※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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お正月イベント(光源氏18)side

 他の事は完璧に仕上げて終わらせるというのに、何をどうしたのかナミは本の整理が恐ろしく遅い。いや、読書好きには多い事なんだが、ナミの場合は読み始めると声を掛けても止まらなくなるのが宜しくねェ所だ。

 俺もまァ人の事を言えねェ時もあるが、それは置いといてナミはどうしているかと部屋のドアを開ける。すると中から弾丸の如くナミが飛び出して来て、中に何かいるのかと警戒しながらも抱きとめれば顔をスリスリと俺に寄せて来た。

 単純に甘えているのだと分かれば、無意識で抱き締める力が強まる。いつもこうして自分から俺の元に来てくれると有難いんだが、恥ずかしがって近付いて来ないのだから、やるせないような気持ちになる事がある。

 このままずっとこうしていたいと思いながら、ナミの頭を撫でていたらナミが嬉しそうに笑った。そのはにかんだような笑顔が可愛くて、ナミを部屋に連れ込もうとした所で背後から肩を掴まれた。

 

 「船長ー……コラさんがぁ……」

 「今度はどうした?」

 「鍋をひっくり返しました」

 

 その言葉を聞いたナミが顔面蒼白でどの鍋!?なんて聞いている。それに続けて油被ってない!?と聞いているので、どうやらコラさんが心配で他を失念してる勢いだと分かる。

 俺もたまには、この勢いで心配されてみたいもんだな。だがそうなったら、甘えて来なくなるのか?

 

 「いや、栗きんとんの入ってるやつだって聞いたけど」

 「良かった。火傷とかの度合いは?」

 「まァ、いつもと変わらない範囲かな」

 「でも、大惨事ね。わかった、すぐ行くわ」

 

 そう言ってナミが笑うから、クルーはそれにホッとした顔をしてみせる。年末で残り時間も減ってるのに、相変わらず忙しそうなそれに小さく息を吐き出して、俺もその後に続く。

 

 「ナミ、油を被る可能性があったのか?」

 「今時間的に丁度、イッカクが天麩羅の用意してくれてる筈なのよ。夜中に年越し蕎麦食べる為に」

 「天麩羅……成程な。コラさんが無事で良かった」

 「本当にね」

 

 安心した様子で笑うナミは、その表情が母親のようになっていて、その顔を向けられるのは嫌だなと思い今の関係が1番だと考え直す。到着したキッチンで、ナミは正月料理と天麩羅、蕎麦の鍋を見て突然動き出した。

 それからはもう、俺はただの邪魔者で……コックが本職かと言いたくなる勢いで料理の手本を見せて行く。そして、それの区切りが着く頃、初めてでこんなに上手く作れるなんて、流石はプロねなんて笑うのだからやっていられない。

 褒めて伸ばすタイプのナミと、威圧及び説教タイプの俺と、人にやらせるより自分で終わらせる方が早いと人を育てられないタイプのコラさん。ここのクルーはそんな中で、良く育ってくれていると褒めるべきなのだろうか。

 その後ナミはお風呂入ってくると音符を飛ばしながらその場を去ったので、部屋の隅に積んであるタオルを1つ手に取り帰って来るのを待つ。いつまでも髪を拭くのが上手くならないのは、俺に構って欲しいからなのかと思わされる程に、それだけ成長しないナミを想う。

 風呂上がりのホカホカした様子で、けれども見慣れない衣装……和服か?を着たナミが姿を見せれば、その場が華やぐ。その見事な衣装に雫が落ちているのは、頂けないがな。

 そんな訳で綺麗に拭いてやれば、気持ちよさそうに微睡むのだから無理をさせているのかもしれないと、少しばかり申し訳無いような気持ちになる。それでもそれ程に気を抜かれると、異性として意識されてないのかと多少不安にもなる。

 

 「ナミ、お前俺を何だと思ってる?」

 「……ローちゃん」

 「そうだよな。あァ、そうだろうともさ」

 

 聞いた俺が馬鹿だった。嬉しそうに、愛しそうに俺の名を呼ぶナミ相手に、不安になるのがおかしかったのだと思わされる。

 髪を拭き終えた俺にナミはありがとうと笑い、イッカクにも着せるからどれが良いか選んでくれる?なんて言い出すから、イッカク本人に選ばせればどうかと提案して丸投げにする。それに対してそれもそうねと笑って俺の腕から離れたのが、少し寂しい。

 ……完全に依存してるなと自嘲してから、海上を確認すればとうに日は落ちていた。時計を確認して、そろそろ日付も変わりそうだと分かれば、何処かの島に寄るべきか少しばかり考えさせられる。

 蕎麦の準備が出来た頃、ナミがイッカクを連れて帰って来たが、そちらも華やかな和服姿となっていては騒ぐなと言う方が難しい。照れた様子のイッカクに、ナミは可愛いわよと笑っているが……ナミよりイッカクの方が歳上だった筈だがな?

 どちらも楽しそうだから良いとするかと笑って流し、年越し蕎麦なる物を皆で食べる。それが終わり皆が寝るかと言った瞬間にナミが立ち上がり、お年玉を配りますと言えば突然のお祭り騒ぎとなった。

 まァ当然だろう。基本的には俺が財布の紐をきつく締めているから、小遣い系は最低限しか配られていない所に小遣いとは別に配られるのだから。

 だが……確かに船の予備費に多少の余裕はあった筈だが全員に配れる程の余裕だったかと考えて……ナミのポケットマネーかと気付けば、後程叱る必要があるなと思う。そして、当然のように俺にも手渡されたお年玉に、受取はしたがおいコラと思わなくも無い。

 

 「ナミ」

 「なぁに?」

 「俺からのお年玉だ。来い」

 

 素直に寄ってきたナミの耳に触れて、穴が安定するまではと入れていた素材を取り外すと代わりに用意していたピアスを嵌める。ラピスラズリのピアスは、この深い海の色とも何処か似ていて良いと思わされたから用意しておいた物だ。

 

 「これ……は?」

 「穴が安定するまではと思って渡せずにいたピアスだ。クリスマスプレゼントとして、ナミを傷物にしただけってんじゃ……俺はただの酷い男だろ」

 

 俺の発言にクルーが吹き出したり噎せたりしたが、間違っちゃいねェだろうが。ナミを穴だらけにしたのは、間違いじゃねェんだからな。

 そう思ってついでに見せ付けるようにナミの耳を軽く舐めてやればクルーから、そういうのは2人の時にして下さいなんて叫ばれた。船長たる俺に、私的な意見を述べるつもりか……お前らは。

 

 「騒ぐな。バラすぞ」

 「「「船長横暴!横暴だ!」」」

 「いい度胸だな、お前ら……」

 「「「すいませんでした!」」」

 

 そんなやり取りの間中、ナミは自らの耳に嵌められた石に触れて居て、なんとも落ち着かない様子を見せていたから鏡を手渡してやる。それを使用してピアスを確認したナミは、驚きの視線を俺に向けて来た。

 

 「どうした?」

 「これ、まさか、ラピスラズリ……?」

 「そうだが、どうした?」

 

 問い掛けた俺にナミは小さな声で、石言葉を知ってて……?なんて問い掛けてくるが、知らないで贈るかよ。他の誰かに贈るものではなく、ナミに贈る物だってのに。

 そもそも、ナミ以外に何かを贈る事は少ないが、それはそれだ。ほんのりと耳を赤くしているから、照れている事に間違いは無さそうだな。

 

 「当然だろ。海の色で、ナミの髪の色に紛れねェのもそうだが、何よりも、その意味を知り、ナミに贈ると決めた」

 「ロー……」

 「ナミ……」

 

 自然と互いの頬に手を伸ばし、唇が触れ合おうとした所でわざとらしい咳払いが聞こえて犯人を睨み付ける。なんだって邪魔するんだという苛立ちを込めて。

 

 「ベポもいる。続きはまたにしてくれ」

 

 コラさんの言い分はもっともで、仕方ないかと思って今は辞める事を決めたが、視線を向けるとナミは今更状況把握したらしく湯だり切っている。良い湯だり具合だな……そろそろ食べ頃か。

 今辞めると決めたばかりなのに、何故だろうな、喰いたいと思ったのは。そんな俺の元からナミは、逃げようとでも言うように言葉を口にする。

 

 「ごめんなさい!私、頭冷やしてくる!」

 「今浮上してやるから、少し待て」

 

 どこかへ走っていこうとしたナミを腕の中に捕らえて浮上するよう指示を出せば、真っ赤になったナミが俺にしがみついて顔を隠した。本当にナミは可愛いが、初日の出位は揃って見たいだろうと思ったのだから俺はクルーに対して、甘過ぎる気がしている。

 本当なら、ナミの姿を誰にも見せたくはないんだがな。潜水艦を海上に浮上させて近くの島につければ、ペンギンとシャチが先発隊として島の様子を見に向かう。問題が無ければ、この島で揃って初日の出を眺められるだろう。

 それから少しすると2人が帰って来たので、問題無しと判断して降りれば、陸の上でそれぞれがHappy new yearだのあけましておめでとうだのと騒ぎ始める。それを見たナミは嬉しそうに微笑み、俺の腕に抱き着いて来た。

 空は次第に明るくなり、気温が1気に下がっていく。そんな中で白い息を吐きながら、ナミは言葉を口にする。

 

 「私は……ローや皆と、これからもずっと、こうしていたいの。その為に出来る事を、少しでもやりたい。皆を、守りたいの」

 「……充分すぎる程に、ナミはクルーを守ってるだろうが。あまり気負うなよ」

 

 いつも誰かの為にしか生きないナミのその姿に、俺は多少ではない不安を抱く。喪いたくない大切な存在だからこそ、俺はこの石を贈ったんだ。

 初日の出に誓った事や祈った事が現実になるのならば、俺は俺の大切な存在を集めて作ったこの1味を最後まで守り抜きたい。そして、ナミとコラさんのいる今ある最大級の幸福を、当然ではないと自覚しつつ噛み締めて生きていたい。

 傍に大切な存在が生きていてくれる事は、当然なんかではないのだと……奇跡のような幸福なのだと知っているから、俺は精一杯の力でそれを守ると決めている。愛しい温もりを感じながら、これからも最低限しか命を奪う事無く、指の隙間から大切な者を落とさないように、足掻いていこうと決意する。

 

 「ナミへの想いは、その石に込めてある。それは俺の祈りにも似た願いだ」

 「ロー……私も、愛してるわ。傍に、居させてね」

 「当然だ。死んだら死体をホルマリン漬けにして飾っておいてやる」

 「本気っぽい所が怖いわ」

 

 当然だ、本気だからなと思いながらも、口には出さねェ。ただその代わりに、死んだとしても側から離すつもりはねェとの想いを込めて抱きしめる。

 そんな俺にも太陽は光りを向けて来る。眩しいだけで有難みもねェとか言ったら、怒られるんだろうか。

 Happy new year……贈った石に込められた言葉は、健康・愛・永遠の誓い。男の願いは、これに全て集約されている。




ここ迄で、連続掲載は終了です。この先はリクエストがあった場合に執筆されるスタンスの、不定期更新になります。
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