所似てんだよな、この二人。
「こんな状態なのに、似合うとか可愛いとかしか言わない男達なんて放置して、2人で引き篭ろうね!!」
「うんう……待ってナミちゃん、ドラゴンさんがそれ言ったの?」
「え?そうだけど……?」
その瞬間コアラが妙な奇声を発して、ドラゴンさんは疲れたように肩を竦めて見せる。だがまァ、今回はコアラの気持ちがよく分かるなと思う。
自分がどれ程の爆弾を投下したか、それをわかっていないナミだけが首を傾げている。それを誤魔化す為なのかドラゴンさんが言う。
「特定海域で霧に包まれると、動物の耳や尾が生える。さして珍しくもなく、肉体に悪影響が出る事もない。数日で戻るから安心しなさい」
「それ、知ってたなら早く教えてよ。似合うとか言ってる場合?」
「正直な感想だったんだが……似合わない方が良かったか?」
「いえ、その、似合うと言われた事は、嬉しい……です」
突然始まった甘酸っぱい空気に、俺とコアラは顔を見合わせて、この2人は結局どういう関係性何だろうかと首を傾げる事となった。そんなこんなで、イースターイベントとやらをやる事になり、ドラゴンさんが卵を用意してくれた後用事を済ませてくると出掛けていくのを見送る。
イベントの準備としてナミとコアラが食材の仕込みをしたりして、仕上げを残すだけとなった時護衛として残された筈の俺にコアラが言った。それも、満面の笑みを浮かべて。
「はい、サボ君もお仕事だよ」
「……俺の仕事は、護衛だろ?」
「働かざる者食うべからず。サボ君は卵の殻にペイントしてね。中身は私が入れて渡すから」
俺にそれを拒否する権利なんてものは、存在し無かった。ナミはゆで卵にペイントして、コアラは卵の殻に何かを仕込んでからしっかりと口を締めると俺に寄越す。
それを俺がペイントして、カラフルな卵が大量に作られて行く。2人は楽しそうに笑っていて、本当に呑気だなと思いながらゆで卵のひとつに手を伸ばす。
それを勝手に割って食べればコアラが叫びながら殴って来て、ナミが可笑しそうに笑う。お腹空いた?なんて言いながらのそれに、同じ事しても彼女と姉だとこうも違うのかと半ば感心しちまった。
「後でドラゴンさんが帰ったら沢山食べるの出すから、大人しく準備手伝ってよ!サボ君の馬鹿ァ!!」
「1個くらい良いじゃねェか!こんなにあるんだから!!」
「後でそれも含めて卵探すゲームするの!!もう!この、食いしん坊!!」
俺を正しく理解してるコアラに、俺が1番食いたいのはコアラ兎なんだけどとその耳元で囁く。たったそれだけで、真っ赤になって殴りかかって来るからそれを捕まえて軽くキスをしてから解放してやる。
そんな俺達を微笑ましそうに眺めて、ナミは卵のペイントを続けて行く。少しは気にしてくれよと思うのは、俺も多少気恥ずかしかったからか。
それを誤魔化す為に卵を乾燥させておこうと甲板に並べていると、愚かにも集まってくる殺気。それにやっと護衛らしい事ができそうだ……と俺は軽く肩を回す。
そんな俺に気付かないで、呑気にゆで卵について話している二羽の兎に唇の端が少し上がる。だがまァ、お前達はそのままでいい。
凄惨な過去を乗り越えて得た今の生活なのだから、2人にはのんびり過ごして貰いたい。まァ俺としちゃ、なんでナミがコアラと仲良くできるのか甚だ疑問だがな。
魚人に助けられ、魚人はいい人達だと、犠牲者なのだと言うコアラ。そして、そんな彼らにより陰湿な虐めに似たそれを行われ、大切な人の死を見詰め続けたナミ。
どうして人を怨まないのか。どうして助けようと、守ろうと、まるでそれが当然のように……。
問いかけた所で声を揃えるのは分かってる。2人とも妙に似てんだよな。
「「困ってる人がいたら、手を貸すのは当然でしょ?」」
聞かなくても分かるその答え。助けたんだからと、助けて貰えるなんて事を期待してる訳じゃない事も知ってる。
二人は打算も無ければ、期待もしてない。ただ、穏やかに優しく、暖かく人を、生き物を、物質を……世界を愛しているだけ。
なァ、そんな〝イイオンナ〟達を狙うなんて……その命、いらないんだろう。わかってるさ、何も言わなくていい。
まァ……コアラは穏やかさとは無縁に思える時もあるが、戦える女にそれを求める方がおかしいし、戦えない女ではこの世界生きていけない。力が無ければ、守りたいと願っても守る事さえ出来はしないんだ。
守れる強さを、力を持っていて……だから、ホンモノは穏やかなんだ。その理由は簡単で、既に余裕があるから。
「……2人とも、仕込みの様子でも見てきたらどうだ?」
「あ、そろそろ1度見て来ても良いかも!ドラゴンさんが帰って来たら皆でパーティしようね」
「サボ、よろしくね」
その返事を聞いただけでわかるが、どうやらナミは気付いていたらしい。そうだよな、ナミは俺より強いもんな。
そんな事を思いながら頷けば船内に入る2人。さて、折角用意した卵を壊さない内に片付けるか。
全て片付いたら卵を隠すのもやってやろう。それだけでもきっと、2人は喜んでくれるだろうから。
Happy Easter……。愛しい兎を守る為、竜の爪が赤く染る。
楽しいイベントはこれからだと、優しく笑う狂暴な男。それより更に凶悪な男が帰った時、この船は穏やかで楽しい宴の場となるのだろう。