片想いだと思っていたのに、ずっと私が気付かなかっただけだと言われて、驚きつつも心身共に恋人となったのは先日の事。ミホークが海に出る時は共に行き、それ以外は共にこの城で生活している訳だけど……。
ヒヒは作品を読んでいた頃のイメージとは違い、随分優しい。ミホークは〝主にだけだ〟とか言っているけど、そんな事が有り得る筈もない。
ヒヒ達は、私やミホークがいない間は畑等の世話をしてくれる他、武器を持った人が侵入すると襲いかかってくれるので、私はお城の塀の中までならば自由に行動出来るし、ミホークの敷地内であればミホークに声さえかければヒヒと共にならば歩いても怒られなくなった。ミホークもヒヒ達を信頼して居るんだと分かれば、何となく嬉しくなる。
言葉は通じなくても、言いたい事とかが分かるからかも知れないけど、私はヒヒを友人のように思っている。それに何だかんだ言いながら、ミホークは優しいし、面倒見も良いんだよねと思う。
簡単な物なら自分で作れるのに、ミホークは基本何も作ってはくれないから、これ迄どうやって生きてきたのかと心配になる。それを問えば、適当にはぐらかされてしまうのだけれど。
「ナミが作ってくれる物の方が美味いから、任せている。……今宵は何を作ってくれる予定だ?」
「もう!そうやってすぐに誤魔化すんだから!……でも、肉がもう無いから……野菜ドリアで良い?」
「……デザートは」
「梨のパイを予定してるけど、何か希望ある?」
「梨?」
「ゲッコーモリアの娘さんと仲良くなってね、ホラー梨って言うのを贈ってもらったのよ」
いつか彼女が飛ばされてくる事も、有り得るだろうか。もしそうなった時、追い出される事なく共にいさせて貰うにはある程度知っている相手の方がなんて思って仲良くなったけど、不要な心配だったかな。
だって……ミホークは優しい。多分、彼女が自ら出て行くと言わない限りはミホークが追い出す事など無いだろう。
「……ナミ!」
「え?な、なに?」
「何を考えていた?幾度も声をかけたのだがな」
「……魚ももう無いなぁって」
誤魔化す為に言ったそれに嘘はない。それに対してミホークは笑うと、ならば明日は買い物にでも行くかと笑ってくれた。
それに良いの?と聞けば、海軍にある程度金品を収める為にもたまには海に出ねばなと笑うから、それにお礼を言って食事を作り始める。そんな私を優しく見詰めてくる眼差しに、私は守られて甘やかされている事を自覚して切なくなる。
……だからこそ、夢があるなんて口が裂けても言えないけどね。共に生活するようになって2年、ここでの生活は幸せで、幸せ過ぎて……我儘になる自分を自覚して、押し殺す。
だってそれは、捨てた夢。その欠片を時々追ってしまうけど……全ての欠片を集めるなんてできる筈も無いと分かっているのよ。
「ナミ、荷物は用意出来ているのか。そろそろ行くぞ」
「前に1緒に行った時の荷物残してあるから、必要なのは食材だけよ。何が食べたい?」
「それ程長旅にはならん。海で適当に手に入れるからそれは良い」
「了解」
そう言いつつも途中で偶然海賊にでも会わなければ、ミホークは買物なんてしないで無人島辺りで動物を狩るだけなのも本当は知ってる。それでも、1緒に連れ出してくれるのだから、居させてくれるのだから、それだけでいい。
海に出て、ミホークが船を動かすのを眺めていると風の変化を感じて声をかける。それにより方向を変えたミホークは、サイクロンの通り過ぎるのを離れてから眺め、去った場所へと戻る。
海が荒れた後は、海面近くに酸素が増える為魚がそれを求めて浮上してくるので魚を取りやすくなるのだ。雨が降った後の湖や海も同じ事。
魚を捕っては確認して、食べられる魚だと船内に運び込み私に託して来る。それを保存できるように加工しつつ、加工出来ないような魚は仕方ないのでランチに食べられるように調理して行く。
そうしてやはり無人島へと向かったミホークが船を泊めるから、私は船からそっと島を見た。それにより初めての島だと気付いた私は、ミホークのマントを掴む。
「どうした?」
「私も降りたい」
「……良かろう」
許可を貰えたのでミホークの少し後ろを歩けば、ミホークが突然左腕を伸ばして私を抱き締めるから、ふぇ!?となる。そんな私を無言のまま左腕で抱き上げたミホークは、離れるなと言う。
それに小さく頷くと、ミホークは満足そうに笑いながら歩き〝肉〟を仕留めてくれる。お米とかはクーちゃんに後で配達を頼もうと考えながら、ミホークの腕の中で測量しているとミホークに声を掛けられた。
「ナミは、初めての島だとかならず降りたいと言うが、何を目的として居る?」
「んー……。測量」
あ、あの山少し変わった形してるわ。標高は……。
「測量して、どうする。俺は四皇では無い故に、縄張りは持って居らぬぞ」
「んー……。地図を描きたいの」
あ、川があるわ。……随分深いわね。
「地図を描いても、使わぬだろう。売るのか?」
「世界地図、描きたいの。自分の目で見た、世界地図」
あ……成程、ここが分岐点で片側が谷底へ続く川で、片側は島から海へ流れ出てる川なのね。下流で別れるとか珍しい形してるわ。
「ナミ、それは……」
「夢なの。小さい頃からの」
「魚共に強制されていた時の癖ではなくか?」
「うん。私の夢。だからこそ、耐えられたんだと思うわ」
……よし、測量完了!と思ってミホークに視線を向けたらミホークが少し悲しそうな顔で私を見ているのが分かった。どうしたのかなと首を傾げたら、ミホークはゆっくりと唇を動かして言葉を向けて来る。
「何故、言わなかった」
「……なにを?」
「夢があるのならば、何故それを俺にこれ迄告げなかったのだ?」
「…………え?あ、もしかして、私が測量してる時に話しかけた!?」
辞めてって前にも言ったのに、どうしてそういう事をするのか。無防備だから妙な事口にする事も多いのにっ!
「その時だけ、主は素直だからな」
「辞めてって何度も言っ「何故、隠していた。主が望むならば、俺は……何処へでも連れて行ってやるものを」」
それが……悲しかったのよとは、言えない雰囲気で困ってしまう。ミホークの生活を壊すつもりなんて、私には無いもの。
私が知る限りでは、ミホークが七武海として平穏な日々を過ごせる事に間違いは無い。地球の歴史では16世紀後半に始まるイギリスとスペインの抗争時、ヨーロッパやカリブ海では〝交戦相手国の船を略奪してもよい〟という国王の私掠免許が出され、私掠船が横行していたので恐らく王下七武海のモデルはそれだろうと思っている。
世界政府に服従し、天竜人に献金しない国は何をされても良いと、そう言う世界観だろうなと。だとしたならば、話が進むとその許可を突然奪われ、都合が悪くなったからと殺害する為に動く可能性は充分に有り得る。
実際ゲッコーモリアはルフィに負けた後戦争に参加したにも関わらず、その戦争の後で命を狙われていた筈。それはつまり、七武海とは政府に都合の良い道具でしか無いって事。
でも、それまではミホークの邪魔になんてなりたくない。迷惑なんて、かけたくないのよ。
黙ってしまった私にミホークは言う。答えろと。
「……私、ミホークの生活を壊してまで、夢を叶えたいなんて思ってないわ。この夢は前に1度捨てたの」
「夢を捨てた?」
「家族の命か夢かとなった時、私は家族を選んだ。もし、夢を選びその為に全てを捨てるつもりだったのならば、8歳のあの日、私はシャンクス達と共にこの偉大なる航路へ来ていたわ」
「……赤髪の女神でいる事を拒み逃げ出した時、夢も捨てたと?」
「そうよ」
だからもう、良いの。たまにこうして描かせて貰えたら、それだけでいいのよ。
そう思って笑った時、ミホークが私を両腕で強く抱き締めるから、片手は空けておかないとと言おうとしたのに、真っ直ぐに見詰められるとそれだけでもう、言葉を口に出来なくなる。ミホークの事を怖いとは思わないけど、この視線から逃げる事も私には出来ない。
「ナミ、俺は何をしていても俺だ」
「え?」
「俺がナミと共に海へ出る事を決断しなければ、そうはならぬ。つまり、ナミが願ったから俺が犠牲になると言うものでは無い。……だから、俺には隠すな」
「ミホーク」
「俺は、俺の意思でナミと共にある。だからナミは、俺を巻き込んだ等と気を病む必要はない。ナミは、ナミの決断をして、それが俺のものと合えば共にその道を進むと言うだけの話だ」
その言葉に、甘えたくなる。良いのかな……願っても、言葉を口にしても……許されるのかな。
真っ直ぐに向けられる真摯な瞳が、偽りではないと告げている。言葉にしろと、無言で命じてくる。
「私は……自分の目で見た世界地図を、描きたい」
「……共に行こう。丁度良い〝暇潰し〟程度にはなろう」
「ミホークッ」
私からミホークに飛びつけば、もう無意味に隠し事はするなと命じるような口調で、哀願される。それに頷いて私はミホークに自ら唇を重ねた。
波間の向こうを目指して、共に行こうと貴方は笑う。だから私も、前へと進む事が出来るの。
長い旅を共にしようと、ミホークが笑うから、私も素直に頷いた。この世界で、私はミホークと共に生きたい。