大歓声が沸き起こったのを聞いて、これで解決したのだと気付かされる。人助けを海賊がするなんて馬鹿げてると、そんな事を口にしながらも人に被害を与えるような海賊を狙って心臓狩りしてるのだから、素直じゃないなと思わされるのも当然。
でも、ローに言わせれば懸賞金のかかってる奴は、金額が上がる程人への被害が大きいんだから当然不可抗力だ……と言う話。お前の弟が可笑しいんだと、最後に付け加えられてしまえば反論の余地は確かに無い。
心臓を取った相手の手配書を、そっといつものようにファイリングするとローに声をかけた。これで、全体を通して換算すれば心臓200個目となる。
「これで、この間ロッキポートで手に入れた〝心臓〟100個を除いて、こっちも100個になったわ。取った相手の手配書も揃ってる。……どうするの?」
「あァ……揃ったか。今回はコラさんの事もあるから、確実性が欲しかった為にあの事件に関わったが……。それなら、本部に乗り込むぞ」
そうして私達はローの指示に従い、海軍本部を目指した。その事についての問題は無い。
あの戦争を始めるより以前からの計画でもあったし、皆も同意していたから。そうして海軍本部へと乗り込みローが交渉していた時、既に隠居の身となっていた元〝元帥〟であるセンゴクさんが船へと歩み寄って来たのだ。
それは、クルーを震え上がらせるには充分で、けれどもそれは同時に別な理由で震える大男の存在がその緊張感を破壊する。彼を留守番させたのは、戦闘になるリスクが高かった事に加えて、恐らくはこれを狙ってたのね。
「……ロシナンテ、なんだな?」
「……っ!セン……ゴク、さっ……!」
言葉を詰まらせて、でも、動きは見せない。震える姿はその巨体を随分と小さく見せる。
「ロシー、大丈夫だから、話してきなさい。皆と待ってるから、私は大丈夫。ロシーもセンゴク元元帥がいれば大丈夫だから、ね?」
そう言ってその背を押せば、頷いた大男は泣きながら老齢である筈のその人物へと駆けていく。飛び付いたそれを軽々と抱きとめて、目尻に涙を溜めたその姿は……紛れも無く父子の再会だろう。
センゴクさんだって巨大な人だと思うのに、ロシーの方が15cm位は大きいだろうか。でも、どちらもいつもより小さく見えるのは、きっとこの状況が理由。
ざわめく皆には、大丈夫だからと問題も危険もないと言って宥めるように話をして、その場を抑えた。ロシーとセンゴクさんが抱きしめ合って会話をしているのが見えるけど、私はそれに参加する気は無い。
例えロシーが何かにつけてはこちらに視線を向けて、指さして何か言ってる様子でも、私は気にしないのだ。関わったら面倒な事になる気がする……!!
それから小一時間もしない内に帰ってきたローが、そんな二人の横を嫌そうな顔して通り過ぎた。それには少し笑ってしまったけど。
「お帰りなさい」
「あァ、ただいま。今日から俺は七武海だ。ナミを含めた俺の仲間達の手配書は削除されるから、安心しろ。もうあんな手配書を目にする事はない」
「あ!あれは……!!だって……雑誌のモデルって言われたんだもん」
「少しは疑えよ。……まぁ、可愛く撮れては居たが、羽虫が多くなって苦労が増えた」
そんな言葉にごめんねと笑っていたら、ロシーが泣き腫らした様子で帰って来て、ローに縋るような眼差しを向けて電話時々しても良いか?なんて聞いて頭を殴られていた。ローにしては珍しく攻撃的だわ。
「……今日から七武海だ。海兵と連絡取るのはおかしくねェ。……生きてる間しか、親孝行なんか出来ねェぞ」
そう言って船室に戻るその後ろ姿が悲しげで、私はローを追い掛けるようにして部屋までついて行った。部屋の中では、声を押し殺して泣くローがいて、背後から抱き締めれば私の腕にそっと手を重ねるローが、小刻みに震える。
その涙が、喜びか、悲しみか、安堵か、その正体は不明だけど……船長として立つ以上、どうしたって見せられない物もある。それが分かるから、私は黙って、ローの心が安定する迄傍にいた。
その心が安定する迄、私が全力で甘やかして翌日寝込んだのは言うまでも無い。それでも、私としては何も問題は無かった。
それから先は、暫く安定した日々が続いていた。ロシーは定期的に父親との連絡を取り合えるようになり、私達はのんびりとした航海を続けている。
「キャプテン……新世界に入ったけど、この後どうするつもりなんですか?」
「……安全な場所ってのを探してる。それに検討が着いたら次の段階に入る予定だ」
シャチの言葉にローは淡々と答えて、それに反応したのはベポだった。そんなベポの言葉にローは興味を示して身体を起こしたのだから、本当に何か計画があるらしい。
「安全って、他人から見付かりにくい……島民以外に会わない所って事?」
「そうだ」
「それなら、俺の故郷がいいかも。俺〝ゾウ〟出身だから、ビブルカード持ってるよ」
「ゾウか。それは良いな。……よし、コラさん、俺1人でやるべき事があるから、皆を引き連れてゾウへ向かってそこで次の指示を俺が出すまでは潜伏して居てくれ」
「ロー!!」
思わずその服を掴んだ私に、ローは困ったような顔をする。私がローの弱点なのはわかってるけど、1人で危ない事させたくない。
皆は私のそれにより言葉を失ってる。分かってる、こんなの迷惑行為だって事は……!!
「連れてってくれないなら、行かせない!!」
「……いいだろう。なら、ナミも行くぞ」
「え?いいの?」
自分から言い出したけど、許可が出るとは思って無かった。だからこそ動揺してる私なんだけど、ローは楽しそうに唇を歪めると私の腰を強く抱き寄せて旋毛に軽くキスを落とす。
私もローも、喪失に対してきっと恐ろしく敏感になってる。鈍化できないのは、きっとある意味で弱味だろうとはわかっているけど、こればかりはどうにもなりはしない。
「離れてても、不安で気が狂いそうになるなら、見える範囲にいてもらった方が守りやすいだろ」
「……そうね、正しいわ」
傍にいれば守れる。確かにその通りだからと気を引き締めたら、なんか逆に取られた気がすると呟くローが居たけどよく分からない。
ローの事は私が守ると決めて、そっとクリマタクトを撫でた時、ふと思い出した。結婚式で再会した後、戦争までろくにやり取りしてなかった事を嘆かれて、最近は定期的に連絡を取り合っていたシャンクスがこれは鷹の目経由のベガパンク発となる作品だと。
……なら、王下七武海となったローならベガパンクに会えるんじゃないかなと気付く。鷹の目が会えたんだから、ローだって。
「……ロー、ベガパンクに会いたい」
「………………どうして?」
「この、クリマタクト……ベガパンクが作ったの。改良して貰いたいから、お願い!」
「……色々聞きたい事が多過ぎて動揺した。順を追って説明してくれ」
ローの言葉に頷いて、二人で1旦部屋に帰った。そこで、手紙で知った事実を時系列に並べ直して説明すれば、ローは頭が痛いと言う。
鎮痛剤は誤魔化す為のものだから、根本的な解決にならないのよね。そうなると……ローの場合眼精疲労とかから来るものである可能性が高いから、ブルーベリーの紅茶でも入れてあげたらいいかな。
よし……!すぐに入れて来よう!
立ち上がったその時、突然掴まれた腕により動きが阻害されて、犯人を見たら違う……と言われる。ローは最近妖怪サトリになろうとしてるんじゃないかなと、そんな風に思わされるのはこんな時。
私何も言ってないのに、なんでわかったんだろう?
「理解はした。だが、七武海本人ならともかく、そのクルーが会うのは難しいだろうから少し待て。俺が掛け合ってから、電伝虫で直接やり取りできるようにする。……それと、頭痛は1過性の症状だから気にしなくて構わない」
「ありがとう。どう改良して欲しいのかとか、話したかったから」
頭痛の件は少し気になるけど、医者であるローが大丈夫と言うなら、大丈夫なのかな。そうは思うけど心配でローの頭を撫でれば、ローはその瞳を微かに眇めた。
それにしても、ベガパンクってどうして鷹の目に協力したんだろう。海軍と七武海は同盟を結んでるけど、実際は休戦中の敵同士なのに。
元々情報の少ない人だから、自分で調べてみるしかない……かな?
「ナミのクリマタクトが用意出来るまで、俺は別な方面で活動する。潜入する必要のある相手がいるからな」
その言葉で思い出す。確か、原作でローとルフィが同盟を結んだのはローが研究所にいた時だったわ。
雪の能力者に、雪の中で会話してて全て聞かれちゃったって……感じの事は覚えてるんだけど……流石に二十年近く前の話だから記憶が曖昧ね……。そんな事を思いながら、私はローの指示の元皆と行動を開始する。
私の知る話では、ローはロシーの敵討ちの為にドフラミンゴを狙ってこの作戦を立てた。自分ではドフラミンゴに勝てないだろうから、生命をかけて復讐する為に。
自分は死んでも、工場さえ破壊出来ればドフラミンゴは殺される。そう思っての作戦。
でも……ロシーは生きてる。なら、七武海になった今、どうしてドフラミンゴと戦おうとするの?
ドフラミンゴと関わらなければ、ロシーが殺される事はない。ローにとって大切な人は、今全員ここに存在してるのに……。
「ローは、どうして?」
「……ナミは、やはり俺の目的にやはり気付いちまったか。……だから、皆と避難してろと言えなかった」
「え?」
「クルーが知れば、泣き叫んで妙な事される。全てを知るのは、俺が死んでから……それなら、アイツらがその先で海賊を無理に続けなくとも問題はねェだろ」
海賊を続けたい奴だけ続けたらいいと、そうでなければ大人しくゾウに住み着けば生きて行ける。ベポの故郷であるなら、その仲間を酷く扱う事はないだろうと言うローに本当に人の事しか考えないんだからと思う。
物騒な二つ名だけど、ローは結局は優しいのだ。本来ならば子供や老人達に人気の街のお医者様として生きていて、ちゃんと寝ないとダメですよってナースに叱られて苦笑するような生き方をしていた筈なのに。
どうして1人で苦労しようとするんだろう。1人だけ犠牲になって、皆を守って満足して……と、そこまで考えて、私も同じ事をしようとしてたと気付く。
なら、私があの日助けられたように、今度は私が助けたい。皆を巻き込みたくないと言うなら、それは構わないけど、私は傍に置いてもらわなきゃ。
「皆に、知られない為に私を皆から引き離したかったって事ね」
「それは大きい理由だが……それだけじゃねェな」
よく分からない。他に、どんな理由が?
首を傾げた私に、ローは笑って私の髪を指に絡ませる。そのまま愛しげに髪にキスをするから、私は言葉を失いローを見詰めるしか出来なかった。
「死ぬ時は、共に死にたいと思った。……最期まで付き合え、ナミ」
「うんっ!!当然じゃない、私は……ローの、参謀としてここに居るのよ。本業は航海士。何処へだって、連れて行くし、最期まで共に進むわ」
迷い無く、躊躇いなく、言い切る。そんな私をローは強く抱き締める。
「ナミ、愛してる。悪い、手放せねェ……」
「馬鹿ね……。手放しても、勝手について行くわ」
涙が勝手に溢れて零れ落ちる。最期になるなら、独りで逝くとローなら言うと知っていた。
なのに、ローは私を手放さないと言ってくれる。私を独り遺す事はしないと、そう告げてくれるのだ。
「ねぇロー。皆と別れたら、潜入前に温泉行きたいわ」
「……俺に、貪り尽くされたいって事でいいな」
「勿論よ。お残しは、許しません」
「安心しろ。骨の髄まで、しゃぶってやるよ」
甘えるように言ったそれの返事は、ローの場合冗談では済まされないと知ってる。それでもそれを受け入れてしまいたくなる位に、私はローしか見えてないのだ。
その暫くの後、ベガパンクと連絡を取った時、ベガパンクが私と話し始めると同時に号泣した。その上で、なんでも作ってやるから無茶だけはしないでくれと懇願されたのは、今生において最大の謎と言っても過言ではないだろうと思う。
そうして完成した
それでも、恐らくは目的もやり方も、そして恐らくはその生命を失うシナリオも……私の知るそれと同じだろう。ローがそれによりどうなるのだとしても、西方浄土へ続く長い旅を独りで行かせる事はしない。
そう決意して、私は笑った。叶うならローだけでも生きて貰いたいけど、そうなったらきっと自暴自棄になってローは私を追いかけて来るから、少しだけ待って……共に行こうとそんな事を考えながら。