書類を手に親父の部屋へ向かえば、親父は俺に真面目だななんて言うけどなぃ。他に誰もやっちゃくれねェんだから仕方ねェだろうがと……親父でなければ言うんだがねぃ。
当然親父に言う事は出来ずに笑えば、親父が宥めるように言葉を発する。俺の考えなんざ、お見通しらしい。
「サッチはあの性格だ。それにあいつの役割を思えば、仕方ねェだろう」
「責めてねェよぃ。忙しいのもわかってるからなぃ」
「イゾウもな?」
「あァ……。色々抱えてるからねぃ」
頷く俺に親父はそっと手を伸ばして、俺の頭を撫でる。それに思わず眼を細めた俺に、親父が笑いながら問い掛けてきた。
「それで、本題はなんだ?」
「2日程休みを貰いたいだけだぃ」
「……あァ、ナミの誕生日か」
「本当の産まれた日は、知らないらしいがねぃ」
言いながら薄く笑う俺に、親父もまた同じような顔で笑った。恐らく似たような事を考えているのだろう。
親父の生立ちを思えば、ナミと通じる所があるからねぃ。そんな中で、強さを元に暴れ回っていた若かった頃の俺や親父、少し前のエースとは違いナミはその強さを優しさを超えた甘さにしちまった。
ただ、そんな違いはあれど自分の生まれた日を知らず、祝福されるべき日を呪いの日のように思っているそれには覚えが有る。だからこそ、それを変えてやりたいんだ。
「……構わねェよ。少しゆっくりして来い」
「ありがとう、親父……」
「目的地は決まってんのか?」
「……サッチが、今離れてんだろぃ。そこから、誘いが来てるよぃ」
「……アイツは、潜入中だって自覚足りてねェな」
そう言いつつも親父は楽しげだ。サッチは現在カイドウの縄張が急激に増えている理由を探る為に1人、カイドウと赤髪、そして親父のそれが重なる島にてコックとして潜り込んでいる。
だと言うのに、連絡が来たと思ったら誕生日当日の夜は是非当店をご利用下さいと来たもんだ。……有難い事ではあるんだがなぃ。
サッチは恐らく、俺を介して得た情報を親父に伝えたいのもあるだろう。だが、離れているナミを純粋に祝いたいのも大きいだろうとわかる。
サッチは自分の作った物だけはちゃんと食べるナミを、妹として誰の目から見ても明らかに分かるように溺愛している。料理人としても、兄としても嬉しいんだろうなぃ。
どうしたってナースでは無いナミがモビーにいる事が、気に入らないと言う者も少なからず居る。その上で俺の補佐として働き、航海士としても働くナミが癪に触る者も多い。
賢い女は可愛くないとか言う阿呆は、1定数以上どうしたって実在するのだ。
エースの姉だから優遇されている。そう考える者もいるからねぃ。
そこでハルタが懐き、イゾウが弄り倒し、サッチが溺愛しているのだ。勿論彼ら自身の本心でもあるだろうが、それの始まりは守りたいという想いからだろう事もわかる者にはわかる。
親父もそれを知っているからこその軽口なのだが、さて休みも貰えたしと思った時、親父に言われる。それは少しばかり真剣な空気だ。
「サッチとの連絡を取りに行くんだ、当日は仕事枠で良いだろう。休みはその翌日から2日だ。その代わり……無理はさせるなよ?」
「……心掛けるよぃ」
優しく、出来るといいんだが……。船から離れてとなれば、遠慮がいらない分少しばかり激しくなる事が予測されてしまい素直には頷けなかった。
そんな俺に親父はグララララと楽しげに笑うので、居た堪れずに逃げるように部屋を後にする。その足で甲板に出ると、ナミの歌声が聞こえて来て足が自然とそっちへ向かう。
家族を想い、蜜柑を愛していると伝わる歌に、帰りたいのかと思えば切なさが胸を支配する。帰りたいと言われても、今更帰してやれそうにはねェよぃ。
そっと自嘲しつつ、蜜柑の葉を優しく撫でるその姿を眺める。歌声が聞こえなくなるのと、水をやり終えるのは同時だった様子から、俺はその細い体にそっと手を伸ばした。
驚き振り払うかと思っていたのに、ナミはそれを素直に受け入れるに留まらず、そのまま甘えたようにその身を預けて来る。いつもならそれにホッとするのだろうが、不安を抱えている今は、それにより強く感じた蜜柑の香りが理性を突き崩そうとしていた。
「帰りたくなったか?」
「何処に?」
何もわからない様子で小首を傾げるナミに、劣情が刺激される。喉が鳴り、ナミを渇望する己を自覚させられるのだ。
それでもこの場で押し倒す訳にはいかないと、精一杯の理性で口付けに留めればナミはそれ甘受し、そっとその腕を首の後ろに回して来た。それにより震えたのは寧ろ俺の方だ。
「……ばかね……」
「ん?」
「私の帰る場所は、ここだけよ」
甘やかなその声に、俺はこの蜜柑を手放せそうもないと自覚させられる。そんな俺にナミは笑うから、強く抱き締めて暫くの間そうして2人で蜜柑の木陰にて時を過ごした。
だが、いつまでもそうしては居られない為、俺はナミにサッチから情報を聞く為に2人で会いに行くと告げる。概ね間違ってねェが、俺としてのメインはサッチでは無くナミとの食事だ。
だが、そうとは知らないナミがならばと言って俺を部屋に引きずり込むと、1般的な民間人に見えるようにと言って俺に服を投げ渡してきたので、それを受取る。俺が着替えてる間にナミも着替えを終えたようだが、そこからだった。
突如俺に何かを被せたと思ったら後ろから頭を弄り始めて、よしと言われて鏡を見れば鬘をつけられていた。何処かエースを思わせる髪色と髪型に、こんなもん何処にあったんだと思った俺は正しい筈だ。
そしてナミを見れば、黒髪のロングヘアーになっていて、それがうねっていない為に違和感が激しい。その上でナミが少し大きめの眼鏡なんかかけるもんだから、いつもより断然幼くみえる。
「……ナミは、俺をどうしたいんだろうねぃ?」
「バレたら困るでしょ?変装、気にいらない?」
「それは助かるが……」
「私としては髪型が変わったらなんか、マルコじゃないみたいで、少し戸惑ってるわ。……顔は弄らなくてもこれなら大丈夫そうね。あんまり弄りすぎると、サッチが誰だか分かってくれなくなっちゃうもの」
「確かにそれは、困るねぃ」
そう言ってナミの言葉に頷きつつ、不死鳥の姿で目的の島の隣にある島まで飛ぶと伝える。すると久々に航海士らしい事出来そう!なんてナミは嬉しそうに笑った。
そうして船で目的の島まで移動した俺達は、まずは島の散策だと言いつつ店を冷やかして回る。実際は有事の際に退路を知っておく為の行為だが、ナミと歩くのは純粋に楽しい。
その途中青色で飾り気のないピンキーリングを見付けて、つい衝動的に購入した俺は再びナミと共に歩き出す。ナミは楽しそうに辺りを見ているが、これで測量してるってんだから怖いもんだと思う。
サッチの居る筈の店に行けば、俺とナミの姿を見てフランスパンじゃない髪型のサッチがその動きを止めて、俺達を凝視して来た。そして、迷い無くナミに近付くとその巨体で強く抱き締める。
「良く来てくれたなァ!会いたかったぞー!」
「おー、その子が妹さんか?」
「おう!お袋に似たんだ!可愛いだろ!美人だろ!惚れそうだろ!?なのに、この優男に俺の可愛い妹は……!」
「……黙れよぃ」
思わず言葉を口にした俺に、妹との時間位くれてもいいだろとサッチは騒ぐが、それも半分はパフォーマンスだと分かっている。その証拠に、サッチは俺達の名を口にしない。
「お兄ちゃん、私も会いたかったけど、彼が寂しがるから……ね?」
ナミはそう言って、上手くサッチから逃げると俺の元に戻って来た。それからサッチが用意していたらしい席へと案内されれば、サッチに少し待ってろよなんて言われて頷いている。
そうして運ばれて来る料理は全てに蜜柑とパイナップルが使用されていて、喧嘩売ってんのかとサッチを睨むがナミは嬉しそうにその頬を緩めた。ナミが笑うなら、とりあえず成功かねぃ。
「誕生日、おめでとう。俺達からのサプライズディナーだ。少しは、喜んで貰えたか?」
「誕生日……?」
「あァ、お前の産まれた特別な日。産まれてくれたから、今俺達はここでこうして生きている。出会い、助けてくれて、今日もまた生きていてくれて、ありがとう」
俺の言葉にナミはその瞳を潤ませるから、俺はそっとその左手の小指に指輪を嵌める。ナミの幸せが逃げる事の無いように、留まるようにと願いを込めて。
「これからもずっと守るから、傍にいさせてくれるねぃ」
「うんっ!」
涙を堪えて頷くナミのその指先にそっとキスを落として、俺は笑う。さて、本番はどうやって想いを伝えるべきかと少し悩みながら。
Happy Birthday ナミ。愛しい人と共に過ごせる特別な日は、まだ始まったばかりだ。
つまりこの時19歳になった筈で、戦争後も皆様ご存命って事ですね。