クリスマスに耳に穴を空けて貰い、お正月には意味深なピアスも貰った。その半年くらい前にあった私の誕生日に貰ったぬいぐるみは、食堂に追いやられてしまったのが残念ではあるけど。
だけど、皆の癒しアイテムになってるらしいから良いのかなって思う事にしたのよ。だって……そう思わないと寂しいし、回収するとローは怒って少し意地悪になるからその……諦めました。
つまりは、私には現状に対する不満なんてない。……多分。
ローだって忙しい筈なのに、気が付くと穴が開きそうな程に見つめられる事が増えた他は、本当に不満は無い。ただね、疑問はあるのよ。
あんまりにも見詰めてくるから、何か用事なのかなって思って聞いても、答えらしい答えは貰えないのだから。それで、物凄く気になってる。
とりあえず今の所、何を聞いても答えて貰えないし、船は潜水しているからと私は執筆をしたり海図を描いたりして過ごす。ベポが海図や地図を描いては持って来てくれるので、それを採点しつつワンポイントアドバイスをして行く日々だ。
「蛇行線や曲線を描く時ペンの角度変えちゃうでしょ?それによって線の太さが変わってるのよ。だから、こういう曲がってる線を描く為の定規を使うといいわよ」
「でも、定規と描きたい線のカーブが違ってて……」
「そういう時はこうして角度を変えればいいのよ。分度器とかと違って、この定規は綺麗な円を描いてないでしょ?だから角度や使う位置を変えれば、丁度いい場所にかち当たるの」
言葉で説明しつつ1般人なら手も出さないような、変わった形の定規を図面の上で滑らせる。それを見てベポが瞳を煌めかせれば、その素直さに頬が緩んだ。
「あ!本当だ!これならやれるかも!」
「次に島に着いたら、こうした定規とかの小物を1緒に見に行きましょ」
笑って言えばベポは嬉しそうに頷いてくれて、私はそれにより道具が不足してたらしいと知る。……そっか、これ迄他に航海士とかが居なかったから、教えて貰えなかったのね。
私は独学でやってたけど、村の人達から何でも教えて貰えたから……。道具に関する知識は、自然と身に付いてた部分もあるし、現代っ子だった訳だから、全て自力でやるより物を使う方が簡単で確実だとわかっていたのも多分大きい。
そうなれば、最初から使える物探してたからなぁ。海図用の図面を描く道具を扱ってない場合は、被服系の図面を描く為、型紙を作る為の道具を扱うお店でなら、この定規も扱われているのだ。
こんな時、世界とかの違いを思い知る。考え方が違う時が案外あるのよね。
文明とかも中途半端に地球の現代と近いけど、やっぱり遅れてるところも多い。代替品に該当する物も色々あるけど、全く同じではないもの。
電伝虫がその最たるところよね。カメラだったり、電話だったり、電波妨害や盗聴用もある。
でも、普通のカメラもあって……あ、ビデオカメラってのは無いわね。そう考えると、まだまだ知らない物や事が私も多いと痛感する。
でも、ブラウン管と近い、生放送専用ではあるけど、映像電伝虫は存在する。それを元に改良すれば、そのうちビデオと呼ばれる物を作れると思うわ。
……ビブルカードは、地球には存在しないツールよね。居場所その物は分からないけど、常に生存確認できるって意味では最高のアイテムだから、本当にありがたいと思う。
居場所が解る発信機とは、また別物だもの。生存が解る道具である、ビブルカードの尊さは計り知れない。
命が軽い世界だから、余計に。……私も、ローとロシー、ベポのビブルカード欲しいな。
何かあってはぐれても、無事が確認出来たら嬉しい。勿論、叶うならシャンクスとルフィ、エースとサボのそれも欲しいけど……違う船にいるからそれは難しいかな?
「ナミ、どうした?珍しく何か悩んでるな」
声に反応して振り向くと、トレイに飲み物と果物を乗せて立っているローが居た。それこそ珍しい姿だと思うんだけどな。
「ロー、私ビブルカードが欲しい」
「ナミの作るか?」
「ううん、ローと、ロシーと、ベポのが欲しい」
「自分が逸れるのを前提で考えんな。ナミは基本的に船から降ろさねェから、誘拐されるリスクのあるナミの物しか必要ねェよ」
「あ……!」
降ろさないの発言で、先程ベポと買い物に行く約束をした事を思い出す。それをローに伝えると、少し考える仕草をしてから、少し待ってろと言って去って行った。
本当に最近のローって分からないわ。持っていたトレイは残されていて、果物の盛り合わせと紅茶が二人分あるから、きっと私と飲むつもりだったんだろうと思えば、嬉しくなる。
……医学書の編纂を先にやってあげようかな。うん、ロー喜ぶし。
素直に笑ったりする事は少ないけど、瞳だけ輝かせたり、恥ずかしそうにしたりとかはちゃんとするんだから、可愛いわよね。そうして資料を広げて居たら、帰って来たローがそれを見て薄く笑う。
「ありがとな」
「いいえ」
医者としての仕事を私がするような形では、ローのサポートをするのは無理。でも、編纂した本を出してローを助ける事はできる。
それって案外、幸せな事よねと最近気が付いた。どんな形であれ、ローの力になれる事が嬉しい。
ローが戻ったからと、編纂の手を止めて位置を移動する。そうして2人で紅茶と果物を楽しみながら、最近布の消費が激しいって話とかをする。
それから新しい医療系の装置が出たらしいとの話になれば、物を見てから検討したいって話しなるのはある意味当然。買ってから使い勝手が悪かったでは、高い買物だから泣いても泣ききれないものね……それに……。
「置く場所がね……」
「それはあるな。だが、俺しか診れないってんじゃ困るだろ」
話を聞いてみれば、新作の装置はMRIのようなもので、確かにローは能力があるから良いけど他の人は……。確かに欲しい装置よね。
「そうね、ローに何かあった時に、治療できないんじゃ困るもの」
「ナミは、どうしてそう……俺を基準に考えるんだよ」
「愛する人の事を考えるのは、当然でしょ?」
首を傾げたらローはその頬を赤く染めて、帽子を深く被るから照れてるらしいと分かる。本当に可愛い。
でも、そんな考えが伝わったのか、ローは小さく舌打ちして私をベッドに縫い付けるように押し倒した。それには私が赤くなる番で、視線を泳がせればローがいつもの調子を取り戻して指先で、私の体をなぞるように撫でる。
「ロー!まだ昼間よ!」
「構うか。俺は船長で、いつ寝てるかも分からない参謀を休ませる事にしたって名目なら、いつでも使える」
「最近はちゃんと寝てるもん」
思わず少し膨れながら言えば、ローがふっと笑いながら問い掛けてきた。その色気に当てられて、顔が蛸の方がマシだと言いたくなるような勢いで赤くなる。
「……嫌か?」
「やじゃない、けど……」
顔を背ければローが笑ったのが分かり、どうしても慣れないのだと小さく訴えるしか出来なくなる。そんな私にローは、初々しいなと言って笑うけど、勘弁して欲しい。
「……ローに、触られると、幸せな気持ちになって、理性が飛んじゃうから……怖いんだもん……」
「ナミ、お前……ワザとかそれ?」
「え?」
「理性なんか、要らねェよ。俺だけ感じてろ」
「ロー……」
言葉に誘われるようにそっとローに手を伸ばした時、ドアがノックの意味を知ってますかと言いたくなる位の間隔で……寧ろノックと同時に開かれる。その犯人は、予想通りシャチだった。
ローは青筋を立てて、私は硬直して、シャチは青ざめながら準備が出来ましたなんて言いながら逃げ出したけど、ローからは逃げきれないと思うの。1人残された部屋で体を起こすと、既に開いているドアをノックしたペンギンが私に、ついてきて貰えますかと聞くから頷いた。
「だから、返事を待てっていつも言ってるのに、覚えないんだよなー……」
「幼馴染、だっけ?」
原作にそんな事描かれてたか不明だけど、ローが前にそんな事を言ってた気がして聞けば、懐かしそうにその瞳を細めた。でも、話の内容は微笑ましくない。
「嗚呼、船長と俺とシャチとベポは……多分そう呼んで間違いじゃねェと思うよ。俺とシャチでベポを虐めてて、それを見た船長にボコられたのが出逢い」
「今は皆仲良しさんよね」
「ナミの表現って、時々ツッコミどころ満載だよな」
何か変な事言ったかな?
そんな事を思いながら付いていくと、船が浮上したのが分かる。島にでも入るのかなと思って居たら、行ってらっしゃいと言われて甲板に続くドアに向けて背を押された。
ドアを開けて甲板に出ると、この世界特有と言うか、巨大過ぎるイルカの群れが目の前に姿を見せた。それに歓声を上げると、転ぶなよなんて声が背後からかかる。
「ロー?」
「イルカの群れが近いのが分かってな。追わせてた」
「何の為に?」
まさか、イルカを食べるの?
いやまぁ、美味しいとは聞くけど……。魚も肉も野菜も食べるのだから、イルカは可哀想なんて言うつもりは無いけど……でも……。
「……ナミが、喜ぶかと思ったからな」
「そんな事を理由に漂流したの?危ないと思うんだけど」
「……航海士としての意見じゃなく、ナミとしてはこの光景どう思う?」
「…………嬉しい、です」
「だろうな」
そう言って優しく笑うローに見惚れたら、軽く首を傾げてイルカ見なくていいのかなんて聞いてくるので、慌ててローから視線を外す。イルカは私が知ってるのに比べて軽く数倍のサイズだけど、それでも可愛い。
食べる為じゃ無くて、私に見せる為だと分かって、本気でホッとしてるし、本当に嬉しい。イルカって賢いから、いつも1緒に遊んでたりすると仲良くなれるらしいけど……危ない旅だからそういう事は出来ないわよね。
それでも、あちらではイルカショーでも無ければ、こんなに間近で見られなかった姿が目の前にあるのだ。手を伸ばせば触れられそうな距離に、イルカの群れが居る。
「贅沢ね……」
イルカを近くで見るのって、どれを選んでも結構お金かかるのよねと思うと、本当に贅沢な事してるなと思う。幸せだなと思ってイルカを見ていたら、ローが言った。
まるで天気の話でもするような気軽さと、微妙な真剣さで。つまり、特別な雰囲気なんて何も無い感じで。
「ナミ、俺と結婚しろ」
「へ?」
「彼女を辞めて、妻になれ」
「ロー?」
混乱する私に、ローは意地の悪い笑みを向けて、そっと額にキスを落とす。それをぽやっと見ていたら、ローは悪びれもなく言った。
「結婚する迄、ナミの男兄弟とナミは会わせねェからな」
「何それ!?横暴よ!!」
「……妬いてるって事で許せよ。それで、答えは?」
選ばせるの?断られても、構わないって事かな?
そう思ってローを見たら、当然のように肯定を意味する言葉の他は認めねェけど……なんて言われてしまう。答え方は選ばせてやると。
それを受けて私は、ふふっと笑ってしまう。ローらしいな。
「仕方ないから、結婚してあげるわ」
「……そう来たか。楽しませてくれるよ、ナミは」
そう言ってローは私を抱き締める。その指先が少し冷たくなっていて、本当は緊張して居たのが伝わって来てしまえば、素直になれなかった自分が少し恨めしくなってしまった。
強気に返さないと返事もできなかっただろうと自分で分かるから、他に返事のしようが無かったのだけど。けれどもそう思えば、私とローは案外似てるのかなって気付かされた。
「幸せにするから、1人で抱えないで」
「……あァ、幸せにしてくれ。その代わり、俺はナミを心ゆくまで泣かせてやるよ」
その時のローの声が、微かに震えていたのが、どうしても気になったけど……きっとそれは、私も同じだった。大切だから、もしも拒絶されたらと思うと怖い。
拒絶される筈ないと分かっていても、いざとなると怖くなるの。でもそれは、信じてないからじゃなくて、互いが大切過ぎるからなのよね。
必ず守るからと互いに言葉にせずに思う。それが視線を絡めただけで伝わって、何だか幸せだなと思うのだ。
そんな時、甲板に続くドアの所で声が聞こえて視線を向ければ、詰め込みすぎた荷物が飛び出すように折り重なって飛び出して来た皆の姿。それを受けてローは、低く唸るように言葉を向ける。
その表情を見れば、怒ってるんじゃなくて、照れてるのだと分かる。だから問題ないと判断して、ローの好きにさせる事にした私はイルカに視線を戻した。
「気を楽にしろ……」
「「「ごめんなさいキャプテン!許してー!」」」
「room!」
今日も平和で仲良しな様子に、私は見ないままに笑ってしまう。でも、天気もいいし、見られて顔も熱くなってるし……少しイルカと泳いだらダメかな?
「ロー!」
「なんだ?」
「ちょっと泳いでくる!」
「馬鹿か!?」
焦るローの声を聞きながら無視して海に飛び込んだ私が、戻ってからどんなおしおきをされたのかは、思い出したくもない。プロポーズした筈の相手に、流石にそれは無いと思うのよ……。
イルカと仲良くなれたかも、それはご想像にお任せしようと思う。ただ、潜水艦を追いかけるようについてくるイルカの群れがその後存在したのは、事実である。