その話が出た時、私は緊張で倒れそうになった。そんな私をマルコは優しく抱き留めてくれて、甘やかされてるなと実感する。
「マルコ……私、マルコから離れたくない。家族を喪うなんて、私には耐えられない」
「突然不吉な事言うなぃ。何か見えたのか?」
マルコには手紙を出せた理由として、時々未来が見えるのだと話をしてある。だから、心配してくれてるのは分かるけど……ごめんなさい、ただ甘えてるだけです。
「大丈夫よ、何も見えてないの。ただ、前に見た状態に近付いてるから……不安で」
「〝火拳〟のエースかよぃ?」
「うん、私の弟だし……」
「…………待てよぃ、それは聞いてない筈だねぃ?」
あれ?話してなかった?
声に出さなかった筈の、その言葉を聞き取ったらしいマルコに頭をグリグリされて、シャンクスに師事していた事も含めて吐かされてしまった。それから数日後、エースとジンベエ親分が戦っているところに親父様が乱入して、息子になれと誘うのを眺めていた。
エースが寝込んでいる間に、エースを取り戻しに来た仲間達相手に、そうなる事を話をしてあったからマルコが上手く指揮を取れると喜びながら遊びに行く。その間私は、意識の戻らないエースに張り付いていた。
「……エース、大きくなったねぇ」
思わず呟いた瞬間、エースの瞼が痙攣した。それを見て起きるかなと顔を覗き込めば、エースがくわっと目を見開いて私を見て飛び起きた。
「……妄想も、ここまで来たら病気だな」
「エース?」
思わず問い掛けるとエースは困ったように笑って、都合のいい夢だな。なんて呟いた直後に私の頭を掴んで、深く唇を合わせてきた。
昔とは違って力が強くなり過ぎたそれは、何故か熟練までされていて、くぐもった声を出しながら抵抗しても辞めてもらえない。明らかに寝惚けてる幼馴染兼弟を、本気で傷付けるような拒み方は出来なくて、予定に無い甘い声が漏れる。
そこへ様子を見に来た恋人が引き剥がしてくれるまで、貪られ続けた。私は肩で息をしながら、怒りを滲ませる恋人に恐怖しながらも、抱き着くしか出来ない。
「弟、じゃ……無かったのかよぃ?」
「寝惚けて、襲ったみたい……で、も……私も流石に、弟は殺せないもの……」
「ナミ、今夜は覚悟しとけ。余裕、無さそうだからねぃ」
私の震えを感じ取っておきながら、私が必死に抵抗してたのを見ていながら、マルコはそんな事を言って暗く嗤う。それに肌が粟立ってしまうのだから、私は相当おかしい。
その上で、わかったなんて返事をしてからまたエースの所へ戻る私を、当然のように見守るマルコ。どちらも歪んでると思う。
「……目は覚めた?」
「ホントに、ナミか?」
「そうよ、エース。久しぶりね。っとに、エースじゃ無かったら刺殺してるわよ?」
「……会いたかった……ってか、何してんだよ。こんな所で」
エースはそんな風に言うから、左肩を見せる。それだけで伝わる私の覚悟と決意。
白髭のマークを背負う事が許された、珍しい女。戦闘員である証。
「私も、会いたかったわ。ルフィも元気?」
「あァ、去年までずっと1緒だった。相変わらずだ」
「そう、良かった。エースとサボが、お兄ちゃんをしっかりやっててくれたのね」
「……いや、サボは」
その言葉に私は首を傾げる。そして、嗚呼そうだったと言葉を遮るように口を開く。
作品を見ていたから知っているという事を隠せる、別な真実を。新聞読んでりゃ分かるのに……。
「知ってるわよ。まったく……ルフィの事をエース1人に押し付けるとは思わなかったけどね。まァ、先に傍を離れた私に言えた事じゃないか」
「何言ってんだ。ナミは生きてる、それだけで充分だろ」
「なら、サボも同じね。喧嘩してないで早く仲直りしなさいよ」
「……は?」
「は?って、そりゃ連絡とるの難しいとは思うけど、生きてるのは同じでしょ」
エースが呆然とした顔で私を見る。そうなるのは分かってた。
分かってて、言ったのだから。会話が噛み合うようで噛み合わないように、そうしなければ知られてしまえば、何故助けに来なかったのかと、責められる気がして……。
でも私は、死なないと分かってる弟よりも、死ぬ筈の母を優先してしまったから。その事を理解してくれるとしたら、恐らくは親父様とマルコだけ。
「ナミ、何言って?そうだ、サボを知ってるって、どう言う……?」
「……何って、サボは革命軍のNo.2でしょ。まさか居場所知らなかったの?」
私の言葉にマルコまでもが反応したけど、今は置いておく。今はそれどころじゃないから。
エースはポカンとしてから、生きてるのかなんて掠れた声で呟く。その意味を、正しく理解していながら私は演じる、呆れた様子で出来の悪い弟を見るような感じで。
「……だから、生きてるわよ。私が見えないの?てか、さっきまで襲って来てたじゃないの」
「違っ……!いや、そうなんだけど違くてさ!あの!サボが、生きてるってのは……」
「何?サボの事死んだと思ってたの?新聞で何度も取り沙汰されてるのに?……新聞くらい読みなさいよね」
「……ナミ、それ、本当にサボなのか?」
「……弟の顔を見間違える筈ないじゃない。顔に大怪我してるけど、間違いなくサボよ。帽子も昔と同じだし、服の好みも変わってないわ。金髪で、年齢も1緒で、名前も同じ。それで、別人と考える方がおかしいでしょ」
そう、これは知識じゃないの。だから、気付かないで、私の特異性に。
だから、嫌わないで、今でもエースは可愛い弟だから。そう思いながら呆れたように笑いかけた時、マルコが口を挟んだ。
「……革命軍の参謀長やってるサボってのは、確かナミより歳上だろぃ?」
「そうね、エースと同じ歳だもの」
「なんで、それが弟なんだよぃ?」
「……私より、弱いから」
その瞬間空気が凍った。そして、マルコがボソリとそういや本気のナミを知らねェなんて言い出して、好戦的な瞳を向けて来る。
私はそれを受けて嫌よと1言。だってマルコにこの短剣は向けられないし、昔は勝てたエースにだってもう勝てないだろうから。
それを受けてエースまでもがえー!とか言うから、私は深々と溜息を落とす。もうこれは演技じゃない。
「……昔はエースも悪魔の実食べてなかったから勝てたの。それに、手加減してくれてたんでしょ?」
「は?してねェし。擦り傷1つ負わせられなかったのは、流石に悔しく思ってて……」
「は?……だって私、あの時、クリマタクトを、本来の使い方では使ってないのよ?」
空気が凍り、直後にエースが爆発した。羞恥と怒りで。
咄嗟に甲板に飛び出した私を追い掛けたエースが、問答無用で襲い掛かるから、クリマタクトで応戦する。覇気を纏わせて殴ると、なんで痛ェんだと驚くから、肩を落としてしまう。
「……私、1応覇気使えるもの。ロギア相手に、覇気を使わないでなんて……戦わないわよ」
そうしてその日は何とか落ち着いた筈のエースにホッとして、マルコと仕事をする為に部屋に帰る。夜までに終わらせた仕事の山を見ていたら、マルコが背後から覆い被さってきたので、ドキリとしてしまう。
「……マルコ、あの」
言葉を探してる間に反転させられた体は、既に熱を持っている。そんな私にマルコは笑うと、私をベッドへと放り投げてその振動にビクッとしている間に器用に服を脱がせて来た。
「何時までも初々しいねぃ。だが……今夜は泣いても、辞めてやらねェよぃ。全て、話してもらう」
「あっ……マルコっ……!」
抵抗するつもりは無いけど、いつもより乱暴なマルコに体が小さく震える。体を這う手が、いつもよりも熱い。
私を見るマルコの瞳が、怒りを讃えている。その理由が既によく分からなくて、何を話せと言われているのか分からなくて、ただ、その熱さと激しさに翻弄される。
怒りを讃えているその瞳の奥に哀しみが見えて、私は自らマルコを誘う。この人は優し過ぎるから……恐らく言葉に出来ない何かを感じているのだろうと思う。
ならば、私はその傷を受け止めたいと願う。大切な人だから。
「……私が子供だから、なんて罪悪感いらないわよ」
「ナミ?」
宛てがうだけで進入しようとしないのは、私を抱く事に今も罪悪感があるからだろうと、分かってしまう。最初に私を抱いた時でさえ、私よりもマルコが震えていた位だったのだから。
「マルコ……滅茶苦茶に、して」
少しでも私が躊躇えば、マルコは結局キスまでで辞めてしまう。それも、いらないから辞めるのでは無くて……私を想うから辞めてしまうのだと知ってるの。
だから、私から誘う。私から、求める。
恥じらってしまうのは、もう……仕方ないけど、基本的には何時でも私はマルコを受け入れる。優し過ぎる幸せの青い鳥に、私はなんでも差し出そうと決めているから。
余裕の無い様子で打ち込まれる楔に、体が弓なりにしなる。抑えようにも抑えきれない声が微かに自分から溢れるのが、どうしても気恥ずかしい。
それを抑えたくて手の甲を噛めば、それは許さないとでも言うようにマルコが手首を掴んで口元から離されてしまう。そして、海賊の顔をして嗤うのだ。
「滅茶苦茶にして欲しいなら……声も抑えるなぃ。家族全員に聞かれても、俺は構わねェよぃ」
「やっ……それはっ……」
「恥ずかしくて、つらいかよぃ?」
その言葉に声を抑える為に無言で頷けば、耳元で誘ったのはナミだよぃなんて言われてしまう。いつもより激しく、いつもより余裕も無く私を揺さぶるマルコは、妙に色っぽい。
マルコはこの時、抱いている時だけは能力を時折制御出来なくなるのか、肩やら首やらが、怪我もしてないのに青い炎を吹き出す事がある。それに照らされるマルコはいつも苦しそうで……。
私がマルコを抱くつもりで、受け入れる。悲しみの涙は流させたくないけど、色々な事を我慢させるつもりもないのよ。
何度目かわからない程に体は登らされて、でも、もう辞めてとは言いたくない。でも、もう終わりなのかと思ったのは、ゆっくりとマルコが引き抜かれていくから。
「マルコ……私から、何を聞きたかったの?エースにキスされた事?」
ギリギリまで引き抜いた所で、マルコの動きが止まった。私はそのもどかしさに身動ぎしたくなるのを耐えて、問い掛ける。
「それもあったけどねぃ。弟の名前に驚いたのもあるし、思ったよりもずっと戦える事にも驚いたからなぃ。その辺の事を、全て聞きたいと思ったんだよぃ」
「……でも、自分の事は全てを語ったりしないのに、私の事は知りたいなんて言えないと思って辞めた?」
問い掛ければ小さく頷かれる。この人はと、つい体を起こしてマルコの唇を奪う。
お酒を飲むからか、マルコの口付けはいつも少し甘い。アルコールは辛口でも糖度が高いから、どうしてもそうなるのよね。
「……なら、そうね。簡単に話そうかしら。エースは寝惚けてキスしてきたけど、あれはエースの挨拶みたいなもので、昔から隙あらばキスしてきたのよ」
「昔からって……」
「私が7~8歳の時ね。だから私のファーストキスの相手はエースなのよ?まァ、挨拶をキスとして数えるなら、だけどね」
「…………年齢も近いし、親しそうだったから、大人気もなく妬いたと言ったら、ナミはどうする?」
少し困ったようにマルコが言うから、私は笑ってマルコの腰に足を絡ませる。そして、右手をマルコの首に回すと抱き寄せる為に力を入れる。
「嬉しくなっちゃう。……それだけ、私をちゃんと求めて、愛してくれてるのだとわかるから」
私のそれを拒むなんて、大人過ぎるマルコには出来なかったようで……いや、それとも、本当に嫉妬してくれていたからなのかもしれないけれど。マルコは誘われたのを言い訳に、1気に奥まで刺し貫いて来る。
その衝撃に悲鳴のような声が出れば、何故か満足そうに笑うマルコが見えた。
「……本当はねぃナミ、俺はもう罪悪感なんて無いと言ったら、どうするっ?」
「ぁ……マルっ……う、そで……っ!」
「それが、本当なんだが。ナミが恥じらいながらも誘うその健気な姿をただ、見たかったもんでねぃ」
声が出せなくなる程の羞恥で、目の前が赤く染まる。全て、何もかもわかった上で……この人はっ!
「ナミの優しさに、漬け込んでたんだよぃ。俺は、狡い大人だからな」
なら、何故それを私に教えたのだろうか。教えなければ、ずっとそれを続けられたのに。
そう思えば今の発言も単なる強がりに思えて、弱い人にしか見えなくて、マルコの体を両手で抱き締める。
「マルコに、なら……何されても、多分、いいと思ってるわ」
「殺されても?」
「……馬鹿ね」
私は笑う。
「当然でしょ」
マルコは私の答えに息を飲み、ついで私から呼吸をする余裕さえ奪わうような、抱き方をする。無理に大人でいなくていいと、その合間にも思うから私はマルコを抱き締める。
空が白むまでそうして過ごした私達は、けれどもマルコが困ったように笑うから、どうしたのかと視線を向ける。それによりマルコは、観念した様子で唇を動かした。
「……甘やかすな。俺の中の優先順位が変わったら、どうしてくれるんだよぃ」
「変えなくて良いのよ、マルコの1番は親父様で、2番に家族。私はその次で良い。私を庇わなくて良いの。……でも、そうね、私が死ぬ時は……マルコの腕の中で死にたいわ」
「俺が死ぬほうが早いとは、思わねェのかよぃ」
呆れたように言うマルコに、私はつい笑ってしまう。だって、海賊なのに年齢順に死ねるなんて、何を楽観視してるのか。
「マルコが死にかけたら、私が抱きしめに行くから……私も殺して連れてってね」
「……良いのか、んな事言って」
「私はマルコに、1生分の恋をしてるの。他の人に想いを向ける隙なんて、残ってないのよ」
微笑めばマルコは息を飲み、溜息を吐き出す。それから参ったななんて言って、マルコが優しく微笑むから、私はそれに見惚れてしまう。
そんな自分を隠す為に、私は言葉を続ける。それは確かに本音でもあるから。
「マルコが私に飽きたり、いらないと思ったら身を引くから言ってね。2度と会わないで済むようにするわ」
「……1生分の恋なのにか?」
「えぇ、ひっそりと……誰にも見付からない所で、眠りにつくから」
「……本当に猫みたいな奴だねぃ」
マルコは言いながら私を抱きしめて、髪を梳くように撫でて来る。それが妙に官能的で、声が出そうになるのを耐えればマルコが笑ったのが伝わって来た。
それを睨み付ければマルコは嬉しそうに笑って、最期まで責任取ってやるって約束で抱いたんだから、約束は守るよぃなんて言う。それに私もまた笑顔で返して、大まかに過去について語り出す。
5歳で船に乗って海に出た事、シャンクスに修行を付けてもらい、3兄弟と仲良くなり、シャンクスや3兄弟と別れた事。それから、10歳までは比較的変わった事もなく平和だった事を語り、その先は知ってるでしょ?と笑えば、マルコが震える腕で抱き締めてくれる。
だから私は小さく付け足す。
「ついさっきまで、嫉妬に狂った恋人に抱かれてた事まで全て……マルコは知ってるでしょ?……過去なんてどうでもいいの。マルコとひとつずつ積み重ねて、未来へ進みたいって、私は思ってるのよ」
「……嫉妬深くて、嫉妬のあまり乱暴にしたりするような、大人を放棄するような奴で良いのかよぃ?」
「マルコなら、もう何でもいいのよ。荒んでても、落ち込んでても、余裕があっても、マルコならいい。……大好きよ」
流石に愛してるなんて言えなくて、大好きに留めたのにマルコはそれを聞いて全てわかったみたいな顔して笑う。だから私は、マルコの胸に顔を埋めるようにして自らの顔を隠す。
その翌日から、落ち着いたと思っていたエースが親父様に挑み続けて大暴れするようになってしまい、余裕を取り戻したマルコと並んでそれを眺める事になるなんて、この時は思ってもみなかったけれど。