私が誘拐されて、皆が過保護になった。それはまぁ、私のせいだから仕方ない。
誘拐って言っても、このモビーにいて攫われたんじゃなくて、そもそもが完全に私の不注意だし。……とは言え、似たような事があったら、また同じようにするだろうと自分でも分かってるのが面倒だけどね。
その後気晴らしにって買物に連れ出してもらったのに……そこでは頭打って、記憶なくすし……もう、自分が本当に許せない。情けないな……。
「あ!いたいた!ナミ、悪いけど今日マルコ仕事出来そうにないから、1人でやれる所やっといてやって」
そう言って声を掛けてきたハルタに首を傾げたら、困ったような笑顔を向けられた。偵察とかなら、そんな顔しないわよね。
そうなるとマルコが怪我とかってのは、考えにくいし……。船医は他にも居るのを考えて……でも、戦闘が何処かであればマルコが派遣された可能性はあるわよね。
「……重症患者なら、私もサポートするわよ?時間掛けてちゃ不味いでしょ」
「ナミって、いい子だよね。……実はさ、マルコのソックリさん……従姉妹だって言ってるのが来てるんだよ。マルコも困惑してるし、親父もそれじゃ無下に出来ねェってんで、今会話してるからさ」
「そう、なの。……なら私、ほぼ同室みたいなものだし、挨拶とか」
「いや!いいよ、マルコの仕事ナミに押し付けちゃうんだし、今は気にしないで良いから!あ、その書類親父にだよね!俺持ってくよ!じゃ!」
私の抱いていた書類を手に駆け出すハルタを見送り、何かあるらしいという事だけ理解した。……にしても、マルコそっくりなイトコさん……か。
……見てみたいかも。男なら双子みたいだろうし、女なら多分スタイル抜群の美女よね。
そんな事を思いながらも、任されたからにはと全力で仕事にせいを出した。その結果……何故か夜ご飯を持って来てくれたサッチに、現在叱り飛ばされたりしてます。
「なんで怒るのよ」
「飯だってんだよ!まァ、結果的に良かったんだけどな」
「何かあったの?食堂が燃えた?それとも、爆発した?」
「不吉な事言うなよ。まァ……近いんだけどな。……今夜、もしマルコが部屋に帰れないとしたらナミはどうするよ。……俺の部屋に来るか?」
心配そうに言われるけど、それ私を心配してる場合じゃ無いから。どうしよう、書類仕事はだいたい終わったし、手伝いに行くべきよね。
「え、そんなに忙しいなら手伝うけど」
「駄目だ。ナミは、昼間中仕事してただろ。これ食ったら風呂入って寝ろ」
サッチはそう言うけど、食堂が爆発したような状態でマルコが夜部屋に帰れないとしたら、相当よそれ。掃除とか位なら手伝えると思うのに……。
じっとサッチを見詰めていたら、いい子に食事しろと言われて部屋に残されてしまった。私用にと置かれている食事は私が仕事を続けるのを考慮してなのか、トルティーヤで……優しいななんて思って笑ってしまう。
デザート用にパイナップルと蜜柑のゼリーが用意されているのは、私とマルコを揶揄ってるのかな?
それらを食べつつ書類仕事を進めていたら、突然部屋の前が騒がしくなった。何事だろうと視線を向けると、ドアに縦のヒビが入るのを確認してしまい、船大工が嘆くだろうなと溜息を落とす。
「だから!知らねェって言ってるだろぃ!?」
「こんなに似てて、血縁者じゃないと思う方がおかしいでしょ!?」
「血縁者なのだとしても、俺にも選ぶ権利はあるし、俺は自分と似た女に興味なんか持てねェよぃ!!」
「ぬァんですって!?このスタイル抜群の美女の何が気に入らないってのよ!?」
どうやら、マルコと従姉妹さんが喧嘩してるらしい。ならこのドアについては、船大工にマルコが謝ればいいわね。
……あ、お茶位出した方が良いのかな。今の時期だと何が良いかしらね。
それにしても従姉妹さんは女の人かぁ。自分でも言ってるし、美人さんなんだろうなぁ。
そんな事を考えながらお湯を沸かそうと部屋の隅に移動した時、ドアごとマルコが部屋に転がり込んで来た。見れば確かにマルコとよく似た美女がそこに存在する。
マルコを足蹴にしてる姿は、降三世明王がシヴァ神を踏み付けている姿を彷彿とさせる。なので、どうしても良い出会いとは思えなかったけど、インパクトはあった。
マルコを踏み潰すマルコのソックリさんと、お茶の缶を持って立ち尽くす私のそれが出会いだった。それを見たマルコは、踏まれた状態で苦笑してるから、本気なら勝てるんだろうなって分かってしまう。
やっぱりマルコは優しい。そんな所が、好きだわ。
「お茶、梅昆布茶と緑茶どちらが宜しいですか?」
「その選択肢に意味はあるのかよぃ?」
「私の気分」
「そこは普通可愛らしく、ジャスミンティーとカモミールティーとかって選択肢だろぃ……」
マルコは疲れ果てた様子で言うけど、嫌よそんな強いお茶。私はお婆さんなのよ。
因みに、ジャスミンティーやカモミールティーも分類では緑茶に該当する。緑茶、紅茶、烏龍茶は発酵させた期間の違いなので、ハーブティーの大半は緑茶に分類される為であるが、私とマルコの会話で使われる緑茶は日本茶の事を示す。
「だって、イゾウがくれたんだもん。まだどちらも未開封だからどっちにしようかと思って」
「なら私、梅昆布茶飲んでみたいわ」
「はい、では梅昆布茶にしましょう。お饅頭出すからお待ち下さいませ」
私が笑って言えば、マルコが俺を少しは気に掛けてくれと小さく呟いた。結局そのまま共にお茶を飲みお饅頭を食べて居たら、2番隊の人が半泣きで書類を持って来たのでそのまま半分をマルコに差し出す。
そして冷たい麦茶をその人に差し出しながら謝罪する。絶対エースのせいで苦労かけてるもの。
「いつも、ゴメンね」
「ナミさんが悪いんじゃないです!うちの隊長、馬鹿じゃないのに、馬鹿なんです!!」
……うん、言いたい事は分かるけどね。ホント、愚弟がすまぬ。
そうして帰って行ったその背を見送りつつ書類を片付けていたら、マルコの従姉妹さんが唐突に声を掛けてきた。不思議そうに。
「ここって、事務室?」
「いいえ、マルコの部屋よ」
「でも、さっきの人は貴女に用事があって来たみたいだったでしょ?」
「え?……あ!私家族との時間邪魔しちゃった?」
「ナミ、もうここがナミの部屋で間違っちゃいねぇだろぃ。気にせずにここに居ろよぃ」
マルコの言葉に少し考えるけど、でも私の部屋は書類って少ないし。そう考えたら、やっぱりここは、マルコの部屋よね。
「でも、ここには私の机と本棚が無いわ」
「ナミ、親父と相談して書斎を増築しようなぃ」
「え、取りに行くの面倒だから本棚増やしたい」
「モビーの重心が崩れるから駄目だよぃ。……明日にでもフォッサ辺りに手伝「隊長と副隊長って感じ?」」
問い掛けられて、あれ?と思う。話してなかったのかなって。
その直後突然マルコが私を強く抱き締めて、驚いている間に唇が重ねられてしまう。何事!?と慌てる私の頭を掴んで、マルコが深く堪能し始めるから、私は羞恥で暴れる。
けれども力の差は歴然で全く歯が立たない。なんと言う事か!!
「ナミは、俺の女だよぃ。分かったら諦めてくれるねぃ?」
「……諦めるけど憎いわ。寧ろその彼女貰っていきたいわ」
「誰がやるか!」
「可愛いじゃない!少しくらい貸しなさいよ!ケチね!」
「ナミと付き合うのにどんだけ時間がかかったと思ってやがる!だいたい貸し借りできる対象案件じゃねェだろぃ!」
突然始まったのは、2人のマルコの大喧嘩。……ヤッパリ似てるわ。
ホルホルのマルコって感じ。胸も大きいし、あ……当然の事だけど、刺青は無いのね。
「諦めなよ従姉妹ちゃん、ナミちゃんの鈍さは神様もビックリだから。多分喧嘩の理由も分かってないと思うよ」
そう言って割って入ったのはハルタで、その言葉に従姉妹さんは動きを止めると私を見て勿体ないと叫んだ。……何が勿体ないの?
「そんなパイナップル辞めて、私のものにならない?」
ガシッと肩を掴まれて、揶揄われた私は苦笑してしまう。だって、髪型もほぼ同じなのに。
そう思ったら可笑しくて、クスクスと笑ってから、私はマルコに視線を向ける。大丈夫、分かってるわ。
「久々の家族の語らいを邪魔したりしないから、私今日は親父様の部屋で寝るわね!」
「「待て!」」
マルコと従姉妹さんの声が重なり、従姉妹さんは悲しげに眉を寄せるともう1度勿体ないと叫んで去って行った。それを楽しそうに追って行ったハルタも居なくなれば、当然残ったのはマルコと私の2人となる。
「ナミ」
「マルコ?」
「ナミは、俺の彼女だって自覚が足りないようだねぃ?」
「ひぇへ!?」
叫んだ私にマルコは暗い笑みを浮かべるから、これは今夜寝かせてもらえない流れかなと気付く。でも、私怒られるような事した覚えないよ?
書類仕事もちゃんとやったし、ご飯もサッチが持ってきたから食べたし。お客様にお茶とお菓子も出したよ?
理由もよく分からないまま、マルコに彼女として自覚して貰うなんて言われて私はベッドに押し込められてしまった。お陰様で、従姉妹さんの正体等詳しい事を私は今も知らないままだ。