その日は突然やって来た。ミホークはゾロと楽しそうに離れた所で暴れていて、ペローナちゃんは私が用意したお菓子とお茶を嬉しそうに口に運んでいる。
そんな中で私はいつもの様に蜜柑の様子を見て、虫が着いてない事に喜び、そして……ヒヒ達の気配が剣呑な物になった事に気付く。侵入者なんて、無謀も良いところだけど……もしも漂着しただけとかだと困るわよね。
無駄に被害者を増やしたくないし、ヒヒ達を加害者にもしたくない。そう思って私は、ヒヒ達の元へ向けて足を進めた。
通常の侵入者ならば放置して戻って、1応ミホークに伝えれば良いわよねなんて思っていたのよ。でも、到着してみるとそこにはミホークと何処か似た雰囲気のある少女が、怯えを宿した瞳でヒヒを見上げているのが確認出来てしまった。
「皆、辞めなさい」
声をかければヒヒ達が攻撃態勢を解除した。なのでありがとうとそれに笑ってから近付けば、困惑した様子で少女が私を見詰めてくる。
少女とは言っても、恐らく私より歳上よねと思う。この世界の人らしく、スレンダーで巨乳なのはそうなんだけど、何だろう……そう、ホルホルでミホークを女にしたらこうなるんじゃないかって雰囲気でありながら、ミホークより少し若い感じがする人。
私の年齢を考慮したら女性って判断するべきかな?そんなふうに思って眺めていたら、その女性が私に笑顔を向けて来た。
「助けてくれてありがとう。ここにミホーク居るでしょ。会いに来たの」
突然向けられた言葉に、私は内心の動揺を隠して笑う。この人……今、ミホークの事を〝鷹の目〟じゃなくて名前で呼んだわ。
「ミホークの、知り合いですか?」
「そうだけど?あなたは?ミホークが名前で呼ばせるなんて珍しい」
「貴女こそ、いったい」
そう言葉を向けた時、背後からミホークの近付く気配を感じて視線を向ける。するとミホークは、いつもと変わらない様子で歩み寄って来た。
それに声をかけようとした所で、その女性がミホークに向けて駆け出し、抱き着いたのだ。動揺のあまりに言葉を失ったのは私だけでなくミホークもだったようで、けれども女性はミホークに抱き着いたまま薄く笑みを浮かべた。
それに少し嫌な感じがして、それと同時に胸が痛みを訴えているのを自覚する。……でもミホークの知古ならば口は挟めないものね。
「ミホーク!会いたかったわ!」
「何者だ」
「え?嘘でしょ、覚えてないの!?従姉妹を忘れるってどういう事!?」
従姉妹と聞いて、それで似た雰囲気の容姿なのかと思う。けれど、兄妹では無く従姉妹ならば法的にも血の距離にしても、共に生きる事を選択する事は十分に可能で……。
だから……その魅惑的な肉体を押し付けるように抱き着いている姿に、益々胸が苦しくなった気がした。……久々の家族の再会なら、邪魔しちゃ駄目よね。
早く、帰らなきゃ。蜜柑の世話も途中だったわ。
それに、ゾロもペローナちゃんも、お腹すかせて待ってるだろうし。……そうだわ、ヒヒから貰った茸があるから、今夜は茸の炊き込みご飯でも作ろうかな。
「ナミ」
「ミホーク?」
「……これと少し話をしたい。食事の量を少し増やせるか?」
「えぇ、茸がヒヒ達から届けられたのがあるから、炊き込みご飯にしようかと思ってるから大丈夫だと思うわ」
「ならば今宵は茸尽くしか。……楽しみにしている」
たったこれだけの会話で心が浮上する。ミホークは食にそれ程五月蝿くないのもあって、私の作る物で満足してくれてるのがこんな時有難いなと思う。
「ミホーク、メイドを雇ってるの?」
そんな言葉が聞こえて、私はそれに何も言えないままに城へと逃げ帰った。ミホークがそれになんと答えたのか、確認する勇気も持てなかったから。
城に帰り着くと同時にご飯の下準備だけ済ませて、お風呂に入ってしまう。気分を切り替えたかったし、食事を用意する前に汚れを落としたかったのもある。
……あ、客室とかって用意した方が良いのかな?
ペローナちゃんの部屋は用意してあげたけど、ゾロの部屋は用意しなかったのもあってどうしたらいいのかなと少し考える。……綺麗な子だったな、どうするんだろう、このままペローナちゃんとか、ゾロみたいに1緒に住むのかな。
「ナミー!何処だー?」
ペローナちゃんの声が聞こえてお風呂を終えると、私は脱衣所から返事をしつつペローナちゃんへの対応を始めた。温かくて甘い物を提供しつつ、いつものようにゾロとミホークに関する愚痴を聞かされるのかなと小さく笑う。
ペローナちゃんって強いわよね。物怖じしないって言うか。
そんな事を考えて笑っていたら、ペローナちゃんが不機嫌そうに言葉を吐き出した。どうやら相当お冠らしい。
「ナミ、あの女何なんだ?気に入らない。私は気に入らないぞ!」
「ペローナちゃん、何かされたの?」
もう会ったんだと思うのと同時に、私お風呂とか入ってたから随分時間を消費してしまったのねと気付く。それにしても、会って早々にペローナちゃんを怒らせるとか……何したのかしら?
「何かって……!鷹の目にはナミが居るってのに、鷹の目を口説いたりしてたんだぞ!どこから来るんだそんな自信!ネガティブホロウでも仕掛けてやろうか?」
「ペローナちゃん……ありがとう、私は大丈夫よ」
「鷹の目に色仕掛けしてたんだぞ!鷹の目も鷹の目だ!ナミ、鷹の目なんか辞めて私とモリア様の所へ行くぞ!」
激昂するペローナちゃんは、私が宥めても聞いていない。それどころか怒りを余計に煽っている様子で、困ってしまう。
それでも料理をしている手を止める事はしないけど。……デザート何にしようかしら?
「モリア様ならナミにそんな顔はさせねェし、私もナミの傍にいて守ってやる!」
「ペローナちゃん、ありがとう。でも、私は……」
私は、ミホークの傍にいたい。ちょっと言葉足らずで、それでいて余計な事ばかり口にしてしまう嫌味な彼が、どうしても可愛いのよね。
そう思いながら料理をしていたら、ペローナちゃんが小さく、男の趣味悪いななんて言う。そうかな、悪いかな?
「ミホークは優しいと思うわよ。強さも世界一だし、あれで面倒見も良いし!……少し、束縛は強いけど……それはほら、私が弱いから心配なんだと思うのよね」
「……1応言っとくけど、ナミは弱くはねェからな?それに、そんだけの能力有してて、可愛い顔立ちとそのスタイル、更には家事全般を嫌な顔1つしないでやってくれるとか、そんな女居ねェぞ」
「おだてても何も出さないわよ?あ、ペローナちゃん、蜜柑少し取ってきてくれる?デザートに蜜柑で何か作るから」
「任せとけ!美味そうなの取ってきてやる!」
……航海士を本来ミホークは必要としないし、測量士も無きゃないでやって行ける。私が宝玉として活動してるのだって、ミホークは〝好きにしたらいい〟と言って守ってくれてるけど、ミホークがその能力を求めてる訳じゃないわ。
家事は他にミホークの為になる事が無いから、だから……。そう思っていたら鍋がピー!と甲高い音を立てて呼ぶので、慌てて鍋の元へ向かった。
いけない、色々作ってるのに思考の海に沈んじゃダメよね。そうして気持ちを切り替えて料理に没頭していれば、あっという間に夜を迎えた。
いつもの様に、城に帰れなくなっていたゾロを迎えに行った事で苛立っているペローナちゃんを宥めつつ、ミホークと向かい合わせで食事をする。それだけならいつもの事なんだけど……。
そのミホークに張り付いてる人がいて……甘えたような声で、これ嫌いだから食べてとか言いながらミホークの口元に茸を運んでる。それを見れば何だか悲しくなってきて、自然と溜息が落ちてしまう。
「ナミ……大丈夫か?」
「ペローナちゃんは心配性ね、大丈夫よ。それより、茸苦手とは思わなくて、悪いこ「この……お人好しがァぁぁぁ!!」」
突然のペローナちゃんの怒号に驚いて顔を上げると、ゾロ迄もが頷いている。え、今私が怒られるような要素あった?
「女!いらねェならそれ、コッチに寄越せ。作って貰って文句言うな。ゴースト娘でもそれは流石にしねェぞ」
「待てロロノア!てめェそりゃどう言う意味だ!?」
「あァ?事実だろうが!!」
「仲良しねぇ……」
思わず呟いたら2人に睨まれてしまい、私は肩を竦めると早々に席を立った。デザートについてはペローナちゃんに任せようと思った時、ミホークが口を開いた。
「ナミ、今宵のデザートだが」
「ん?あぁ、今夜は蜜柑の……」
答えようとしたら、ミホークに視線で制される。なんだろうと口を紡ぐと鷹を思わせるその瞳が僅かに眇られた。
ミホークのその瞳は綺麗だと思う。そして、その瞳が感情をあまり示さない代わりに、意外と表情そのものが豊かなのよね。
「それは、明日の朝で良い。今宵はナミを所望する」
「え?でも、お客さ「俺は誰も招いておらぬし、何故俺が妻より他の女を優先せねばならんのだ。……俺はナミを義務で娶ったのでは無い。俺が欲しいと渇望して漸う得た愛妻より、大切にすべき者などこの世には皆無だ」」
私が言葉を失っていたら、ミホークはペローナちゃんに視線を向けて、小さく満足かと問い掛ける。それにペローナちゃんが赤べこのように頭を振ると、ゾロがそれを見てボソリと言った。
「鷹の目、お前……そう言う事、言えたのか」
「主らには分からぬか。ナミを得るのに俺がどれ程苦労したと思っている。手にしてからも、蝿が多く、更には斬り捨てる事の許されぬ蝿もいる為に、傍らから離せぬというのに」
え?蝿?
生ゴミの発酵用バケツの付近にしか居ないと思ってたけど……他に居たかな?いるなら、ラベンダーの数増やした方がいいかしら?
首を傾げていたら、何故か従姉妹さんがフルフルとその体を震わせて、顔を真っ赤にして立ち上がった。そして、叫ぶように言う。
「妻帯者ならそう言いなさいよ!七武海相手なら、人生安泰だと思ってここ迄来たのに!」
「何故わかり切った事を言わねばならん。俺が妻帯者であり、恋女房に溺れているのは周知の事実だ。今更説明する義理はない」
「「「「恋女房!?」」」」
ミホーク以外の全員が、思わず声を揃えてしまう。勿論それには私も加わっている。
だと言うのに、ミホークは欠片も気にした様子を見せずに言葉を続ける。それも、心底嫌そうに。
「血縁やもと思えばこそ、斬らなかったが……初めから主に興味は無い」
「え?」
「俺が食したいのはナミと、ナミの作る物だけだ」
……ここで、甘味なら何でもいいんじゃないのとか言ったら不味いだろうな。って、あれ?
今なんか、不穏な言葉混ざってなかった?
私が作った物は分かる。でも、まさか、私も食べられる物として数えられてた気がするのは、気の所為?
……こんな、不機嫌MAXなミホークの相手とか、体が持たない気がするんですけど。逃げていいですか?
そっと階段へ続く道へ進もうとしたら、ミホークにガシッと腕を掴まれて、今まで座ってたよね!?と内心で叫ぶ。そうしながらも、私はそのまま部屋へと運ばれて行く。
それに慌てて抵抗しようとしたけど、ミホークが辞めてくれる筈も無くて寝室に連れ込まれてしまう。それに対して、助けは何処からも現れない。
「ミホーク……あの、私何も、してないわよね?」
「あの女相手に主は、身を引こうとしたな。新婚のつもりだったが、俺の想いが伝わって居なかったか?」
「伝わってる!大丈夫!私、愛されてる!」
「そうか、ならばその愛、ナミからも俺に返せ」
そうして私はそれ迄に感じていた不安等気に掛ける余裕もない程に甘やかされ、泣かされる事となった。結果、その時より数日、私はミホーク以外の誰とも会わない生活が続く事となり、結局あの従姉妹さんの正体などを私は今も知らないままだ。
光源氏ミホーク作品は、書けている分の掲載が完了しましたので、この先不定期更新となります。