その日は艦内の熱を放出させる為にと、潜水艦を久々に浮上させた日だった。突如何かが接近している音が鳴り響き、私はペンを置いて代わりにクリマタクトに手を伸ばした。
このクリマタクトを改良して貰いたいけど、なかなかに難しい問題だし、どうする事も出来ないわよねと溜息を1つ。そうして表に出るとそこにはこの世界の女性らしい体型をした、ローがいた。
いや、違うのは分かってるんだけど、ローがホルホルの能力を使われたらこうなるだろうなって感じの女の子で、だから……!つまりは……!
「可愛い……」
「ナミ、第一声がそれか……。とりあえず敵じゃねェと本人は言ってるが、俺は信用するつもりはねェ」
「どうして信用しないのよ!」
「……あの町の生き残りは、俺だけだ」
ローはそう言うとその瞳を暗い物にして、苦しそうに眉を寄せた。それを見て私が咄嗟に手を伸ばすより早くローを抱きしめたのはロシーで、その状態でロシーは言う。
「とりあえず、客人だ。丁重にな」
されるがままという状態でロシーに連れられて行くローを見送り、私は従姉妹だと名乗る人に声をかける。飲み物でも飲んで、少し落ち着いた方がいいと思ったから。
けれどもそれを従姉妹さんに拒絶されれば、ローに……親族に受け入れて貰えなかった事がそれだけのダメージを与えたのだろうと気付く。なんとも悲しい気持ちになりながら、私は今ローに近付く事も出来ないからと海を眺めた後、自室へと帰る。
部屋にいれば意外とやる事は多いもので、最近掃除をしてなかったから床にほんのりと埃が溜まっているのが分かる。それを掃除していたら、ドアをノックする音が聞こえて相手も確認せずにドアを開けば嫌そうに顔を歪められてしまった。
「誰何してください。……船長の事ですけど、ナミは何処まで知ってるんですか?」
ペンギンの言葉に私はくるりと背を向けると、そっと本棚から1冊の本を取り出して渡す。それは白の町に関する事が書かれている、政府が発行した書籍。
「それに書かれてる程度の事しか、知らないわ」
「……借りても?」
「どうぞ」
そう言って、けれども視線は本棚に向かっているから、私は仕方なくもう1冊の、宝玉が出した〝白き街の慟哭〟と書かれたそれを手渡す。その二冊を手にペンギンは部屋を後にして、私はこの後どうしようかなと考えながらベッドに転がった。
下手に刺激しない方が良いかなとは思う。でも、どうしたってローの事が心配にはなるのだ。
家族も、友人も、何もかもを喪い、心を壊してしまったロー。その時に幼いローの心を救ったのは……癒したのは紛れも無くロシーだった筈。
そんな中で今になって従姉妹を名乗る存在が現れたら、それは心穏やかでなんて居られないだろうと思う。……私に、何が出来るだろうか。
そんな事を考えながら、私は時間だからと食堂へ向かう。そこには不機嫌を隠そうともしないローと、そのローに絡み付いている従姉妹さんと、困ったようにそれを見詰めるロシーの姿があった。
「今日の夜ご飯は何?」
コックに声をかけると回鍋肉だと言われる。成程、ロシーへの労りを込めてるのねと小さく笑ってからスープは何を作ったのかなって覗いてみると、オニオンスープだと分かった。
「それなら、スープにもキャベツの繊切りを加えて、甘くなりすぎる分は胡椒で味を整えたらどうかしら?」
「キャベツで胃に優しくして、胡椒で胃に負荷を与えたら意味が無いかと思ってたとこなんですよ」
「なら、岩塩とウィンナーで味を整える?」
「あー……確かにそれなら。そうしてみます」
「だからさ、いつも言うけど、敬語じゃなくていいってば。私の方が年下なんだし」
「こちらもいつも言うようですが、船長の宝にそんな事出来ませんよ」
そう言ってコックは奥へと下がってしまう。それを見送り、私はキッチンの隅でお湯を貰うと紅茶を入れつつローの元へ向かえば、その途中でローと視線が絡まった。
「ラベンダーティーよ。ブレンドだけど」
そう言いつつローと従姉妹さん、ロシーの前にカップを置けば、ローが少しその表情を緩めた。気が張ってたのだとそれにより分かったので、自分用も入れて近くに腰を下ろす。
「いい香りだな……」
「その香りが強過ぎるから、ラベンダーはブレンドしないと飲めないんだけどね」
「あー……成程な。温まると匂いは強くなるか「何コレ、花のお茶?花はカップの中に無いみたいだけど」」
興味深そうにカップを覗き込んで、ローの言葉を遮った従姉妹さんにどう答えたら良いかなと考える。花がお茶になる物は案外少ない。
そういったお茶はカップの中で花が浮かんでるのをイメージする人も多いけど、実際それは後から生花を飾りとして浮かべてるのが殆ど。何のお茶なのかをわかりやすくする為に、ソーサーの上に飾ってるだけなんてケースも多いのよね。
「普段仕様のお茶なので、飾り花は用意してないんです。ごめんなさい」
カモミールとコモンマロウ、そしてラベンダーとジャスミン、この辺りが花をお茶にする珍しい種類だろうか。ローズマリーやミントも、葉をお茶にするし、花は本当に飾りだもの。
「海の上だもの、そうよね。ごめんなさい」
「いいえ、来客用にもう少しオシャレにしても良かったわね。香りは、大丈夫ですか?」
小首を傾げて問いかければ、従姉妹さんは素直に頷いてそれを口に運ぶ。香りが苦手でなければ、これは美味しいお茶なのだ。
キームンとラベンダーを合わせて作ったけど、満足のいくそれになる迄苦労したわ。ローには変なものを見るような目で見られてたし、でも、ラベンダーティーを美味しく飲みたかったのよ。
今度ニルギリで美味しく作りたいと思ってはいるのだけど、実際思ってるだけに近い。上手く行けば、最高に美味しいお茶になると思うのに、良い配合率に出会えてないのよね。
そんな事を考えていたら、突然ローが手を軽く上げて言った。roomと。
なんだろうと思った直後景色が変わり、私とローは2人でベッドの上に転がった。となれば、当然何かが食堂へと移動した訳で……。
見れば誕生日に貰ったぬいぐるみと、それに寄り添わせていたぬいぐるみが消えている。それに思わず叫ぶ。
「虎男君と、兎子ちゃんがー!」
「……そのネーミングセンスはどうなんだ」
だって、ローはトラオでしょ。なら、虎男君で間違いないじゃない。
……ルフィに会ってないから、トラオって呼ばれてなくてわかんないだろうけど。ローに私と似てると言われた兎だから、寄り添わせていたのに、いなくなっちゃった……。
「ナミが抱くのは、俺だけでいい。ぬいぐるみは食堂にでも飾っておけば良いだろう」
「酷い……私の虎男君なのに」
「ベッドを半分占拠するようなぬいぐるみ、邪魔なだけだろ」
くれたのはローなのに、そう言って私をベッドに引きずり込むと、そっと手を服の中に忍ばせてきた。それに体がビクリと震える。
な、なんで急にそんな事に!?
嫌じゃない。嫌じゃないけど……その、今までずっと、高めてくる事はあってもそれ以上はされ無かったから、少し……怖い。
「中途半端に触れるくらいなら、触らないで……」
「ナミ?」
「私……中途半端に触れられるのはもう嫌!」
思わず叫ぶように言った私に、ローからは静かな声が聞こえてきた。それは、耳を疑うようなもので……。
「なら、最後までしてやるよ」
「え?」
「体への負担を考えてナミが18歳になるのを待ってたんだ。寧ろこの年齢の男が、良くぞ耐えて大切にしてたもんだと褒めてもらいてェ位だ」
その言葉に顔が1気に熱を持つ。まさか、私の為に、我慢してたの?
直後、手品かと言いたくなるような早業で服を肌けさせたローが、指先で肌触りを楽しむように胸から喉へ、頬へと指をなぞらせる。それに恥じらうなと言う方が無理な話だと思う。
「キスしてくれ」
言いながらローは、そっと体を引き寄せる。逆らう事も出来ず、自らローの首に腕を回すと押し倒す勢いでそっと唇を重ねた。
自分の長い髪がローの胸に落ちるのを見ていたら、急に恥ずかしさが増した気がしてそっと唇を離す。それをローは薄く笑って引き止めた。
「誰が、唇を離れていいと言った?」
その時唇はローの方から重ね直される。舌先でたっぷりと舐めまわすように、ローは口内を自由に動き回るのだ。
それに小さく喘ぎそうになるのを耐えていたら、ローが私の足を大きく開き、ベッドに座っているローの体を跨がされる。そっと唇を離して、ローは問い掛けてきた。
「覚悟は出来てるな」
「……は、い……」
「じゃぁ……可愛く鳴け」
そう言うと同時にローは、私の胸の敏感な突起に口付けて来る。咄嗟にローの名を呼んだけど、舌先で擽り、たっぷりと舐め回した後、唇を窄めて音を立てて吸われてしまう。
「は……ああ……!」
自分の唇から、堪らないとばかりに吐息が漏れる。もう1方も指先で丹念に摘み上げ、爪を立てたり抓ったりするので、体が勝手に悶え出す。
「んっ……ぁ!ロー……お願い……!」
「お願い?もっとやって、か?」
「そんな、意地悪しないで……」
「いい声だ……。好きなだけ鳴け」
そう言いながら、逃げるなんて概念も無くその首に腕を回しているのだから、私はなんてあさましいのか。そう思った直後……ドアが蹴り破られた。
驚き視線を向けた直後、そこに従姉妹さんが居るのが見えて、自分の姿を思い出して……。悲鳴を上げてローを突き飛ばすとベッドの足元にある薄いタオルケットに潜り込んだ。
そんな私を無視して、怒りに震えるローと、怒りに震える従姉妹さんが互いにその怒りをぶつけるように口喧嘩を始めるが、聞いてる余裕は無い。私……何して……!
声が静かになった所で、ローが布越しに頭を撫でてくれているのが分かった。そろりと顔を出せば、ローがそっと抱き締めてくれて、混乱して突き飛ばして、ごめんなさいと、モゴモゴとしながらも口に出す。
「……あのタイミングなら、仕方ねェ。それで従姉妹殿は帰ったが……続き、するか?」
「……今は、その、色々な意味で無理」
「だろうな。……次の島で、ちゃんと抱いてやるから、その時は覚悟決めとけよ」
優しい声と、その手の温もりに私が小さく頷くと、ローは困ったように笑った。次の島まで半日程しかない事を、私は失念していたのだが、それはまぁ、仕方の無い話だと思う。
結局あの従姉妹さんとローがどんな喧嘩を最後にしていたのかも、従姉妹さんのここへ来た目的や正体等も私は今も知らないままだ。私は今、それよりも、もうすぐ来るローとの時間にどう向き合えばいいのか、そればかりが脳内を駆け巡っている。