ミホークと共に1度シッケアールに戻った後、ヒヒ達に植物の世話を頼んで私達は出発した。戦いに関してはミホークに、日常生活については私に似たとミホークはヒヒを見て言うけど、全体的にミホークに似たんだと思う。
ミホークも元々園芸とか家庭菜園好きみたいだし、ヒヒの気性はそもそもそんなに激しくなったもの。そんな事を考えながら途中で出会った海賊を狩り、ソレを元に稼ぎながら必要な物を買い足して進む二人旅は、長閑で楽しい。
原作が始まるまでにはまだ少し時間があるからと言うのもあるし、ミホークに勝てる相手なんて中々居ないから、ミホークと1緒なら幾らでも海図や地図を描く為に進んで行ける。島にして5個の地図が描けると、その間に該当する海図もセットで1冊として本にして売りながら進む。
これはミホークに言われてやってるんだけど、どうやら私が世界から狙われなくする為にやるように言ってるらしいと気付く。ミホークの保護下にある、クルーとして話を通してあっても世界政府としては厄介な物を多く出版してる宝玉を、黙って見逃しはしないだろうと言うのがミホークの見解。
……多分、それは正しい。だからこそ、世界政府としても有益となる物を出版する事が必要にもなると言われれば、確かにその通りだなと思う。
「ナミ」
呼ばれる事にいつの間にか慣れていて、私はその声に振り向く。そこには恐ろしくも甘い眼差しで私を見て来るミホークがいて、ただ見られているだけなのに頬が熱を持ちそうになる。
素直になりきれない自分が、まだまだ子供に思えてしまうけど、恥ずかしいんだから仕方ないじゃない。だからこそ、頬を赤くしながら言葉を詰まらせそうになるのを必死で耐えてたりする。
「な、によ?」
「次の島には、数日滞在する。そのつもりでいろ」
「そうね。布とか幾つか買い足したい物もあるから助かるわ」
冷静なミホークの言葉で、私も少し冷静になる。名前呼ばれるだけで赤くなるとか、どうなのよ私!
「……料理の善し悪しと、景観の良さならばどちらが好みだ?」
「景観かしらね。食事は、安全ならそれだけで良いわ」
「島の海域に入った。危険も無い。少し休むといい」
気遣われてるなぁと思いながらも、逆らう理由も特に無いので素直に船内に戻りソファに身を預ければ、思っていたよりも疲れていたのかそのまま眠りに落ちてしまった。それからどれくらい寝ていたのか、ミホークに肩を叩かれて目を覚ますと今日はこのままここで休むかと問われる。
でも、買物も行きたいし、この島の測量もしたいしと言えば後日でも出来ると言い捨てられてしまう。ミホークはこういう所、合理的と言うか、無駄がないと言うか。
「……無理をさせている自覚はある。最近ろくに寝かせていなかったからな。今宵は何もせぬから、このまま少し休め」
……連日抱き潰してきた犯人にそんな事を言われてもと思いながらも、ミホークが精一杯気遣ってくれてるのは分かるから笑顔で頷いておいた。そのままソファで寝ようとしたら、何故か当然のようにベッドに移動させられてしまう。
「……何もせぬから、大人しく寝ろ。そもそも、ナミが可愛すぎるのが原因だ。多少は我慢しろ」
意味が分からないレベルで理不尽な事を言われた私は、相手をする気力も無くてそのまま眠りに落ちる。朝目覚めるといつもの様に私をミホークが抱き締めていて、どうせこの腕から抜けられはしないからと再び眼を閉じるとミホークが笑った。
「起きたか」
「ん、ミホークも起きてたの?おはよう」
「……シャワーでも、浴びて来るといい。食事は島で適当に取るぞ」
「ん、分かった」
まだ少し眠いけど、シャワーを浴びたら目も覚めるかなと思いシャワーを浴びに向かう。……なんか、気の所為かな、最近前よりもミホークが私に甘い気がする。
付き合い始めてから、日増しに甘さが増してる気がするのよね。そんな事を考えながら、私はシャワーを終えた。
バスタオルを巻いて顔を出すとミホークに髪を拭かれて、投げ渡されたのは真紅のドレス。思わずミホークを見上げれば、安い店では絡まれて面倒だと溜息と共に言われては確かにと思う。
身支度を整えながらミホークを盗み見ると、普通にタキシード姿でそれがまた似合う。……執事服とかも似合いそうとか、余計な事を考えながら化粧までしてミホークの方を振り向けば感嘆の息をもらした。
「美しいな……。誰にも見せたくない程に」
「食事、私が作る?」
「……いや、今日は食べに行こう」
「矛盾だらけね」
そんな事を言って笑いながらも、ミホークがエスコートしてくれるのに合わせて歩けば、島は随分と栄えている様子なのが分かる。私は初めての島だけど、ミホークは知っている所なのか迷い無く歩いて行く。
それにしても、ミホークにエスコートされるとか……絵になるけど違和感だわ。名前的にも爵位とか持ってそうだから、おかしくはないんだろうけど……。
案内された先は夜会って感じの場所で、食事は立食形式な上に真ん中では普通に皆様踊ってらっしゃる。場違いな気がして無意識でミホークのマントを握ると、ミホークが小さく笑った。
「俺がいる。何者にも害させはせぬから好きな物を食せ。このタイプならば、ナミも問題無く食事が出来よう」
どうやら嫌がらせとかじゃなく、私を気遣ってここに連れてきたらしいと分かれば肩から力が抜ける。ありがとうと口の中でモゴモゴと言えば、ミホークが耐えられないと言うかの如く肩を震わせるから、とりあえずヒールで足を思いっきり踏んでおく。
そして迷い無く果物のコーナーへ向かおうとしたら、何故か止められて食事のコーナーへ連行されてしまう。……美味しそうな果物だったのに。
それからミホークに差し出された物を餌付けされてる小鳥のような勢いで、何も考えずに食べていたらミホークが妙に楽しそうにしているのでつい、限界ギリギリまで食べてしまい、隅に置かれている休憩スペースで休んでる訳です。そんな私にミホークは無理なら無理と言えと怒るけど、だってなんか、出されたら食べないと悪いじゃない?
そんな私の目の前でミホークは普通に食べ続けていて、この世界の男達って胃袋どうなってんだろうと心から思う。私の感覚だと充分に高身長だと思うミホークも、この世界の中だと時に小人に見えるのだから不思議なものよね。
私の体調が落ち着くのと、ミホークの食事が終わるのはほぼ同時で、ミホークが私の手を取り小首を傾げるのを眺めながら、何でこの人こんな仕草が可愛いんだろうと本気で思う。アレか、惚れた弱みか。
「ナミ、踊れるか?」
「まぁ、恥をかかない程度には。でも、ワルツはスローワルツしか無理よ」
「ならばスローワルツの曲になったら、付き合ってもらえるか?……ワルツの他だと何が踊れる?」
この問い掛けだと舞とかは別よね。だとするなら、そうね……。
「サンバ、ルンバ、パソドブレ、ジャイヴ、もいけるけど……このドレスだとスローワルツが安全ね」
「ナミは何者だ?」
「長く生きてると色々あるのよ」
「俺の半分も生きてなかったと思うがな」
喉の奥で笑いながらミホークは私の手を引いて、ホールの真ん中へと進む。全く何がしたいんだかと思いながらも、それに付き合うように踊り出せばその途中でミホークが驚いたような顔をする。
「上手いな……」
「ミホークのリードが巧みなだけよ」
「謙遜するな」
この体は元がハイスペックだから、昔取った杵柄が有利に動いてるだけ。スローワルツとか言ってたけど、日本ではワルツ=スローワルツなので、国内ならばワルツで通じる。
ただし、この世界は西洋文化に特化してるから念の為スローワルツと伝えただけ。世界規模で見ると1般的には、アップテンポなウィンナ・ワルツ等の方をワルツと呼ぶ方が多いのよね。
スローワルツは、ゆっくりとした3/4拍子で1拍目にアクセントがある音楽で踊り、正式なワルツは男女が向かい合いクローズドポジションで踊る。違いとしてはそんなものかしらね。
曲が終わった時ミホークが突然崩れ落ちたように見えて、慌てて手を伸ばしたら片膝を着いて私を見上げているのだと気付く。何事かと凝視していたら、ミホークが胸ポケットから何かを取り出して私の左手を取った。
「ナミ、俺の伴侶としてこの先の海を共に渡って欲しい」
「……え?」
「俺の航海士は、ナミだけと決めている」
突然の事に動揺して声を失うと、ミホークはそれを分かってて返事を待たずに私の左手にそっと指輪を嵌めてくる。瞬きすら忘れてミホークを見詰めていたら、薬指に嵌めたその指輪にミホークはそっとキスをして、色気を垂れ流しにしながら問い掛けて来た。
「返事は、拒まぬその様子から判断して良いな」
「ミホーク……私……」
「ナミに似合うドレスを用意しよう。神に誓う気は無いので、ヒヒに囲まれながら2人だけの式にするが問題は?」
「……ありません」
「そうか、良かった。では帰るぞ」
混乱している私を抱き上げてミホークは歩き出す。帰るなんて言いながらも向かうのは高そうなホテルで、私はう、とか、え、とか、そんな言葉しか音に出来ない。
「鈍いナミにプロポーズだと分かるようにするには、形式が必要と判断してあのような事をしたが……もう、取り消しはさせぬぞ」
「ミホーク、あの、本気で?」
「俺の傍らに居て欲しいと思える女は、ナミだけだ。俺を導け」
「……うん!」
ぎゅっとミホークに抱きつけば、3日は籠るつもりだから覚悟しろと耳元に囁きを落として来る。それに慌てて待ったをかけようとしたけど、ミホークが止まる筈もなく、私はミホークに拷問よりも酷い快楽地獄へと誘われる事となった。
ミホークの望んだとおりの結婚式が、シッケアールで無事に行われたのかは、また別のお話。今はただ、愛しい相手をその腕に閉じ込める事が2人に課せられた使命だろう。