牢に入れられる時、大モメに揉めた。男女は分けての収容が原則であり、そもそもナミは囚われるべき対象では無かったからだ。
それでもナミは俺から離れようとしなかったし、俺も俺が側にいて問題が起きる筈もねェと言った為に囚人服では無いナミが、囚人服の俺と共に牢へと入った。そこで雑魚共が騒いだが俺が何かするよりも早くミスター1がそいつらを黙らせ、平穏な日々が緩やかに動き出した。
平和なそれは、ある意味で楽であり特にやりたい事も興味がある事も無い俺は、牢の中でゆっくりと眠っていた。脱獄する気になれば、ミスター1とナミを連れて行く事は造作もない。
それでも今の所、この環境に文句はねェ。……ナミも傍に居るしな。
そっと俺に触れる細い指先。甘やかすように撫でて来るその動きに、どこに居てもコイツだけは変わらねェなと思う。
「愛してるわ」
馬鹿が、知ってる。お前が俺を深く愛している事は、そして……お前だけは何があっても裏切らねェって事はな。
そうでなくて、どうしてこんな所までついて来るってんだよ。そう考えた時、俺の額にそっとキスをしたナミはそのまま俺に擦り寄り、抱き着く。
「お休み」
そう小さく囁いたナミは、そのまま本当に寝息を立て始めた。能力の使えないただの犯罪者である俺を、ナミはまるで何も変わっていないかのように扱う。
お前だけは……元の生活に返してやるべきだろうか。だがきっと、そうすればナミは世界から狙われるだろう事を思えば、寧ろ俺とここにいる方が安全だろうと気付かされる。
何も分からずに、恋人に甘える女として共に居てくれた方が……安全だと分かっている。仕方ねェからナミ、お前は何も気にせずゆっくり眠れ、全てから守ってやるよ……と心で呟く。
その翌日、ミスG・Wが皆でまたBW社をやろうと言って脱獄をさせに来た。1瞬ナミだけ連れて行って貰う事を考えたが、その瞬間に考えを読んだ様子のナミに睨まれる。
「私は、クロコから離れるつもりは無いわよ!」
「……コイツらといれば、狙われる事も無く平和に過ごせる」
「私は、実家かクロコの傍以外に生きる場所は無いの!それに……迷惑かけるわ。私は、狙われているでしょう」
「知ってたのか」
……流石に実家は不味いな。戦えるのがナミだけになっちまう上に、守るべき荷物を抱えちまう。
俺は儚く笑うナミを見て、仕方ないかと溜息を落としてから、ミスG・Wに脱獄拒否を告げる。その直後に俺とナミ、ミスター1を残して脱獄したそれらを見送れば囚人服からまともな服へと姿が変わる。
俺は海賊王、ミスター1はヒーローに、そしてナミは……籠を背負い、軍手をして、肩に筒を掛けて……何を理想としているのか分かったような分からないような姿になる。本気で蜜柑育てながら、海図や地図を描けるならなんでもいいのだと分かる。
「ナミ、俺は……」
そう声を掛けようとした時、ミスター2とミスター3が同じ牢に放り込まれて、極悪犯としてインペルダウンへの収容される事が決まった。流石にナミを連れて行ける場所じゃねェだろうと思ったが、結局ナミは俺達と共に入獄する事になった。
熱湯風呂に俺が入るのは良いが、ナミは死にかねねェと止めようとした。その時、マゼランが犯罪者では無い者にそれはさせられんと言って、その場を通過して俺の入る牢に共に入れられる事となった。
それから僅かな期間に目まぐるしく状況が変化し、火拳のエース……即ちナミの弟が入獄して来た。それを見てナミが嘆き、そんなナミを初めて見た俺が動揺している間に今度は、処刑の為にと連れ出される姿に涙を零した。
「……チッ」
思わず舌打ちしてナミを抱き締めると、いつの間にか懐柔されていたらしい同じ檻の凶悪犯共が共にここを出るかと問い掛ける。そんな時に現れたのが、まさかの麦藁で……嘘だろうと思う。
ホワイトデーに何もやれなかったから、ひと月遅れではあるが何かをとは思っていたが、叶えてやれそうだ。火拳のエースの炎の色はオレンジだったな。
寝惚けながらナミが言っていたオレンジデーの贈物に、丁度いいだろう。国なんかと違い、ナミが喜ぶだろう贈物が見つかり、自然と笑いが込上げる。
「ここを抜けたきゃ、俺を解放しろ……!!俺ならこの天井に穴を開けられる!!どうだ麦藁……クハハハ」
「あ、お前……!!ここに捕まってたのか!!って、ナミも!?」
それから多少の騒ぎはあったものの牢からナミと共に出た俺は、ナミに視線を向ける。体力等が落ちていなけりゃ良いが。
「……守りながらの戦いなんざ、経験がねェ。自力で着いて来られるか?」
「弟のピンチに、泣いてるだけでなんて居られないわ。クロコ、ルフィ、ありがとう」
「ナミ、お前が強いのは知ってるけどよ、これから向かうのは……「分かってる。大丈夫よ、間に合うから……エースが生きている内に、戦争の中に飛び込むわよ!」」
強い意志をその瞳に宿すナミに、きっとやり遂げるだろうと分かる。だからこそ俺も力を貸してやろうと、贈物にしようと決める。
オレンジデーにオレンジ色の弟の命を、ナミの手に。今度こそ、お前の欲しがるそれを与えてやるよ。
家族や俺の為にしか泣かないナミを、もう泣かせたくはないと心から思う。その後移動した先でイワンコフの持ち物からまともな服に着替えると、ナミにもそれなりの服装に着替えさせる。
「……似合うな」
「クロコ、ドレス姿で戦えっての!?」
「当然だ。折角美しいんだから、それなりの姿でいろ。それに……戦えるだろ、ナミなら」
そう言って唇を重ねればナミは大人しくなり、イワンコフと麦藁が騒いだがそれは無視しておいた。左腕にナミを抱えて移動を開始すると、扉や壁を右手で砂へと変えて突き進む。
白髭の首は当然欲しいが、それよりも今は……ナミへの〝贈物〟が死ぬより前に連れて行く必要がある。戦いが始まった時ナミを背に戦い始めれば、ナミもまたいつもの武器で雷を叩き落とす。
俺をすり抜けた弾丸をナミは全て器用に躱すと、この程度の相手なら庇わないで大丈夫よなんて頼もしい言葉を口にする。……本当に、いい女だよ、お前は。
ミスター1を連れ出し、脱獄する囚人の数を増やしながら先へ先へと進む。その途中で会った〝黒髭〟と名乗る男に、飛びかかろうとするナミを抑え、抱えたまま先へと進めば泣くのを耐えている様子を見せた。
……あれが、弟が捕まる原因となった男か。今は脱獄が優先だが、いつか……お前が望むなら、消してやるから……俺の為以外に泣くんじゃねェよ。
船を手に入れる為にジンベエが向かうと言うのでそれに付き合うと言えば、ナミが共に行くと言う。コイツはと思いながらも笑い頷けば、ここ迄の戦いその戦闘力を目の当たりにしていたミスター1が小さく呟く。
「流石は〝ボスの女〟だ」
だがな、切れちまってるから戦えてるだけで、基本的には闘う事を苦手とする、本来ならば俺の最も嫌いな種族なんだぜ?そう心で返したが、実際には煙を吐き出しただけだった。
多くの事は割愛するが、船に乗り贈物の元へ向かう途中、ナミがそっと抱き着いてきた。そして、儚く微笑む。
「クロコ、ありがとう。……私、クロコと1緒にいられて幸せよ」
まるでこれが最期のような言い方に、背筋が寒くなるような気がした。その為に船内に連れ込み話をするとの名目でその身に触れれば、抵抗もせずに微笑んだ。
Happy orange day……男からの贈物を女は知らず、命を捨てる覚悟をしていた。男はその事を知らず、ただ胸騒ぎに苛まれながら女の身をその腕に掻き抱くのみ。
助けられたのかは……リクエストが入って書かれるまでは、皆様のご想像にお任せします。
この先の更新予定は不明です。