※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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か弱い美少女(光源氏14/親)

 白髭海賊団のお世話になり始めて、半月程が経過した。私はマルコさんの部屋を使わせて貰っていて、怪我もあるのだからあまり動き回るなと言われてるけど……。

 この怪我は私のミスだし、何よりそんな言葉で寝ていられる状況じゃない。マルコさんは仕事を溜め込んでるし、その仕事は効率が悪過ぎる。

 そんな中で手伝いをしていたら、マルコさんのサポーターとして役立つから仲間になれと、兄弟になれと誘ってくれる兄達に絆されそうになるけど……。それにはまず、この問題を解決する必要があるのよ。

 

 「船長様、今日こそ頷いて頂きます」

 「その呼び方をまず辞めろ」

 「私の願いは聞かないのに、自分の願いは聞かせようだなんて随分横暴ですね」

 

 低く言葉を放てば、白髭様もそれに応えるように威圧してくる。その怒声は空気を震わせて、寝ていた人達が起きて様子を見に来ているのは気付いていた。

 

 「……俺はこの船の船長で、ナミはクルー、それも見習いに限りなく近い立場だろうが!!」

 「これを見ても、私を見習いと言えますか?」

 

 そう言ってマルコさんのやっていた書類仕事の効率アップを目論んだフォーマットと、それを用いた後の作業時間が短縮した他に見易くなった為に綺麗に纏められた書類をドンと積み上げる。世界が違うからと言うのもあるけど、事務仕事においてならこの船で私は一二を争う実力者だと自負してるわ。

 

 「……私は、白髭海賊団の誇りを左肩に入れ直したいの。それが出来ないなら……お世話になっておいて申し訳ありませんが、降ろさせて頂きます」

 「ここは新世界だぞ!!東の海では実力者でも、ここでは雑魚とさえ呼べない事くらいわかってるだろうが!!」

 「なら、入れさせて!!」

 

 アーロンのマークを刻んだまま、この船に乗るなんてそんな失礼な事はしたくないし、こんな刺青……早く消してしまいたいの。なのに、白髭様はそれを認めてくれないし、そもそも話を真面目に聞いてくれない。

 

 「マークを刻む事は、戦闘員以外には認められねェ。そして、女の戦闘員はもう二度と乗せないと決めている」

 「……交渉は決裂ですね。船もいりません。樽を1つ、頂いて行きます。お世話になりました!!」

 「待てコラ!ナミ!!」

 

 白髭様の手を躱してべー!としてから逃げようとすれば、慌てて立ち上がった白髭様と私の本気の追いかけっこが始まる。それにより何事だと集まって来る人達に、私は邪魔されない事を祈るばかりだ。

 白髭様1人だって、私が相手にするには手に余りすぎるってのに邪魔されたら勝ち目なんて欠片も無くなる!!それに、これについては我儘だとは少しも思えない。

 ただ、アーロンの刺青入れてるなんてもう嫌だって言ってるだけなんだから、聞いてくれてもいいと思うのよね。そう思ったのがいけなかったのか、水飛沫をあげながら船内に入って来たその人に、私は息を飲まされてしまい動きを止めた。

 

 「親父さん、ご無沙汰してしてしもうて申し訳ない!更にはアーロ……」

 

 アーロンの刺青が見える状態で居たのが、恐らくは不味かったのだと思う。視線が絡み合った私とジンベエは、暫しその場で硬直した。

 アーロンを打ち倒して海軍に引き渡してもらった後、白髭様が行ったのはジンベエ親分とセンゴク元帥への連絡だった。その連絡内容は知らないけど、もう故郷に何かされる事は無いだろうと笑ってくれた白髭様の言葉を信じている。

 つまりはその結果アーロンが捕まった経緯を知り、お礼と謝罪に来たのだろう。でも、こんな形で会う事になるとは思って無かった。

 無言のまま視線を反らす事も無く見つめ合い、そして、先に口を開いたのはジンベエだった。震えるその声が、ジンベエの動揺を私に伝える。

 

 「その刺青は、アーロンの……!!なぜ、人間がそれを……?」

 「……アーロンから、私が逃げられないように、私が少しでも苦しむようにと……入れられたのよ。……壮大な八つ当たりでね」

 「ま、さか……こんな、子供に!?」

 

 年齢を言い訳にはできないでしょう。いいえ寧ろ、人間の少女が理由となり、大切な人を喪ったアーロンにはかっこうの標的と言えるんじゃないかしら?

 

 「……これを入れられた時は、10歳だったわ。白髭様からの連絡には、それは含まれていなかったの?」

 「……では、お前さんが、ナミ……か?」

 

 私はそれに答える気になれなかった。答える迄もなく、ジンベエはわかっているだろうから。

 だから私は無言のままジンベエから視線を外して、そっと白髭様を見上げる。そんな事よりも、こっちが優先よ。

 これが、最後。これを拒絶されたら、実家に帰ります!

 

 「この刺青を完全に消す事は出来ないわ。クルーとして認めるのなら、上書きさせて。それを拒むなら、私はここを去るか、腕を切り落とす」

 「……他の何かを刻むんでも、い「お世話になりました。助けて頂いたご恩は忘れません。白髭の船長様、それではごきげんよ」あー!くそ!この頑固娘が!」

 

 伸ばされたその手を振り払い、短剣を引き抜いて脇に挟む。力技で抑え込むと言うなら、帰らせないと言うならこれしかない。

 迷い無く手を動かすと、白髭様が叫ぶように言った。……これで、言質はとったわ。

 

 「認める!入れていいから辞めろ!!」

 「男に二言はありませんね?」

 「あァ……だが、戦闘員にはしねェぞ」

 「そんなの初めから期待してません。……私、ただのか弱い美少女だもの」

 私の言葉に白髭様はただのか弱い美少女は大海賊団の船長を威圧して勝利をもぎ取れねェなんて言うけど、大人が子供に勝てないのは世の常だからそれは受け入れません。まだ私子供だもーん!

 

 「こっちは願いを聞くんだ。なら、ナミも俺の願いを聞くな?」

 「勿論!白髭様とか船長様とは呼ばないわ!!」

 「よしよし、それで?」

 「パパ!!ありがとう、大好き!!」

 

 その瞬間何故か顔を押さえて崩れ落ちた白髭様は、なんでも言う事聞きたくなるからその呼び方は駄目だと言うので、少し交渉して親父様に決まった。前にいた女性クルーは親父様と呼んでたらしいから、それで何とか落ち着いたらしい。

 

 「親父さんが翻弄されとる……」

 「……永遠に、勝てる気がしねェ」

 「まァ、この船には良い兄弟達が……家族が沢山いる。儂とは違い、ちゃんと〝良い兄貴分〟なんじゃから、問題ないと思い「その筆頭であるべきマルコが、ナミ欲しさにお前ェの弟分を潰したんだぜ?」」

 「それは……どう言う……」

 

 それから親父様が私が船に乗った経緯を話せば、その間私はマルコの元へ帰っていようとしたのに、何故か親父様の膝の上で頭を撫で回されている。正直に言うなら、ジンベエを責めたくないから傍に居たくないのに。

 私の村を、島を、周辺地域を、支配して苦しめて、傷付けて、搾取したのはアーロンであり、その仲間の魚人海賊団。ジンベエは親父様と仲良しだし、この白髭海賊団の皆とも懇意だわ。

 ジンベエがアーロンを逃がした事が、自由にした事がそもそもの始まりだとしても、それでも……ジンベエ本人に何かされた訳じゃない。だから、責めたくないのよ。

 それでも、傍にいれば責めたくなる。どうしたって、痛いのも苦しいのも間違いなかった事だから。

 

 「……ナミ、聞いてるか?」

 「え?なに、親父様。ごめんなさい、聞いてなくて……」

 「ナミに、正式に謝罪したいとジンベエが言ってるが、どうする?」

 

 私がその答えに窮した時、視線を動かした先でマルコさんが黙ってこちらを見ていた。私を肯定するでも、否定するでもなく、ただ静かに。

 それにより、心が凪いでいくのを感じた。1人で、抱え込まなくていいのだと……そう、言われた気がしたのだ。

 荒ぶり高まっていた感情が沈まれば、言葉は自然と出て来る。この調子なら、持て余した感情で、相手を無作為に傷付けなくて済みそうね。

 

 「私は、その謝罪を受けません」

 「ナミ」

 

 親父様の咎めるような声が降ってくる。でも、私の言葉はまだ終わってない。

 許せないから許さないのではないの。だから、聞くくらいして欲しい。

 

 「私は、謝ってもらう必要性を感じないの。謝るなら、私では無くて……土の下に眠る多くの人達に。叶うなら墓前に手を合わせて欲しい」

 

 私は、自ら戦い、負けたのだ。守れなかった責任は、私にもある。

 傷付ける意思はなくても、許す意思もない。何より私には、許す権利が無いわ。

 墓前に手を合わせる為に行けば、区別のつかない人達から怨嗟の視線を受けるだろう。子供等は、攻撃を仕掛けるかも知れない。

 それでも、いや、だからこそ……それを受けて、その痛みを知って欲しい。自分がした事の結果を、結末をその目に焼き付けて欲しいと願う。

 自分が弟分を逃がした事で、精神的な所で弟分から逃げた事で、何が起きたのかを……。被害者達からは、まだ生々しいその傷跡が消えていないから。

 

 「……私への謝罪は不要です。ただ、墓前に手を合わせて貰えたら、それだけで良い。既に、貴方も罪の意識は持ってるのだと分かるから……見に行く事で、真実を知る事で、それが充分罰になると思いますよ」

 「……ナミはこう言ってるが、どうする?送るか?」

 

 親父様の言葉にジンベエは否と答えて、1人で行くと言う。それだけで、充分だと本気で思うのは、ベルメールさんが生きてるからだろうとは分かってる。

 もしも、ベルメールさんが話の通りに死んでいたら……きっと私は許せなかった。母を返せと、挑みかかっていただろうと思う。

 本物のナミちゃんが夢を叶える事を、二人の娘が生きる事を願い……。大好きだと言い残して死んだその様子は、鮮明に覚えている。

 

 「生きてさえいれば、笑う事が出来る。生きてさえいれば、楽しい事が沢山あるから、産まれてきたこの時代を……怨まないで……」

 

 ベルメールさんが、本来ノジコと本物のナミちゃんに伝えた筈のそれは、私が聞かずに済んだその言葉。花冠をつけたままの苺を皆には内緒だよとくれたあの夫婦が、その代わりと言うかのように私の頭を撫でて最期にそう言った。

 言葉を聞いた人が何を思うのかを考える余裕も無く、私はその記憶を懐かしむ。もっと、私に力があれば……そう後悔しながらも、過去を変えられない事は嫌という程に知っているの。

 

 「最期に、そう言って死んでいった人達がいました。私は愛されているし、護られて来た。……充分すぎる程に、私は恵まれてるわ」

 「ナミ……おいで」

 

 その声に反応して親父様の膝を降りると、マルコさんが優しく抱き締めてくれた。それに甘えるようにして、私からも抱き着く。

 兄とかがいたら、こんな感じ……かな?

 

 「マルコさん、私……部屋に行くわ。書類仕事溜まってるでしょ」

 「優秀なサポーターが来てくれたから、楽になったよぃ」

 「使えるなら、それで良い。役立てるなら、使って」

 

 私は他に、恩返しの方法が分からないもの。役に立つなら、傍に居ても許される……よね?

 そう思ったのに、マルコさんに何故か殴られる。痛みに驚いてその顔を見れば、痛みに耐えてるような苦しそうな顔をされてしまった。

 

 「俺は、ナミを〝使う〟つもりはねェよぃ。ナミは〝道具〟じゃねェ!!やりたい事をやればいい。もう、ナミは自分として生きていいんだ」

 「……自分として?」

 「まずは、心のケアから入らないと駄目かもなぃ」

 

 それから私を胸に抱き締めたまま、マルコさんが言う。何も見なくていいと言うように、強く抱き締めた状態で。

 

 「ジンベエ……これが、大丈夫そうに見えてる被害者の実態だよぃ。行けば……苦しむ事になるだろうと思うが、それでも……行くか?」

 「マルコさん……それでも、行かなけりゃ……ケジメがつけられん。行かせてもらいます」

 「イゾウ、知ってる事を客観的に説明してやってくれ。その上で、手を合わせた後で……もう一度会いたいと思えたら、ナミに会いに来て欲しい。きっとナミは拒まねェから」

 

 困ったように言うマルコさんに、私は大丈夫よと言いながら顔だけ動かして見上げるようにして笑えば、更に強く抱き締められてしまう。苦しくてそれを伝えれば漸く腕の力を緩めてくれる。

 それにホッと息を吐き出すと、マルコさんが頭を撫でてくれた。そして、膝ついて視線を合わせてくれる。

 

 「ナミは、やってて楽しいと思える事はあるか?」

 「楽しい……?」

 

 考えて、考えて……でも、やっぱり海図や地図を描く事や、歌を歌ったり奏でたり、何かを書くのは楽しくて好きなんだと思い至る。だからそれを伝えると、そっと頭を撫でてから紙とインクなら腐る程あるよぃと笑ってくれた。

 子供の手遊びでは無いその実力に、そして宝玉として生きてきた事にこの船の人達が知って騒いだのはその数日後。話してなかったかな?と首を傾げた私に、親父様から呆れたような視線を向けられたのはご愛嬌だろう。

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