※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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バースデーイベント(光源氏18)side

 毎年ナミが何を欲しがるか分からず、辞書や辞典を贈っては狂喜乱舞されて来た。だが……恋人となって最初の誕生日に指輪を贈ろうとしてクルーに早すぎると止められ、実家から取り寄せた蜜柑の苗木を贈り泣いて喜ばれたのは記憶に新しい。

 その翌年、それが今年な訳だが……18歳になるナミに何を贈るべきか。恋人らしい何かをとは思うが、何も思い浮かばない。

 そうしてとうとう、当日を迎えてしまった。どうしたものかと考えながら海の向こうから昇る朝日を眺めていると、背後から歌声が聞こえて来て視線を向ける。

 いつもの様に何か歌いながら、植物に……蜜柑に水をやってるのだろうと分かる。だが……今日の歌は少しばかり聞き流せない感じだ。

 故郷を想い歌うそれは、帰郷の念を抱いているとしか思えない。ナミらしいとしか言えないその歌は、即興で作られたのだろうか?

 歌詞には帰りたいなんて言わないとあるが、これだけ愛しそうに優しく歌われては疑いたくもなる。俺の傍にいろよ、ナミ。

 蜜柑に水をあげ終えるのと、歌が終わるのはどうやら同時だったらしい。無意識で体が動き、ナミのその細い体を強く抱き締める俺に、そっと甘えたように擦り寄る温もり。

 ……喪う事が、怖いんだよ。俺はもう、誰も喪いたくねェんだ。

 

 「帰りたくなったか?」

 「何処に?」

 

 キョトンとした幼い顔で、ナミは俺を見て来る。演技ではないと分かっていて、それでも俺は不安をぶつけるようにその唇を重ねていた。

 それを迷いもなく受け入れ、その上でナミは俺の様子に気付いたらしい。だからなのか、唇の隙間で笑った。

 

 「……ばかね……」

 「ん?」

 「私の帰る場所は、ここだけよ」

 

 俺がナミの居場所になり得るとは、思えねェ。それでも、ナミ自信がそう言ってくれるのならば、俺はそれを素直に受け入れたいとそう思うんだ。

 暫く抱き締めていたら、ナミから痛い、苦しいとの訴えがあり仕方なく解放すれば真っ赤な顔で、ばーかなんて言う。だからお仕置きとして、生意気なその唇を堪能しておいた。

 それがたまたまクルーのいる所だった為、その後30分程口をきかなくなったが、俺が出かけるぞと言えばその限りでは無い。ナミは基本的には、俺に逆らう事が無いからだ。

 

 「どこ行くの?」

 「買物だ」

 「皆はもう、出たわよ?」

 「買出しじゃなく、買物だ。行くぞ」

 

 俺の言葉に頷いたナミは、可愛らしく笑った。それを見てもう少しだと自分に言い聞かせながら、手を出せずに居たこの数年を思う。

 だが、ナミの誕生日にナミの身体を奪う訳にもいかねェか。そっとナミの手を握り歩き出せば、微かに恥じらうその様子に可愛いもんだよなと心から思う。

 派手な容姿の為に勘違いされがちだが、ナミは案外ウブだ。そんな事を思いながら町へ出れば、共に向かうのは書店と言う代わり映えのない場所。

 そこで妙な本を見付けてナミを手招けば、楽しそうにその本を手にした。本の題名は〝宝玉の正体〟だ。

 中を共に見てみれば書いている内容や種類、言葉の使い方から年齢や性別を判断し、その知識量からどのように生きてきたのかを推察するという途方も無い内容だった。だが、それを見たナミはふぅんと小さく声を出す。

 

 「どうした?」

 「ん?これね、意外と的外れでもないのよね、と思って」

 「は?」

 「言葉の使い方、句読点の位置、記号や小文字の使い方等から年齢や性別、コンプレックスや家族構成迄、確かに知る事は可能なの」

 

 平然と言っているが、常人にできる事じゃねェぞ。やはり文字を扱う仕事をしているから可能なのか。

 

 「そうなのか」

 

 思わず呟くように言った俺に、ナミは本を見たまま頷く。それから語られたのは、ある意味で興味深い内容だった。

 例えば〝!〟等を多用するのは基本的に自分に自信が無く、普段日常的にはモゴモゴとしか喋る事の出来ない十代に多い傾向。その他、自らの正当性を主張し少しでも意見が違うと相手を貶めようとするのは、優秀な親族と比べられて育った劣等感の塊に多い傾向であると言う。

 その時の言葉の使い方で、年齢や家族構成等も筒抜けになるのだと言った内容だった。同じ物質を示す言い方で、住んでいる地域まで分かると言われれば、空恐ろしい。

 

 「心理学の分野か?」

 「んー?経験則かな。大人になり、社会に出るとそれの隠し方が上手くなるんだけど、それでも劣等感とかのマイナス感情は隠しきれないから、案外それを元に年齢や職業位は分かっちゃうのよ」

 「……怖いな」

 

 無意識で業界用語を用いていたりするので、何気無いやり取りの中でそれは分かるのだとナミは言う。だが、恐らく知識があってもそれが即ち誰でも分かる訳じゃねェだろうと思う。

 そんな会話をしつつナミは面白がってその本を購入し、帰ってからじっくり楽しむわなんて言うのだから、鋼の精神力だなと痛感する。いい事なんてそういった類の本には、書かれてねぇだろうに。

 それでもナミが決めたのだから、止める事はしねェけどな。落ち込んだら、慰めるくらいはしてやってもいい。

 その足で近くのレストランに入り食事をさせてから、またフラリと町を散策する。その途中でナミが首を傾げた。

 

 「ローは結局、何を買いに来たの?」

 「特に決めてねェ」

 

 と言うか、決まらなかったから本人を連れてきたんだが、何故か心理学系の話になっちまった。この様子だと、誕生日だと分かってねェな。

 

 「どういう事?」

 「……俺はナミとデートのつもりだが、不満か」

 

 俺のこんな些細な言葉で真っ赤になったナミは、小さく嬉しいなんて言うからその照れが伝染する。なんて感染力の高さだ、畜生め。

 そんな中でナミがふと足を止めたのでその視線を追うと、1軒の裁縫店があるのが分かった。たまに何か作る事もあるからそれかと思いつつ、その店へ誘導すればナミが視線でいいの?と問い掛けてくる。

 

 「……ゆっくり見ても良いだろ。島なんてのは、そんなに寄る事も多くはねェんだから」

 「ありがとう」

 

 嬉しそうに頬を綻ばせるナミと共に中に入れば、店内にはカラフルな布やら糸やらが並び、針だとか棒だとかが置かれていると気付く。その他に完成品も意外と多く置かれていて、どこかで見た気がして首を傾げる。

 ドフラミンゴが近くにいるとの情報を得た後半月程部屋に閉じ込めると、ナミの部屋がこんな感じになる時があると思い出した。成程、裁縫が趣味の奴は総じてこんな感じなのか。

 そんな事を思っていたら、巨大な虎のぬいぐるみが置かれているのを見た。それをナミも見ていたらしい。

 

 「可愛い」

 「可愛いか?邪魔なだけだろう」

 

 寧ろその隣にある明るい橙色の兎が可愛いと思うがな。そう思ってそれを手にして、顔に近付けるとナミは楽しそうに笑った。

 

 「これも可愛い」

 「ナミと似てるな」

 「似てないわよ。それに私、猫でしょ?」

 「……兎に見える時もあるから、間違いじゃねェだろ」

 

 そんな事を言いつつ、ナミが虎ばかり気にするので他を見て来いと言ってから、その虎のぬいぐるみを購入しておく。……抱き枕代わりにはなるか。

 買った瞬間に船に届けるように頼めば、いつの間にか虎が消えたと寂しそうにナミが言い出した。それに縁がなかったと思えと言えば、先程の兎を購入してナミはそれを抱いて帰る事にしたらしい。

 誕生日プレゼントは普通宝石とかだろと自分に思うが、まァ貰う人間が喜ぶのが1番かと思い直す。流石に渡す前にネタバレはできねェからと黙っていたが、あんなに落ち込むとは思わなかった。

 兎を無駄に撫でながら歩くナミから、兎と本を取り上げてその手を掴む。それにナミは驚いたような顔をするが、お前の手は俺の為に開けとけ。

 

 「はぐれそうだからな」

 「……過保護よね」

 「変なのに狙われるナミが悪い」

 「ハイハイ」

 

 そんな事を言いつつ船に戻れば、出迎えたクルー達が用意していた誕生日のそれにナミが驚きを示す。俺達から以外は、幼い頃にしか祝われた事が無いと呟いたナミを、今も鮮明に覚えている。

 驚いた顔から1転、嬉しそうにハニカムナミの頭を撫でて、主役なんだから前に出ろと背を押してやる。いつも縁の下の力持ちを地で行くナミだからこそ、大切にしてやりたい。

 

 「「「「「ナミ、誕生日おめでとう!」」」」」

 「皆、ありがとう……」

 「泣くな。特別な日に、涙を見せてんじゃねぇ」

 「特別な日?」

 「ナミの産まれた日だ。特別な日だろ」

 

 俺の言葉に真っ赤になったナミは、天然タラシめっと怒鳴るとベポへと飛び付く。ベポもまた、ナミに抱きつかれて嬉しそうにしているのがなんとも微笑ましい。

 先に届けられていたぬいぐるみを見てナミが大喜びして、俺が居ない時は虎を抱いて寝るようになるのだが、それはこの時はまだ知らない話。ナミが虎のぬいぐるみを、俺に似てるなんて理由で見ていたとは知ら無かったのだ。

 虎のぬいぐるみからナミを奪還する為に、兎のぬいぐるみと並べて食堂の片隅にそれを追いやったら、クルーに微笑ましそうにそのぬいぐるみが受け入れられてしまう事になるが、それもまた別な話だ。無論、その後も食堂から部屋に戻してやったりはしないのだが。

 Happy Birthday ナミ。お前の安眠を守るのは、俺だけの役目にしておけと、男はぬいぐるみにさえ妬いて愛しい女をその腕に閉じ込める。

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