部屋に閉じ込めてどれ程の時が過ぎたのか。俺のやったペンで色々と書きながら、日々を楽しそうに過ごしてはいるが、実際の所外と関わるのは俺を介してかもしくはニュースクーを介してであり、俺が居ない時はニコ・ロビンを通してとなる。
そんな生活だってのに、何故か文句の1つも言いやがらねェ。俺を……甘やかすなんてナミしかしねェぞと思いながら部屋に続くドアを開ければ、中からナミが飛び出して来た。
基本的に扉から僅かにでもその身を出す事を許していないというのに、何故ナミはこんな事をと思いつつ抱き留めれば、甘えるように擦り寄ってくる。……猫みてェだな。
「どうした?部屋から出るなんてなァ珍しい。許した覚えはねェが」
「……抱きついてみたかったの」
「満足か?」
「うん」
本当に何がしてェんだかなと思いながらもその頭を撫でて、部屋に連れ戻す。誰にも見せたくねェし、俺以外の誰もナミには見ないで欲しい。
「年始は何か予定あるの?」
「まァ……予定とも言えねェがな」
「そう、なの……」
「寂しいか?」
揶揄うように言えば小さく頷かれ、心臓を掴まれたような心持ちになる。なんだって今日に限ってこんなにも素直なんだと思いながら、俺はそっとナミを抱き締めてやる。
予定なんぞ全てキャンセルしてやるかと本気で思わされる程に、心細そうな様子に溜息が自然と零れる。そんな俺の溜息にナミは肩を揺らすから、呆れられたとでも勘違いしていると分かる。
「仕事なんぞ、したくもねェが……今の地位は便利だからなァ」
「クロコ?」
「それでも正月くらいは、仕事をしなくても許されるとは思わねェか?」
「いい、の?」
「ナミがまた何か作ってくれてんだろ。外に行く他の願いなら、叶えてやる」
俺はナミを部屋から出すつもりはねェんだよ。本当に守りたいものだけは、死んでも守る。
その為に必要なら、自由も夢も奪う事に躊躇いなんかある筈もねェ。泣かれても、嘆かれても、基本的に外には出さねェ。
「……正月だとか、興味もなかったが、ナミは俺と過ごす事を望むんだろ」
「正月だからじゃなくて……いつでも、可能な限り傍にいたいわ」
予想外の返答に俺はクハハと笑うと、その唇を吐息ごと奪い尽くそうと重ねる。それに愛らしく反応しても抵抗はしねェから、そのまま押し倒そうとした所でドアが叩かれた。
大抵このタイミングで邪魔するのはニコ・ロビンだが、あいつはどうしていつも邪魔してくるのか。俺に何か怨みでもあるのか。
「……入れ」
言葉と同時に入って来たニコ・ロビンにナミは嬉しそうに笑い、俺の腕からするりと抜け出すと駆け寄っていく。本当に猫のようだと思いながらも、それを眺めていればどうやらニコ・ロビンが持って来た食材が目当てらしいと気付く。
この部屋に閉じ込めているから、食材も備品も何もかもニコ・ロビンを頼るしか無いのだと思い出せば、懐く他無いかと今更気付くが……やはり気に入らねェ。俺だけに笑いかけてりゃ良いものを。
「ロビンは年越しとかどうするの?」
俺の気持ちを知らずにニコ・ロビンを誘おうとしているのがわかり、咄嗟にナミが誘えないように言葉を口にする。俺じゃ無くてもどうにかなりそうなものは、全てニコ・ロビンにやらせればいい。
「オールサンデーは仕事だ。困らせるな」
「あら、残念。ナミと過ごしたかったのに」
「ナミは俺のモノだ。無闇に触れようとするな」
「減るものでなし、良いじゃない。それとも……ナミは特別なのかしら?」
「……砂になりてェってんなら、すぐに叶えてやるが?オールサンデー」
俺の言葉にニコ・ロビンは肩を竦めるとご馳走様と言って物だけ置いて立ち去る。ただ、その去り際にナミの額にそっと口付けを落とし、またねなんて言いやがった。
……本当に砂にしてやろうかと睨むが、ナミはまたねと笑顔でニコ・ロビンに手を振っているからそれも出来ず、仕事内容の指示書を投げ付けて追い出した。そんな俺にナミはクロコが居てくれて嬉しいなんぞと言うから、毒気が抜けて怒りが霧散する。
それからすぐにナミは届けられた食材で何かを作り始め、俺に甘くしても平気かと聞いてくる。甘いのが嫌なら砂糖使わないからなんて言い出すナミに、今の気分を伝えればクスクスと笑いながらそれに従い、料理を進めて行く。
「普通ならば鶏天にする所だけど、鰐天にするしかないかしら?」
「……待てナミ。俺は鰐しか食わねェって勘違いしてねェか?」
「してないわよ。食べる量に大いなる差があるから、好きなのは分かってるってだけ」
言いながら大量に天麩羅を揚げて行くナミに、それまさか全て鰐かと言いかけて辞める。あれくらいなら喰うと自分で分かるからだ。
年越しを怨嗟の声無しに迎えるなどいつぶりだろうか。遠い過去すぎて、余りにも曖昧だ。
同じ空間で料理をしてくれる存在がいて、視線を向ければ微笑んでくれる。これが奇跡でなくてなんだと言うのか。
失わない為に足掻く俺は、恐ろしく滑稽だろうがそれでも構いはしねェ。そう思った時、間の抜けた声が俺を呼ぶ。
「クロコー!運ぶの手伝って!揚げすぎちゃったー!」
全ての天麩羅をひとつの皿に乗せたのが、そもそもの間違いだろう。そう思いながらも、俺はナミについ笑いかけちまう。
「構わねェ。置いとけ、運んでやる」
明らかにヴィンテージ系の空間で、天麩羅と蕎麦を食う事に対する違和感は拭えねェが、ナミが笑うならそれでいい。共に蕎麦を食べながら窓の外に視線を向ければ、外は深淵を思わせる程に暗く中の様子が硝子に写っている。
深淵に居るべきは、俺だろうなと思いながらそれを見ていればナミが穏やかな微笑みを浮かべて俺に優しい眼差しを向けて来る。どうしたかと思いつつ視線を戻せば、唇が動いた。
「明けましておめでとう。今年も、よろしくお願いします」
「嗚呼、変わらねェ日常を約束してやる」
「最高の幸せだわ。ありがとう」
「……ここに閉じ込められてるのに、か?」
「クロコが慎重なのは分かってるもの。守ってくれてありがとう」
「……お人好しが、長生き出来ねェな」
俺の言葉にナミは驚いたような顔をしてから、可笑しそうに笑った。それが本当に楽しそうで何があったのかと思えば、年越し蕎麦食べながら長生き出来ないってと言いながら腹を抱える。
「年越し蕎麦って、細く長い人生を……つまりは、長生きを出来るようにって意味で食べるのに」
「……そうだったのか。そりゃァ、悪かったな」
言いながら笑えば目尻の涙を拭いながらナミは続ける。まるで当然の事を話すように、気軽な調子で。
「そもそもクロコが護ってくれるんだから、長生き出来るかはクロコ次第でしょ?」
「……正論だ」
新たなる年もナミがいれば特別な事など何も無い。ただ日付が変わっただけに過ぎないと、痛感させられる。
Happy new year……そんなふうに言われるが、お前がいるなら常にHappyで日々の全てがnew yearだろう。お前がいないなら、どちらもありはしないのだから、傍で呑気に笑っていろと天麩羅に手を伸ばしつつ思う。
放置するとロビンちゃんの出番が増えるんですよねー。何でだろう。