新聞に挟まってくる手配書を見ながら、もしかして会えるのだろうかと期待してしまうのは許して欲しい。私にはどうしたって、切り捨てる事なんて出来ないのだから。
私の手配書が抜けているだけで、他はそのままの様子の手配書を眺めていたらヒョイと伸びて来た手がその手配書の束を奪い取る。そして新聞に目を向けて、私でその視線を止めた。
「随分と……暴れたようだな」
「えぇ、ローと同じ……ルーキーよ」
「……〝麦藁屋〟か」
「無事に成長してて、素直に嬉しいわ。……あ、次の島はシャボンディ諸島になるんだけど、ログがないからちょっと待ってね。さっきの島で地図買ってきたのよ」
地図を広げながら言えばローが眉間に皺を寄せた。そして、突然腰に腕を回して抱き寄せるから、何事かとその顔を凝視する。
「麦藁屋と、知り合いなのか」
「え?えぇ、ルフィは私の弟よ……?」
「……弟?」
そう言ってから何やらブツブツと言い始める。少しばかり意味がわからないけど。
「あの時ナミはルフィを恋人と言っていて、俺が関わった事で運命が曲がった事で恋人以前に知り合いじゃなくなったと思っていが、それがどうして弟になるんだ。無関係か友人なら分かるが、弟……?」
「ロー?」
「弟は恋人になれねェだろ!?」
意味不明な言葉を口にしながら肩を掴んでくるローに、私の恋人はローだったし、今は旦那様だと思うんだけど……と言うような言葉を紡げば嫌そうな顔で、けれども納得したように頷かれた。そうして話してみれば、突然の話題変更。
飲み物を貰って甲板でローの話を聞いていれば、七武海に加入する為に集めてる心臓も目標数の半分くらいにはなってるらしいと知る。そんな物騒な話をしながら、地図や海図を広げてコンパスやログポースへ視線を巡らせればローが働き者だなと褒めてくれた。
それが嬉しくて笑えば、嫌味が通じねェなんて言われて首を傾げるけど、直後に方向を理解してベポに指示を飛ばして後は任せる事にした。航海士として頑張るベポを、私はこれでも応援してるのだ。
誰か見ても即座に下手!と言われるような事は無い地図や海図を描けるようになったベポを、私は誇らしく思ってる。それは私か教えたからとかじゃなくて、本人の努力の賜物だから。
「……ナミ、シャボンディ諸島は危険だ。コラさんと船内に残ってい「ロー、皆が不在で私とロシーだけの所に攻めてこられたら、その方が危険にならない?」」
待ってるのが嫌だなんて、私はこれ迄言った事がない。確かに測量したいと嘆いた事はあるけど、こんなにも降りられない事を嫌がった事なんて無いわ。
でも、この島だけは素通り出来ない。遊園地があるとかじゃなくて……この島で起きる騒動を知ってるから。
そんな状態でローから離れたくないし、叶うならルフィに……逢いたい。それでもロシーの事は、連れ歩くのが危険よね。
黄猿に会えば、流石に気付かれるわ。あの人、アレで細かい所まで見てるし、センゴクさんやおつるさんと親しいから、多分ロシーの事にすぐに気付くと思う。
「ロー、ロシー……提案があるの」
「「ん?」」
「ロシーと私は変装して、皆と行動を共にした方がいいと思うの。ロシーは、どちらに見つかってもリスクが高いから、本当は残していくべきだと分かるけど、実際ここまでの経緯を考えたらロシーはローと1緒にいるのだと予測を立てる事は可能だもの、そうなれば船が狙われるリスクが高過ぎるわ」
「俺とナミがここに残る方がリスクが高いと、船に居なければまだ誤魔化しは効く……ナミはそう言いたいんだな」
確認するように問い掛けてきたロシーに頷くと、ローがそれを見て溜息を落とした。それからロシーに、皆と揃いの繋ぎを渡して……え?
「いっそ目立て。女になってもらうぞ、コラさん」
「……それなら私に任せて、綺麗にしてあげるわ」
会話を聞いていたらしいイッカクがそう言ってロシーを連行して行く。それを見送って私も変装しようと部屋に戻れば、着いてきたローが嫌そうな顔をした。
でも、なんでそんなに嫌そうなんだろう。何か変な事してるかな?
「ナミも、変装するのか」
「見つかったら不味いんでしょ?」
「そりゃ、そうだが……」
「どんなタイプの女が好み?化けてあげるわよ?」
「俺の好みは昔から現在まで変わらず、ナミだけだ」
言われた言葉に一瞬動きを止めて、頬を染めたのは許して欲しい。だって、そんなの……狡い。
顔が、耳まで、ううん、首の後ろまで熱い。ローを、真っ直ぐ見られない。
「……よ、妖艶な、女泥棒風に、してみる?」
「近付く羽虫を全員始末していいなら、そうしたら良いだろうな」
「……ローしか見えない、可憐なお嫁さん風に、してみる?」
「それ、いつもと何が違うんだ?」
うっ……。確かに、ローしか見えてないけど、本人がそれ言っちゃう!?
よし、こうなったら。これでどうだ!!
「いっそ、男装してあげよっか!?」
「ナミなら、男でも問題無く愛する自信がある。だから俺は何も構わねェ」
「ロー……」
「ナミ……」
そのまま少しばかりイチャついてしまい、結局変装らしいそれを試す事は出来なかった。でも、レースがふんだんにあしらわれた白のワンピースを着て、ローとお揃いの帽子を被って、その帽子の中に髪の毛を纏めてベリーショートみたいにしたら充分別人。
そんな私にローは何故か満足そうで、変な鬘つけられたくなかったとか、化粧品もいつも程度の軽いのにして欲しかったなんて言われたら……。頷く他無いじゃない。
「サングラスでもする?」
「……ダメだ。サングラスなんて不吉な物使うな」
「不吉って……」
そんな事を言いながら到着したシャボンディ諸島で先ずは……と思って賭場に向かう。紹介者なしだけど……まぁ、交渉できるとは思うのよね。
そうして、賭場で身ぐるみ剥がされそうになってるその人にそっと近付いた。それに即座に気付いたその人は面白そうに私を見るけど、初対面の筈である。
「初めまして、コーディング屋のレイさんですね。仕事の依頼をしたくて来ました」
「見ての通り、身ぐるみ剥がされて足りない所を売られる事で補うって話になろうとしてるんだがね?」
「その代金、私が支払いますので、それで依頼を受けて頂けませんか」
「……良いだろう。宜しく頼むよ、ナミちゃん」
名乗ってないと思ってビクリと震えた私を、即座にローとロシーが庇うように前に出た。そんな私達の反応に冥王レイリーは小さく笑うと、500万だよ。破格の安さだろうなんて言うから肩から力を抜いて2人を押し退けて前に出る。
ここで守られていては交渉は出来ない。それに、この人が本気になったらうちのメンバーは誰も敵いはしないのだから、警戒するだけ無駄だわ。
「2人ともありがとう、大丈夫よ。……誰から私の事を聞いたのか、後程お話頂けますか」
「酒をご馳走してくれるのなら、ね」
そんな言葉に頷いて1括でその代金を支払い、レイリーさんに視線を向ける。それにより頷いたレイリーさんが歩き出せばそこから少し離れた酒場……ぼったくりバーへと、案内された。
「嫌な、名前だな」
「大丈夫よ。私がいて、ぼったくれる筈ないでしょ」
「「「「「確かに」」」」」
その場に居た半数以上の声が重なれば、舌打ちしたくなるのは許して欲しい。そうして話を聞けばやはりシャンクスが情報源で、私はけれども逆に問われた質問に僅かに答えに躊躇ってしまう。
「シャンクスにはコーディング屋をしてるとは言わなかったが……誰に聞いたんだね?」
「それ以前に、迷いなく冥王に会いに進んだナミが怖いよな」
「シャチ、黙れ」
ローの1喝で黙ったシャチは、そこからは空気だ。私はローの反応が怖いなと思いながら、ゆっくりと唇を動かした。
ローは、私が時々未来を知ってしまう事を知ってる。細かい情報を集めては、それを元に情報を精査してる事も理解してくれてるから、恐らく何も言わないとは思うけど。
私の知識はルフィを中心にしてるもの。つまり、ローと共にいる今は、それ程役立つ情報なんて無いのだ。
でも、これから発言するそれには、ローがどう反応すのか怖い。お願いだから、暴れないでよと祈るように願いながら口を開いた。
「魚人の、ハチから聞きました」
「ハチから?元気にしてるかい?捕まったと聞いていたので心配して「ハチは脱獄しましたから。後で、挨拶に来ると思います」」
「……そうか。元気ならいいさ」
「ナミ、詳しく話せ。何故脱獄を知ってて黙っていた!?」
ローの声に肩を竦めつつ、ハチの事は良いのよと言うけど、ロシーまで怒りを漲らせるから困ってしまう。今はハチより、レイリーさんだもの。
「そんなのもうどうでもいいわ。今はコーディング屋が必要なの。それとも……海楼石を大量に買い漁るか、船を乗り捨てるつもり?魚人島に行かないつもりなら、その2つの方法があるわ」
「「「嫌だ!魚人島に行きたい!キャプテーン!!」」」
泣きながら縋り付く数名にローが正気に返る。それを見てレイリーさんはまさか……と呟いた。
ただそれだけで伝わる。この人に、隠し事は出来ない。
「君は、魚人海賊団の被害者なのか」
「……アーロンパークと、ヒューマンショップは、よく似てましたよ」
「そう、か……」
そうして私達はコーディングの依頼をしてから、それが完成するまでの期間を平穏に補給を兼ねた買い物等をして過ごした。コーディングを終えてもらった翌日、ヒューマンショップでの競りが行われると情報が入り、ローがそこへ向かうと言うので私も同行する。
そこで想定通りのメンバーが居るのを眺めながら、問い掛ける。確か競り事態が無効になった筈だけど、念の為に……。
もしも私……いいえ、ナミちゃんが仲間にいない事で何か運命が変わるなら……それは補いたい。彼女はルフィのお友達だもの。
「ロー、買い物していい?」
「…………ナミの金でなら、好きにしろ」
「ありがとう」
そうして騒がしく入って来た麦藁の1味を見て、やはりルフィは居ないのねと思う。そして、人魚が競りに出されるとどうしたらと嘆く声が聞こえて札を上げる。
競り落としてやるわ。相手より先に声を出す必要がある。
「2億!!」
「5億!5億出すぇ~!!」
「7億!!」
そこからは天竜人と私の1騎討ち。その途中でハチが私に気付いて叫ぶ。
……あんたの為じゃないわ。ルフィが、悲しむから、ルフィが先に進むのに必要だからよ。
15億で私が人魚を競り落とした時、空から降ってきたルフィが飛び出そうとする。ダメだと思って駆け出すけど、ハチが腕を出す方が早かった。
「ハチ、逃げて!人魚は私が落とした。後でルフィに届けるから!!」
「ナミ!!」
「ナミ……?」
ハチが私の名を呼んだ時、ルフィがハッとした顔で私を見る。そして、抱きついて来て……直後にハチが撃たれてしまう。
ルフィはそこから私の知る話の通りに暴れて……。私はその場で泣きながら言葉を紡ぐハチに、そっとその場で視線を向ける。
「ハチ……久しぶりね。ルフィと知り合いだとは、思わなかったわ」
「俺を無条件で助けてくれて、ケイミーを助けるのも、手伝ってくれたんだ。それで、お礼にと思ったのに……巻き込んじまった」
ルフィとハチはどうやらここでのそれが初対面に該当したらしい。だから確執はなかった様子だけど、それならそれで理解出来る。
ルフィは人魚を助けて、ハチを助けて、それからまた人魚を助けたのだろう。その結果いい人間だと理解したハチが、強い彼等が居るならと遊園地に……と、そんな流れなんじゃないかなとわかる。
「……そう。……ロー、お願い。ハチの銃弾だけ、抜いてあげて」
「ナミ!!自分が何されたかわ「忘れてないけど、この間も言ったけど、ハチは良いのよ。唯一、人畜無害なアホだったんだから。ね、お願い」」
そう言って笑った時、ローは諦めたような顔で笑った。それからハチの中から銃弾を抜いてくれたので、ありがとうと言ってローの傍に戻る。
私の帰る場所は、ここだから。ルフィが天竜人を殴った事で共犯扱いされてしまったけど、再会を喜び合う暇もなく別れる事にはなったけど、結果的にお金は減らずに仲間が増えた。
問題は唯一、騒ぐルフィとそれにより苛立つローの状態にある。……今夜、寝かせて貰えなかったらどうしてくれるのよ。
「ナミ!俺の船に乗るだろ!!」
「ルフィにはルフィの仲間がもういるでしょ。いつまでも甘えないの!エースもサボもひとり立ちしたのに、いつまでもルフィだけ甘ったれで……「ナミ、サボの事、知らねェんだったな」」
そんな事を言うルフィに、けど時間が無いからまたねと言って別れたのだ。この時私は、大きな決断の時が迫ってるのだと気付いていなかった。
話の流れを変えなければ、到着した時には既にエースは死んでいるのだと……この時はまだ、思い出せていたなかったから。波間の向こうを見据えて、ただ今を必死に生き抜く為に、大量にいる熊との戦いを控えている現実に追われていたから。