その日はアラバスタ王国史上もっとも砂嵐の多い日となっただろう。困ったわと言いながら、何処か楽しそうにニコ・ロビンがナミの不在を告げて来た為に。
〝どうしても少しだけ、買い物に行きたいの〟
〝オールサンデーに必要な物は頼め〟
〝……お願い〟
〝ナミ、俺はお前を誰の目にも触れさせるつもりはねェ。大人しくしてろ〟
そんな会話が先日あったのを思い出して舌打ちする。何故俺の言葉に従わねェ……。
苛立ちながらコートを風にはためかせつつ歩けば、誰も俺に声を掛ける事は無い。それだけ俺が殺気立っているのだろう。
苛立ちをぶつける為に無意味に砂嵐を発生させ、帰って来たらその事をナミに教えてやろうと思う。お前が逃げ出したから、犠牲が出たんだと。
泣くだろうか。嘆くだろうか。
甘すぎるんだよ、お前は。だから、隠しておく他の選択肢がねェんだ。
海に出るとは、本当にナミはいい度胸してんなァ……。お仕置きは、どうしてやろうか。
少し確認すればまさかの小舟で隣の島まで行ったとわかり、前半とはいえ偉大なる航路を小舟で移動出来るナミに戦慄を覚える。だが、出会った時も樽で移動してやがった事を思えば、それくらい容易いかと考え直す。
本当に無駄に才能がある奴だよと溜息を落として、海軍に船を出させる。そうして到着した島で、背格好の近い女を探す。
アレでナミは賢い。怒り狂った俺が探す事位分かっているだろうと思えば、変装くらいするだろうと分かろうというもの。
そう思って探せばふわりと香りが漂って来て、ナミの存在を告げて来る。そうして見付けたナミは店からちょうど出てきた所で、それを即座に捉えればなんで怒ってるの?とでも言いそうな顔で俺を見る。
「帰るぞ」
「はぁい」
……俺から逃げ出した訳じゃねェのか。なら、何だ。
そんな事を考えながら連れ帰り、だが部屋に戻してから叱り飛ばせば不満そうな顔をする。不満なのは俺の方だ……!
「ナミ!いい加減にしろ」
「私、間違った事はして無いわ。たまには買い物くらい、いいじゃない!」
「良い訳があるか。ナミは……俺以外の誰にも会う必要はねェ。必要な物はオールサンデーに言えと言ってるだろうが」
「だって……どうしても、欲しい物だったの」
「だから、それは……「自分で、確認したかったのよ。心配かけたのは悪かったけど、私今回は謝らないから!」」
ギロりと睨み付けてもその瞳が俺から逸らされる事は無く、仕方ねェかと溜息を落とす。この子猫はこれでいて、こうなったら頑として譲らねェんだと言う事は分かっている。
「……次に勝手に出たら、首輪じゃ済まさねェから覚悟しておけ」
俺の言葉にナミはふんっと鼻を鳴らすと、首輪なんか破壊してやると言って笑った。その生意気な表情が気に入ってる時点で、俺の負けのような気がしている。
「オールサンデー、部屋から出すなよ」
「ふふ、了解」
「ナミ、次に何かあればその責めは、お前じゃなくオールサンデーと国民に背負わせる。今回も〝お前の為に〟砂嵐が国中で頻発しているらしいぜ……?」
「クロコ!」
焦ったような声を出すナミに俺は背を向ける。少しは反省しろ。
その日は俺の不機嫌さを物語るように幾度も砂嵐を発生させたが、特に気分が晴れる事は無かった。その苛立ちをぶつける様に仕事に取り掛かった為か、やけに捗りやれる事は見る間に減って行く。
それから三日後、ニコ・ロビンから連絡が入った。明日は休みにしてナミの傍にいてやって欲しいと。
……なんだってンな事してやる必要がある。そうは思うが、ニコ・ロビンが無意味な事を言うとも思えず仕事を適当に片付けると帰宅する事にした。
だがやれる事は大半が片付いていた筈なのにも関わらず、色々と厄介事が重なり、帰りついたのは言われた日の夜22時を過ぎた頃だった。ドアの前に佇むニコ・ロビンがナミなら、少し前に寝かしつけた所よなんて笑う。
それを押し退けて中に入れば、ベッドではなくテーブルで寝ている姿が見えた。寝かし付けたなんて言っていたが、これは薬を嗅がせたなと溜息が落ちる。
テーブルには料理が並べられ、俺の座る椅子の目の前には箱が置かれている。それに手を伸ばせばカードが添えられていた。
『今日はバレンタインなので、クロコの好きな料理を並べてみました。忙しいのは知ってるけど、体を壊さないでね。これを作りたくて、飛び出したの。……まだ、怒ってるかな。少し、不安です』
……不安になるくらいなら、言いつけを守っとけ馬鹿が。そう思いながら箱を開ければ、中からはチョコが出てきた。
律儀に鰐の形で作られているそれを見て、頭から齧ると中から金具が出てきた。何だと思って手に取れば金色のピアスで、1つか?と残りのチョコを口に入れつつ箱の中身を見る。
鰐の形をしているチョコが2つと、ハートの形のチョコが1つか。て事は、この鰐にもう片方が入っているらしいと分かる。
齧ってみればやはり入っていて、その2つを洗浄してから身に付ければ妙にしっくり来る。純金のそれに笑ってから、眠るナミの唇を奪えば寝ているのにそれなりに反応する。
「んっ……ぅ……」
早く起きろ。チョコとピアスの礼をしてやる。
「くろ、こ?」
「嗚呼、起きたか。ナミ、お前を寄越せ」
「ん、でも、先にご飯……」
寝ぼけながらそんな事を言うが、許す筈ねェだろうに。その身に纏う服を砂に変えて、椅子の向きを変えれば漸く覚醒するナミにクハハと笑う。
「飯は明日だ。今夜は、お前を食わせろ」
言葉と共に足を肘掛に移動させれば、ナミは真っ赤になって身をよじる。その直後に俺の耳を見て、動きを止めた。
「……やっぱり、似合うわね」
「……今、気にするのがソレか。相変わらず、変な女だな」
「クロコには、それが似合うと思ったの。だめだった?気に入らない?」
「気に入らねェ物を、この俺が身に付けると思うのか」
そう言ってその体に噛み付けば、ビクリと反応する。そして、恥ずかしそうに視線を逸らして、言う。
「ベッドが、いい」
「今夜は、ここでだ。飯の代わりに食うんだからな」
俺の言葉にナミは小さく体を震わせ、けれどもそれ以上の抵抗は見せない。いつもこうして従順でいれば、閉じ込めたりしねェんだろうが、そんな女に興味は抱けねェんだから、俺も歪んでる。
俺の腕の中で、自由に羽ばたけ。歌う事も、笑う事も、泣く事も許すから……傍からは離れるな。
俺の動きに合わせて反応する素直な体に反して、簡単には従おうとしねェその心が気に入っている。強気で、生意気で、それでいて甘やかなナミに、溺れているのは俺の方だろう。
「随分と、濡れてるな。寝起きの筈だってのに」
「んんっ……!言わな……いでっ!」
「夢の中でも、俺に抱かれていたか?」
俺の言葉にビクリと肩を揺らしたナミに、まさか嘘だろうと視線を向ければ、これ以上ない程に茹だっている。……これだから、怒りが持続しねェんだよな。
夢の中でまで俺に愛されていたと言うならば、夢の中で何があったか聞かせろと囁く。それに言えないと言うナミに、俺がこの先どう可愛がってやろうかと頭を悩ませたのは言うまでもない。
Happy Valentine……甘い甘いチョコよりも、更に甘い兎に鰐は食らいつく。兎は鰐が求めてくれるのならばと、甘い思考ごと自らの全てを鰐へと差し出した。
この後は原作絡んで来ます。苦手な方はご注意を。