※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

63 / 284
お花見イベント(光源氏18)side

 漸くベッドから身体を起こせるようになった所だと言うのに、また何かを書いていたらしいナミは、様子を見に来てみれば窓に止まったニュースクーと楽しそうに会話をしていた。ナミへの見舞いを隠す為か、当たったと言う事にして渡すそれを見て、海賊には基本的に当たらない筈の海賊くじの当たりを眺める。

 ……本当によく手懐けたもんだ。ニュースクーが特定の誰かにこれ程心を砕く等、これ迄聞いた事も無い。

 弟達を庇い、大怪我をして、血塗れになりながら戦っていたナミを思いだせば、良い気はしねェ。それでも、生きていただけで充分過ぎる奇跡と言えるだろう。

 簡単に自らの生命を捨てようとしたのは明らかで、それでも鬼神のように戦っていたあの姿は異様に美しかった。思わず見惚れたのは、俺だけでは無いだろう。

 

 「これって、当たるのね……」

 「クー!?」

 

 当然本来ならば当たる筈もないそれにナミは驚き、ニュースクーはバレたのかと焦っている様子が微笑ましい。しかしナミの続けた言葉に、海賊がどれだけいると思ってるんだと言わんばかりの様子を見せるニュースクーは役者だな。

 それに笑いながら謝るナミは、穏やかな表情をしている。その身体に包帯が巻き付いているのを隠す為に、素肌を晒せない状態にあるのを除けば何とも穏やかで優しい時間だと言えるだろう。

 だがそれも、ついでとばかりに渡された封筒を目にした時、終わりを迎えた。悲しそうに瞳を揺らし、けれどもそれを隠して笑うナミに、何を考えてんだかなと思う。

 

 「クーちゃんありがとう。温泉も桜も大好きだから、本当に嬉しい。楽しんでくるわね」

 

 そう言って机にそれをしまったナミは、窓に向かい歌い始める。先程の言葉にもあった花の歌らしいと気付けば、ナミの故郷には無かった筈だなと内心で首を傾げた。

 けれども歌い終えた瞬間に振り向いたナミの顔を見て、そんな事はどうでもいいと思わされちまう。そして俺は、何も考えずに手を広げていた。

 それに合わせて駆け出したナミは、迷い無く俺の腕に飛び込んで来た。それを軽く受け止めると、擦り寄ってくる温もりからは相変わらず蜜柑の香りが漂って来る。

 ……こいつは、本当に蜜柑で出来てるんじゃねェだろうな。だから、何度食っても食い足りないんだろうか。

 けれど甘え続けるナミのその様子に、何かあるなと思って髪を弄りながら声をかける。指に絡むナミの髪は、相変わらず柔らかい。

 

 「どうした?痛みで情緒不安定にでもなってんのか?」

 

 それに対して痛くないと返して来たナミに、それはそれで不味いだろうと思う。そも、今走った事が大いなる問題だ。

 鎮痛剤が効きすぎて、痛覚が麻痺してるんだろうか。弱めてもらう方が良いかもな。

 

 「海賊一番くじが当たったの。重箱に卵焼きとか詰めて、お花見とかどうかしら?……でも、難しいわよね」

 

 この怪我じゃ確かに、退院させて連れて行くのは無理があるだろうな。だが……こんな顔させるくらいなら、連れ出してやりたい。

 そもそも、こんな所にナミを何時までも閉じ込めておきたくねェな。ナミは、陽の当たる所で微笑んでいるのが似合う。

 

 「行くか。重箱に詰めるのはまたの機会としても、花見くらいそろそろしても良いだろう」

 

 頭を撫でながら言えば、驚いた顔をするナミについ、笑っちまう。そろそろこんな所に置いとくのは辞めて、海に出てもいい頃だろうと考えを改める。

 

 「ありがとう」

 

 嬉しそうにそう言って甘えて来る様子に、お前は本当に俺の愛らしい猫だと笑いながら暫く好きにさせてやる。珍しく素直に甘えてくれるのを、無下にする理由等どこにもない。

 そうして少しばかり、これ迄は壊しそうで触れられずにいた分を取り戻すように撫で回してから、退院手続きを済ませた時、ナミが隠していた封筒を見付けた。微かな罪悪感さえ感じないままに、中身を確認すればその券の宿泊施設がこの島の奥にある宿だと気付く。

 そんな偶然があってたまるかと思いつつも、それだけニュースクーもナミを気にかけてたと言う事だと気付く。どうやらここの温泉には、怪我に対する効能があるらしいな。

 温泉は濡れる事になるが……ナミの事をこのまますぐに海に連れ出せば無理をして傷を開かせるだろうと予測できる。ならば……これは使うべきだろう。

 そうと決まれば話は早い。電伝虫でダズに連絡を入れて3日後に落ち合う事にすれば、電伝虫は回復したなら良かったと嬉しそうに笑った。

 ちなみにダズは意識を取り戻して、自力で歩けるようになると病院を出て行っちまったので、近くにはいない。その時に〝姐さんが回復したら戻ります〟とかほざいて消えたのだ。

 誰が姐さんか。本当に、あいつは何言ってんだかな。

 何も知らずに港へ向かおうとするナミを捕まえて、道すがらの桜見上げる。それによりナミも花見だと気づき嬉しそうに笑うが、そっと俺から離れようとするのでその腰を強く抱いた。

 

 「ちょっ……!?クロコ!?」

 「……離れるな。手の届く範囲にいろ」

 「なら、腕とか、組んでもいい?」

 「その方が離れないってんだったら、そうしろ」

 

 俺の言葉に嬉しそうに笑い、腕にしがみつくそれは既に腕を組んでるとは言わない気がしたが、俺の傍に居るならそれだけで構わないと思えた。桜の花弁が視界を遮る。

 普段ならば全て砂に変えちまう所だが、ナミが笑うなら視界を遮られる事位許してやってもいい。だが……ナミに絡むのは頂けねェな。

 そっとナミの髪から花弁取り去り、それを砂に変えるとナミが不思議そうな顔で俺を見る。その顔があどけなくて、こんな顔をされて初めてナミの年齢を思い出す。

 

 「まだまだ、本来ならガキなんだよな……」

 「どういう意味?」

 「中身がババくせェって言ってんだよ。好きなのも温泉だろ?」

 「うっ……。クロコが嫌なの知ってるから、これ迄1人とか、ロビンとしか入ってなかったもん」

 

 少しむくれた様子で言うそれに笑い、そっと耳元で問い掛ける。嫌がらないなら俺と2人で入るのか?と。

 それに真っ赤になって言葉を失うから、それなら入ってやるかと思う。別段能力が使えなくとも、ナミが俺の傍に居るなら……喜び笑顔を見せるなら、差程困りはしねェんだよ。

 

 「……今から行くぞ」

 「へ?」

 

 離れで2人きりと言うなら、別に構わねェだろう。どうせその後は、ナミと言う団子を食う事になるんだからな。

 そう思って笑い、綺麗になって来いよと囁けばご無沙汰だった事を今更思い出した様子で、真っ赤に染まるナミの姿。首の後ろまで恐らくは赤いだろうそれに、クハハハハと笑えば馬鹿馬鹿と言いながらも離れようとしないナミに満足する。

 花より団子……いや、花より蜜柑が俺には似合いだろう。赤くなり体温が上がった事で、香るそれが強くなったのを感じればこれ迄随分ご無沙汰になった分、鳴かせてやろうと思った所で誰に責められる謂れもねェと俺は1人でほくそ笑んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。