※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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ハロウィンイベント(光源氏14)side

 今朝、今日の内に次の島に着くわよと笑っていたのを見たきり、俺はナミの姿を見ていないと気付いた。また食事もしねェでと思った直後に、島の領海に入ってから姿を見なくなるリスクに今更気付いて慌てて部屋に押し入ったが、既に手遅れだった。

 机に向かうナミの真剣な顔を見れば、諦めるしかないと分かっちまう。この場でバラせば何か変わるかもしれねェが……。

 それを前にやった時は確か、冗談抜きで10日間1度も声を出さなくなり、その上で飲食も完全に拒絶されたのを思い出す。衰弱して死にかけて、意識を失い……点滴でその命を繋ぎながら、俺が必死で謝らされたんだったか。

 参謀という肩書きでこの船にいるナミは、それでもサイクロンが来るとかってなれば紙に文字を書いて差し出すくらいは平然としてくれていた。どれ程俺に対して怒っていても、この船のクルーを誰1人傷付けはしなかったのだから文句も言い難い。

 そんな変な甘さを持つナミは、同時に恐ろしく頑固だ。〝我知らず溜息が落ちる〟とは、ナミの書いた小説の1節だったか。

 まさにそんな心境で俺はナミのその真剣な姿を眺めてから視線を微かに動かすと、机の横に置かれている台に1通の封筒を見付けた。それに手を伸ばせばそこに、明日はイベントで今日中に次の島につけるから、準備して皆で楽しんでほしいと書かれている。

 ……〝皆で楽しむ〟の中に、ナミはいつも自らを含めない。いつも1歩引いて俺達を微笑ましそうに見詰めるその瞳に、彼岸が映っている事にはずっと前から気付いちゃいる。

 手紙を読み進めればイベントの内容、成り立ち、そして、レシピが書かれていたが、気になるのはお化けに仮装する所だろうか。お化けに限らなくても、何かに仮装して、現実の自分とは違う存在になればいいなんて書かれている。

 ……ならばナミにも何か着せれば、その別人となり彼岸を見る事を辞めるのだろうか。それならば、ナミこそ何かになってもらいたいところだと思いながら部屋を後にする。

 コラさんを含めたメンバーにイベントの事を話せば、クルーは嬉しそうに準備に取り掛かる。それを見て、笑みが浮かぶのはどうしようもない。

 

 「ロー、どうした?何か悩みか?」

 

 俺の小さな変化にもよく気付くのは、コラさんとナミの共通点だ。だが、同時に恐ろしくボケてる所まで似てやがる。

 実は血が繋がってるとかねェだろうなと、疑いたくなる事すらある程に、2人は似ている。……まぁ、有り得ねェんだけどな。

 

 「仮装とやらについて考えていたんだが、ナミに何か似合いそうな物はあると思うか?」

 「……何でも似合いそうなところが怖いよな。そうだな……人魚ってのもアレだし、そうだ!乙姫はどうだ?」

 「あァ、童話の乙姫か。確かに似合いそうだな」

 

 だが実際の所、魚人島関連は不味いだろうと思いつつ、それでも最後にありがとうと1言告げてから外に出る。確かに似合いそうではあるが、それだと俺はいつまでも夢の世界から帰らない浦島太郎となるだろう。

 その童話についてナミに聞いた時、同じ国の中である1つの地域だけ、浦島太郎が最後まで玉手箱を開けずに両親の墓前にお供えしたと言う伝説を残してるのよと、笑っていたのを思い出す。貰った土産だから、両親と共に中身を見て、共に喜びを分かち合いたいと願った浦島太郎がいたのよと。

 その話でも、海にいた僅かな期間の内に地上では長過ぎる時が経過していた事は他の話と変わらず、浦島太郎は親不孝にも先に旅立った息子と勘違いされていたらしい。そんな勘違いの中で、息子を想いながら両親は大昔に他界したのだと聞かされる。

 それから浦島太郎は必死に両親の墓を探し回り、ようよう見付けた両親の墓前で涙を流した。その後浦島太郎は玉手箱を開ける事無く墓前に供え、墓守となったそうだ。

 そんな話が残っていたのは、カナガワケンのヨコハマシにある町の名前がウラシマとかカメズミとか言う地域だと言っていたが、後半は既に呪文の領域だった。ただ、今でもその玉手箱を大切に守ってる寺があるんですってと笑ったナミは、妙に切ない色をその瞳に浮かべていた。

 そんな事を考えていたからか、読書は進まず、それどころか少し寝ていたらしい。気を取り直してナミの様子を見に行けば、現実に意識を取り戻してすぐだったようでドアの音に反応して肩を震わせた。

 

 「自覚はあるみてェだな、ナミ?」

 「ご、めん、なさい……」

 「普段はナミが俺にダメだと俺に言ってるのに、自分は良いのか?」

 

 怯えた様子を見せるナミに、あえて低い声で問いかければ縮こまる体。それを見て乙姫なんかじゃなく、怯える子ウサギだなと思う。

 仕方ねェかと額を指先で軽く弾くと、さっさと寝ろと声をかける。それにぎこち無く頷いたのを見れば、自ずとその理由も分かろうというもので……。

 

 「添い寝が必要か?」

 

 俺の言葉にナミは小さく肩を震わせるから、心配してるのだと伝えるのもなんとなく癪で、揶揄うように笑ってやる。その表情1つで少し肩の力を抜いたのが分かり、ナミを片腕で抱き寄せてからベッドへと入る。

 

 「起きたら起こせ、俺も寝る」

 「ありがとう」

 「今日はイベントなんだろ。起きたら仮装させてやる」

 「了解、キャプテン」

 

 今はまだ、お前が笑うだけで構わねェ。もう少し、色々な所が育つまで待ってやるさ。

 Trick or Treat……子ウサギが成長するのを狼は微睡みながら待っている。頚椎を狙う狼を信頼している子ウサギには、今が最後の安眠の時期かも知れない等とは誰も教えてくれはしない。




あー、一応この浦島太郎に関する伝承は実在します。興味のある方は、自分で調べて下さい。その寺院では、変わっていなければ12年に1度玉手箱が公開されている筈です。
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