おかしいだろう……。俺の数倍の仕事こなしてて、どうして忙しそうにしてないんだ!?
気が狂いそうな程の仕事に謀殺されていた俺は、そんな事を本気で考える。その時突然、何かに気づいた様子で立ち上がったドラゴンさんが無言のまま部屋を後にするので、俺も慌てて立ち上がるとその背を追いかけた。
「何かありましたか!?」
「……表が騒がしい」
言われて確認すればたしかに騒がしい。何だろうかと外を見てみれば、見覚えもなければ頼んだ記憶もない荷物が港に積み上げられていて、それを船に届けに来たと言っているのが確認出来た。
……アレだけの荷物が届くなら、誰かが俺に連絡くれるだろうと思うんだが……。俺の記憶にも、手元の記録にもそんなものは存在していない。
怪しい物は受け取れないからこそ、アレだけ揉めてんだろうが……。爆発物には思えないし、毒性も無さそうに思えるんだよな。
それでも、得体の知れなさはある。何せ馬鹿デカい包みと大量の箱だ。
「それは運び込んで構わない。……サボ、あれの対応を任せる。必要なら他に仕事を上手く振り分けてくれ」
突然のドラゴンさんからの言葉に動揺する俺を1人その場に残して、ドラゴンさんはまたもやその場から姿を消してしまう。仕方なく任されたからと荷物を受け取りに行けば、その荷物の内容に唖然としちまった。
……ナミだな、こりゃ。得体の知れない巨大な包みは笹竹だ。
その他の箱は中身を確認して見れば、食材、紙類……。その他種類毎に用意されたその箱達は、明らかに七夕の準備だ。
厳選された食材と酒。美しい紙が選ばれているのは、ナミの趣味だろうか。
いや、職業病かもな。……あ、この星の飾り……コアラに似合いそうだ。
それにしても、人数をキチンと把握してなければ、ここまでキッチリ揃えるなんてのはできる事じゃねェ。それが出来て、尚且つこんな事をやりそうなのはナミだけだ。
コアラも好きそうではあるが、何かひとつは抜いちまうようなドジな所があるもんな。それにしても、ドラゴンさんもどうして色々確認する前にそれに気付けたんだろう。
そんな事を考えながらも、これを俺に任せて仕事の振り分け許可まで与えてくれたのだからと、七夕をできるように話を進めて行く。その途中で聞こえて来た歌声に、ナミは今作曲家してるんだなと思う。
「ナミちゃんって、なんでも出来るわよね」
「……何も出来ない方が、俺としては嬉しかった」
いつの間にか傍に来ていたコアラの言葉に無意識でそう答えて、しまったと思った時にはコアラが呆れたような顔をしていた。悪い事しちまったな……。
コアラはナミを好きだが、血の繋がらない姉と弟と言う関係性に、不安感も抱いてるのは気付いてるのに。どうして余計な事、言っちまったかなァ……。
「確かにそれなら世界から狙われなかったかも知れないけど、革命軍に入って貰う事もできなかったよ?」
「それなら、蜜柑農家やって……平凡な生活しててくれたんだろ?その方がずっと「美しく、心優しい奴隷として、生きてたかもね」」
遮られて告げられた言葉は、俺の頭を殴打した。戦う力が無ければ、才能が無ければ、親を殺され、嘆き、拐われる事も使われる事もなかっただろう……。
ただ、奴隷として生きて……助けは、無いままに苦しめられていた可能性しか見えない。その場合、蜜柑の生育が悪ければ、喪われていた可能性もあると言う現実に、嘆く事も出来はしない。
今のナミであったからこそ、俺達は出逢えたのだ。そして、ナミが生きているのは、ひとえに本人の努力の賜物。
「ナミが、多才だったのは良しとしてやるか」
「本当にサボ君ってシスコンだよね。そもそもサボ君とナミちゃんが逢えたのも、ナミちゃんが航海術持ってたからでしょ!?才能が無ければ、そもそも出逢えてないよ!」
「はははっ!違いない!……コアラ、これ運んでくれ」
「人使い荒いぞー!!」
そんな事を言いながらも、コアラはちゃんとメモの束を運んでくれる。だから俺は、抜き取っていた星の飾りをそっとその髪に差し込む。
驚いた様子でそれに触れるコアラは可愛くて、やっぱり似合うなと思う。まァ、基礎が可愛すぎるんだから、似合って当然なんだろうけどさ。
「サボ君……これ?」
「コアラに似合いそうだと思ってさ」
「……あり、がとう」
赤くなって俯くコアラが可愛くて、俺は顔がニヤけそうになるのを耐える。どうしてコアラは、こんなにも可愛いんだろうな。
可愛いだけでなく、いつも俺の間違いを指摘して引き留めてくれる大切な女。それに感謝しつつ食材は俺が運び、到着した厨房で俺とコアラはそれぞれをコック達に手渡した。
それを受けて〝宝玉〟の新レシピー!と叫ぶコックの血走った視線が恐ろしく、もう既に全員覇気修得してそうだよなと思わされる程だ。そうして、準備が粗方済んだところで漸く顔を覗かせたナミが嬉しそうにコアラに飛び付く。
「準備進めてくれてたのね!コアラちゃん、ありがとう!」
「もう!ナミちゃんおそーい!!」
「だってドラゴンさんが……」
俺とコアラは同時に反応する。ドラゴンさんがナミに何したって!?
告白か!?それとも、襲いかかったか!?
「「ドラゴンさんが!?」」
「大量の仕事目の前に置くんだもん」
「宴の後で、暇な時にやってくれと言った筈だがな?」
いつから居たのか、気配さえ悟らせなかったドラゴンさんの言葉に俺とコアラは脱力する。そうだよな、なんか、俺達に確信抱かせてくれるような事、してくれる筈も無かったよな。
そうして暫くの後に始まる宴の席で、それぞれが呑んで、食って、歌って、特技を披露する。そんな中で宴が終わる迄に願いを書いて笹竹に結ぶよう言われている面々は、思い思いの事を書いていた。
……俺は、願いが多過ぎて絞れねェな。どうすっかなァ。
「サーボくん!!願い事が無いの?」
「あり過ぎて困ってる」
「ひとつしかダメなんて言われてないから、足りないなら書き損じなかった人からも貰って、思い付くだけ書いてみたら?」
「へ?」
「どれかひとつくらい、叶えて貰えるかもよ?」
そう言って笑うコアラは、指折り欲しい物や食べたい物をあげていく。その様子を見ながら、俺は無意識で頷いた。
楽しそうに笑うコアラを見て、今度なんか喜びそうな所に連れて行こうと思った。そこで思い浮かんだのは、コアラに関する願い。
でもよ、流石にそれを見られたら不味い。その時視線の先に居たナミを見て、切なる願いが浮かんで俺はまずそれを書いてみる。
『ナミの仕事中毒が治りますように。無茶ばっかして、迷惑かけてくるの辞めますように。俺の胃に平穏な日々が訪れます様に!!』
1枚の短冊に書くには多過ぎるそれに、デカデカとサボと最後に書けば、見た奴が皆で笑って終わるだろう。問題はもう1枚の方だ。
仕事の効率を考えたと言っても、誰にも聞いては貰えない可能性が高い。だが、何か理由が無いとコアラに知られた時、キツイものがある。
悩ましいな。だが、急いで書いて高い所につければ見付からないかも知れないと考えて、俺は急いでペンを動かした。
そのついでに他の願いも書いて、本当の願いを隠すように挟んでから動き出す。誰にも、この願いだけは見せるものか。
『コアラと同室を使いたい』
さて、急ぐぞと素早く移動して笹竹に取り付ければ、後は時間になって燃やされるのを待つばかりだ。そう思ったのに、俺の恋人は何故かナミに貼り付いて離れなくなっている。
何してんのかと思ったら、どうやらコアラは酔ってるらしい。うん、赤い顔で、潤んだ瞳で、ナミを見詰めるの辞めてくれ。
「おい、コア……「ナミちゃん好きー!!私の彦星さまァ!」」
……なん、だと?
俺は無言のままズカズカと近寄り、ナミから強制的に引き剥がすと、コアラに低い声で1言告げる。こればかりは譲れねェ。
「俺の織姫、彦星は俺だろ」
「サボくんが彦星なんてー……やー!!」
「なん……!?」
「年に1回しか会えないなんて、やだァ!!」
酔ってる人間とは、かくも恐ろしきものか。そんな事を思いながら、俺はコアラを強く抱きしめる。
そんな俺にナミとドラゴンさんは酒を片手にクスクスと笑い、おいたは酔いを醒ましてからにするようにとか言ってくる。そんな2人は、完全に俺の保護者な顔をしていた。
「俺の理性が織姫の誘惑に勝てたらな」
「そこは頑張って勝ちなさいよ。ね、ドラゴンさん?」
「明日は、二人とも休みにしておいてやろう」
「ドラゴンさん、甘いわ……」
「ナミが小煩いだけだろ。ドラゴンさん、お言葉に甘えます。ありがとうございます!」
そんな言葉を残して、俺はコアラを抱いて移動する。その背後で笑う2人が、夫婦にしか見えない謎は今は放置するしかないだろう。
何せ俺の腕の中には、愛しい恋人がいるのだから。部屋に運び込んだ俺に、甘えるように擦り寄るコアラをベッドに寝かせれば、後はコアラが目覚めるのを待つばかり。
起きたらもう離さないと小声で呟くように誓う俺に、突然真っ直ぐな視線を向けて来たコアラを見て、まさかと思う。だって、だとしたらコアラは……。
「年に一度の逢瀬しか許されなかったら、サボ君はどうする?」
「んなもん、決まってる」
「ん?」
「あったら最後、離れなけりゃいいだけの話だ」
いつから酔いが醒めてたのかは知らないが、俺の言葉にコアラは目を見開いて、それから破顔する。そうして抱き着いてきた温もりを強く抱き締めて、俺は理性を当然の如く手放した。
願い事は、後でどうにか画策しようなんて、半ば本気で考えなから。今日も織姫と彦星は、年に一度の逢瀬なんて耐えられないと、引っ付いたまま離れない。