突然早朝にドアをノックされれば、誰でも何事かと思うだろう。それも、相手が父と慕う尊敬出来る上官だ。
ドラゴンさんが焦ってる様子が珍しすぎて、幻か偽者を疑うレベルだ。わかるか、それが寝起きと言うか、叩き起された形だぞ。
敵に襲撃されてもこんなに焦らないだろ。何があったんだ……?
「ナミを知らないか」
「姉を知らなかったら、ビックリです」
「……ナミの居場所を知らないか」
「部屋に居ないんですか?シャワー部屋で済ます事も多いというか、蜜柑の世話の他に外出る時ってドラゴンさんいる時だけですよね」
なんだ、ナミか。そう思ったのが理由でついはぐらかしてみたが言い直されてしまえば仕方ない。
本当に、俺の姉は周りを平然と巻込む。本人だけが無自覚なのが切なさを呼ぶけどさ。
「それが居ないから、探している」
「うーん、大浴場か蜜柑畑、後は……書庫?」
流石にこの時間に、ナミが個人の部屋に向かうなんて無いだろ。あるとしたら俺かコアラ、後はドラゴンさんだろう。
つまり、同じ事を考えてドラゴンさんは俺の所に来たのか。……誘拐ってのは、無いだろう。
要人の為に作られた場所をナミの部屋として貰ったから、ナミの警護は完璧だ。そうしなければ世界に狙われる〝宝玉〟の身を守り切れない。
当人に重要人物たる自覚は皆無だがな。皆でいくら言っても、お世辞か何かだと思ってる駄目な奴だから困っちまう。
とりあえず俺もドラゴンさんについてナミの部屋に行ってみる事にした。だが、ドラゴンさんが部屋のドアをノックもせずに開けたのを見て、いい加減関係性をハッキリさせやがれと内心で唸る。
そんな俺の目の前で、本当にホッとしたような声でドラゴンさんが言う。どうやら本気で探し回った後で、俺の所に来たらしい。
「やっと見付けた」
そんなドラゴンさんに対して、ナミは呑気なもの。外とドラゴンさんを見比べて首を傾げるその鈍さ。
そうだよな、空を飛べる奴なら誰でも窓から拐えるもんな。心配にも、なるか。
そんな事を考えてる間にもドラゴンさんはナミを叱り、ナミはそれを受けて不愉快そうに顔を顰めた。それはなんだか珍しくて、ナミもドラゴンさんには甘え……って、今、なんつった!?
「……誰かさんが無理させるから、身体は痛いし、ベタベタしてるしで、シャワー浴びたかったの!!」
「それは、すまなかった」
今の会話は、つまり、この二人やっぱ、デキてんのか!?そうなんだな!?
それを確認したいのに声が出ない。くそう……こんな時、どうやって聞けばいい?
「薬は飲んだし、もう大丈夫よ。所で、忘年会やりたいから協力して」
「あァ、分かった。サボもいるから相談してみるといい」
その瞬間、ナミは幸せそうに微笑む。それは俺に向けたのか、ドラゴンさんに向けたのか。
どちらにしても、母親として俺が慕ってた時のナミの顔であるのは間違いない。優しい、その顔に俺は呼吸さえ忘れそうになる。
「どうしたの?」
「ナミにだけは、永遠に勝てる気がしない」
「勝てた記憶が、無いんだけど……?」
「そんな事より、ナミ〝無理〟って、何させられたんだ?」
「え?……ドラゴンさんの部屋の書類整理よ。それと裁可の終わった書類を各部署に運んだり、後は倉庫の掃除と整理よ。他の仕事もあるし無理って言ったのに、全部押し付けてドラゴンさんは1人優雅に寝てたのよ!!酷いでしょ!?」
「……ソレハタイヘンダッタナ……」
紙とペンを構えて立つナミを笑ったのか、それとも俺の反応に笑ったのか……恐らく後者だろうが、ドラゴンさんは珍しく死にそうな勢いで笑い出した。それにはナミも首を傾げるが、恐らく俺の事を笑ってやがる。
軽い殺意にも似たものを感じながら、そのまま三人で話し合いを開始する。話を聞いてみれば、この間なんかの賞を取ったらしいナミはその景品として酒が大量に届けられたらしい。
それを使えば予算は削れるからと言うそれに、本来ならば宴等は控えている革命軍でも忘年会ならば許されるかと思うのも当然。イベントものの他は、基本的に祝う事が出来ないのが俺達革命軍だからな。
それに何より、俺達は常に金欠だ。無償での人助けに近いから、困ってる人達から何かを奪い取る訳にもいかねェからと切り詰めた生活してるので、金のかからないイベントと言われればしない訳にはいかない。
「そうなると、料理はコック達に任せるとして……何か皆が楽しめる物が必要だよな」
「ダンスパーティーでもする?」
「大半が踊れねェよ。盆踊りさえ怪しいか、もしくは高度過ぎる踊り始められちまう」
本部が破壊されてしまうリスクまであるのだから、そんな怖い事はできない。何を言い出すんだ、コイツは。
そう思って睨む俺に、ナミは首を傾げる。それからうーん、と唸るから単なる思い付きらしいと知った。
そこへひょっこり顔を覗かせたコアラが俺の顔を見て、何やら察したような顔をするからどうやら俺は相当な顔をしているらしい。そんな中でナミはのど自慢……?とか呟いている。
そんな状況を見ているコアラに状況説明をしたら、何をとち狂ったのか俺とナミを見て言い放つ。何がどうなってそうなったのか。
「私、いい事思い付いたから、ナミちゃんとサボ君、ドラゴンさんも付き合ってね!!当日話すから!!」
「……つまりは、グループで何か演し物をしたいという事か」
「はいっ!!」
元気な様子で頷くコアラにドラゴンさんは笑う。俺はその様子に慌てて手を伸ばすが、ドラゴンさんが答える方が早い。
「……なら、俺達の事はコアラに任せよう」
「甘やかさないでください!!コアラ!何しようとしてんだよ!?」
「まだ内緒ー!ナミちゃん、手伝って!!」
「わかったわ。じゃぁ、ドラゴンさん、サボ……他の事任せますね」
「分かった」
俺の叫びは虚しく響き、コアラに連れられてナミが消えるのを嫌な予感に苛まれながら見送った。勝手に身体が震えそうな程の恐怖に苛まれていると、ドラゴンさんが可笑しそうに俺を見る。
「たまには付き合ってやってもいいだろう。いつも苦労をかけているからな」
「ドラゴンさんはコアラを甘やかしすぎです。……ナミなら、ともかく」
「ん?何故ナミは良いんだ?」
心底不思議そうに聞かれるけど、俺は騙されない。確証を得てやるっ!!
「……つ、付き合って、るんですよね!?」
聞いた、聞いたぞ、俺!
「そうだな。今日は付き合って貰う予定だったが、コアラに取られてしまったな」
「ドラゴンさん!?」
「ははは!」
笑って去って行くドラゴンさんを睨んでも、どうやら俺にこれ以上の追求は難しいようだ。本当に、私生活が良く分からない人だ。
そんなこんなで、結局俺に忘年会の雑事を押し付けたドラゴンさんは酷いと思う。それでも迎えた当日、皆も誰が何をやるのかと楽しそうにしていて俺も何かやるらしいぞとだけ言って笑っていた。
だがしかし、突然コアラに腕を掴まれて連行されれば嫌な予感と恐怖は最高潮だ。俺はまだ飯も食ってないのに!!
「俺の肉がァ!」
「後で食べられるから大人しくして!」
部屋に連れ込まれ、服を引き剥がされ、なんか被せられ、服を着せられたりする。その上顔にベタベタと何かを塗りたくられれば辞めろー!と叫んだのも当然だろう。
それでも、暴力に訴える事は出来ずにされるがままだった訳だが、解放されても自分の惨状があまり理解出来ていない。コアラは何をしたいんだ。
「何してんだよ」
「どっちが美男美女になるかをね、同じ制限時間でやるって言うのなのよ」
「へ?どっちって事は……」
「私とサボ君。そして、ナミちゃんとドラゴンさん」
なんでそんな無謀な事しようとしたんだ。誰がドラゴンさんに勝てるって言うんだよ。
男としての格が違うだろ。それに見た目だけならナミは極上だぞ?
「……ドラゴンさんに俺が勝てる訳が「男装と女装で」なんて企画してんだよ!?」
「今終わるから待ってて。でも、ナミちゃんの変装技術に勝つには少し弱い気もするのよね。どう!?」
そう言って振り向いたコアラがしっかり男に見えて、でも美少年って感じで……。んで、胸はどこやったよ?
「コアラ……」
「なァに?」
「お前……胸、取り外せんのか」
「取り外せてたまるかっ!!」
思いっきり殴られて吹き飛ばされた先はどうやら舞台だったらしく、皆の注目が集まればなんだ?と思うけど、慌てて出て来たコアラに皆が笑い出す。皆から冷やかしのように、可愛いぞとか、カッコイイぞと言われて1応男装と女装に成功したらしいと気付く。
だが、その直後に出て来た二人に声が消えた。大柄な美女と、小柄な王子が姿を見せてモデルのように堂々と歩いて来るからだ。
……え、誰。そう思って二人を見ていたら、王子が喋った。
「ドラゴンさん、そんな不機嫌そうな顔しないでくださいよ」
「どうやって楽しめと……?」
声を聞いて本人だと認識すれば、漸く空気が弛緩する。そうして笑顔が満ちた所で開放された俺達は、念願の食事にありつけた訳だ。
いい匂いしてたから、腹が減ってたんだよな。殴られたのはこの際忘れてやろう。
それにしてもナミの変装技術が高いのは知ってたが、人にも施せんのか。特技として誇れるだろ。
「ドラゴンさん、あれ、街中ですれ違ったら分からねェな」
「流石はナミちゃん。私、頑張ってあそこまで極めるわ!!」
「え、それ、俺が実験体って事か?」
そんな事を言いながら互いに色々食ってたら、集まって来る仲間達。でも、コアラがそっちに気を取られて俺の方を見なくなったので、そっと背後から抱き締めて逃がすもんかと思う。
そんな俺にコアラは笑い、皆はからかってくる。結局今回もドラゴンさん達の謎は謎のままだったけど、今は仕方ないと思って気持ちを切り替えた。
大切で愛しい人達に囲まれて、嫌な事も悲しい事も忘れる宴に酔いしれる。最愛の人を腕に抱いて……。