会議だなんだと呼び出され、前回はナミを連れて行き買い物をさせてやったからと今回は残して行った。それ故に早めに帰って来たが、ドアの前に立つと嗅ぎ馴れない香りが漂って来る。
中からはニコ・ロビンの声も聞こえて来て、成程2人で何かしているらしいと気付く。入るべきかもう少し待つべきか。
「それでナミはサーにどうして欲しいとかないの?」
「私は、傍に置いて貰えてるだけで充分よ。助けられて、今も……保護されてる」
「恋人なのだから、そこは〝愛されてる〟と言うのではないの?その証拠にナミの……首に、ね?」
会話しか聞こえなくともナミの反応はわかる気がするのだから、不思議なものだ。煙を吐き出して、部屋に入るタイミングを逃した事を知る。
「恋人だって、自信をもてないのよ。だって、私はクロコから見たら子供だと思うし、役立てる事もないし、ただ護られてるだけなのよ」
「……本気で言ってる所が怖いわ」
ニコ・ロビンの言葉に内心で同意しながら、今しかないかとドアを開ける。中に入れば見た事の無いような料理がいくつも並べられており、エプロン姿の2人が俺に視線を向けてきた。
恐らく世間的に見れば、美女と美少女に出迎えられた事になるのだろうが、ニコ・ロビンが今の俺には邪魔だ。ナミが関わるとニコ・ロビンが、その辺の女のようになりやがる。
「クロコ、お帰りなさい」
「あァ、何してたんだ?」
「クリスマスの準備よ」
言われてみれば確かにそんなものがあると聞いたと思い出し、そうか情報源は〝宝玉〟かと気付くと同時に本人を見詰める。雪の降る所がその話ではメインだろうと思えば、何だかなと思わされる。
ここは、雪どころか雨も降らねェ砂漠だ。だと言うのにやりたいもんか?
だが楽しそうに笑っているそれに、やるなと言う事も出来ず、仕方ねェかとニコ・ロビンにナミ用のプレゼントととして花束と新しいペンを用意させるよう書いて渡す。それを見てニコ・ロビンはクスクスと笑いながら退室した。
それを見送ってから、ナミに視線を向ければ楽しそうに料理を作っている。……愛称で呼ぶようになってまだそれ程経たないが、呼ばれる度に心が安らぐ気がするのだから不思議なものだな。
「クロコの為にチキンではなくワニの肉を使用してます!ジビエ料理の枠だから結構苦労したのよ?」
そう言って手で弄ぶのはトマトで、コイツはと思わされる。俺の事を本当によく見てやがる。
何が好きかなど話した事も無かったのに、何故かこうしてバレちまう。……勝てる気がしねェな。
煙を吐き出しながらクハハと笑えばナミも嬉しそうに笑った。それからスプーンで鍋の中味を掬うと、俺に差し出してくる。
それを望まれるままに口に含めば確かに美味い。確かにプロには及ばないだろうが、家庭料理なら十分過ぎる腕前だろう。
「どう?これソースとして鰐肉にかけようと思うんだけど」
「……悪くねェな」
「良かった。全体的にトマトベースにしたけど、ケーキはフルーツ系にしたからね」
「……楽しいか?」
「えぇ、1緒にクリスマスとか無理だと思ってたから、嬉しいし楽しいわ」
無理だと思ってたなら、この料理はどうするつもりだったのか。明らかに、俺の好みに合わせて作られてるってのに、残れば困るだろう。
だが俺のその疑問に気付いたのか、ナミは少し寂しそうな瞳で料理を見つめて言う。
「用意しておけば、もしも帰ってきたら食べて貰えるかなって思ったし、無理なら冷めてから、切り分けて冷凍保管でもしようと思ってたの」
「……早く切り上げて正解だったな。ナミが楽しいなら、それでいい」
「クロコ……?」
「好きに過ごせ。部屋からは〝出してやらねェ〟が、他は大抵なんでも叶えてやる。……ナミからの贈り物は、その心で許してやるよ」
俺の言葉にナミはそっとコートに手を伸ばして、弱々しく掴んで来る。それから目元をほんのりと赤く染めて、小さく囁くように呟いた。
「……私のすべては、ここに来たその日からクロコのものだから、それだとプレゼントにならないわ」
俺にそんな言葉を口にしたナミは、そのまま言葉を続けた。甘やかなそれは、人を緩やかに死に追い落とす甘美な毒のようにさえ思える。
「だって、クロコの物をクロコに渡したんじゃ意味なんて無いでしょ?」
「そうだな、ナミの体も既に俺のものだったな。腹を満たした後は……ナミも残さず食ってやるから、安心しろ」
「なっ……!」
真っ赤になって俺から数歩離れたナミはその身を自ら強く抱き締めて、小さく震える。その反応に笑っていたらナミから小さく優しくしてねとの声が聞こえて、無意識で難しいだろうなと返しつつ、その顎に指をかける。
上向かせたその顔は熱っていて、瞳は潤んでいる。先にこっちを食うかと顔を近付けた時、咳払いが聞こえて動きを止める。
「お待たせしました、サーからの指示の元ご用意させて頂きました」
間の悪い奴だと溜息を落として、ニコ・ロビンに顎でナミに渡すよう指示すれば素直に従う。受け取ったナミはそれを驚いた顔で見つめ暫し放心してから、花束と箱を大切そうに抱き締めた。
「クロコ、ロビン、ありがとう」
「あら、私は指示に従っただけよ。花束も〝赤い薔薇〟の花束と明記してあったのだから、それがサーの気持ちでしょ?」
待てニコ・ロビン、花の種類なぞ明記してねェ!
そう言おうとしたが、ナミを見れば嬉しそうに恥ずかしそうに、はにかんだ笑みを浮かべていて……葉巻を咥えて言葉を飲み込む。その笑顔は、反則だろう。
半分も生きてねェガキに振り回されて、俺はその苛立ちをニコ・ロビンに向けて睨むが、何か間違ってましたか?なんぞといけしゃあしゃあと言いやがる。
「ナミ、オールサンデーは帰るそうだ。何か持たせるなら急げ」
「え?そうなの?1緒に食べてくのかと思ってた。すぐに用意するわね!」
そう言ってナミはタッパー等を取り出して、ニコ・ロビンに料理を用意し始める。それを見て邪魔者扱いねなんて笑うが、当然だろうが。
ニコ・ロビン用に用意された三つのタッパーには、サンドイッチとケーキ、そしてサラダとメインが詰められていて本当にコイツはと思う。ニコ・ロビンの食の好みは知らねェが、明らかに俺のとは違うそれに呆れる。
「気を付けて帰ってね?」
「ナミも私と来る?」
「俺がナミを部屋から出す筈ねェだろ。さっさと帰れオールサンデー」
言い捨てれば本気でもねェ癖に、あら残念等とほざいて立ち上がる。それを見送ってからナミに近付くと何故かサンドイッチを差し出され、それをその手から直接食べれば中々に美味い。
最後までその手からサンドイッチを食べた後に、持っていた指を舐めれば何故か全身を赤くして震えるナミがいる。どうしたのかと思いつつ、感想がまだだったかと葉巻を咥え直しながら言葉を伝える。
「美味かった」
「……クロコ、わざとやってる?」
「何がだ?」
問いかければ小さく無駄に色気垂れ流し男めと呟かれたが……何の話だ。色気を垂れ流して誘惑してるのは、いつもナミの方だろうが。
だからこそ、部屋に閉じ込めてるのもあるってのに。まだガキの癖にそんな色気出してんじゃねェよと内心でつのる。
「……ナミ程じゃねェよ。それで、俺へのプレゼントはどうするか決まったか?」
「用意してあるわよ。待ってて」
そう言って逃げるように俺から背を向けると、奥へと走って行く。先程もニコ・ロビン用に用意したサンドイッチが余ったから、差し出してみただけだろうと分かっている。
だが、誰にでもああなんじゃねェのかと思えば、やはり外には出せねェなと思う。奥から戻って来たナミは、小さな箱を手にしている。
「本当は食事の時に渡すつもりだったんだけどね。気に入らなかったら、捨てて」
「……気に入らなけりゃ砂にするから気にするな」
「正直な男よね」
しみじみと言うが、いつもそうして来た。即ち、ナミとナミに付随する物で、気に入らねェものなんざねェんだよと思う。
……この先も含めて、口に出せるとは思わねェがな。
箱を開ければ中からはカフスボタン……正式にはカフリンクスだが日本ではカフスボタンの表記が有名なのでそちらを採用……が出て来て、成程と思わされる。白蝶貝と黒蝶貝の2組用意してある事から、上手く使い分けろと言いたいのだろう。
同じ物は2つとして存在しない筈のそれだからこそ、そこにナミの心が現されて居るように思えて笑う。よくよく見れば、手作りだと分かり器用なもんだと笑いそうになる。
「大切にする」
「……っ!気に入って貰えたなら、良かった」
視線を反らしたナミの顎を掴みあげて、無理に俺に視線を戻させれば恥ずかしそうにしている。それに無言で唇を重ねれば、ナミは甘く声をもらして俺の理性を破壊した。
Merry Christmas……料理も贈り物も今宵限りとしても、その他は何も変わらねェ聖なる夜に、お前は俺のものだと刻み付ける。お前が笑うなら、いつでもそれが聖なる日だろうと、その耳元で囁いて。
あ、今書けてる話全部男性視点だ!