俺が求めていたものは、何だっただろう。そんな事をふと考えちまう。
海に出たら先ずは、赤髪海賊団に挨拶へ行こうと思ってたのに、結局1人では偉大なる航路へは行けなかったからと集めた仲間。そうして集まった仲間と共に、漸く漕ぎ出してみても上手く行かなくて……そんな時に出逢ったんだ。
いや、再会した……だな。記憶にあるよりずっと成長していて、でもどこか幼いナミは、考えてみれば俺よりも2つ年下だった。
俺の幼馴染で、俺の初恋で、俺の片想いの相手。皆がそう知ってるから、ナミを簡単に受け入れてくれた。
でも、仲間になってみたら、ナミは優秀過ぎた。その為にあっという間に俺の庇護を離れて、皆から受け入れられる所か頼られるようになったナミは、俺が行きたいと言う所へ間違いなく連れて行ってくれる。
そんなおんぶにだっこ状態とも言える状態の中で、仕入れた情報を元に俺は念願だった赤髪海賊団への訪問を果たした。到着した島には宴の直後なのか、転がってる人間が多数いて、それ等からは漏れなくアルコールの臭いしかしねェ。
つまりは戦闘による何かでも、毒を受けたとかでもなく転がっているのだ。それも、他の海賊団が来ても特に気にもせずに。
これが弱い海賊団なら酔って注意力散漫になってるのかと呆れもするが、彼等に限って言えばそれは無い。それに……そんな状態でも何かあれば斬りかかってきたりするだろう事はその手元から離れない武器が証明している。
個々の戦闘能力が高いな。確かに彼等は、四皇と呼ばれるだけの事はある。
奥へ行くに従い起きてる人間も増えたが、同時につらそうな様子や殺気立った様子を見せるそれに、二日酔いかなと冷静に思う。皆には俺の個人的な事だからと船で待ってて貰ってたのに、ナミだけはついてくると言ってきかなくて今、俺の少し後ろを歩いてる。
確かにあの頃ナミは赤髪海賊団に仲間として在籍して居たのだから、考えてみれば会いたいよな。でもなァ……あの人、絶対ナミに気があったから、会わせたくねェんだよ。
そう思っても、現在はまだ俺の彼女でもなく、想いは何度も伝えてるのに伝わってないのが現状だ。つまり、その……俺の片想いだ。
だからこそ、どう足掻いても俺に止める権利はない。心配そうな顔で、今にも手を伸ばしそうなナミに時折視線を向けて牽制するのが精一杯だ。
挨拶に来たと言った俺に、即座に臨戦態勢を取る赤髪海賊団。それにより言葉を間違えたと気付いて言い直せば、瞬時に消え失せた殺気に格の違いを思い知らされる。
殺気ひとつで、相手の戦意を失わせられるそれをただ軽く腕を動かすだけで、出したり落ち着かせたり出来るんだもんな。俺もあの頃よりは強くなったと思うけど、やっぱりまだまだ遠いんだと痛感させられちまう。
そうして自己嫌悪に陥りかけた時、ナミが俺の背後から顔を出した。ピョコンという効果音が聞こえそうなその様子に、緊張感を保てなくなりそうな自分を自覚させられる。
「シャンクス、ベック、ルー、ヤソップ、皆……久しぶり、ね?」
「……ナミ!?」
俺の後ろからひょこっと姿を見せるナミに、その場の空気は完全に崩壊した。迷い無く宴だと叫んだ赤髪の船長に、その副船長が二日酔いはどうしたと声をかければ迎え酒だと返す。
そのやり取りに変わってないんだからと言って、困ったように笑うナミは母親のような顔をしていて……。あ、これヤバイ……と気付く。
つまりはナミの中で、この海賊団は家族なんだ。だとしたら、色々な意味で気を付けないとナミが危険だ。
「ナミ」
「あ、ごめん。シャンクス、紹介するわね。こちら私の弟で、私の船長でもあるエースよ」
「船長って、なんだよ。俺の方が先約だろ?……俺の船に戻れよ、ナミ」
弟じゃねェと叫びそうになった直後、全力で色気を振り撒いてる赤髪の船長のそれを受けて、俺は息が止まりそうになる。これなら、女に困る事は無いだろうって勢いのそれを全力でナミに向けていたから。
なのにナミは気にした様子もなく、ケラケラと笑うのだ。それから困ったような顔で、巫山戯ないのよなんて返すのだからある意味無敵だろう。
俺が女なら、よろめいたぞ。そう言いたくなる程の色気と本気の空気、絶対的な王者だけが持つ存在感。
それらを1斉に向けられても、ケロリとして躱すナミは何者なのか。まさか、ガキの頃からこうやってたのか?
「私は、エースに助けて貰ったから、エースのクルーでいると決めたの。エースにいらないって言われたら……その時貰って?」
「……酷ェな、ナミは。俺よりも若い男が良いってのか?」
「あら、当然でしょ?若くて新鮮な方が面白いじゃない。……そもそも、そんなヨレヨレの状態で私を誘うとか、最低よ」
そう言ってクスッと笑ったナミは、これ迄に見た事の無い妖艶な笑みを浮かべていて……これで本当に14歳かよと天を仰いだ俺は間違ってねェ筈だ。勿論、見えたのは洞窟の天井だけだが。
だと言うのに、当の本人は俺の様子をみて首を傾げる。その表情はいつもの幼馴染のそれに戻っていて、さっきの妖艶な感じは演技かと思えば寒気さえして来そうだ。
「エース、どうしたの?」
「ナミ、お前なァ……」
「……?何かあった?」
「……お前、14歳だよな?年齢詐称してねェよな?」
「ドクターが判断ミスしてなきゃ、14歳よ。安心して」
安心出来ねェよ。馬鹿か。
そう怒鳴りたいのを堪えて、強く抱きしめると肩を叩かれる感触に視線を向ける。そこには肉を齧る男の姿。
「苦労してるな。安心しろ、ナミは昔からこうだったし、お頭も昔からああだ!」
だから、何を安心出来るってんだよ!
兄貴分が兄貴分なら、ナミもナミだよ!
良く似すぎてる姉弟の問題児っぷりに、言いたい言葉1つ満足に声に出せない俺の弱さ。これを支える副船長は、偉大だ。
そんな俺の思考を知らずに、楽しそうに笑いながら宴だと言うそれを聞いて、ナミが仲間達を連れて来ても良いかと問えば赤髪の船長はそれに応じてくれる。それに笑って迎えに行ったナミの背を見送り、赤髪の船長に視線を向けるとルフィと良く似た雰囲気で笑った。
「ルフィの兄貴ってのは、確か二人いたよな?」
「はい、俺と、サボが兄で……。最近迄片割れはもう、死んだんだと思ってたんですけど、ナミが言うには生きてるらしいです」
「……ナミが言うなら、生きてるだろ。命に関わる嘘は、自分に関してしか言わねェからな」
「自分に関しては、嘘つきますか?」
思わず問い掛けた俺に、赤髪の船長は頷く。どんなに瀕死でも隠そうとしやがると、悲しそうに瞳を揺らすから何かあったんだなと思う。
だから俺は、もうそんな事は減ってく筈だと笑った。ナミの中にあった、あの頃から抱えてた問題は既に解決したから。
その後出身地の話になり、南の海だと話せば妙に驚かれた。だがそりゃァ、ガキの頃から住んでたのが東の海じゃ当然かもな。
その話の流れで、産まれた島を答えると懐かしそうな顔をしたから、この人も行った事があるのかも知れないと気付く。これだけの大海賊だから、行った事のない場所の方が少ないのかも知れないが。
「海賊やってて、ルフィの兄貴!となれば……海賊王を目指してんのか?」
「海賊王って称号は、嫌だ!あんな奴と同じ称号なんかいらねェ!!……と、思ってます。はい」
咄嗟に叫んで否定した事ではたと気付き、無理に敬語に直そうとしたが無理があるのは分かってる。でも赤髪の船長はそれに首を傾げるばかりで、怒った様子は見せなかった。
「ん?」
「海賊王なんて、存在悪だ。あんな奴……!!」
「憧れて海賊になったんじゃねェのか?」
「俺は自由を求めて海に出たんだ!海兵にはなりたくなかったから、他に選択肢が無かっただけなんだ!海賊王なんて呼ばれても結局はただの「エース!!」」
その時戻って来たナミが俺を呼び抱き着いて来たから、その先は言えなかった。でも、俺のその反応に赤髪の船長は、少し考えるような仕草をしている。
ナミは俺と赤髪の船長を見比べて、微かに震える指先で俺を強く抱きしめる。俺の親を知っていて、この反応って事は……なんかあんのか?
そうは思うけど、聞く勇気が持てなくて……俺はそっと眼を伏せて感情を逃がす。だってさ、ナミは俺の為にならない隠し事は、基本的にしないから。
世界の誰を疑っても、俺は兄弟を疑ったりはしない。世界が滅んでも、絶対に裏切ったりしないと言いきれる相手だから兄弟なんだ。
だから、話してくれるのを待つ事にした。ナミは、必要と判断したなら必ず言ってくれると分かるから。
「エース?」
甘やかに俺を呼ぶ声。慈しんでくれる指先。
俺はこうして、何度でも再認識させられる。俺はこの世の誰よりも、ナミが愛しいんだって事を……。
「俺、ナミが好きだ」
「うん、私もエースを好きよ」
「両想いだな」
「勿論よ」
「なら、今日から恋人だな」
「当然じゃない!って……え?」
俺の事を弟として愛しているのだとわかっていて、多くの目撃者のいるこの場で言質を取ったんだ。もう、逃がさない。
流石にまだ襲ったりはしねェけど、赤髪の船長に俺のだぞって知らしめておかないと危険過ぎる。そう思って混乱するナミを強く抱き締めたら、ナミは観念したように俺の頭を撫で始めた。
「……エース、お前、策士だな」
「俺も男で、海賊ですから」
「……普通に話して良いぞ。ルフィもそうしてたし、ルフィと同じように、名前で呼んでくれて良い」
「シャンクスさん、って呼んでいいって事ですか?」
「あァ、ナミの弟なら、俺の息子みたいなもんだ」
その言葉に、なら娘みたいなナミに手を出そうとすんなと思って睨むと、艶のある笑みを浮かべられる。どうしてナミは、この色気をスルー出来るんだろうか。
「なぁに言ってんのよ。シャンクスが父親っぽい時なんて、過去に1瞬だって知らないわよ?いつも、私が母親みたいだったじゃない」
「それはその通りだな」
ナミの言葉に副船長が頷けば、皆が大爆笑に包まれた。俺もそれにつられて笑い、何となく俺の言葉をまだ冗談だと思ってるだろうナミに、どうやって本気だと伝えるべきか悩みはじめる。
それと同時に、先ずは白髭海賊団を探し出すぞと内心で誓いつつ、ナミのまだ平らに近い胸へと顔を埋めた。俺達の恋も冒険も、まだ、始まったばかりだ。