その騒ぎが起きたのは、私がルフィと共に出航する為に荷物の点検をしてる時だった。ローには理解して貰えて、私はルフィと共にお迎え組に参戦する事になったからと、忙しくして居る時に、その声は聞こえてきたのだ。
「なんでてめェがここに居るんだ!!」
「俺の用は貴様では無い。退け、ロロノア」
「聞けるか!!」
「なになに!?敵!?」
そんな騒がしい声により振り向けば、戦争の時にチラリと見た男がその場にいた。作品で何度も見たし、手配書とかでよく見てたのもあって慣れてる気がしたけど……近くで見るのは初めてかも……?
同じ王下七武海として海軍に出入りしてたのに、会った記憶が無い。まぁ、私は船番してる事が多かったから仕方ないか。
「……相変わらず、美しいな」
「……へ?」
「戦場で見た時よりも、美しくなったか。だが、戦場とは少し空気が違うな」
「ふぇ?」
「俺の物になれ。大切にしてやる」
「ローッ!!変な人がいるー!!」
何も考えずに叫んだ私は、悪くないと思う。初対面と呼ぶに相応しい相手から、こんな事言われたら誰でも怯えるわ。
その次の瞬間私はローの腕に移動していて、代わりにその場には人参が落ちていた。その人参を追い掛けてその男に飛びかかったキャロットだけど、軽くいなされて本気で悔しそうにしてるからどうやらソックリさんとかでは無いらしい。
そう……王下七武海〝鷹の目〟のミホーク氏御本人。それが、こんな妙な事を口にしているのだ。
「あれから調べて見たが、情報が少なく苦労した」
「同じ七武海で、何をそんなに「既に貴様らは七武海では無い。……そうなってくれたおかげで、俺も漸っと〝宝玉〟情報を得られたのだがな」」
「ナミ、お前本当に変なのに好かれるな」
嫌そうに言うなら分かるけど、呆れたように言われては納得いかない。それに、私を好きな人に変人が多いと言うなら、その代表となるのはローだと断言する。
ロー程に私を溺愛してくれてる人も居ないし、おかしい人もいない。そう思った時、私はローを睨み付けながら言葉を口にしていた。
「私は何もしてないわよ!?それに、その話で行くなら可笑しい人の筆頭はローでしょ!?」
「確かに、俺のものじゃないナミは不用だと、ナミを殺してから後を追うくらいにはお前しか見えてねェな」
「……うん、やっぱり変なの代表は、ローだと思う」
そんな事を話していたら、突如振り抜かれた夜。咄嗟にローを突き飛ばして短剣でいなすようにその剣筋を変えれば、ニンマリと笑われてしまう。
殺気は無いけど、油断したら終わる……!!
シャンクスと肩を並べていた、男。シャンクスは片腕しかまともに戦いには使えなくなったと聞いてるけど、昔のシャンクスと並んでいた筈の男がそのまま停滞しているとは考えられない。
殺気が無い以上、何か用件がある筈。それを聞けばこんな無駄な事、辞めて貰えるのかな?
「ご要件は?」
「……?今、伝えただろう」
何か言われた!?
小首を傾げる鷹の目を見て、手合わせをとかなら全力で断るけど……と思う。だけど、他に何かあるかな?
「俺の女になれ」
「……笑えない冗談ね」
「本気だ。この場にいる小僧達よりは、満足させてやれる。俺といれば王下七武海に返り咲けるぞ」
「……私の全ては、私の〝船長〟に捧げてるの。王下七武海に拘りなんて持ってないわ。他を当たって」
「交渉は決裂か。ならば、致し方ないな」
そう言って瞬時に間合いを詰められれば、息を飲むのも当然。慌てて避けるけど、速度も威力も私より格上過ぎる……!!
けれどもローがそれを黙って見てる筈も無く、私と樽を入れ替えて救出してくれる。そんな場合じゃないのに、ホッとして足が震えるのが自分でわかる程。
「ローっ!!」
「人の妻に手を出さないで貰おうか」
「貴様を殺せば、手に入るのだろう?」
その言葉を聞いて、ゾクッとした。だって、この男は海賊だから。
この世界に限らず、海賊なんてのは、欲しい物があれば奪い取るのが常識。誰かの物ならば、持ち主を殺すのは至極当然の行為だと思われている。
「ローの事は誰にも……殺させないわ。そんな事になるくらいなら、私はシャンクス達を呼ぶ事を……もう、躊躇わない!」
「ふむ。やはりそうか」
「へ?」
そう言って突然投げ渡されたのはクリマタクト。それは私の望んだ改良を施された物で、思わずクリマタクトと鷹の目を見比べる。
何がとうなると、ベガパンクに依頼した物が鷹の目から手渡されるのかな。確かに私達が王下七武海じゃ無くなったから、渡せなくなったのは分かるけど……。
「ベガパンクから〝宝玉〟へと言われた。それと似た物を昔、赤髪に言われて用意した事がある。故に、主が〝赤髪〟の名を出した時に全てが繋がった」
「……これが、本題?」
「否。俺の女にするのが本題だ。それはついでだな」
分からない。なんなのこの人。
その瞳は嘘をついてる様子が無いから、だからこそ余計に不安になる。なんでこんな……。
でも、手にして本当に思う。ベガパンクは、私の喪われた過去で〝親友〟だった人なのだと。
そうでなくて、どうしてこうも〝原作〟に忠実なクリマタクトを作れると言うのか。そして、私の体格に合わせられてると分かるそれに、泣きたくなる程強い想いが込められてるのがわかってしまう。
「……ありがとう。ベガパンクに、私が謝ってたと、伝えてくれる?」
「感謝ではなく、謝罪か?」
「はい。そして〝私は今幸せにしている〟と、お伝えください」
私が笑って言葉を紡いだのを確認した時、鷹の目は鷹揚に頷いた。そして、その唇を動かす。
紡がれる言葉が、その口調が、良く知る人物を思い出させる。だから、私は息を飲んで凝視してしまった。
「〝君が幸せなら僕達もそれが幸せだ。何処にいても君の幸せを僕達は願っている。あの時は誤ったけれど、もうあんな思いはさせないと誓っているんだ〟と、奴が伝えてくれと言っていた」
その言葉に、私は膝から崩れ落ちた。そんな私の頭をローは優しく撫でてくれて、それにより涙腺が緩めば私に合わせて膝を地について抱き締めてくれる。
何も説明なんてしてないのに、ローは全てわかってるみたいに甘やかしてくれるから、私は抑えきれない涙を落とす。それにより服が濡れるのも構わずに、ローは私を抱きしめ続けてくれて……それを見て勘違いしたルフィが愚かにも鷹の目に挑みかかるから、涙が引っ込んだ。
「辞めなさい!ルフィ!!」
「だってよ、こいつがナミ泣かせたんだろ!!」
「違うから辞めなさい!」
「俺は昔から、ナミ泣かせる奴は全員許さねェって決めてんだ!!」
「ルフィッ!!……この、お馬鹿っ!!」
クリマタクトに覇気を纏わせてルフィを殴れば、流石に痛かったのか動きを止める。クリマタクトを薙刀のようにして、弁慶宜しく大地にドンッとついて仁王立ちした私に対してルフィは涙目だ。
でも、人の話を聞かないのが悪いのよ。全くもう……。
「……クックック……はーっはっはっはっ!!」
突然聞こえた笑い声に振り向けば、大爆笑する鷹の目がいて……その後肩を震わせて顔を背けるから、この男1度締め上げたいと本気で思う。でも、鷹の目はその後に笑いを引っ込めると真摯な眼差しを向けて来た。
「この海を統べるような男達が奪い合う女神か。良いだろう。今は退いてやる。……次の逢瀬を楽しみにしておこう」
「いや、そんな戯れいらないですから。シャンクス達だけでも面倒なのに」
「今更何を言う。1人増えたところで何も変わるまい。主が、天夜叉にも狙われていたのは知っている。良かったな、あれはインペルダウンの地下深くに幽閉されているぞ」
「ドフィが、ね……油断大敵、よ?」
「……俺には天夜叉等より、主の方が脅威に思える。これからも楽しませて貰おう」
そう言って去るその背中に、だから関わって欲しく無いんだってば……と心からの呟きを向けるけど、効果は無かった。そんなドタバタの後、ローと強く抱き締めあって、私はホールケーキアイランドへ向かい出航する。
ローは一足先にワノ国へ向かっている筈。私はそれを確信して、仲間達にローを任せる形で背を向けた。
それからほんの数日の出来事が、何年もの密度に思える程に大きな騒動となったけど……こればかりは仕方ない。鏡を割れと言われて、それに従う私をチョッパー君が怒ったけど……これは譲れなかったのよ。
「ルフィは必ず〝勝って〟ここに帰って来るわ。だから、ルフィが帰るべきこの場所を失う訳にはいかないのよ!!」
私は弟を……この物語の主人公を、信じてるから。そうしてルフィは大切な友を1人喪い、渇望する仲間を取り戻し、信頼する仲間を殿に残し〝生きて〟島を後にした。
治療を受けるルフィの傍で、私は海を見つめながらローを想って歌う。鼻歌だったそれを聞き、ブルックさんが興味を示したから、紙を数枚貰って譜面を描いて渡した。
「……歌って頂けますか、マドモアゼル」
「こんな時に?」
「もう、驚異はありません。息抜きに少し」
「なら、演奏、頼める?」
私の言葉に頷いてくれるブルックさんに、私は笑いかける。ルフィは、いいぞー!なんて喜んで傷だらけのまま笑うから、そんなに明るい歌じゃないのにな……と少し思った。
「〝緋色のカケラ〟」
元々この歌手はソロではなかったけど、解散してからはソロで活動し始めた。そのファーストシングルに入っていた曲であり、この世界とは異なるアニメの主題歌になっている。
この歌はローを思い出した時脳内で突然流れたから鼻歌で歌ってただけなんだけど、ルフィは言い出したら聞かないし……仕方ないかな。ローの過去を思えば、歌声が震えないようにできるのかが唯一心配な事。
「ーーー」
記憶の中にある闇に苦しめられて、叫ぶローを私はいつも見ているしかできない。痛みを、苦しみを、渇きを……癒せるものがあるとするならば、それは時の流れだけだと知っているから。
「ーーー」
私は何かある度に、恐らく選んではいけない答えを選んで周りの人を傷付けている。それでも後悔は無くて、何度やり直せてもきっとその答えを選び続けると知ってるの。
「ーーー」
ローを助けたという私が真実なのか、今ローを想う私が真実なのかは分からない。けど、ローの瞳が輝きを取り戻してくれるなら……私では無い私や、私自身の誰が時を越えても構わない。
「ーーー」
戻らない時がもしも形を持つならば、結晶のようになっていると思う。心臓のように赤いだろうそれに触れられるなら、傷付いたとしても構わずに握り締めるんだろうなと自分のわかりやすい思考に笑いそうになる。
「ーーー」
虚ろな日々の中、助けを求める事さえ私には難し過ぎた。だってね、償う強ささえ私は持ち合わせてはいなかったから。
「ーーー」
解放されて、助かった筈の日々の中でも私は誰を縋ればいいのか……縋っても良いのかさえ分からずにいた。いつまでも姿の無い恐怖に怯える私は、同じ苦しみをローも抱いてる事に気付いてしまったの。
「ーーー」
何時までも絡む鎖を振り払う事も、引きちぎる事もできずに足掻いて救いを求めていたんだと思う。だから私達はきっと、互いに強く依存して、支え合いながら残酷な時を共に這い上がれた。
「ーーー」
ローの中にある、雪の中で消えた私の記憶が、どれ程足掻いても手繰り寄せる事もできないならば……私を抱き締めていて。私はその時の私じゃないけど、溶けて消えたりしないから……もう、苦しまないで。
「ーーー」
どんな生き方をしていたのだとしても、それが私ならば、きっと形は違ってもローを愛してた筈。それなら私は、誰も傷付けない強さ求めて、例え死んでも満足だと言える行動としてローを庇ったのだと思うから。
「ーーー」
私にとっての偽りの世界で、けれどもローにとっては真実の過去で私がローを傷つけている。もし赦されるなら……今の私が、傷付けないように助けに行きたい。
「ーーー」
多くの次元にいるだろう全ての私の記憶を抱きしめて、やり直せるなら私はきっとこの身を失っても全員を助けようとするだろう。それが出来ないから、数多の私が終わりのない旅を続けているのかも知れない。
「ーーー」
海の碧さが私の心を癒して、胸から溢れそうな程の愛を思い出させてくれる。きっと私は、ずっと前からローの隣を、この碧い海を求めて探していた。
「ーーー」
悲しみと痛みの多い記憶を、今度こそ無くさないように強く抱き締めて、私は私として生きて行く。この時空で、終わる事のないローとの旅を続けて行きたいと願うから。
「ーーー」
どれ程離れていても、私の瞳はローの姿を探してしまう。今の私は、ローしか見えていないから。
歌が終わるのとほぼ同時に終わる演奏。それにより何か伝わってしまったのか、ルフィは少しばかり不機嫌そうにするけど……今ここにいる事だって本来は許されなかった。
私の全てはローのものだから。でも、四皇に挑むのに航海士も測量士も、船大工や操舵手も居ないままにこの海へと向かわせるのは自殺行為と知っていたから、頼み込んだだけ。
「ルフィ、大好きよ」
姉として、家族として、ルフィを心から大切に想ってるわ。貴方は私の可愛い弟であり、太陽のような存在だから。
それでも……少しでも早くローに逢いたい。私はそう思いながら、荒れ狂う海を見詰めてワノ国への入国手段を思案していた。