この作品には、ヒロインの年齢設定がございません。
それは不思議な島だった。ナミが興味を持ったと聞いた親父がそれなら寄ろうと言って、同時に偵察は不要だと言い放つ。
そして、島につく直前にナース達全員と、ナミを親父が甲板に呼び出した。それから親父が言う。
「島に着いたら誰か1人、船を降りるだろうが息子達は降りるなよ!」
意味が分からずに全員で顔を見合わせていたが、島に到着するのと同時にナミの様子がおかしくなりフラリと飛び出して行ったのを見れば、何事かと思う。ナース達も14歳の時から知っているからかナミの突然の行動に慌てる。
それでも、親父の……船長の言葉は絶対であり、それを守れないならばこのモビーでは居場所など無い。だから、心配しながらも待つ俺達に、親父は楽しそうにグララララと笑う。
「親父……何を知ってるんだよぃ?」
「島の近くを通った船に女がいると、女が地図にない島を見付ける。……何故地図にないのか、それは呼ばれた女が示さなければ他の誰にもその島が見えねェからだ」
親父の言葉に嫌な予感がした。ナミが何かに呼ばれたってのか?
その呼び寄せる存在に、ナミが害される事はねェのか?
「その島に呼ばれた船に乗る女の中で、1番愛情深い女が呼ばれて島に降りると、1人の子供を拾って帰る。その子供は、女が最も愛する人間に擬態しており、3日愛情を受ける事で女を解放する」
その言葉にナース達も含めて納得した様子を見せるのは、ナミがモビーにおいては全会一致で〝お人好し〟であるからだ。親父は注意点として、女が子供を拾って帰る迄は、島が男を拒絶する為に降りる事は危険であり、女が子供を拾ってからは島の探索ができると言い出した。
そして、女を島や植物と引き離した場合女が意識を失い、下手をすれば死ぬ事。そして、島の植物や子供に危害を加えれば、女が同じ状態になる事を伝えられた。
その結果……エースを含めた危険人物には、島に降りないよう厳命が下った。それはまァ、そうなるよなぃ。
「動物を狩る事、木の実を取る事は問題ねェから、上手く3日を過ごそうじゃねェか」
そう言って笑った親父に、俺達が逆らえる筈はない。そこへ少し気不味そうな様子で姿を見せつつ、ゆっくりと帰ってくる人影。
その腕には何かを抱いていて、だがその姿を見る事は出来ねェ。それでも、それがナミの愛する相手に擬態しているというのならば、俺に擬態しているのは間違いねェと分かっている。
家族も親父も、この船の兄弟も、ナースの事も慈しみその愛を振り撒くナミだが、疑う気にもならねェ程に、俺を深く愛してくれている。そのナミが俺に視線を向ける事無く親父に直訴する様相で、声を発した。
「親父様!あのっ!」
「……それを育てたい、か?」
「はい!あの、難しい事は分かってます、でも……!」
「……見せてみろ」
親父の言葉にナミは素直に従い、布に包まれた中身の顔をその場にて見せる。その顔は、髪型まで含めて俺だった……。
小さな俺の頭の中心から、双葉が顔を覗かせて居なければ間違い無く俺の子だと言われるだろう見た目をしている。双葉が風に揺れると、子供は気持ちよさそうに笑いナミに甘えるように両手を動かす。
それをナミが慌ててあやし始めれば、親父が3日間しっかり世話してやれと言って簡単にその子供と島について語って聞かせる。それを聞いたナミはホッとしたような顔をして、頷いた。
「ありがとうございます。勝手な事して、ごめんなさい」
「いや構わねェさ。寧ろ今まで、これだけナースがいて誰も呼ばれなかった事に、俺は脅威を感じてるぜ?……なァ、娘達?」
「「「親父様酷いわ!」」」
即座にナース達が反応して反論するが、こんな島に来た事は無かったと記憶を探り小さく笑っちまう。だが……確かにこの海域は何度も通ってたなと思う。
……基本的にナース達は戦わせねェが、戦えない訳じゃねェ。ある程度の自衛は出来ねェとこの世界では生きられねェからな。
そうなると、強過ぎて慈愛とかそんなものを失ったのかもなと思ってナースを見れば、それが伝わったのかギロリと睨まれた。それにビクリと肩を揺らした時、ナミから声が掛かった。
「マルコ……ごめんね」
「何がだよぃ?」
ナースが鬼みたいに怖ェのは、ナミにはなんの責任も無いだろぃと思いながら振り向けば、明らかに気落ちしている様子にそういう事かと思う。可能性は2つ、そのどちらにしても怒るつもりは皆無なんだがねぃ。
「私、マルコの……」
言葉を詰まらせるナミの頭を撫でて、そっと視線を合わせる。それによりその瞳が怯えたように揺れたので、浮気の方かと判断する。
「浮気を疑ったのは、この場合不可抗力だよぃ。これだけ似ていれば、疑って当然だぃ。……引き取ると同じ部屋なのに1人で決めた事についても、ナミの性格は分かってる。責めるつもりはねェし、当然の行動だろぃ」
「え?」
「ナミが、子供を見放したり見捨てたりなんて出来ねェ事は、この船の誰もが分かってるよぃ。それでも勝手に育てようとせずに親父の判断を仰いだんだ、何も間違っちゃいねェ」
その瞬間ナミが大粒の涙を流し始めたので、間に入る事になる子供を潰さない程度の力でナミを抱き締めれば、ナミもまた子供を気遣いながら甘えるように擦り寄って来る。だが、それでも子供は気に入らないのか俺の腹を殴って来た。
「流石は俺に擬態してるだけあって、力が強いなぃ。それでも小さいってだけで、可愛いもんだねぃ」
「マルコは、子供好きなの?」
「そうだねぃ、好きな方だと思うよぃ?」
俺の言葉にナミは嬉しそうに笑い、子供に視線を向ける。それからやっぱりマルコも小さい時はこんな感じだったの?なんて聞いてくるが……。
「流石にこの頃の事は覚えてねェよぃ」
「そりゃそうよね。人間が記憶している幼少期の事は、3歳の時の衝撃的な事と、4歳以降の出来事だと言われているものね」
「衝撃的な事?」
「物凄く嬉しかった事、悲しかった事、驚いた事を覚えてるのよ。誕生日に貰ったぬいぐるみの事とか、お母さんが目の前で倒れた事とか、そういう事は案外覚えてるものよ」
その言葉を聞いて妙な違和感に襲われる。だが待てよ、ナミはそうなると少しじゃなくておかしいだろぃ?
「ナミは、1歳で文字の読み書きを覚えたと聞いてるよぃ?」
「私は……当時は天才だったのよ。20歳すぎればただの人っていう典型ね」
そんな事を言いつつナミは親父の元へ向かい、3日の休みを頼んでいる。だが……20歳すぎても只人にはなれねェだろうと心の底から思う。
親父はそんなナミに子守りがお前の仕事だから、休みには出来ねェと言って笑っている。親父もナミには甘いからなぃ。
「その小せェマルコを任せたぜ?」
「私1人じゃどうにもならないと思うので、助けて貰う事になると思うけど……」
「頼る事を覚えたなら、成長だな。……おいハルタ!甲板でナミが過ごしやすいように準備してやれ」
「了解!ナミは、折角だから少し休みなよ!仕事は少しマルコに任せちゃえ」
そう言ってハルタは甲板にサマーチェアやらガーデンテーブルやらを用意し始め、パラソルをジョズがそばに立てるとサッチが飲み物と菓子をテーブルに用意した。瞬間的に用意されたその空間に、ナミはイゾウにより連れて行かれて、その直後ナースに囲まれている。
息付く暇も無いような勢いで用意された空間で、揉みくちゃにされながらも子供を守る姿は既に母親そのもので、母性本能の強い女を呼ぶのかと納得する。子供はナミ以外に触れられる事を拒み、離れたくないと言うようにナミに抱き着いていてそれが少し苛立たしく思えた。
「それでマルコ……」
親父が突然そう言うので視線を向ければ、悪戯な笑みを向けられる。なんだろうと思った時、親父が言う。
「ホンモノは、いつ頃の予定だ?親父と呼ばれるのも良いが、この歳だ。……そろそろ孫の顔位見せてくれても構わねェぞ」
「海賊船で何言ってんだよぃ。それに……そうなったらナミを降ろすだろぃ」
「いや、ナミは〝宝玉〟だ。どちらにしても守るべき理由もある。……俺は、孫を歓迎するぜ」
「……ナミの体調見て、考えるよぃ」
「そうか、近いうちに孫を抱けそうだな。俺は孫に〝じぃじ〟と呼ばれる迄はくたばらねェぞ」
「……それを活力に、1つ目標が叶うと次とまた目標を定めて、曾孫が産まれるまで元気な爺ちゃんもいるらしいと聞いた事があるな」
「ファザコンなお前ェらにも、喜ばしい事じゃねェか。俺の為にさっさと作りやがれ!アホンダラァ!」
親父はそう言って笑ってから、ナミも子供の相手してれば敵船に突入されねェだろうし、仕事をし過ぎて倒れる事も無くなるだろうなと悪魔のように囁いてくる。……そんなに孫を抱きたいのかよぃ。
恐らくはナミの子だからだろうとは、分かっている。その上で、実際それで親父が長生きしてくれるならそれはそれで嬉しいと確かに思うのだから、反論の余地はねェ。
親父はナミを本当に可愛がっているし、ナースもナミならば子を宿したとしても、喜んで受け入れるだろう。それくらいの愛をナミは受けているし、受けるに値する程に愛を振り撒いている。
ふと視線を向ければ、ナミの周りでは子供をつついてみたり、俺と子供を交互に爆笑する奴がいたりと平和そのものだ。こんな時間が長く続けば良いと、海賊であるのに願うのは、間違っているのだろうか。
書類をある程度部屋から持ち出してナミとテーブルを挟む形で腰を降ろし、その場で仕事を始めれば子供は不愉快そうに俺を睨み付けてくる。……こら、俺の女を借りてるって自覚しろよと内心で溜息を落としつつ、書類にペンを走らせればナミが狡いと言う。
「何がだよぃ?」
「私もペン持ちたい」
「……今は、俺の子を頼むよぃ」
俺の言葉にナミは真っ赤になって口をパクパクと動かすから、可愛いと心から思いつつ書類を書き進めていく。そんな時に子供が唸り、ナミがあやし始めると即座に静かになった。
親父に煽られ過ぎて、その子供が俺の子に見えてきたとは言い出せなかった。それ位に、ナミが俺と良く似たその子供を抱いている姿は、自然に見える。
その後もナミが俺に意識を向ける度に泣いたり騒いだりする子供に、少しでは無く苛立つ。それをナミにぶつける訳にも、ましてや明らかに1歳程度の子供に向ける事も出来ずに苛立ちを募らせる。
終わった書類を片付けつつ次の書類をと立ち上がった時、ナミが不思議そうに声を掛けてくるが、何故そんな疑問が出るか俺の方が疑問だ。
「そう言えば、どうしてマルコ迄ここに居るの?」
「……ナミの傍にいたいからに決まってるだろぃ。仕事もやってるから、何も問題はねェよぃ」
何を当たり前な事言ってやがる。そう思って視線を向ければ、ナミが顔を赤く染めて、それから嬉しそうに笑った。
それにより、俺の顔まで赤くなる。……照れとは、伝染するものだ。
夜になり子供が寝静まれば、漸く2人の時間だとナミを抱き寄せた。それに優しく微笑んでくれるナミに、そっと囁きかける。
「ナミは悪くねェが、少し苛立ってるからねぃ。優しくできねェと思うが、許せよぃ」
「マルコ……」
そう言ってナミの羽織っていた上着を落としつつ唇を重ねた瞬間、子供が泣き出した。その時即座に動こうとしたナミを思わず抱きしめるとナミに「めっ!離しなさい!」と叱られちまう。
……めっ!って、ナミよぃ。
完全に母親モードのナミに渋々手を離したが、どうやら長い3日間になりそうだと深い溜息が落ちる。それから兄弟やナースにからかわれ、ナミを子供に奪われたまま3日間が過ぎた。
俺はその日々の苛立ちで失念していたんだ、ナミがどれ程甘く優しい存在なのかを。別れの日当日、全員で見送るには多過ぎるという事で、当事者たる俺とナミの他は護衛と見守り隊として親父とイゾウ、ハルタ、サッチ、ビスタのみが見送る事になった。
本来ならばエース辺りもとの話があったが、間違って植物を燃やされでもしたらたまったものでは無いと船に閉じ込めてある。能力の制御が出来ねェエースは、俺に似た子供をナミが抱いてるってだけで嫌そうにしていたから、本当に危険なんだよぃ。
その腕に抱いている子供が示す通りにナミは島の中を歩き、日当りの良い場所で降ろせと暴れる小さなそれを寂しそうに見詰める。そんなナミに、子供が首を傾げて腕の中でナミに呼び掛けた。
「まぁー?」
「……わかってる、のに。ね……」
「まー!あー……う?」
「うん、マルくん可愛い。いい子よ。大好き」
会話になっているらしい様子に、凄ェなと素直に思う。と言うか、マルくんって……。
動揺してる俺の目の前で、震えたまま動きを止めるナミに子供はキャッキャッと笑い楽しそうにしている。それを見てナミはその手を離して、子供を自由にした。
その瞬間に駆け回る子供が転びそうになるとナミは無意識なのかその手を伸ばしかけて、その伸ばした手を自分のもう片方の手でそっと押さえて様子を見守る。その時、転んだように見えたのは定住の地を決めただけだと分かり、ナミはお手本のような笑顔で笑った。
「まー!あ!うー……」
「ありがとう。マルくんも、幸せになってね。愛してるわ」
子供の謎の言語にそう答えたナミに子供は嬉しそうに笑って、その姿を変えた。そして……その場に残された親父と兄弟は、俺の肩を順番に軽く叩きながら先に帰って行く。
それもその筈だ。明らかに植物へと姿を変えたそれにそっと触れてた状態で、そのままナミが動かなくなっているのだから。
「ナミ」
呼び掛けると振り向くが、その瞳は虚ろで泣く事さえ出来ないその不器用さに苦笑する。これが、ナミという生き物だと知っていた筈なのに、失念していた。
「ナミ」
再び呼び掛けるとその瞳に色が戻り、植物と俺を交互に見ながらナミは諦めたようにそっと植物から手を離す。だから俺がナミの元まで歩み寄り、そっと抱き締めながら声を掛ける。
「ナミ……よく、耐えたな。もう、泣いていい」
「マル……コ……」
それだけ言ってナミはそっと涙を流す。その涙が枯れるまで付き合うから……その後は、また笑って欲しい。
「別れが決して来ないとは言えねェし、今度はナミに似た娘である可能性もあるが、ちゃんとその腕に抱かせてやるから……今は、我慢せずに泣けよぃ」
「っ……!マルくん、は……」
そう言って言葉を詰まらせるナミの頭を撫でてやれば、無言のまままた涙を流す。これだけ愛されたんだ、立派に育てるだろと植物へとその姿を変えた長男に視線を向ける。
次の子が次男になるのか、長女になるのかは知らねェが……親父もご所望だから……そう言ってナミをその場で押し倒せば、涙に濡れた顔で俺を見上げて、ナミは小さく頷いた。
泣き腫らした顔でナミが帰った事で俺が制裁を受ける事になるとは、この時の俺は想像もしていなかったが、折角2人きりなのだからと襲った俺にはそうされても文句は言えねェのかも知れねェなぃ。
後にこの島は、宝玉の書いた手記によりカップル達で溢れかえる有名な観光地になるのだが、それはまだ、誰も知らない小さなこぼれ話。
この先は不定期更新となります。予めご了承ください。