島に到着すると、それぞれの隊に仕事を振り分ける必要が出る。その中でこの人は休み、こいつは仕事と言うのを決めるのは各隊の隊長だ。
つまりはまず隊長達でどうするかを話し合い、今回は3番隊がまず初日を完全に休みとして決めれば、各自指揮を取っていく。やるべき事を分けてやるべき事を行って行くと、時は矢のように過ぎていき、漸く落ち着いた頃船の入口が騒がしくなった。
「いや、でも……知らないんだって。食料は自分達で持って帰る筈だから、届く筈ねェし、他はまだ1番隊が出発してねェから」
「ですが、もうお支払いも終わってますし……受け取って頂かなければこちらも困ります」
「どうしたよい?」
「マルコ隊長……」
見ればハルタの所の隊員だと気付く。そうして話を聞けば、見知らぬ荷物が支払い済みとして届いたと言う。
それにより届いた物を確認すれば、笹竹に食材、紙と墨……。成程、ナミか。
サラサラとメモを書いて、親父に託すと決める。やはり最終決定は、親父の権限だからねぃ。
「……確かに受け取った。うちで頼んだ物に間違い無いよい。……これを親父に届けて、その後の指示をハルタに伝えてくれ」
「はい!」
問題が解決して、僅かな時間が出来る。細く息を吐き出して船から島を見下ろせば、確かに1番金がかからない上に平和なイベントだなと気付く。
だがいくら安い買い物だとは言えども、この人数を考えれば出費は大きかった筈だ。後でそこは、親父と相談するかねぃ。
そう思って溜息を落とした時、聞こえて来たのはナミの歌声。部屋に向かえば、何処か遠くを見て歌いながらペンを動かすナミが見えた。
少し視線を上げれば、干されている地図があった。相変わらずナミが描いた地図は美しくて、これが本職じゃねェってんだから……と思わず乾かす為にぶら下げられてるそれを睨みつけてしまう。
そんな事をしてる間に繰り返し同じパートを歌っていたのが止み、代わりに恐らくは初めから歌い直しを開始した。恐らくおかしな所が無いかを確認しているのだろう。
幼い子供が誇らしげに文字を書いたと言っているようなその歌詞に、歌声に、そういった幼心はナミの中に残っているのだろうかとふと思う。そして、ともすれば表に出せない多くの感情をその代わりに、作品として生み出しているのだろうかと気付かされた。
歌声が止まると拍手して聞いていた事を示せば、驚いた顔で振り向いたナミが可愛くて、小さく笑う。真っ赤になって俯くナミに近付きそのままかっさらおうかと思ったが、完成したばかりだろうその譜面を見たらもう1度聞いてみたくなった。
「もう1度、歌ってくれよぃ」
「なっ!?」
「ナミ……」
「しかた、ない……わね……」
頼んだ俺に赤くなりながらも頷いてくれた照れ屋なナミの頭を撫でて、その歌声を堪能する。それ程長くは無い歌はすぐに終わっちまって、だが、だからこそ言い訳に使いやすい。
まさか、特注してた扇子が届いてからずっと、渡す機会を逃して、その後ずっと探って持ち歩いてたから弱体化してたなんて言える筈もねェ。まァ、渡すなら今夜だねぃ。
「昼間はまだもう少しやる事があるから、夕方から、二人で少し出かけるよぃ」
「え?」
「昼間はナミも皆に指示出ししたり、飾りの作り方教えたりと忙しいだろい。だから、夕方からは俺との時間だ」
拒否はさせねェとそっと唇を奪えば、抵抗せずにそれを受け入れて……小さく頷いた。それにしても、その顔は他の男に見せて欲しくないねぃ。
そう思って耳元で囁く。少し顔の熱が下がってから表に出ろよぃと。
そんな俺に誰のせいよ!?と叫ぶナミは、やはり赤くて……食べ頃にしか思えない。それでもやる事は待った無しなので、とりあえず1度断腸の思いでその場を後にした。
そして迎えた夕刻。浴衣姿のナミがひょこっと顔を覗かせて、終わった?と無言で聞いてくるから頷いた。
「えへへ……嬉しい」
「俺も、ナミが可愛くて嬉しいよぃ。ソレは、どうしたんだ?」
「笹竹とか買った時に、見付けて……衝動買いしたの。可愛かったし」
「良く、似合ってる」
そっと頬に触れて、その瞳を覗き込む。するとビスタから咳払いされてハッとした俺とナミは、手を繋いでモビーを降りて歩き出した。
屋台を冷やかして歩き、日が暮れたのを見計らって人気の少ない所を求めて歩けば結局海岸に出てしまった。砂浜でナミが夜の海も好きよなんて言うから、それに頷いて用意していた物を差し出す。
「なぁに?」
「……今月は、ナミの誕生日だろぃ」
「あ……!」
「当日は、色々あって祝う余裕無かったから遅くなっちまったけど……こっちに持ち替えて貰えたら嬉しいよぃ」
戸惑いをその瞳に残しながら、それでも嬉しそうに受け取ってくれたナミが小さく開けていい?と聞いてくるのに頷く。すると箱の中身を見て動きを止めたと思ったら、それを愛しそうに抱き締めて、涙の滲む瞳で俺を見詰めてきた。
「あり……がとう……」
「喜んで貰えたなら、それだけでいいよぃ。……ナミはいつも、短剣を使うのに躊躇うからねぃ」
海楼石で作られたそれは、既に鉄扇と呼ぶのは間違っているだろう。それでも……笛よりは加工も難しくないというのもあり、扇子にしたのだ。
広げた時は、その先が刃になっているそれを広げて確認したナミは、月明かりの中で透かしが入っているそれを見て嬉しそうにしている。その直後スっと立ち上がったナミが静かに舞始めれば、礼のつもりなのだと分かるから俺は黙ってそれを見詰めていた。
波の音が、音楽となる。月明かりがスポットライトで、観客は俺だけ。
壮大過ぎる舞台で、誰よりも美しい俺の妻。俺の……生きる意味。
煌めく星がナミの舞いに喜んでいるのか、やけに瞬いているように思える。そうして舞い終えたナミに近付こうとした時、聞こえて来たのは拍手と口笛。
振り向けばイゾウとエースがニヤニヤしながら立っていて……。いつから、見てたんだよぃ。
「いやァ……美しいものを堪能させてもらった。ありがとう、ナミ。……折角だから、今夜俺の寝所でもうひとさし……舞っちゃくれねェかい?」
「誰が許すかよぃ」
「ナミ、凄ェ綺麗だった!」
そう言ってエースがナミに抱き着く。すっぽりとその腕の中に収まる姿に、体格差的にも年齢的にも近い男に俺は冷静でなんて居られない。
俺の妻だ。いい加減、エースの方が歳上なんだから弟枠から出やがれ。
「……離れろ」
「心、狭いな……良いだろ、弟が姉に抱きつくくらい」
「……もう1度、言われたいか?」
「マルコ……狭量すぎだろ」
イゾウの言葉に睨み付けて、俺は細く息を吐き出してしまう。それにナミがビクリと震える。
……ナミを威嚇したつもりはねェんだがな。だか……自覚して欲しいとは思う。
「ナミは、俺の織姫だよぃ」
「わァったよ!……ちぇー……」
俺の言葉に呆れと諦めを宿してエースが離れる。ナミは真っ赤に湯だった様子で、その場に立ち尽くしていた。
そうして取り戻したナミに、七夕の贈物に何か欲しければ考えるよぃと告げながら抱き締めると、ナミは空を見上げて呟くように言う。歌うように……。
「星が……欲しいわ」
「それは……少しばかり難しいねぃ。来年のこの時期までの、宿題にしてもいいか?」
「……来年?」
不思議そうに小首を傾げるナミに、俺の視線は釘付けだ。幼い子供のような仕草を時にするのは、それだけ気が抜けてる証拠。
大切な人にしか見せない、素の姿。だから俺は嬉しさを隠さずに笑って頷いた。
「あァ……来年」
「嬉しい。なら、来年までずっと、私の事考えててくれるのね」
「1年と言わず、永遠にナミの事を考えてるよぃ」
そのままナミを抱き上げて、部屋へと連れ帰る。邪魔者のいない所で、二人でゆっくり過ごしたい。
イゾウじゃねェが、舞いの続きは、ベッドの中で見せて貰いたいからねぃ。こうして、互いしか見えなくなった二人を邪魔できる者は居ないだろう。
他愛無いようで、有り得ない程に幸福な時間が二人を包む。今日も織姫と彦星は、年に一度の逢瀬なんて耐えられないと、引っ付いたまま離れない。