※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

64 / 284
白ひげ海賊団1番隊隊長船医者〝不死鳥〟マルコ
偶然の遭遇(光源氏14)side


 空気が歪んで見えて、俺は咄嗟に親父を仰ぎ見る。それに親父が頷いた為に隠れている船を暴き出した俺達は、その船を見て誰かが言った言葉で海賊というか宝探しをしている奴等だと認識した。

 しかしその船は小船を追い回しており、その小船には少女が1人乗っているだけだ。その上で追っている側がおかしな動きを始めたので、取り敢えず静観する事にした。

 よくよく見ていれば、追っている方の船がどうやら沈もうとしているらしいとわかる。それにより船にヒビが入り割れようとしているのがわかれば、どうしたものかと思うのも当然だろう。

 親父を仰ぎ見ると、親父が数人に目配せして小船を捕獲するよう命じたので俺は成り行きを見守る為に、船縁に腰を下ろした。沈む船の中で殺せという声が聞こえたかと思うと、次の瞬間船が盛大な音を立てて沈んだ。

 その中でもいくつか沈まなかった人影があり、取り敢えず引き上げるかと全員を助けて回る。その中に1人の明らかに幼い少女がいれば目立つ事この上ない。

 樽の上に乗り、難を逃れていた少女は俺が能力で鳥となり近付くと呟くような声で俺の二つ名と共に俺の名を紡ぐ。そして、甲板まで大人しく運ばれたかと思うと、同じく甲板に運ばれていたらしい確保されていた小船の少女を見つけて、ふらりと危ない足取りで立ち上がった。

 その様子に全員が声も無く成り行きを見守っていれば、髪の長い方が短い方の頬を思いっ切り叩いた。それに驚いたような表情をした短い方は、直後にその表情を怒りに染めたが、長い方の表情は俺の位置からは見えなかった。

 

 「カリーナ!なんで素直に見捨てて逃げなかったのよ!あんた、下手したら殺されてたのよ!?」

 「……それは、私の台詞よ!どうしてあの状況下で私を庇うのよ!捕まったのは私のミスだったのに!ナミには金を集めるだけの理由があるでしょ!?」

 

 髪の長い方が叫べば、短い方がそれに応えて、そして長い方は黙った。それに対して短い方は長い方に抱き着き、泣きながら言葉を続ける。

 

 「私と違ってナミは、生きてやらなきゃならない事があるんでしょ?!どうして、庇うのよ!私、ほぼ無傷なのに……あんただけ、こんな……!私はただ、贅沢したいの!着飾って楽しく生きたいの!でも、あんたは違うんだってのは、知ってるんだから!」

 「カリーナ、私はいいのよ。カリーナが怪我してないなら、良かったわ」

 「あんたは仏か!なんで……いつも、私を庇うのよ。私は、あんたに優しくされる理由が無い!……気付いてないと思ってたの?あんたのが私より稼いでるのに、あんたは自分には金かけてないの。それって、何か理由がなきゃ無理よね?何を……!?」

 

 短い方が怒り狂いながら泣いていたら、長い方の体が大きく揺れて、甲板に倒れ込むのが見えた。咄嗟にそれを支えれば服が湿っているのがわかり、海水かと思っていたそれが血液だと分かれば咄嗟に抱き上げる。

 

 「ちょっと!ナミをどうする気よ!?」

 

 短い方が騒ぐので視線だけ投げて、俺は医務室に長い方を運び込む。短い方が必死の形相でついてくるのをそのままに、医務室で長い方の服を剥ぎ取ればその状態を初めて目視したらしい短い方は息を飲んで立ち尽くした。

 

 「……ドア、閉めろぃ。外の奴等に丸見えになる」

 

 短い方は言葉に反応してすぐさまドアを閉めたが、その後は動けなくなったのかその場で崩れ落ちて泣き出した。嗚咽混じりに何度もナミ、ナミと呼びながら死なないでと繰り返す。

 長い方は随分酷くやられていたようで、苦しそうな息遣いをしている。だが、この重症で良くこれまで意識を保ちかつ短い方の元へ歩き、言葉を交わしていたと驚きを隠せない。

 俺はその感情を溜息と共に吐き出して、ただ黙って処置していく。子供でしかも女の子だ……跡を遺さないようにしてやらないとと思うからこそ、慎重になる。

 手当を終えて取り敢えず清潔な服を着せた所で意識を浮上させた長い方は、どうやってと言いたくなるほどスムーズに体を起こして俺を見て頭を下げた。サラリと落ちる髪からは柑橘類の香りがする。

 

 「白髭海賊団の不死鳥マルコさんとお見受け致します。見ず知らずの私とカリーナを保護していただき、ありがとうございました。私はナミと申します。助けて頂いた所申し訳ありませんが、今日の日付を教えてくださいませんか」

 

 俺は言われるままに日付を伝えたが、その瞬間ナミと名乗った女は困ったような顔になった。それから居住まいを正して短い方に視線を向けた。

 

 「カリーナ、もし少しでも私に恩を感じているならお願いがあるの。聞いて」

 「……何よ」

 

 泣いていた筈の短い方はナミの声に反応だけ示すがその場から動かない。元々気が強いのか、泣き顔を見せまいとしていて、それが幼さを増長させる。

 

 「……私の死体か、生首を、届けてほしい所があるの。それと、手紙を」

 「あんた、何言ってるのよ!?」

 「それは俺も同意見だねぃ」

 

 助けたばかりの命に、死にたいと言われては立つ瀬が無い。そう思ったがナミの瞳には、悲壮感も絶望感もない。

 決意を固めたのだとその瞳は訴える。まるで交渉するつもりも意見を変えるつもりも無いと言うかのような瞳に、俺も短い方も息を呑む。

 

 「……カリーナの言っていた事は正しいわ。私は、帰らなければいけないの。でも、その期日まで時間が無い。私が帰らない場合、犠牲者が出る。でもね、私の死体があれば……その犠牲は出なくなるの」

 「何よ、それ……」

 「細かい事はいいから、カリーナならば私の生首だけなら東の海(イーストブルー)まで、3日以内に届けられるでしょ。お願い、人の命がかかってるの!」

 

 髪の短い方が泣きながら頭を横に振る。けれどもナミは言葉を止めない。

 

 「白髭海賊団の人達には迷惑極まりないと思うけど、首を切り落として貰いたいと思ってる。無理なら自分で掻っ切るから、だからカリーナ、お願い!」

 「あ、あんたの命だって、人の命じゃない!」

 

 カリーナと呼ばれている髪の短い方が泣きながら言えば、ナミは穏やかに笑った。それは既に生への執着のない、穏やかな笑顔で。

 

 「……1人の命で250人の命が助かるのよ。お願い。コノミ諸島ココヤシ村まで、私の首を届けて。私は裏切って無いし、逃げてもいない。ただ、死んだのだと伝わらないといけないの。お願いだか……」

 

 俺は咄嗟にそれ以上言わせたくなくてその首に手刀を落として意識を奪うと、その体を寝かせる。どうやら何か抱えているらしい事は嫌という程伝わった。

 

 「カリーナ、だったねぃ。お前はこれからどうする」

 「……ナミとは腐れ縁なだけだけど、本当に必要なら生首届けるくらいはするわ。多分、この様子じゃ決意も変わらないだろうし、生きてるナミを私だけだったら3日以内に、そこまで連れては帰れないもの」

 

 それに続けて小さな声で、言い出したら聞かない頑固な面があるのよ、この仏様。なんて言うその言葉に、俺は深く溜息を落としてドアを開ける。

 表で聞いていたらしい家族に、そういう訳だよぃと言えば、親父が連れて行くか?と平然と聞いてくる。親父も聞いていたのかと思いながら確認をする為に声を出す。

 

 「いいのかよぃ?」

 「たまには東の海まで行くのも悪くはねェだろう。グララララララ!」

 

 親父が言うなら、3日以内には到着できるだろう。そう思って振り向けば、カリーナは表に出てきて頭を下げた。

 

 「ナミの事、宜しくお願いします。私は、宝もあるし、ナミが死なないならそれでいいから帰るわ。もう、私に用はないでしょ」

 「小娘、もう1人の方に挨拶はいいのか?」

 

 親父が問かければ脂汗を滲ませながら、足を震わせてカリーナはその場に座り込んだ。感じ取る事は出来るらしいと判断して、末恐ろしいものを感じていたら、震える声でカリーナは応えた。

 

 「私、別れの言葉なんて言いたくないのよ。ナミは底抜けのお人好しで頭はいいのに馬鹿だから、私、そばに居たら駄目になる。甘やかされて、1人で立てなくなる。だから……意識が戻らないうちに行くわ」

 

 そう言って小船に戻ると少女は颯爽と姿を消した。それを見送る兄弟達の中には、名残惜しそうな雰囲気もある。

 2人の他に拾った奴からの話だと、宝を盗みに来た2人の少女を捕らえて、宝の場所を吐かせようとしたら逃げられたとの事だった。その上ナミが船を沈めたのだから、その礼はキッチリしたいと言い出す。

 海賊の仁義を通すなら、こいつらの言い分も1理あるが、盗られる方が悪いとも言える。人道と言う意味では、どんな理由があれ1人の少女を死の寸前まで痛め付けて、その上で売ろうとしたこいつらには、既に情状酌量の余地も無い。

 親父も似たような事を考えたのか、そいつらに小船を与えると、取り敢えず助けた命が散るのは見たくねェからと言って放り出した。小舟で偉大なる航路(グランドライン)を渡りきれるのかと聞かれれば、答えは不明だ。

 それでも難破した所は助けたし、これ以上の揉め事は嫌だから追い出したと言うのはおかしな話でもない。その翌日意識を取り戻すと同時に、親父に挨拶してから殺してくれと言ったナミを親父が怒鳴った。

 けれどもナミは1歩も引かず親父に対峙する。守るべきものがあるのよと言って。

 それからボソリと、エースはまだかと呟いたのを聞いた俺達は謎の手紙の送り主かと、ナミを見て、これから送ってやるから間に合う筈だと伝える事で死を阻む。その瞬間ナミは体から力が抜けたのか崩れ落ちた。

 

 「良かった……これで、希望が繋がった。皆を助けられる」

 「ナミは助からなくていいのかよぃ?」

 

 思わず声を掛ければ、ナミは微笑む。明らかに子供がするべき表情では無く、それは……朝日を待たずに死に逝く者がする最後の微笑みに類似している。

 

 「……マルコさんなら、私の気持ちが理解出来ると思いますよ。自分1人の命や人生で、家族全員が助かるなら、迷わないでしょう?大丈夫ですよ、白ひげ海賊団にこれから起きる悲劇は、回避する方法を伝えて行きますから」

 

 そんな事を聞きたい訳じゃない。まだ書かれていた時にはなっていないから、あの手紙の信憑性は不明だが、それは今問題では無い。

 先に言っていた言葉は確かに否定出来ない。だが、それでも、誰かを犠牲にするのも遺されるのも嫌だからこそ、家族の為に生きようとしてほしいと思ってしまった。

 儚くけれども幸福そうに微笑む、自らの死を受け入れているナミ。それを見て、そんな顔はしないでくれと言いたくなるのは何故なのか。

 それからは動ける範囲で仕事の手伝いをしながらナミは自らの島へと素直に俺達を案内して、到着と同時に別れを告げて来る。俺はその手を離したくなくて、けれどもそれは許されないと知っていた。

 

 「マルコさん、私を届けたら皆さん揃って急いで逃げてくださいね。巻き込みたくないので……本当に、お世話になりました」

 

 穏やかなその微笑みに、俺は泣きそうになる。どうして……そこまで周りの事しか考えないのか。

 どうして、誰かに助けや協力を求めようとしないのか。せめて傷が治るまで側に置いていたかった。

 

 「自分を大切に出来ない奴は、結局誰も守れねェよぃ」

 

 思わず口をついて出た言葉は誰にも届かずに空気に溶けるが、それでも音にせずにはいられなかったのは、俺もまた同種だからなのか。俺の言葉を受けても微笑むだけで、何事も無かったかのように立ち去る姿。

 助けてやりたいし、そばにいて欲しいが、戦えない少女を乗せる事は出来ないだろうしねぃ。何か解決策は無いだろうかと考えて、自分がどんな顔をしているのかなんて気付きもしなかった。

 悩む俺に親父はグララララと笑ってから、ナミュールとハルタに調べてもらったと言って、この島の実情を教えてくれる。親父を思わず見れば、アホンダラァと言われてしまう。

 

 「海賊だろう、マルコ!欲しいなら奪って来い!」

 

 俺はその言葉に背を押され本能に従いナミを追い掛けて飛び出して行き、島の問題を叩き潰す。それにより泣き崩れて礼を言うナミに、礼なら体で返せと言ったが……何故だか違う意味に捉えられた。

 無論今すぐにこの子供に手を出したい程に飢えてる訳でもないが……素直に頷いた結果が、頭脳労働だと誰が想像しただろうか。その上で能力は異様に高いから文句の1つも言えはしない。

 それにより俺の仕事のサポート要員として、共に船に乗る事になったのだが、兄弟達と親父には哀れみの視線を向けられる事となった。部屋で書類整理している姿を見ながら思い返すのは、ナミを島から連れ出す時の事。

 あの時は少し揉めたが、結局はナミが口から出任せなのか何なのかわからない言葉を口にしたお陰で解決した。そう〝夢を叶える為に、信頼出来る人達の船に乗るわ〟と言ったナミのお陰で。

 そばで無邪気に笑うナミを見ていたら、同性に愛される人間は信用に値すると言う言葉を何となく思い出して、俺は思わずナミを抱き寄せる。それにナミは抵抗せずただ信頼してますと言うような瞳で俺を見て微笑むから、必要な物を持って来いと声をかける。

 母と姉だと言う家族と、関わりはないと言い切るものの明らかに父親代わりだと分かる男に探るように見られて、俺は困り果てたような気持ちで言葉を紡ぐ。

 

 「俺はナミの夢が何だかは知らねェよぃ。だが、可能な限り夢は叶えさせてやるつもりだぃ」

 「……貴方が、マルコ?」

 

 姉だと言っていた少女が問い掛けてくるので、そうだと答えれば何故か納得したように頷いて妹を宜しくお願いしますと頭を下げた。それが納得行かなくて見つめれば、少女はゆっくりと唇を動かした。

 

 「ナミが寝言で頼るのは、助けを求めるのはいつも〝マルコ〟と〝ルフィ〟他には〝師匠〟だから、名前の分かるそのどちらかになら任せられる。未来を見るナミだから、多分貴方は知らないと思うけど、きっとずっと前からナミは貴方を信頼しているから」

 

 そんな言葉を聞かされて、実際に手紙を受け取っている身としては無理に手を出す事も出来ないなと改めて思い知らされる。その後未来を見ると言われたナミが、船に乗ってすぐに親父と大喧嘩するとは思いもしなかったが。

 結局親父が押し負けて、現在ナミの左肩には白ひげのマークが入っている。そうして今、俺に全幅の信頼を寄せるナミに手を出せないまま、無防備なナミとの同室での生活が、始まろうとしていた。




タグ変換し忘れてました(--;)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。