身体が、重い。マルコから求められる事には慣れてるけど、こんなに激しかったのは珍しい。
そんな事を思いながらベッドから出ようとするけど、上手くいかなくて床に落ちそうになった私を軽々と支える腕に視線を向けると、苦笑する裸体の人。シャワー浴びて来たのが分かるけど、色っぽいけど、そうじゃない。
「……何か着せて行けば良かったねぃ。怪我しなくて良かったよぃ」
「ありがとう……。ねぇマルコ、でもどうしたの、昨夜は……その……」
「……何となく嫌な予感がしてねぃ。突然、悪かった」
「まだ、予兆は無いわよ?エースも、サッチも問題ないわ。予兆があったらちゃんと伝えるから、そんなに警戒しないで」
そういう事なら仕方ないかなと思って笑うと、マルコは私をベッドに戻して服を着せてくれる。そんなマルコに甘えるように手を伸ばした時、マルコは分かってると言うように私を抱き上げてくれて、そのまま泊まっていた場所を後にした。
今回は急遽補給が必要になり、縄張りだけどそれが他の海賊団のと重なってる海域にある島に寄っていたのだ。そのついでに交代で陸地を楽しんでいて、私とマルコはたまたま今日が休みだったから、昨日の仕事を終えてから宿に泊まりに来たので、その、行為自体は問題ないというか、そのつもりだったというか。
だから、怒るつもりは無いし責めるつもりもないわ。でも、でもね……!
「マルコ……恥ずかしい」
「何がだよぃ?」
「歩けないのが、それと、抱かれてるのが……」
「俺は、こんなつもりじゃなかったが、結果的に良かったよぃ。これならナミは俺の傍を離れねェ」
そんなに何処かに行く事あったかなと首を傾げると、私を見たマルコが少し困った顔をして広場のベンチに私を降ろしてくれた。それから近くで飲み物とポップコーンぽいものを買って来ると、それの飲み物の方を1口飲んでから手渡してくる。
「マルコ?」
「すぐ戻るから、ここで鳥と戯れてろぃ。それがあれば来るだろ」
どうやらこのポップコーンぽい物は、鳥の餌用だったらしい。そう気付いて笑えば、ナミも食えるから食っていいよぃと言って、それを数粒摘んでいく。
そんな細やかな気遣いに感謝しつつ、ベンチの空いてるところにポップコーンを置いて、マルコに手を振ればすぐ戻るからともう1度言ってからかけて行く。その後姿を見送りながら、そっと飲み物に口をつけると蜜柑ジュースで……美味しい。
どちらも毒味してから渡して来る辺りが、マルコらしい。危ないからそんな事をしないでと言うけど、マルコは毒なんて入ってないと分かってるし、入ってても問題ねェから気にするなぃと言うのだ。
……毒耐性なら、私の方がある筈なのに、情けないわね。そう思いながらポップコーンを撒けば、躊躇いなく集まってくる鳩や雀に小さく笑う。
そうして鳩や雀にポップコーンをあげていたら何故かクーちゃんと烏まで寄ってきて、でも烏は所在無さげにしてるから手首をちゃんと使って遠くまで届くように投げればそれを食べてる。その姿はまるで、鳩や雀を襲わないからご飯分けてって言ってるみたいで本当に可愛い。
そんな烏を含めた鳥達を押し退けて近寄って来たクーちゃんが私の横に来るから、食べたいのかなと少し差し出したら首を振られてしまう。なんだと言うのかしら?
すると鳩が真似して近寄って来ようとした時に、クーちゃんが威嚇して追い払う。どうやら私を守ってくれてるらしい。
確かに鳩は時に人にもっと寄越せと襲いかかって来るから、護衛は助かるかも。優しいクーちゃんに心がホンワカする。
「ふふ、ありがとう。大好きよ」
「それ、鳥じゃなくて俺に言えよ」
その声に驚いて振り向くと、そこに居たのは少しばかり老けたけど殆ど姿の変わらない大切な人。そして、完全に白髪になってしまった、尊敬してる人。
「あ……え?うそ、なん……!?」
「久しぶりだな、ナミ」
「師匠!!」
思わず飛びつきそうになり、けれども身体が痛くて動けない事と、飲み物とポップコーンがあって動くと参事になる事が分かり動きを止めるとベックがひょいと私を抱き上げてくれた。なので急いで飲み物を飲み干すと、焦らなくていいと言いながら頭を撫でてくれる。
「逢いたかったわ、久しぶり。ベック……」
「待て待て待て!なんで俺は師匠で、ベックはベックなんだよ!?おかしいだろ!?」
ベックに微笑みかけたらシャンクスが騒ぐ。だから私は首を傾げて少し考える。
そうよね。確かに再会なら抱きつくものよね。
「……そう、よね。ごめん。やり直すわ。……逢いたかったわ、ベックお兄ちゃん!」
「俺もだ。逢いたかった。……大きくなって、本当に綺麗になったな」
ギュッとその首に腕を回して抱き着くと、ベックは優しく背中を撫でてくれる。それからベックと視線を合わせる為に少し身体を離したら、なんか自然に言葉が口をついて出た。
「えへへ、嬉しい……」
「だァかァらァ!おかしいだろ!?」
言い直したのに騒ぐシャンクスに首を傾げて、それから飲み終えたカップをシャンクスにはいと渡してから、空いたその手でその頭を撫でる。ベックが抱き上げてくれてるから、シャンクスの頭にも手が届くのだ。
「いい子ね、シャンクス。騒がないのよ?」
「ナミの中で俺はいくつな……!?危ねェな。何しやがる」
「それは、こっちの台詞だよぃ。俺の女に、気安く触れるな」
「マルコ!?」
私を抱いてるのはベックで、シャンクスを撫でたのは私の方だし!!そう思うけど、自力で動けない私は二人のそれを止めに入れなくて……。
「不死鳥マルコ!なァ俺の船に「乗らねェよぃ!昔から変わらねェなぃ……何度目だよぃ」」
そのやり取りで、そう言えば何度も戦ったと言ってたのを思い出す。でも親父様は昔から仲間を……家族を殺された時は許さなかったと聞いてるから、双方何度もぶつかってるのに死人は出てないんだろうな……。
その時マルコがシャンクスを蹴り飛ばして、私にそっとストールを巻き付けてくれる。それから私をベックから受け取ると、周りでそれを見守ってる鳥に苦笑してからベックに視線を向けた。
「ナミを守ってくれて、ありがとなぃ」
「俺の大切な妹だからな。誰にも手は出させてねェから、余り虐めてくれるなよ?」
「……わかってるよぃ」
2人だけが通じる勢いで会話をする。それにしても、こうしてみるとマルコって背が高いんだなぁ。
シャンクスも私から見れば大きいけど、ベックとマルコはそれよりも更に少し大きい。まぁ、あっちの世界でもスポーツ選手とかはこの位の身長の人も居るから、この位の身長だとおかしくもないなと思うのよね。
「なァ!俺の扱いが酷くねェか!?」
「やりにくい相手だよぃ。……ナミ、師匠で兄なんだったねぃ?」
「うん。2年お世話になったの」
騒ぐシャンクスに嫌そうに顔を歪めつつ、私の言葉にマルコは頷くと、私を抱え直して赤髪海賊団の皆に頭を下げた。それに私が驚いていたら、真剣な声でマルコが言葉を口にする。
「幼いナミを助け、導いてくれて、本当にありがとうございました。それがあったからこそ、今……ナミは生きています。……感謝の意に堪えません」
「……受けよう。だが俺達としちゃ、ただ興味があったのと、実際取引に負けたのが原因だ。……その結果恐ろしい拾い物でな、助けられたのは寧ろ俺達の方だった」
私はマルコの言葉に返されるシャンクスの言葉を聞いて、驚いてシャンクスを凝視してしまう。でも、マルコはその言葉を受けて尚、頭を上げようとしない。
そっとマルコの頬に手を伸ばせば、泣くのを耐えてる様子だと気付く。だからそっとその首に抱き着くと、私を抱く腕が微かに震えた。
「ナミを、愛してくれてるんだな。こちらこそありがとう。……ナミの事は、俺達も調べて知った。白髭海賊団にいるのは分かっていたが、同じ四皇と呼ばれる立場だからな……だからこそ会えないと諦めていたが、だからこそ調べたんだ。逢えない筈の立場だが、幸せならそれで良いと……もし、不当な扱いなら、全面戦争も辞さない覚悟でな」
その言葉の持つ意味。それは、私がシャンクス達に必死になって隠してた全てを知られていると……そういう事。
それに、シャンクス達は私1人の為に、最強の呼び声高い白髭海賊団に戦いを挑むつもりだったのだと言われれば、泣きそうにもなる。でも、嬉しさよりも恐怖と不安が勝ってしまう。
全身から血の気が失せていくのを感じる。どうして、そんな事……したの?
知られたくなかった。弱くて、情けなくて、何も出来なかった私の事なんて。
「ナミを助け出してくれて、そのまま保護してくれて、ありがとう。……ナミ、俺達は頼って貰えなかった事を責めるつもりはないぞ」
「え?」
「そりゃ確かに悔しいけどな。それでも、どうせ俺達の事を気遣ったんだろうと分かるからな。それに……今、幸せなんだと分かるから、それで我慢してやる」
「シャンクス……」
見限られると思ってた。弱いばかりの、情けないばかりの私を知られたら。
迷惑になると思ってた。四皇になるかならないかのそんな時に、私なんかの事で動揺させたくなかったの。
「それにな、俺はマルコもナミも諦めてねェから、逃げ切れると思うなよ?」
「…………昔の事は感謝してるよぃ。それに、ナミが師匠や兄として慕うのも、まァ……理解してる」
マルコが頭を下げたまま声を出すけど、なんか声が低い。何が起きてるのかと思ったら、顔を上げてシャンクスに冷たい視線を向ける。
どうやら、マルコはお怒りらしい。それに固まり、呼吸さえ忘れそうになる私に視線も向けずにマルコは言う。
「俺はナミを手放さねェよぃ」
「なら、マルコごと貰い受けるだけだ」
「……俺が欲しいかい?」
妙に色気のある声を出すマルコに、その場の空気が変わる。シャンクスは楽しそうに肩を揺らすと、あァと頷く。
「欲しいな。昔の敵対してた頃から、ずっと目を付けてた。同じ見習いだったし、マルコはうちの船長を嫌ってたからあの頃は諦めたがな」
「……親父以上の良い男になって、出直して来いよぃ。それまでは、話を聞く気にもならねェなぃ」
「俺じゃ、足りないって?」
「当然だろぃ?白髭に並ぶんじゃなく、超えろって言ってんだからねぃ」
言葉の直後、喉の奥で笑ったマルコは、揶揄うように口元に笑みを浮かべるとまたなと言って鳥へと変じた。慌ててその首に強く抱きつけば、マルコは迷い無く空へと舞い上がる。
突然の事に驚きながらもマルコにしがみつく力を強めると、そのままモビーへと帰還した。マルコは甲板で私を抱え直すと、心配そうに見て来る。
「急に、悪かったねぃ。余裕がなくてよぃ」
「ううん。話をさせてくれてありがとう。危なかったんでしょ?」
「……同じ、四皇……だからねぃ」
それからマルコはそっと私の額にキスをして、部屋へと運んでくれる。シャンクス達のところに、ポップコーン残してきちゃったな……なんて考える私に、マルコは部屋で休んでろよぃなんて言いながら笑う。
それに私も笑顔で頷いて、その日の夜、マルコがショールを買ってくれた理由に気が付いて悲鳴を上げる事になるなんて想像もせずにいた。私はこうして、この日本当に久々の再会を果たす事が出来たのである。
まさかこの後、それ程時を置かずしてまた会う事になるなんて……そんな事は考えても居なかったけど。それはまた、別なお話。