サッチは死ななかった。だから、エースも飛び出さずに済んだわ。
魚人島に関しても、私の知る限りの〝真実〟を伝えて、
どちらも新しいと言う意味だけど、ネオには〝復活〟と言う意味合いが強い。昔からある物を進化させたり、改良したりして現在に蘇らせるような意味合いで使われる。
つまりは……アーロン達の改良版であり、アーロン達よりも革新的な集団であるとの意味になる。それは、私から見ればアーロン達よりもずっと劣悪な集まりだと言う事になるけど、そんなのはどうでもいい。
そう思って伝えたそれを元に、親父様がネプチューン様達を促して結果的に仇討ちを果たせた。それの時に親父様達が傍観する予定を変更して怒り狂いながら参戦した理由が、イマイチ分からないけど……皆は私に詳しい事を教えてはくれなかったのだ。
そういった諸々の事があったのは、全て今から二年前。ルフィは戦争での絶望的な敗北が無くても、やはり力が及ばなかった現実に打ちのめされたのか、二年の修行を行ったらしく現在は行方不明となっている。
変わらなかった現実と、変わった現実があるから、必ずドレスローザの件が解決するとも限らない。でもあれば根深い事だから、安易には動けないわよね。
そうしてクーちゃんに必要な物を揃えて貰いながら調べて行けば、私が知らなかった現実にぶつかる。ワノ国の支配と、その背景にある〝人造悪魔の実〟の存在。
ドレスローザで何が起きているのかと、その結果。その諸々の事を理解した時、私は資料を胸に抱えて慌てて親父様の元へと駆け出していた。
「親父様!!」
「どうした?」
ドアを叩き割る勢いで入室した私を優しく笑いながら受け入れ、そのまま抱き上げてくれる。そんな親父様の胸にスリスリと甘えてから、違う!!と自分を内心で叱った。
でも、甘える私の頭をよしよしと撫でてくれる親父様もいけないと思う。こんなの……甘えちゃうに決まってるじゃない。
「何か見えたか?」
「ん……。ドレスローザ関連なの。でもね、これ、百獣海賊団も関わってて、ワノ国絡みだから……」
「……聞かせろ」
嘘偽りなく、私が思い出せたのは僅かだった。だから大半は調べた結果判明した事実。
それの思い出した……と言う所だけ、見えたと言う事にして手渡した資料。それを見せながら私の知り得た情報を伝えれば、親父様は頭を抱えた。
それから親父様はマルコとサッチ、イゾウを呼んで事のあらましを伝える。その時の張り詰めた空気は、悲しみを強く感じさせた。
「おでんの件があるから、参戦してもいいと俺は考えている。だが……それについて〝今〟動くべきか、もう少し〝待つ〟かの意見を聞きたい所でな。……おでんをよく知るお前達に、集まって貰った」
親父様は話の最後にそう言って締め括る。それに対してイゾウが苦しそうな顔をするから、私は余計な事をしてしまったのではないかと思わされる。
……でも、チャンスはもうすぐ来る筈。ワノ国として考えるなら、尚更。
「……パンクハザードは、先日壊滅したわ。表向きは〝G-5〟が活躍した事になってるけどね。問題は主犯格の〝シーザー・クラウン〟が〝逃亡に成功した〟事にあるの」
「ん?逃亡先はわかってんじゃねェのか?」
何故か親父様には伝えてない情報迄筒抜けで、私は舌打ちしたくなるのを耐えながら顔を背けた。今の所はルフィ達がシーザーを確保してるみたいだけど、私の知識によればこの数日後にはビッグ・マムの元へとその身柄は移ってしまう。
これは、変えるべき未来なのか変えざるべきなのか、それすら分からないのだから怖い所。さて、どう話したらいいかしら?
そんな私の浅知恵は、親父様を筆頭にした隊長達に通じる筈もなく、全て吐かされた私を無視して作戦が進められる。何だか情けないなと自分でも思うけど、この人達に勝とうと言うのがそもそも間違ってると思うのよね。
そんな訳で暫く様子を見て、タイミングを合わせて参戦しようとの事に決まった。大切なのはワノ国の決戦だから、それまでは縄張り内の島でバカンスしてるフリをしつつ武器等の物資を調達していく事になったのだ。
……そして私は、情報を探るのにちょっと目立ち過ぎていたらしい事を、その島の奥地で認識させられていた。だって、そろそろルフィ達を出迎える為にお城でふんぞり返ってなきゃいけなかった〝天夜叉〟が、目の前に居るのだから。
「小鳥が情報集めてるのは気付いてたが……小鳥は擬態で、実際は可愛い子猫だったとはなァ?」
「……確かに私は、猫と呼ばれる事もあるけど……そう呼ばれるのは何だか不愉快だわ。そもそも、私に手を出す意味が分からない程愚かには思えないんだけど、そこの所どうなのかしら?」
クスッと余裕を見せる為に笑えば、ドフラミンゴは楽し気に肩を震わせる。それから何処か懐かしむように私を見て、首を傾げた。
この男と会話をするのはこれが初めてだと言うのに、不思議でならないわ。確かに戦争の時に、互いに姿は見たかもしれないけど……特に接触は無かったのだから。
「ん?知っちゃァいるがな?……白髭海賊団の1番隊隊長、不死鳥マルコの妻であり、白髭の掌中の珠。だが、それよりも大変な事実は……お前が世界政府の追い求める〝宝玉〟である事だろう」
思わず唇を噛み締めた時、それが肯定となった。ドフラミンゴはフッフッフッフッフッ……!!と高笑いして、糸を私に繰り出してくる。
実力差を考えてしまえば、まともにやり合ったら勝てる筈はない。私に戦闘能力は皆無と言えるのだから。
逃げて、躱して、短剣で切り裂いた。それでも対応出来なくなって、私は短剣からマルコに貰った鉄扇へと持ち替えて動く。
こちらの方が、動きやすい。海楼石で出来てる事に違いはないから、動きやすいのと防御に徹する事が出来るこちらの方が、長期戦には向いている。
時間さえ稼げば、必ず助けは来る。戦いの気配に気付かない程愚かでは無い。
彼等はこの海で〝四皇〟と呼ばれ続け、その中でも〝最強〟と言われているのだから。そんな自慢の彼等を、私は信じている。
「チョコマカと……いい加減にしろ……」
ドフラミンゴから怒りのこもったその言葉を受けた直後、展開されてしまったのは〝鳥籠〟で、私を小鳥じゃなくて猫だと言ったのに酷いと内心でつのる。そんな不満を隠さずに睨むけど、逃げ場を失った私をドフラミンゴは簡単に捕らえてしまう。
それでも手にしているのは海楼石だから、多少は効果もあるだろうと扇子で殴ろうとしてみる。けれどもその直前に腕をひねり上げられて、骨がミシミシと音を立てるのを確かに聞いた。
抑えようと思っていた呻きが、情けない事に痛みに耐えられずに自分の口から聞こえた直後、重ねられた唇。それが明らかにマルコとは違っていて……口内を嬲るように蠢く舌が、背筋に冷たいものを走らせる。
身を捩って逃げようとすれば、腕が先程よりも酷い悲鳴をあげた。けど……それでも抵抗しようとした時、その唇が突然開放されて、私は意味がわからないままにドフラミンゴを睨み上げる。
「お前……ナミ、か。あァ、成程、そういう事か。……やっと、取り戻せた。ナミ」
「何言ってんの?」
「フッフッフッフッフツ!!分からねェよなァ!!だが、構わねェ。もう手放すつもりもねェ!!……大切に、飼ってやるよ、ナミ」
その言葉が終わるのと同時に、再び重ねられそうになる唇を避けようと顔を背けた瞬間に、その動きを利用されて首筋に吸いつかれてしまう。それに身体が反応すれば、ドフラミンゴは楽しそうに笑った。
腕が、熱い……。痛みより熱さが気になって、何だか少し思考が上手く働かないような感覚に陥る。
「さァて……今のナミは、どこまで経験があるのか。楽しみだな」
「そこまでに、して貰おうか。天夜叉」
「……不死鳥、か」
「互いに海賊。宝は1人。殺り合う覚悟があるってんだったら……相手になってやるよぃ?」
不敵に笑うマルコについ、見惚れる。海賊らしい顔なんてなかなか見られない分、見た時のときめきは尋常じゃ無い。
眼鏡かけて書類見てる顔も好きだけど、この顔もカッコイイ……。うちの旦那は、何度私を恋の沼に沈めようと言うのか。
「……ナミ、お前……この状況で旦那に見惚れてるってどうなんだよ……!!」
突然笑い出したドフラミンゴが、今回は返してやると言って私をマルコに投げ付ける。それを軽く受け止めたマルコが、次があると思うなよぃ?なんて言うからまたときめく。
もう、人がもしトキメキで死ぬなら私は何度マルコに殺されているだろうか!マルコがかっこよすぎて、辛いです。
そんな事を考えながら、とりあえずは帰ってこられたと言う安堵もあってマルコの首に腕を回せば、腕が妙に重い。そんな私にマルコが、小さく笑ったのがわかる。
去って行くドフラミンゴに意識を向ける余裕もなく、ただマルコにしがみついていれば2人になった瞬間にマルコの声が耳朶を掠めた。少し掠れたその声が、本気でそう思ってる事を示している。
「無事で、よかった……。助けに来るのが遅くなって、悪かったねぃ」
「そんな事ないわ。私、無事だったもの」
「腕に、ヒビが入ってるのは無事とは言わねェよぃ。後で治療しような」
優しい声音で囁かれて、でも、待って。無理だから。
「……ヒビって、治療出来ない……わよね?」
「俺は、不死鳥だよぃ?」
その言葉にそうでした!と思ってつい笑えば、優しく啄む程度のキスをしてくれる。そんなマルコにいつもありがとうと笑えば、優しく帰ろうかと言ってくれた。
モビーに帰れば親父様を筆頭に隊長達が殺気立っていて、私の腕にヒビが入ったと知った瞬間にドレスローザを滅ぼしに行こうと言い出したそれに慌てて止める。戦力温存の話はどうなったんだと叫ぶ私に、盛大な舌打ちが幾つも返ったのは言うまでも無い。
結局バカンスは切り上げられて、ゾウへ向かう事に決まれば皆の様子も次第に落ち着きを見せ始めた。本当に……私の家族は、総じて過保護である。
「困った人達ね……」
「皆、ナミが可愛いんだよぃ」
そう言って笑うマルコに私は腕を預けている。ドフラミンゴにやられたそれは、なんと両腕にヒビを入れるなんて結果になっていたらしい。
……いや、片腕だけだと思ってたし。確かにマルコにヒビ入ってると言われてたけど、本気にしてなかったのよ。
ずっと熱いと感じていたそれは、どうやら痛みだったらしい。でもだとするなら……何とか動かせるし、圧力かけない程度なら使っても問題無いかな。
そう思って本を持とうとしたら走る激痛。それにより、勝手に涙目になってしまう身体が悔しい。
「……今になって、なんか痛い気がするわ」
「アドレナリンの放出が終わったからだろうねぃ。ナミは元来痛みには弱い筈の生き物なんだよぃ?」
「そうなの?何年も色々な拷問とかされても平気だったのに、不思議ね」
「……その辺は後でキッチリ聞かせて貰いたいがねぃ?ナミは敏感な質だから、痛みにも神経は強く反応する筈なんだよぃ」
そう言いつつマルコが私の腕にその蒼い焔を当て続けるから、なんと言うか、罪悪感が半端ない。治療する時、マルコはいつも、マルコの方が怪我してるんじゃないかって位悲しそうに、痛そうに、その瞳だけで悲しむ。
表情はポーカーフェイス決め込んで、大人のフリしてても……やっぱり優し過ぎるのだ。だから、私はマルコの分まで笑っていようと思ってるの。
「マルコ、ありがとう。お陰様で随分楽になったわ」
そう言った私の目の前に譜面台を改良した物が運ばれて来て、そこに本が置かれた。腕に負担をかけずに、読書ができるようにという判断らしい。
至れり尽くせりねと笑えば、そうしないと勝手に悪化させるだろうと渋面を作ったのはフォッサで、甘やかさないでよなんて軽口を言う私に、フォッサは苦笑しつつ頭を撫でてくれた。魚人島の件があって以降、なんだか壊れ物みたいに扱われるから、対応に少しだけ困る。
フォッサはなんにも……悪くないのに……。そう思って俯いた時、マルコの抑揚の無い声が降って来た。
「……ナミ、腕が治ったら……覚悟しとけよぃ」
「へ?」
「最近はナミが怪我してばかりで、俺はお預けが多い気がするよぃ」
「それ、二年前の事でしょ!?最近は定期的にシテるのにいつまでそんな事を……って、まさか……」
何でいつもは言わないのに、二年前の事を引合いに出したのか。そう考えたら思い出したのはひとつの事件。
私としては物凄く嫌な出来事だったと思うけど、確かにマルコは楽しそうだったし、怪我も治ったわ。でも、違う……よね?
盗み見るようにマルコに視線を向ければ、微笑むマルコがそこに居た。お手本のような笑顔で、マルコは残酷にも言葉を発する。
「ナミは完治するまで何も出来ないから数日は休みだし、明日は俺も休みだからねぃ。あの本、開いてもいいと思「思わない!!やだ、マルコ、やだよー!!」ナミの怪我が治って、俺も満足出来て、いい事しかないよぃ」
もうすぐ戦いだろと囁かれては、それを拒む手段を私は持たなかった。二年前の悪夢を再びと思えば、やはりいつかモルガンズはその羽根むしり取らなくてはとの思いを強くしてしまう。
結局その後医務室から部屋へと移動という名目で連れ込まれた私が、マルコの休み明けに怪我を完治させた代わりに寝込んだのは当然の結果だったとここに残しておく。そうして私だけが何も出来ないままに、時は刻一刻と過ぎて、新たな話の幕が上がろうとしていたのである。