やっと取り戻せた温もりを求め、貪った俺の行動に問題はない筈だ。誘拐されたと言うのに気丈に振る舞い、強がるそれが我慢できなかった。
本当に強いのならばそれで構わないが、ナミはただ……強がっていただけだ。俺にまで強がるなんて、許せる筈もねェだろう。
「はっ……ぁ……ろー……も、やめ……!!」
「まだ……足りねェ……!!」
「くる、し……!の、こわれ、ちゃ……ああ!!」
壊れちまえと思いながら、理性を完全には手放せねェナミに切なくなる。俺の、最愛の女……。
結局意識を完全に失わせちまって、こりゃ不味いかと思ったところでコラさんとペンギン、そしてイッカクから叱られた。暫くして意識を取り戻したナミは、俺を見て泣きそうな顔をしたと思ったら、ベポに縋り付き……離れなくなっちまう。
その上俺が何を言っても返事もしなくなり……弱りきった俺がなんでも好きな事をしていいからと言った事で、漸く声を聞かせてくれた。その指先が微かに震えていなければ、俺はそれを言ってみただけだと判断しただろうが。
「なら、私1人で、買い物に行かせて!単独行動させて頂戴!!」
「馬鹿か!?ついこの間誘拐され「させてくれないなら、もう私、実家に帰らせて頂きます!」」
これは本気だと気付き、確かに3日寝かせずにやり続けたのは不味かったかと猛省する。そして、嫌々ながらも小さく頷いた。
ここで抵抗すれば恐らく、俺はナミに本気で怒られる。ナミは普段甘いが、怒ると手が付けられなくなるのは経験済みだ。
「分かった。ただ、何かあったら叫べよ。必ず呼べ。笛も持って行け。それから「私は幼子か!!もう今日は寝かせて。明日買い物に行くから、邪魔しないでよ!?」」
その言葉に分かったと言って頷くと、全くもう!!と言ってから、また顔を背けられてしまった。その背を見れば、怒ってると言うより悲しんでるのだと分かり、仕方ないなと苦笑しちまう。
確かに医者である俺がやっていい事じゃ無かったかと思うからこそ、つらそうに眉を寄せるナミに仕方ないと諦めたのは悪かったと自覚しちまったからだ。俺はこれ以上、ナミを傷付けたくねェ。
「もう、虐めないから、傍には居させてくれ」
「ロー……」
「それも……だめ、か?」
「……狡いなぁ。怒り続けるのも許してくれないなんて、本当に酷いわ」
困ったようにナミは笑う。それにホッと息を吐き出しそうになり、そうじゃねェよなと考え直す。
「ナミ、悪かった」
「明日、私を1人で買い物に行かせてくれるなら、許してしんぜよう!」
「……ベポかイッカク……「ロー?」」
「分かりました」
俺が折れるとナミは笑って、俺はその笑顔に絆される。結局俺に、勝ち目なんてある筈もなかった。
翌日、俺がついて行くとバレた時怖いのでベポ達に尾行をさせつつ俺は船内で待機する。だが昼になっても戻らず、昼過ぎに荷物だけ届き、本人は帰らねェ。
もう耐えられねェと迎えに行こうとして、クルーに止められていたらナミが帰って来た。本当にナミは、俺を翻弄する天才だと思う。
ぎゅうぎゅうと抱き締めれば、大袈裟なと呆れたように言われるが、お前はどれだけ自分が狙われてるのか自覚してくれと心から願う。結局その日、共に眠る事は許されたがそれ以上は許される事もなく、俺はただナミの抱き枕に徹した。
そうして迎えた翌朝、ナミがクルーと何やら話し合いをしているのを見掛ける。どうしたのかと話を聞けば、猛獣がいる代わりに美味しい巨大な豆がある近くの島を目指すか、それともこの辺りでのんびりするかと言う話がなされていた。
そういう事なら船長である俺に話せよと思うが、恐らく他の意見を聞いた上で俺に報告しようとしていたんだろう。ナミはいつも、俺の仕事を減らそうと努力してくれている。
「そろそろ暴れたい奴も居るだろ。その無人島へ向かい、降りたい奴は遊びに行かせて他はのんびりするか」
「健康祈願の季節イベントもやりたいのよ。だから、夕方には集まって欲しくて」
「なら、今日はそのイベントをやり、明日自由行動にするか。それなら遭難者が出ても困らねェ」
俺がそう言えばナミは、心にもない事言わないのよなんて笑う。心配して最初に飛び出すのはローなんだからと言われると、舌打ちのひとつもしたくなる。
ナミはコック達に恵方巻き等のレシピを伝えて、昼過ぎに鬼役をやる奴らの為にパンツを編んでいく。それを横目に見ながら新聞に目を通したり、本を読んだりしていると、ペンギンが珈琲を運んで来て穏やかに笑った。
コラさんが父親代わりだとするなら、ペンギンとシャチは兄代わりだったと認識しているのだ。だが……こういう兄貴振った対応には時にイラッとする。
「いつもの光景で、何だかホッとしました」
「……やり過ぎたのは自覚してるから、そう責めるな」
「1人で買物は、息抜きよりもお仕置きに近かったですね」
「……バラすぞ」
「酷いですね。ナミに泣きつきますよ?」
俺の凄むそれに笑ったペンギンは、ナミの方にだけケーキを置いてサッと立ち上がると姿を消した。それから鬼役全員分の毛糸のパンツを完成させたナミが嬉しそうにそれを見せて来るのを眺める。
「穴とか空いてないわよね?」
「綺麗にできてる。上手いもんだな」
俺の返事にナミは照れたように笑う。それから渡してくると言って俺の傍を離れて行き、少しすると甲板に集まったメンバーでの無病息災を願う催し物が開催される。
「鬼はー外!福はー内!」
掛け声と共に鬼役へと豆を投げるクルーを眺めながら珈琲を口に運んだ時、豆が俺にいくつか当たった。痛くもねェが、鬱陶しいな。
そう思って視線を向けると青ざめているナミとシャチがいて、犯人が即座に判明する。怒っちゃいねェが、そろそろ俺も兎を喰いたい俺としては好都合だ。
「シャチ、ナミ、言いたい事はあるか?」
「「ごめんなさい!」」
「シャチは、豆の後片付けを1人でやれ。いいな?」
疑問符を付けても決定事項なのは当然で、振り子のように同じ動作で頷くそれを見て俺も言葉を止める。それからシャチがそれ程強く怒られなかった事に安堵してるお人好しの腕を掴むと、その腰を抱いて囁く。
「何、安心してるんだ。ナミへの罰はまだ伝えてねェぞ」
俺の言葉にビクリと肩を揺らしたナミは、困ったような顔で俺を見る。本を取り上げられるのかとでも言いそうな様子に、薄く笑いその耳元で囁く。
「今夜、お仕置だ」
「え、あ、でも……!!」
「……今、ここでお仕置きされたいのか?」
言いながらその柔らかな尻を撫でて、その流れで揉むと泣きそうな顔でナミが呟く。鬼はここに居た、と。
鬼は目の前、服は剥ぎ取られるしか道はねェな。……これはまた、随分と良い節分の夜になりそうだ。