※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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兄のような弟のような(光源氏16)

 共に船に乗るようになって、普通の船とは色々と違い過ぎる潜水艦と呼ばれるこの船。その中で私は、今日も兄のような弟のような微妙な立ち位置にいる船長に、時々胸が高鳴る自分を自覚していた。

 周りからはなんで付き合ってないのとか言われるけど、私の片想いだもの。ローは基本的には兄みたいなのに、時々弟のように思えてしまう。

 そんなローと言う生き物に、私は自分の思いを伝えられずに居るのだから仕方無い。だからこそ、私は何かを覚えている訳でも知ってる訳でも無いのに、ロシーから聞いたのを利用して〝ローちゃん〟と呼び差別化を図っている。

 

 「ナミ、この本なんだが……」

 

 突然聞こえた声に振り向くと、ローは突然言葉を止めて、真剣な顔で手を伸ばしてきた。じっとしていると触れて来るそれに、優しい手だといつも思う。

 どうして皆怖がるんだろう。ローは優しいのに。

 ……普段優しいから、身内に甘いくらい優しいから、その内に秘めきれて居ない残忍性が余計に怖く見せるのだろうか。その優しい手が妙に気持ち良くて眼を閉ざせば、ローがひょいと私を抱き上げた。

 

 「ナミ、熱がある。少し休め」

 「へ?」

 「ナミ……俺の言い付けを破ってまた1晩中起きていたな?」

 

 ウグッと言葉を詰まらせるとローが私をベッドに縫い付けるように抑えてきて、暗く笑った。その顔は多分普通なら怖いんだろうけど、私には悲しんでるように見える。

 だって、書き始めたら止まらなくなっちゃったんだもの。仕方ないじゃないと言おうとして、結局何も言えないのはローの悲しげな瞳の為だろうか。

 

 「ロー?」

 「ナミ、次に言い付けを破ったら……犯すぞ」

 「そんな気、無いクセに」

 

 分かってるのよ。妹枠なのは。

 だからその苦しさを隠すようにクスクスと笑う事で自らの気持ちを押し殺していたら、ローの唇が降って来てそのまま当然のように舌を絡めて来る。何が起きているのか分からなくて、でも、拒む事も出来なくて思わずローの服を掴むとローの体がビクリと揺れた。

 そっと離された唇に、無意識で視線を向けていたらローが私の頬を軽く撫でながら、唸るように言う。私は、嬉しさより戸惑いが勝り、何を言えば良いのかも分からない。

 

 「本気で、このまま襲いたくなるから煽るな」

 「ロー?なんで?」

 「……良いから寝てろ」

 

 そう言って私から離れると、ローはばさりと私に布団を被せて来て、泣きそうな顔で笑う。それはまるで私が、ローを苦しめているかのように思える程。

 

 「ロー……」

 「俺は、ナミが好きだ」

 「私もローが好きよ」

 「……そうだな。今はとりあえず良い子に寝てろ」

 「はい」

 

 素直に頷けばローは、私の頭を撫でてから部屋を出て行く。それから少しすると戻って来て、濡れタオルを額に乗せたり触診したりと診察と治療を開始してくれる。

 その手が優しくてつい眠ってしまえば、ローが部屋の中から出て行かないで傍に居てくれているのが何となく分かる。その証拠に、私が途中目覚める事は無かった。

 でも気圧の変化を感じて、私は布団を跳ね除けて飛び起きるとカーディガンを羽織りながら隣室へと移動して館内に声を響かせる。……クラクラ、する……でも、今は泣き言なんて言っていられない。

 

 「総員、直ちに潜水せよ!サイクロンが来る!」

 

 私の言葉に従うように潜水してくれたけど、水中だって安全じゃない。舵取りの指示を飛ばしてそれが安定するのを確認した頃には、視界が歪むのを自覚していた。

 ぐらりと傾ぐ体を安定感のある腕が抱えてくれて、そのまま運ばれて行く事に気付きながらもお礼さえ言えない。でも、なんとか伝えたくて唇を必死で動かす。

 

 「ロー……ちゃ……ありがとう……だいすき」

 「……俺は、愛しているんだが、伝わらねェもんだな」

 

 そんな声を聞いた気がするけど、それは願望が聞かせた妄想だとちゃんと分かってる。だけど、随分と都合のいい幸せな夢だなと思いながらも、私は幸せな気持ちで深く眠りについた。

 風邪だったらしいそれから回復した私は、いつも通りの生活に戻っていて、食料調達の為にと停泊している島にこれから降りようと思っている。測量もしたいし、必要な物もあるから買い物もしたい。

 

 「ナミ、降りるのか?」

 「ロシー?えぇ、そのつもり。何か必要な物があるなら、ついでに買ってくるわよ?」

 「いや、特には無いな。……そう言えばだが、ナミはローの事を男として好きなのか?」

 

 ロシーからの言葉に顔が赤くなり、それに何も答えられずにあ、とかう、とか、既になんの意味も成さない言葉が自分から発せられるばかり。そんな私にロシーは切なそうな顔で手を伸ばすと、強く抱き締めてきた。

 

 「ナミ、俺じゃ、駄目なのか?」

 「……ロシー?」

 「俺も、ナミを想ってる。俺じゃナミを幸せに、できないか?」

 「ロシー、私は幸せよ。だから「なら、なんでナミは恋人が居ない。俺にしとけよ、ナミ……大切にするから」」

 

 ロシーの声は震えていて、私はロシーが本気で想ってくれているのだと知る。でもだからと言って〝だったらロシーでいいや〟なんて思えない。

 私の片想いだとわかってるけど、それでも私はローを想っていたいの。愛しているのよ。

 それに、恋人が居ない事がイコールで不幸だなんて思えない。好きでもない人と過ごすよりも、1人の方が良い。

 それにもし、私は愛せない相手から、想われるだけなんて事になったら、罪悪感で倒れる自信があるわ。大切であればある程、私はそれが苦痛になるだろうと分かってる。

 

 「私は、この想いが片想いだってわかってるわ。分かってても、好きなの。お願い……好きで、居させて」

 「……ナミ」

 「なんの会話だ?」

 

 突然聞こえたローの声に振り向くと、怒りを抑え込んでる時の顔でローが立っていた。私はそれに慌てて、何処から聞いてたの!?と言うけど、ローは暗く笑いながら唇を動かした。

 

 「ナミの『私は、この想いが片想いだってわかってるわ』からだ。……ナミは、コラさんと付き合うのか」

 「違っ「そうしようかと思っている。ローも祝福してくれるか?」」

 

 ロシー何言ってんの!?そう言おうとしたら、強く抱き締められて顔を腹部に押し付けられるようにしてしまえば、声を出す事も出来はしない。そんな私とロシーを見て、ローは少し黙りそれから低い声で答えた。

 

 「コラさんの相手がナミじゃなけりゃ、祝福してやれるが……ナミならば話は別だ。ナミの相手がコラさんでも、それは認められねェ」

 「ローは、ナミの幸せを祈れないのか?」

 「ナミは、俺が幸せにする。ナミの事は〝初めて会ったその時から〟俺の女だと決めている」

 

 ……え?

 嘘、でしょ?

 私の、片想いじゃ……無いの?

 

 「ナミは〝片想い〟してるってのに、ローの女だって?笑わせてくれる」

 「今ナミがどれ程コラさんを好きでも、振り向かせてやる。悪いなコラさん、俺はナミだけは諦めるつもりはねェんだよ!」

 

 暫くの間、辺りから音が消えて……私は勝手に零れる涙に動揺して何も言えない。でも、そんな私の頭を撫でながらロシーがその沈黙を破った。

 

 「だとよ。後はナミ次第だ」

 「ロシー……私っ!」

 「伝えてやれ、素直な気持ちを。俺はナミのそれに従う」

 

 ロシーは私の顔を覗き込むようにして視線を合わせて、そっとハンカチで涙を拭ってくれながら苦しそうに笑った。優しいロシーに、そのハンカチを借りて笑い返してから、ゆっくりとローに向き直る。

 ローは戸惑ったような顔で私を見るから、そんなローにそっと手を伸ばす。それに引き寄せられる様にローが目の前まで歩いてくるから、そっとその首に抱き着きながら言葉を告げる。

 

 「私、ローの事が好き。片想いでも良いって思ってしまうくらいに、ローが愛しいの」

 「それ、俺の……事だったのか」

 

 私の言葉に動揺しながらもローは嬉しそうに笑うと、大切にするとそう約束してくれた。その瞬間を持って、兄のような弟のような愛しい人は、兄のような弟のような愛しい恋人へと変化したのだった。




掲載時期の順番ではなく、時間軸の順番で、既に掲載済みの作品は公開をしています。今後も、並びを時間軸に沿うため、新作が最後に来るという保証はございません。
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