どうしたら良いんだろう。どうしたら、エースを助けられるだろう。
予定通りに進めば、私達が到着した時、エースはもう死んでいる。でも、こんなにも優しく、けれども強さの足りない大切な人達に、戦争に参加してくれなんて……どうして言えるだろう。
少しの時間を開けて、気が付いてしまった真実に震えてしまう。残酷過ぎる現実に、涙が溢れそうになる。
そうして悶々としていた私の背を押してくれたのは、仲間達だった。ローに全て吐くように言われて、増えた仲間も伴いレイリーさんを巻き込む事に成功し、その流れで熊とのやり取りも直に聞く事が出来たのは大きい。
でも、それはならば革命軍を巻き込めるかと画策して、けれどその結果、サボはやはり記憶が無いらしいと分かれば苦しいばかり。協力は、それだと仰げないわね。
「ナミ、氷が張った後で戦争の騒ぎに乗じて参戦するって事で間違いないな?」
「うん……」
「俺はナミの言う最悪の瞬間に樽と火拳屋、そして麦藁屋を入れ替える。その為に1定の距離を保ちつつの参戦になるが……何が起きても俺の傍を離れるなよ」
私はそれにもう1度頷いて、運命を変える為に海中から戦場の様子を見守る。私の知る通りに話が進み、それを聞いていた皆が息を飲みながら様子を静観していた。
そしていざとなった時、ローが言ったのは距離があり過ぎると言うもの。なら、どうしたらいいの!?
「そんな……どうしたら……こうなったら」
1人でも突撃するしか無いとクリマタクトを握り締めた時、レイリーさんが私の頭を軽く撫でてローに視線を向ける。その意味が分からなくてじっと見つめてしまう。
「ロー君、足の速さに自信はあるかね?」
「……あんたにゃ及ばねェだろうが、世間的に見てノロマじゃ無いつもりだ」
「ならばいい。2人共、私の後に着いて来なさい」
私には足の速さを聞かなくていいのかな。そんな事を思った時、ローが静かに頷いてから言葉を口にした。
「確かに、それなら近付けるか。……ありがとう」
「まさか……護衛してくれるんで、すか?」
「可愛いお嬢さんの憂い顔は、見たくないものでね。……さて、行こうか」
声を上手く出す事も出来ずに震わせてしまう私に、レイリーさんは微笑む。それに泣きそうになるけど、泣いている場合では無いのだ。
引退した筈の伝説が、もう1人姿を見せたその場は騒然となる。そして、レイリーさんの姿を認めた白髭海賊団の船長が1言、敵じゃねェと言えば白髭海賊団がこちらを攻撃して来る事は無かった。
雷を落としながら突き進む私にレイリーさんは楽しそうに笑い、ローは呆れを隠さない。勿論レイリーさんに任せきる事も出来るとはわかってるけど、そうはしたくなかったのよ。
これは、私が私の家族を取り戻す為の戦い。運命という大きなものに挑む行為だから。
「ここでいい。ここなら届く」
「ルフィが、動くわ……」
「なら、上で揃うのを待つか」
「え?だって、最悪の時を狙うんじゃ……?」
驚いて顔を見上げれば、ローは真っ直ぐに処刑台を見据えて言う。視線は私に向けられてないけど、私から意識を逸らしてはいないのだと伝わる。
「悲劇なんてのは、そもそも起こさせなけりゃ話が早ェだろうが。……交換する物には事欠かねェから、任せておけ」
「なら、その近くにいる兵士も連れて来て!!お願い!」
「どっちだ」
「意識のある方!!」
「分かった」
ガープさんをルフィが殴り、エースの元へと到着する。その瞬間、ローが3人を移動させ私の目の前に連れて来てくれた。
私は何も考えずに二人を抱き締める。生きてる二人に、また……逢えた……。
「エース!ルフィ!」
「「ナミ!?」」
「挨拶は後よ!ミスター〝3〟だったわよね!?ありがとう!ルフィ、鍵を!!」
「あ……おう!!」
モタモタしてるルフィから鍵を受け取りエースを解放してから、ミスター3は人混みに紛れられると判断して私はローの能力でエースとルフィと共に撤退する為に距離を稼ぐ。その時、ワープした先に白髭さんが居るのを見れば、挨拶をする時間をと願ったのも当然だろう。
この場を白髭さんが生き延びたとして、その病が白髭さんを生かしてくれるとは……。待って、生かしてくれる事が……ローなら……?
知らず、縋るように視線を向けていた。運命を私のわがままでこんなにもねじ曲げる事を、世界は許さないかもしれないけど……罰なら受けるから……助けられるなら助けたい。
「ロー……」
「……どうしてナミは、頼るのがいつも、他人の為なんだよ」
「でも……エースのパパだし……」
「「「「パパ……」」」」
微妙な顔をするロー、白髭さん、エース、ルフィに首を傾げれば大爆笑しながら姿を見せた人が居る。関わりすら殆ど無い筈の四人が、同じ顔をしたのが面白かったのかな?
「いや……笑わせて貰った。……折角のチャンスだから〝パパ〟は、そこの青年と息子達を連れてこの場を去る事をオススメする。……ナミちゃんもね」
「ですが、レイリーさんの事は今回私が無理に巻き込んだんです!私が先に逃げる訳には……!!」
「行きなさい。そこの青年も、今回無理に助け出した2人も、まだまだ私には遠く及ばない。ナミちゃんはわかる筈だよ」
それは決して怒鳴っても怒っても居ない。諭すのでもなく、ただ淡々と真実を私に突き付けているのだ。
私は、これ以上のやり取りは無駄と判断して頷く。ここは、従うべきだと分かるから。
「……足手纏いと、言う事ですね」
「悪いね」
「おい、レイリー。俺まで足手纏い扱いか」
割って入った白髭さんにレイリーさんは笑う。さもおかしいと言わんばかりに。
「ニューゲートは、治療に専念したまえ。その青年は腕のいい医者だよ。君の死がどんな意味を持つのか……考えるまでも無いだろう」
暫し見合った2人は、それぞれが同時に視線を外し、動き出した。これは運命を大きく変える決断であり、それがローを否応無く巻き込む事をわかっていて尚……私はこれを選択する。
「ロー……巻き込んで、ごめんなさい」
「馬鹿か……1人で勝手に動き回られるより、ずっといい。もう少し、頼れ。そう言う誓いを立てただろう」
「うん……ありがとう」
ローと見つめ合い笑みを浮かべれば、優しく頭を撫でてくれたローと共に意識を即座に切り替えて駆け出す。その途中でエースが嫌そうな声で話しかけて来た。
「ナミ、そいつ……なんだよ」
「そうだ!エース聞いてくれよ!ナミそいつとケッコンしたんだってよ!!」
「はァ!?ナミは俺のだろ!?」
「何言ってんの……」
エースの言葉に思わず突っ込んだ。そんな私にルフィも頷く。
「そうだ!何言ってんだエース!ナミは俺のだぞ!!だからよ、虎男もセットで良いから俺のとこに帰れって言ってんのに、ナミ聞かねェんだよ」
「……私は何年も前からローのモノよ!!」
「「違う!!ナミは俺の!!」」
騒ぐ阿呆兄弟をひと睨みして駆け抜けるけど、先を走る白髭さんがいる限り冗談抜きで無双状態である。吹き飛ばされる海兵達が、むしろ哀れ。
それでも時折エースは火拳とか繰り出すし、私も雷を落としていたら白髭さんは良く似た姉弟だと笑うので、自慢の弟ですと返事をしておく。自慢で可愛い大切な弟は、俺のが歳上だと騒ぐけど、今は無視である。
このメンバーで走っていれば、挑発されたからと言って戻る事は無いだろう。イザとなれば、嘲りを受ける本人が間違いなくエースを止めてくれる。
もしそれでも無理なら……私が命にかえても守ってみせると決意しているから。それに、その時はローも手伝ってくれる。
そうしているうちにシャンクスが到着して戦いが終われば、歴史が変わった事を否応なしに痛感させられる。何せ……〝海軍勝利〟の筈が〝白髭海賊団勝利〟での終幕となったのだから。
その大きな理由のひとつが、レイリーさんだ。彼が現れた時、鷹の目が早々に離脱したのは大きかった。
そして、私とローを見付けたドフラミンゴが笑いながら姿を消したのだから、その戦力差は計り知れない。ただし、私とローの存在にドフラミンゴが気が付いた事実は、恐ろしく重い。
何とかその場を後にした私達は、その後エースの奪還成功と、参戦してくれた人達への感謝を込めて宴を開くと言われ参加する事となった。これによりルフィの成長が遅くなるかも知れないけど……それでも、誰も喪わずに済む方が大切だと思えたのだ。
「ナミ、助けに来るなんて……何考えてんだよ」
「弟のピンチに行かない訳ないじゃない」
宴の席で、白髭さんの検査をする為にローが離れた瞬間エースがそう言って近付いてきた。だからつい、冷たい声が出てしまう。
けれどエースは納得しようとしない。結局の所エースは、私を女だからと見くびり侮ってるのよね。
「危ないだろ!死んだら、どうするつもりだったんだよ!!」
「……エース、逆の立場なら助けに来たんじゃないの?」
「そりゃ……」
「エースより、私の方が強いのよ。その私を、エースが助けに来るって言うなら私が助けに行った事に対して怒る権利なんて無いわ」
私の言葉に宴だと言うのにシン……となるのはどういう事か。それにはエースもハッとした様子で、それからモゴモゴと何か言い始めるから、つい胡乱な視線を向けてしまう。
「俺のが歳上だし……」
「中身は昔から変わってる気配が無いわね」
「俺、強くなったし……」
「私は昔のままだと言いたい訳?」
エースは言葉に詰まる。根本的な問題として、エースが私に口で勝てる筈無いのよ。
「ナミは俺のなのに勝手に結婚してるし……」
「まぁ……連絡しなかったのは悪かったけど、結婚に対して弟の許可なんて普通いらないでしょ。神父はシャンクスがしてくれたわよ」
「は!?シャンクスさんが!?」
「あれ?知ってるの?」
ルフィは年中遊んでもらってたけど、エースやサボとの関わりは知らないかも。でも、そう言えばちゃんと名前とか知ってたわね。
でもなぁ、シャンクスは覇気全部使える筈だから、それは当てにならないわよね。そう思って考えていたら、エースが言った。
「……何度か、ガキの頃も会ってるし、その後もルフィの件で挨拶に行ってる。……そっか、あの時の事、ナミ覚えてなかったもんな。確かにあの時のナミにはまだ勝てる気がしねェ……」
「…………あの時?」
「……もう、時効かな?ルフィが拐われて、俺とサボが怪我した時にナミが助けに来たんだけど……覚えてねェ?」
「うーん?……どれかしら?似たような事が何度かあったから、断定出来ないけど」
困ってしまう私に、エースも弱った顔を見せる。それから少し考えるように上を見たエースの言葉を告げて来た。
「命がヤバそうになった奴で……ナミは、シャンクスさん達と航海に出てて、その間にルフィが拐われて、帰って来たナミがシャンクスさん達を置き去りに助けに来たんだよ。まァ……うん、あの時のナミは怖かったな」
「思い出せないわ。でも、弟に怪我させる奴等なら……別に死んでも構わないと思うものでしょ?」
笑顔で言い切る私に、エースは深く溜息を落として過保護な姉は狂気じみてたなんて意味のわからない事を呟かれる。でもとりあえずは、その時も今も無事だったんだからそれで良いわよね。
そう思ってエースの頭を撫でていた私をエースが抱きしめた時、耐えられないとばかりにローが私と樽を入れ替えた為に、気が付けばローの腕の中に移動していた。弟との戯れも許してくれない旦那様に、けれども白髭さんの病はどうなったのかと近くに来たついでにたずねる。
そんな私はローが治せると言い切った奇跡により、運命の歯車を大きく変化させてしまった事に気付けずにいた。誰も知らない物語が、始まろうとしている現実が私には見えていなかったのだ。
波間の向こうを目指して進む船は、この先に待つ未来が荒波なのか穏やかな凪なのかを教えてはくれない。それでも、私達は進み続けるしかないのである。