この2年近くの間、ただ新世界を巡って移動していた訳でもなくて、私とミホークはとりあえず私の安全を考慮してシャンクスの縄張りと、白髭海賊団の縄張りを中心に新世界巡りをしていた。だけど、半年程前にたまには普通に連絡が着くように落ち着いていてくれと海軍から言われてしまい、仕方なくシッケアールに帰って来たのだ。
その後暫くは2人で蜜月宜しく過ごしていたけど、私の体力がそれでは持たなくて気を使ったミホークが暇を持て余してしまった。と言うか暇潰しで人を抱き潰さないで欲しいと、切に思う。
そんな時に東の海で最強と呼ばれる海賊がいると聞き、多少の暇潰しにはなるかと見定めて来るなんて言って旅立ってしまう。嫌な予感がするからと止めてみても、航海士として1緒に行くと言っても首を縦に振らなかった頑固親父は私を遺して旅立って行った。
……さ、寂しくなんか、無いんだからっ!
そうよ、1人とか……せいせいするわ!……この後、どうしようかな、ヒヒ達と食事でもしようかな。
そんな訳で、私はその後ミホークが居るのとあまり変わらない日常生活を続ける。とは言え、お菓子は基本的にクッキー位しかそうなると作らなくなったけど、ヒヒ達とお茶しながら蜜柑の手入れをしたり、ヒヒ達の傍で楽器で音を確認しつつ記憶にある歌を譜面に起こして行く。
そんな穏やかで代わり映えのない日々を送り、数ヶ月が経過した時にそれは起きた。ヒヒ達が慌てた様子で騒ぐのを見れば、何があったのかと私としても慌てて表へと飛び出す。
最近ではヒヒ達がこの近海に現れる海王類を仕留めてくれるから、食事の種類が格段に増えてるのだけど、それは置いといて、そんなにも強くなったヒヒが慌てるなんて中々ある事じゃない。何が起きているのかと不安になりながらも駆けつければ、ヒヒ達が縋るような視線を向けて来て、案内されるままに現地に向かうとすっかり忘れていた現象が起きていた。
……ペラ?ペリ?ペル?……ダメだわ、名前思い出せない。
とりあえずゾンビの船から熊によって飛ばされて来た女の子が落ちていて、そのままには出来ないからとそっとその体に触れて生存の確認をする。……脈は正常で自発呼吸有りね。
「……っ?」
ヒヒ達が不安そうに私に視線を向けるので、大丈夫よとの意味を込めて笑いかければホッとした様子を見せた。読んでいた時とは違い、ヒヒは随分優しいと思う。
ミホークは私に似たんだと言うけど、私はミホークに似たと言っていて、この議論は未だ平行線のままだったりする。とりあえず私は回想から現実に意識を戻して、女の子を抱き上げて城へと向かい歩き出した。
完全に失われている女の子の意識は、今の所戻る気配が無い。抱き上げてみて思ったのは、案外軽いなって事で……ミホーク相手にたまに剣を振り回しているから腕力が身についたのかなって、そんな事を呑気に考えていた。
城の中で空いている部屋の1つを簡単に掃除して女の子を寝かせると、治療してから部屋を出る。こんな時ミホークが電伝虫を持ってくれない事が、厄介だなと痛感してしまう。
久々にまともな食事を作りながら、ミホークへと手紙を書く。クーちゃんに頼めば、運ぶだけなら運んでくれる筈だから。
『拝啓 海を漂う旦那様
本来この場合前略が正しいと分かっていて、季語もなしに書かせて頂いております。さて、来客がありましたのでご報告をと思い筆を取りました。
お客様なので、最大限におもてなししておきます。お早めにお帰り下さい。
ナミ
追伸、寂しくもなく変わりもありませんので私の事は気になさらず。好きなだけ漂流しててください』
文末に蜜柑と風車のマークを入れて、完璧ねと満足して頷く。私はちゃんと連絡入れてる訳だし、嘘も書いてないから、後からとやかく言われる筋合いもこれで無くなった筈よ。
この手紙に大いなる矛盾が書かれている事に気付けないくらいには、多分寂しく感じていたのだろう。けれど、その矛盾にもし気付けても、この時の私には認める事は出来なかっただろう。
書き上がった手紙を見て、1人納得しつつ頷くとクーちゃんを呼んで手紙を託す。クーちゃんの羽根を撫でながら、少しだけクーちゃんを羨ましく思ってしまう。
「……私にも、羽根があればいいのに」
私の言葉にクーちゃんは慰めるようにその身を寄せてくれて、それにより慌てて妙な事を言ってごめんねと呟いてからクーちゃんを解放する。その時、叫び声が聞こえて慌てて少女の元へ向かうと、部屋に置いてあった抱き枕に感動していただけらしいと気付く。
女の子は私の姿を確認すると、小首を傾げた。少し男勝りで生意気な口調でありながら、ゴスロリ系の衣服を着ている姿は本当に可愛いと思う。
「……お前、誰だ?」
「この家の、住人よ」
「……助けてくれたのか?お前は、1人なのか?」
「今は1人ね。……動けそう?何か、食べる?」
矢継ぎ早に質問をしてくる少女に問い掛けると、少女は嬉しそうにその瞳を輝かせて頷いた。どうやらお腹は空いてるみたいね。
簡単に用意していたスープを仕上げつつ、とりあえずそのスープを元にしてリゾットを作る。これなら食べても問題も起きにくいと思うのよね。
どの位の期間飛んでいたのかにも寄るけど、胃が空なだけだとしてもスープや重湯から入るのが本来は良い筈だけど、この世界の人だから、固形物無いと足りないだろうと思えば自然とこうなる。食べられそうなら、後でパフェでも出してあげよう。
「なァ、お前はこの家のメイドとかか?」
「違うわよ。今回は置いていかれちゃったけど、本来は航海士なの」
「……そっか。なァ、なんで良くしてくれるんだ?何も私は返せないぞ。私がここに居るのをモリア様も知らないから、身代金とかも無理だと思うし」
落ち込んだ様子を見れば、この子も1人で寂しいのだと気付く。仕方ないなとお茶を用意しつつパフェを作りながら、私は何と声をかけるべきか考えてしまう。
でも、あの地面に着いていた肉球のマークは、この少女を熊が弾いたのだろうとわかる。その場にいれば、消滅でもしたかに見える速度で弾かれて、何日も空を飛んでこの島に来たのだと言うのはわかるからこそ、怪我のない様子に驚かされてしまう。
「……この城の主はまだ帰らないと思うのよ。だから、それまではゆっくりしていいわ。その後は、帰って来た主と話をして」
「お前は、こんな所に1人で、寂しくないのか?可愛いものも見当たらないし」
「可愛い私がいるから、可愛いものは間に合ってるわ。それに……煩わしい事、あの人嫌うから」
用意したお茶とパフェを様子してあげれば、嬉しそうにその瞳を輝かせてくれるのかと問い掛けてくるから頷いてそれに答える。どうぞと言えば即座に食べ始める姿に、海賊でありながら毒を警戒するとかしない辺りがこの世界の女海賊だなと思わされて小さく笑ってしまう。
……私は、この世界の住人としてはおかしいのかしらね。そんな事を考えながら少し切なくなるのは、どうしてなのか。
ミホークが私を残して行ったのは、私の事が煩わしくなったのかな。もう、1緒に居るのが嫌になったのかな。
ミホークが居ない事で、明らかに体力の消耗は減った筈なのに、どうしてか疲れやすいというか、やる気が起きない。2人の居室以外は、所々では無く埃が溜まっているのも分かってるけど……鬱々とした気持ちになり、つい怠けてしまう。
元々ミホークからは、城の全てを掃除するのは無意味だから辞めろと言われていたけど、自動で掃除してくれる掃除機君も居ないこの世界では、自分で掃除するしかないのだ。汚い空間では、ミホークが病気になってしまうかもしれないと考えて掃除していたけど、自分1人ならどうでもいいかなと考えてしまう辺りが駄目なのかな。
「……お前も、寂しいのか?」
「え?」
「……私は、自分から抜け出そうとした所を飛ばされたから、ある意味望んだ事が叶ったとも言えるけどな。それでもモリア様が居ないと寂しい。……お前も、この城に1人なら寂しかったんじゃないかと思ったんだ」
少女の言葉に、私は首を横に振る。さ、みしく、なんか……ないもん。
休みなく抱かれる事も無いし、って……今、モリア様って?
「……まさか、ペローナちゃん?」
ゲッコーモリアが娘として可愛がっている少女とモリアを通じて文通し、仲良くなって、ホラー梨を送ってもらう代わりに編みぐるみを送っていた。それからそれ程時は経過して無いけど、そっか……ルフィ達はスリラーバークを終えたんだ。
「なんで私の名前を知ってんだ?私は名乗ってないぞ!」
「文通してたと思うけど、でもそっか……会うのは始めてよね」
「……まさか、ナミ、か?なら、私の希望に合わせたぬいぐるみを目の前にいるんだから作ってくれるのか!?」
そう来たか。まぁ、良いけど。
実際今ペローナの使ってる部屋に置いてあるぬいぐるみ達は、抱き枕も含めて私が暇つぶしに作った物。その程度で喜ぶなら、要望に応えても良いかなと思えてしまう。
「えぇ、はじめまして。ペローナちゃん」
「ナミはモリア様から鷹の目の女だと聞いていたから、もっとその……歳上だと思ってたんだ。……それとも若作りか?」
「私は18歳よ。でも、その反応だと幾つだと思われてたのか、少し気になるわね」
「30代後半位かと思ってた」
……ミホークの年齢考えたら、確かにおかしくは無いわね。そんな事を考えながら、私はやる気の出なかった今までが嘘のように動き出す。
1度帰って来てくれるのか、それとも帰らずに真っ直ぐ戦争に向かうのか。それは分からないけど、私はミホークが居ないなら居ないで構わないから、エースを助けに向かわなければと、1人心に誓う。
今ならばまだ、エースはインペルダウンにいる。まさか私の送った手紙を読み、即座にミホークが帰って来てくれるとはこの時考えていなかった為、ひと騒動起きるのだが、まぁそれはまた別なお話。
とりあえず今は、初めて会った友人と語らいつつエースを助ける手段を考えるのが、私の仕事だ。