どうしたらいいのか分からない。病み上がりどころか、私は現在、絶賛病み中なのである。
とりあえず、そういう事にして引き籠もれるのはどのくらいの期間だろうか。現実逃避しても仕方ないのはわかってるけど、サッチに死んで欲しくなくて咄嗟に庇ったあの日の怪我は、まだ完治していないのも事実。
そんな状態でこれだもの。マルコも、知った所で困るわよね。
その時ドアを開ける人の気配があり、慌てて止めようと声を出そうとしたら傷口に激痛が走りその場で倒れてしまった。そうなれば当然、心配してドアを開けた人物は入室してしまう。
「ナミ!!」
「まる、こ……」
「どうしたぃ?」
部屋に入ったら妻が倒れていたら慌てるのは当然だろう。特にマルコは、私に甘いから……。
こんなつもりじゃなかったのに。ごめんなさい。
「ごめんなさい、巻き込んで」
「は?」
それから抱き起こされた状態で私はマルコに現状を伝えて、本を見せる。するとマルコは眉間に皺を寄せて、何やら考え始めた。
それからふっと笑うと、本に向かって話し掛けた。まるで、そこに居る人物が見えているかのように。
「俺の希望に合わせられるのかよぃ?」
「勿論よー!!」
そう言って姿を見せた球体。それにマルコはいくつかの問い掛けをして、それぞれの返答を貰う。まずマルコが確認したのは、この部屋を出ると変えてもらった物は元に戻るのかという事。
例えばドレスを出してもらって、それを着て終わってから部屋を出たら消えて裸になるのでは困ると言うのだ。それに対しては、問題なく残ると言われた。
次に怪我や病気になったり、治ったりしたのが表に出たら変わるのかという事。それに対しても、基本的には変わらないと言う。
「つまり、行為中に俺がナミの腕を折ったら、それはそのままって事だねぃ?」
「……どんなプレイするつもりなのよ。そのままになっても可哀想だから、それは流石に治してあげるわ」
「治せるのか」
「ここ、私の空間だから……できるわよ」
その言葉に頷いたマルコは、私怪我を治してくれれば、可愛がってやれると海賊の顔で笑う。それにより私の怪我は跡形もなく消えてくれて……え?
「肩の、刺青の時の跡も……ない……」
「そこまでできるとは、思わなかったよぃ」
「ふふん、どう?凄いでしょ、私、いい女でしょ!!」
「あァ、驚かされたよぃ」
肯定したマルコに球体は頬を軽く染めて、それから本の中へと消えた。傷跡さえ消えた身体には、痛みなんて当然ない。
スっとマルコが動いたと思ったら、私の身体はベッドに押さえ付けられていた。驚き視線を向けると、マルコは海賊の顔で笑う。
それにより背筋が冷えたのは、何故だろう。マルコが私に、酷い事する筈無いって、知ってるのに……。
「……散々心配かけてくれたお礼をしないとだねぃ?」
「へ?」
「怪我して、毒受けて……それを見た俺がどんな気持ちだったか、少し考えてみたら良いと思う訳だよぃ」
「お、落ち着いて話し合えば、分かり合えると思「わねェなぃ。それに、この部屋はやる事やらねェと出られねェだろ」」
けれどもその瞳を見れば、言葉とは裏腹な柔らかい瞳がある。ただ、愛しているのだと、私が欲しいのだと……そう伝えて来るから……。
硬直したままの私の手を取り、その掌に口付ける。それから手首に、身を屈めるようにして私の上に覆いかぶさりながら額に、頬に、瞼に……。
そして、唇に。最近はキスもご無沙汰だったと、この時になって気付く。
歯止めが効かなくなりそうで、自制していたと笑うマルコに、その抱擁の中で私の思考は簡単に溶かされてしまう。マルコはいつも、こうして私を簡単に官能の海へと沈めてしまう。
「マルコは、海みたいね」
「ん?」
「きっと、悪魔の実の能力者は〝海に嫌われる〟んじゃなくて、海に同化しちゃうのよ。ただ、高波が大地を抉りとるように、陸にいる間は強い力を与えて貰えるの。……そして、海に帰ればそのまま暴れてた分休むようにと静かに寝かせようとしてるんだわ」
「……斬新な解釈だが、違うとも言いきれねェなぃ」
海に嫌われる。呪われると言う。
けど……それならどうして……能力者達は海から離れられないのか。本当はただ、海に深く愛されているのだとしたら……納得できる気がしたの。
それでも、私も海は好きだけど、大切だけど、譲る事は出来ない。マルコは私の大切な旦那様だもの。
「海になんか、あげないんだから」
「……海に妬かれるとは、思わなかったよぃ」
「マルコは、私の旦那様よ」
「……ナミはいつまで経っても、俺を翻弄する天才だよぃ」
言葉の終わりと同時に再び重なる唇。それに応える術なら、もう知ってる。
マルコは耐えたと言うけど、私もこの温もりがずっと恋しかったのだ。マルコが思うより、私はちゃんとマルコを愛してる。
言葉をいくら尽しても伝えきれない想いだから、いっそ不器用な言葉等投げ捨てて、全てを身体に任せてしまおう。マルコの肩にそっと両手を回す。
より深く合わさる角度を模索して、何度も重ね方を変える度に、徐々に濡れそぼつ唇の感覚が、心地好い。口内に侵入していた舌に喉奥まて探られ、同じように応えれば絡まる唾液が滑った音を立てる。
私は息苦しい程の陶酔に、くふんと甘く鼻を鳴らしてしまう。けれどマルコは落ち着いたもので、凄まじく長く強烈な口付けの間にも、私の服を脱がせる作業を進めて行く。
ゆで卵の殻をツルンと剥くように、私の衣服を全て取り除いてしまう。それと時を同じくして、実は手が4本とかあるんじゃないかって疑いたくなる速度で、鎖骨の窪みや、まだ柔らかい乳首、脇腹の皮膚なんかを弾いて来る。
それだけで反応してしまう身体が恥ずかしくて、元々閉じている瞳を、更に強くギュッと閉じた時、マルコが笑ったのをキスしてるのにわかってしまう。漸くキスが終わったのは、マルコが服を脱ぐ為。
それでもすっかり離れるのは惜しいとばかりに舌先を触れさせながら、この音を聞けとばかりに素肌を押し付けてくる。その時ひときわ激しく響いたのは、私の鼓動じゃ無かった。
私と同じように乱れているマルコの心音に揺らされて、弾けるような喜びと、僅かな切なさを感じて、じわりと目頭が熱くなる。口腔から染み出てくる蜜が、喉を流れ落ちたその先で、動悸も何もかもがいっしょくたになってしまう。
2人の心まで混じりあって行くような気がする。錯覚でしかないとわかっていても、その1体感を味わっていたくて、人は抱き合うのかも知れないと、私は既に朦朧としはじめている頭の隅で思う。
「は……あっ……」
たっぷり10分は続いただろう口付けの終わりに、息継ぎもままならなくなった私を気遣いながら離れて行くマルコの感触。それが惜しくて、最後に舌先を繋いだ唾液を浅ましくすする。
まだほんの前座なのに、ひゅうっと大きく喉を鳴らして、荒い上下運動を続ける胸に、いっぱいの空気を送り込む。勿論マルコは余裕綽々で、唇をペロリと拭う婀娜めいた仕草まで見せてくれる。
くらりと目眩を覚える程、生々しくも妖艶。……ただのパイナップルの癖にと内心で悪態をついた時、マルコがふっと笑った。
「見せてやるのが、惜しくもあり……同時に自慢してやりたいから、見せつけてもやりたくなるねぃ」
その言葉であの球体に見られていたのだと思い出して赤くなる私に、マルコは忘れてたのかと喉の奥で笑った。マルコが悪い訳じゃないとわかっていて、なのに目縁から1筋零れた雫が枕を濡らす。
それに気付いたマルコが眉を寄せる。そして、その唇から甘い声を響かせて来た。
「泣かせるつもりは……無かったんだがねぃ」
「マルコ……」
その先は言葉にならなくて、でもマルコには伝わったらしい。マルコの温もりが私を包み、そっと掛けられた布が他からの視界を遮ってくれる。
慰めるように私の頬にキスをしながら、気遣うようにゆっくりと……けれども焦らす程ではなく挿入して来る灼熱の塊。それにより背が仰け反る私に、マルコはそれ迄の余裕を無くした必死な顔を向けて来る。
「まる……こ?」
「俺も、久々だから……ねぃ」
「っ……も、どうしよ」
「ん?」
「こんな、幸せで……この先、どうしたらいいんだろう」
「そんなもの、考えるまでもねェだろぃ」
その言葉に首を傾げると、マルコは私の中に自身を全て埋込んだ所で動きを止めた。そして、艶やかな笑みで言葉を落とす。
「俺に可愛がられて、愛されながら生きろ」
その言葉と同時に内側から膨張して来る強烈な熱が、私の全てを支配する。悲鳴をあげる事さえ叶わぬその圧力に、マルコの身体に縋りついて耐えるしか選択肢がない。
声を抑えていた為なのか、呼吸が止まりそうになった私の背をマルコは撫でる。そうして、ゆっくり呼吸するように声を向けて来た。
それに頷くと呼吸が落ち着くのを待って、マルコは纏っている粘膜ごとずるりと引き抜く。だから、想像していなかった衝撃に、爪先から頭まで1気に貫かれたようになってしまう。
抑えきれない甘ったるい嬌声が飛び出して、全身が痙攣する。溶けきった内壁は勝手に蠢いて、マルコに絡みつき、巻き付き、より強い愉悦を得る為に貪欲に咀嚼していく。
「いいねぃ……もっと、可愛く鳴いてくれ」
「やだ……聞かれちゃ……ぅ」
「もう、消えてるよぃ」
「え?」
「繋がった時にもうウンザリって言って消えたよぃ。だから、この先はただ、俺が満足するまで、はしたなく、隠微に……鳴いていたら良いだけだよぃ」
その言葉の意味を理解できない筈もなく、私はただ、マルコが満足するまで本当に貪られ続けた。マルコは私に飢えて、私もまたマルコに飢えていたから、互いに互いを補え合えるその時まで……満足する迄……ただ、身体と心を繋ぎ続ける。
怪我をしている筈の私なので、その後寝込んでいても誰にも不思議に思われなかった事が、唯一の救いだろうか。とりあえず、いつかモルガンズに会ったら全力で殴ってやると心に誓いながら、愛しい人の温もりに包まれて、私は今笑っている。