※この作品はR-18です。

光源氏シリーズ   作:夢枕 七変化

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白ひげ海賊団2番隊隊長〝火拳〟ポートガス・D・エース
偶然の遭遇(光源氏14)side


 集めた仲間と共に新世界に入り、変化の大き過ぎる荒れ狂う天候の中で航海士が弱音を吐いた。それには皆も同意するところであるが、とりあえずは今回も無事に乗り切れたのだ。

 だからこそ、それ程悲観しなくても良いだろうと慰める。けれどもこれだけの天候不順では、やはり航海士としては自信を無くしそうな様子だ。

 それでも仲間が全員生きていると、そう思って笑った時、海に違和感を覚えて視線を向ける。するとそこで、小舟が見えない何かから逃げてる様子である事に気付いた。

 何が起きているんだと思って、視線を違和感の元に向ければ、突然その場に巨大な船が姿を見せる。驚き言葉を失った俺達だが、そんなものでは終わらないらしい。

 その船は俺の目の前で2つに割れると、そのまま沈み始めた。逃げていた船に乗っていた子が何かしたのかと視線を向けて見るが、驚いたような顔でそれを呆然と見ている様子からして無関係なのだろうと分かる。

 ならばとりあえず、その小舟を見捨てるのも後味が悪いからと仲間にその少女を拾うように言って、俺は沈む船に意識を向ける。その次の瞬間、俺は何も考えずに浮かび上がってきた人物を拾う為に、残骸として浮かんで来るそれらを足場に海へと向かっていた。

 仲間達の悲鳴が聞こえるが、それどころじゃねェんだよ。まさかと思う髪色と容姿に、何かを考える余裕なんて無い。

 抱き上げると咳き込みながら不思議そうに俺に視線を向けたその人物は、海水に濡れて重くなっている筈なのに恐ろしく軽い。その事に体が震えそうになるのを耐えながら、俺は急いで船へと戻る。

 甲板にその人物を降ろすと、囁くような声で俺の名を呼んだ。懐かしい、追い求めていた声が……俺を呼ぶ。

 

 「エース……?」

 「ナミだよな。何があったんだ?」

 

 思わず問い掛けた俺の腕は、覚えのない真っ赤な物に濡れていて……。ナミを見ればその座っている辺りが明らかに海水ではない何かで濡れている。

 ジワジワと広がるその赤い物に、俺は慌てて船医を呼び治療してくれと叫んだ。もう、挨拶なんかしてる場合じゃねェ!

 それに対してナミは、サイクロンが来るから治療なんかより先に船を動かせと言う。なので、それも並行して行いながらナミを船医に預けた。

 その時ナミは俺を見て、懐かしそうに、愛しそうに微笑んだ。それに顔が赤くなるのを自覚した時、もう1人の少女が話しかけて来た。

 

 「あんた、ナミの、知り合いなの?」

 「ん?あァ、追われてた子か。俺は、ナミの幼馴染だ」

 

 サイクロンの危機を脱した所で突然かけられた声に、ここで恋人と言えたら嬉しいんだけどなと内心自嘲するが、ナミに言わせれば弟なんだと分かっている。だから、これが今言える精一杯だ。

 そんな俺に少女は成程、それでそんなに取り乱してたんだとか言ってから、紙とペンをとか言うから素直に差し出す。理由を問わないのは、ナミで慣れているからかも知れない。

 

 「ナミのアレを見て取り乱したなら、現状を知らないでしょ?」

 「現状ってのは」

 

 問いかけようと口を開くと、少女は俺に紙に何かを書きながら言葉を続けた。それは、静かな怒りに満ちていて、どうしたら良いのか分からなくなる程の殺気を含んでいる。

 

 「ナミは、望まない環境に置かれてる。多分人質でも取られてるんじゃないかしらね。それをお金で解決しようとしてるとしか、思えないのよ。……ところであんた、強いんでしょうね?」

 「まァ、それなりにな」

 

 睨み付けてきた少女に答えると、ならコレと言って差し出されたのは東の海にあるらしい知らない島。それに首を傾げると、呆れたような視線を向けられた。

 

 「ナミは恐らくその場所を自分からは言わないから、助けるつもりなら……そこに向かって」

 

 それから小さく、ナミを死なせないでと呟いて少女は去って行った。これであんた達にサイクロンから助けて貰った恩は、返したわよと付け加えて。

 本来ならナミもあんな感じであるべきなのだろうと思うが、幼い頃からナミは変わらずに大人として生きていた。その為か、驚く程に穏やかであった為あんな態度を取られる事が新鮮だった。

 そんな風に考えていた時、船医が俺を呼んだ。その声が、微かに震えているのが気になったが。

 

 「エース船長、治療は終えました。とりあえず、意識がもし戻れば大丈夫です」

 「……もし戻れば?」

 

 戻らない可能性の方が高いとでも言うのかとその顔を見れば、船医はハッキリと頷いた。生きて喋っていたのが不思議な程だと。

 

 「……クソっ!何があったんだ、ナミ……!」

 「それと、彼女は他の海賊団に所属してます」

 「は?」

 「左肩に刺青がありました。今他の奴がそのマークの示す海賊団を特定しようとしてるので、待ってください」

 

 俺はその言葉に嘘だろと思い、同時に先程の少女の言葉を思い出す。ナミの望まぬ環境に……なら、その海賊団に居るのは……?

 人質がどうとか言ってたな。昔から、シスコンでマザコンで……ブラコンだった。

 弟の枠に入ってる俺達を可愛がる姿を思い出しても、ルフィが人質にとは考えられねェし、サボは死んだ。残るは俺だから弟じゃねェ。

 なら……ナミの世界の中心にいる母親と姉かと思えば、握る拳に自然と力が入る。巫山戯んな、ナミに変なもん刻みやがって……消し炭にしてやる。

 

 「……皆、悪ィ!1度東の海に帰って欲しい。どうしてもやらねェとなんねェ事が出来た」

 「俺達はエース船長に従うぜ!」

 「任せとけ!」

 

 そんな声が即座に返り、俺は仲間に恵まれてると痛感する。俺の手には……ずっと、何も無かった。

 生きている事以前に、産まれた事を否定され続けてきたから。そんな中で出会った対等に居られる相棒がサボだった。

 そして、穏やかに優しく包み込んでくれるナミと、それに守られてる弟。この2人も含めて俺が3人を大切だと思えるようになるのに、時間はそれ程かからなかった気がする。

 俺の両手には、相棒と弟、そして、初恋の相手がいた。……その初恋の相手が去って行き、相棒を喪い……残ったのは、弱くて泣き虫で心配ばかりかける弟だけ。

 それでも夢を追う為に俺は海に出た。生きていて、生まれてきて良かったのか……その問いの答えを得る為に。

 それは2度とルフィと会えなくなる可能性もあって、それを分かっていて、海に出た。その海で出会った、信頼出来る仲間達が今の俺を支えている。

 大切なモノは全て、この手で守り抜く。2度と、喪うつもりはねェんだと心で誓う。

 船を紙に書かれた島に近付けると、魚人が姿を見せた。それに仲間達は怯えたり焦ったり、好戦的だったりと様々な反応を見せる。

 

 「なんだ、この先は立ち入り禁止だぜ。俺達のナワバリだからな」

 「……ナミって女、知らねェか?」

 「ナミ?今はまだ帰ってねェが……ナミに用なら仕方ねェな。その辺に船泊めとけよ。アーロンさん呼んでくるから」

 「アーロン?」

 「俺達魚人海賊団の船長だ。なんだ、ナミに聞いてねェのか、なら騙された口か?」

 「……騙す?いや…………契約の話で来た」

 「そうか、ならアーロンさんにも話通した方が良いだろうな。待ってろ、ナミに関する事ならすぐ来るからよ」

 

 思わずハッタリで契約とか言ったが、それで良かったらしい。それにしても、アーロンか。

 魚人が姿を消した所で船を停めて、仲間達に言う。戦闘になると。

 それに対して全員がニヤリと笑い、疼くだのと言うから頼もしいなと笑う。その時、船医が俺を呼んだ。

 呼ばれて部屋に向かえばナミが意識を取り戻していて、俺を見て穏やかに笑った。それからそっと俺に手を伸ばすから、誘われるように近付く。

 

 「エース……もっとよく、顔を見せてくれる?……大きく、なったのね」

 「ナミもな。1瞬分からなかった」

 

 何を大嘘ついてんだと、内心で思う。迷わずナミと判断して海に助けに行ったのに。

 そんな俺にナミは躊躇い無く触れて、生きてると言って笑った。それが悲哀を含んでいるから、抱えるものの大きさが垣間見えた気がした。

 

 「エース、ありがとう。もう大丈夫だから、何処か適当な「俺の1味に入れよ!ナミの航海術があれば鬼に金棒だ!俺も強くなったから、今度は俺が守ってやるからさ」」

 

 言葉を最後まで言わせたくなかった。別れに繋がる言葉なんて、聞きたくもねェよ。

 そんな俺にナミは困ったように笑ってから、首を横に振った。悲痛な顔で、ごめんねと言いながら。

 

 「私は、訳あって今他の海賊団に所属してるの。それでね、離れられないから、諦めて。でもね……エースに逢えて、嬉かった」

 「俺が、ナミを守る。もう、守られるつもりはねェ」

 「エース?」

 

 俺の言葉にナミは不思議そうに首を傾げるから、もう少し休んでろよと笑って部屋を出る。睡眠薬と鎮痛剤飲ませておいてくれと船医に話して、ナミが寝てる間に全て終わらせると俺はこの時決意した。

 アーロンって奴と会って、話をして、そして知ってしまったナミの置かれている状況に、怒りでおかしくなるかと思った。それからすぐにアーロンって奴とその1味を始末して、支配地域の中でも1番近い所にある村に足を向けたのだった。

 倒した事を告げて、縛り上げてある事を教える。そうなっていれば後は海軍に取りに来てもらえばいいと言って盛り上がるのを、俺は何処か遠い所を見るような気持ちで見ていた。

 全身に傷を負ったおっさんにナミの名を出して話をすれば、君がエースかと何故か納得した様子を見せられた。なんだと思っていたら、見た目ではなくその雰囲気と表情が、何となくナミと似てる女が歩いて来るのに気付く。

 年齢は俺と同じくらいだろうか。今ナミは俺より2つ年下だから15歳の……いや、誕生日がまだの筈だから14歳で今は3つ下になるのか?とりあえずそんなナミが、俺の脳裏にチラつく。

 

 「エースって、言うの?アンタ。なら、ナミの弟?」

 「……そう、だな」

 

 認めたくねェが、とりあえず話を纏める為に頷けば女はふぅんと言って笑った。それから少し待ってなさいと言って去って行く。

 何だったのかと思っていたら、ナミの荷物だと言って台車に大荷物を積んで来てくれた。それの意味が分からずにいたら、カラカラと明るく笑い、女は明るく言い切る。

 

 「ナミを、連れてくつもりでしょ?大切に、してやってよ。……あァそうだ、髪拭くの物凄く下手だし、強がりだし、甘い性格だから苦労すると思うけど……それも含めて、大切にしてやって欲しい」

 「……分かってる。今度こそ、全てからナミを守ってみせる」

 「ん。任せた。ちゃんと泣かせてやってね」

 「……泣かせるな、じゃ無くてか?」

 「ナミを泣かせられない相手に、ナミは任せられ無いよ。本当に、ありがとう」

 

 そんな会話の後、俺はナミの承諾も無しに海に連れ出した。これから先、何が待っているのかも知らずに、波間の向こうを目指して進む船にナミを伴い、進んで行く。

 1連の流れを知ったナミが、俺の目の前で幼い子供のように泣くのを見て、あの女の言っていた意味を遅れて悟る事になるとは、この時の浮かれた頭の俺には想像も出来ていなかった。愛しいナミを手に入れて、俺はこの時間違いなく浮かれ切っていたと、それだけは断言出来る。

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