イゾウからの提案もあり、約1週間の休みを貰った俺とナミは新婚旅行と称してナミの実家と、ナミの兄弟がいる場所を巡った。その時の騒動は割愛するが、それにより嫉妬した俺がナミをHOTELに連れ込み貪って居るのが現状だねぃ。
俺の蒼い焔がナミを包む度に微かに回復する為、ナミは意識を失っても少しすると回復してしまう。それに俺は甘え、時の経過を忘れて貪り続け……ナミがクリマタクトで殴りかかって来た事で動きを止めた。
正直に言えば、痛みは無かった。クリマタクトだけで俺に肉体的な痛みを与えるのは、ほぼ不可能だろう。
だが、既に覇気を纏えるだけの体力を持たないナミが俺を攻撃するには短剣しかなく、それを俺に使うくらいなら己の死を選ぶだろう事はわかり切っている。つまり、この新妻が俺を攻撃したと言う事実だけで余程だと分かるのだ。
「……いい加減に、して!も、無理だから!!」
泣くのを必死に耐えてると分かる様子に、申し訳ない気持ちになる。どうしたら良いだろうねぃ?
「ナミ……」
「マルコの事は好きだけど、私、こんなに……ずっと、とか、無理だから!!」
「悪かったよぃ……」
怒りと哀しみの狭間に居ると伝わるその瞳に俺は素直に謝るが、伸ばされた手を振り払われては反省する他ないねぃ。ここまで悲しませた事は恐らく、これ迄1度として無いだろう。
怒る事の少ないナミだからこそ、これは放置出来ねェよぃ。さて、どうしたものかねぃ。
「ナミ、悪かった。今度からちゃんと加減もするし、休ませる。無理させたり苦しめたい訳じゃねェんだが……悪かったよぃ」
「マルコ……」
「……ナミの気の済むようにしてくれて、構わねェから、なんでも言ってみてくれねェかぃ?」
俺の言葉に、なんでも?と繰り返すように問い掛けるそれを受けて、俺は頷く。
無防備に赤髪の部屋に泊まろうとしたりしたナミは確かに悪いが、ここまで苦しめて許される筈はねェ。……何を、ナミは望むのだろうか。
「なら……買物に行きたい。1人で」
「ナミ!?」
「ナースのお姉様達と行くと、遊ばれるから嫌なのよ。男が1緒だと買いにくい物もあるし……たまには1人の時間も欲しいわ」
その言葉に確かにと思わされた俺は、明日は1日ゆっくり休んで、明後日は買物を楽しんでからモビーへと帰ろうかと新婚旅行の最終日を各自で過ごす事に決める。それに頷くと、ナミはそのままベッドに倒れ深く眠ったのを見て、俺は頭を抱えた。
ここまで弱らせて気付けなかった自分が許せねェなぃ。そっとその身体を抱き上げるが、目を覚まさないナミに、少し泣きそうになる自分を自覚して、風呂場に連れて行くついでに室内の清掃をHOTELに頼んでおく。
部屋を清掃してもらってる間にナミを清め、清潔な状態に戻ったそこにナミを寝かせると、明日は本当に1日寝かせておいてやらないとねぃ……なんて思う。恐ろしく深く眠り続けるナミに、時折食事等をさせて他は寝かせておけば、その翌日には大分回復した様子で予定通り買物に出掛けた。
それを見送り、その後、変装してナミの後をつける。倒れられでもしたら、俺は狂う自信があるよぃ。
ナミは自分の買物をしたいと言っていた筈なのに、買う物は明らかに皆の為だと分かるもので豆やら米やら海苔やらと食材ばかり買う姿は既に母親のようだ。兄を想う妹と言うには慈愛が強過ぎて、だが優しく笑うその表情に妨害なんてできよう筈もない。
途中で何を目的としているか不明な着ぐるみを購入したり、店主と雑談したりする姿を眺めながら新聞で顔を隠し、珈琲を口に運んで誤魔化して見る。その後自身の買い物を終えたナミがHOTELに帰ろうとしてるのに気付き、俺は開けたままにしていた窓から部屋に帰ると何食わない顔でナミを出迎えた。
そうしてその日の内にモビーへと帰り、ナミが聞いたという巨大豆の群生地を報告すれば親父から新婚旅行で新たな遊び場探してんじゃねェなんて笑われちまう。それからナミと少し話をした親父が、節分の話を了承すればその日の内に準備に取り掛かる為家族が動き出す。
俺も何かやらないとと立ち上がれば、親父から鋭い声が聞こえた。名を呼ばれただけで、動きを止められた俺は親父を見上げて、ナミが部屋から去っているのを確認しつつ頭を下げる。
「……わかってるんだな」
「あァ、やり過ぎたよぃ」
「確かにナミは、1般人やナース達よりは随分体力も多く、強さもある。だがその分以上に我慢強く慈悲深い。壊したら、人も物も、2度と元には戻らねェぞ」
恐らくナミの話し方や歩き方で、隠していても弱ってるのが分かったのだろう。多くの事案を経験して来た親父だからこその言葉に、俺は是と答える他ない。
「よぃ」
「……俺はナミも可愛いが、特別待遇もしているが、マルコや他の息子達も愛しく思ってる。……仲良くやれよ」
「……自覚あったのかよぃ。ナミに甘いの」
「あんだけ〝大好き!〟と全身から出されて懐かれれば、可愛がりたくもなる。それにな、息子達が目に入れても痛くねェ程に溺れてる娘を、特別待遇しない筈があるか。……ただなァ」
突然トーンダウンしたそれに首を傾げると、親父は困ったような顔をしていた。それから真剣な空気を纏って親父は俺を見る。
「ん?」
「自分の稼ぎを、モビーの備蓄を揃えたりするのに回すのは辞めさせろ。働き過ぎな上に金まで貢がせてたんじゃ、どうにもこの先が心配だ。今の所まだ気付いてるのも少ないが、今後もナミに甘える訳にはいかねェだろう」
親父の言葉により、疑惑が確信に変わった俺は、今度現行犯で止めて辞めさせるよぃと約束してその場を去った。翌日は血気盛んなメンバーが猛獣を肉に変える為に飛び回り、巨大な豆を収穫して帰ると四番隊総出で恵方巻きやら豆料理やらが作られ提供される。
夜は焼肉大会だと笑う四番隊に、沸き立つ家族を眺めながら恵方巻きとやらの作法に従い西南西を向く。そうして口に運んだ恵方巻きを食べ切るのと同時にぶつけられたのは豆で……。
「なんだよぃ?」
見ればハルタがニンマリとした笑みを浮かべていて、それに嫌な予感がする。人のそういったものは、案外当たるものだ。
「マルコは新婚旅行でナミを食べ尽くそうとして、ナミに嫌われそうになった、性欲の鬼だから今日の鬼役はマルコで良いよね!!」
大声で、明らかに家族に聞かせようとその声を響かせる。ヤバいと思った直後、自称兄貴達が1斉に俺に向かい豆を投げ付け始めればハルタ!?と叫んだのも仕方ない事だろう。
それに笑いながら、親父との会話聞いてたんだよ。なんて少年ぶって言うそれに、厄介な奴だと痛感する。
逃げ回る俺の姿にナミは首を傾げている。そんなナミにハルタはそっと近付くと、明るい声で言った。
「皆の為に鬼役を引き受けてくれたんだ。流石は長男だよね」
「マルコは、優しいから……。でも、程々にね?」
「程々に、ね。ナミは、程々にして貰えなかったのに?」
その時僅かに首を傾げた後で、意味を理解したナミが瞬間的に茹だる。それから泣きそうな顔で俺を見るから、咄嗟にナミを抱き締めて隠すようにして空に飛び逃げ出す。
それに卑怯だと下から声が聞こえるが、ナミのこんな顔、他の奴には見せたくねェ。鬼が俺であると言うなら、鬼は福を連れてしか外へは行かないのだと教えてやろうかねぃ。
鬼は外、福も外。今日もモビーは平和である。